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第3話 理論武装は、しすぎると照れる。

神城の家に入ると、俺はリビングに通される。そして、ソファーで待つように言われ、言われるがまま俺はソファーに腰を下ろした。それから、神城は買ってきた物を台所に並べ、テキパキとご飯の準備を始める。疑っていたわけではないが、どうやら本当に料理は得意らしい。横目で見てみると、なんかお洒落な小瓶とか降ってるし、まな板を包丁で叩く音が素人のそれではない。あと肉のやける香りが部屋を漂い始めた。お腹すいた。早く食べたい、お肉大好き!


そうして神城は出来上がった料理をテーブルへと並べていく。俺も一応手伝おうとはしたのだが、断られてしまった為、料理の並べられているダイニングテーブルの方へ移動し、おとなしく座って待つ事にする。そんな感じで神城の手料理は20分ほどで出来上がり、神城は俺と対面する形で腰を下ろした。


「食べよっか!」


「……おまえん家って毎回こんなご馳走みたいな感じなの?」


「へ?どういうこと?」


いや…どういう事って…俺の目の前にあるスープとサラダ(木の器に入っている)と、このステーキ肉の話ですよ、なんなの?マジかよこれ、こんな鉄板ファミレスでしか見たことねぇよ。どこまでお洒落なんだよ、家とかあれだよ?おかずとか酷い時は大きめのタッパで出てくるからね?タッパ、え?普通だよね?そんなもんだよね?


「いや…ステーキの鉄板とか、ファミレスみたいっつーか…」


俺の発言を聞いても、神城はいまいち理解できないらしく、小首をかしげて


「そうかな?こんなもんでしょ?」


と言うだけだった。


さて、食事を終えると、いよいよ本題である。神城は食後に珈琲を入れてくれて、俺の前に置いた。それから自分も座ると一口自分の珈琲を飲み、話を始める。


「……なにから話そっかな…」


神城は下を向き、珈琲をティースプーンで掻き回しながら、そう言う。それから


「えっと……へへへ、その、どうしたらいいと思う?」


何それ可愛い、照れ隠しなの?つーか、いきなり投げられちゃったよ。でも、そうだな…まずは、神城の置かれている状況の整理をしよう。神城と仁井園、木村と原田は、入学時に仲良くなった女子グループの内の一つである。俺が見てきたところ、彼女達はここ最近まで和気藹々と日常を消化していた。しかし、一週間ほど前より、神城に対して仁井園がそっけなくなり始めたのだ。そこから、あれよあれよと神城は少しづつ周りに距離をおかれるようになっていった。ここ2日ほどは、とうとう下校時には声もかけられなくなってしまっている。まずは、何故このような事態に陥ったのかを神城に聞いてみることにする。


「そうだな…まず、おまえは仁井園達に避けられる理由に心当たりはないのか?」


神城は俺の質問を聞いて顎に手をあて、考えてみるが、思いあたらないのか、すぐに首を横に降った。


「う~ん…ごめん、やっぱわかんないや…本当に急だったんだ…ある日普通に学校に行って、普通に話をしようとしたのね? そしたらなんか、ともかも結衣子も少しそっけないって言うか…てかね、これは女子あるあるなんだけど、女子ってグループ作るじゃない?そこには必ずリーダーみたいな人がいるんだけど、あれしようとか、これしようとか引っ張っていってくれるみたいな、でもね、高校入ってから出来た私達のグループって、それがなかったんだ…」


そこまで話すと、神城はまた一口珈琲を飲む。それから、一息ついて、少し寂しそうな笑顔を作り


「………ひょっとしたらなんだけど、真理子がその役になって、私をハブろうって、二人にいってるのかな……って」


これは、神城による推測だ。しかし、可能性としては否定できない、現に木村と原田の二人は既に神城に気を使い、仁井園の顔色を伺っているからだ。ってかもうこれは確信でいいんじゃないの?どう考えてもそうだろ。…っと危ない危ない、答えに近しい情報を知っただけで、証拠もないのにそれが答えだと思い込む。人間の悪い所ですよね、ここ。(偏見)


あくまでも可能性として考えなければ…。だが、こんな時なんと言えばいいのだろうか?


「まぁ、その、なんだ…おまえがそう思うのになんか理由があるのか?」


「理由っていうか…前に中学でもそんな感じの事があったから…」


「え……中学でもハブられたの?それもう、おまえの人格に問題があるんじゃ…」


俺がそう言うと、神城は慌てて否定する。


「ち、違うし!! そんな感じの空気?みたいのが女子にはあって、昔それで…て、て言うか! ぼっちの七五三田に言われたくないんだけどっ!」


「……ぐっ…」


確かに。って何納得してんだ俺! だが、正論すぎてグーの音も出ない…。俺がそんな事を考えていると、神城は少し笑って


「ふふ……でももぅ、私も七五三田の事、ぼっちなんて言えないね…」


……何それ重いんですけど。つーか、おまえと俺を一緒にすんじゃねぇよ。おまえはまだ話し相手とか余裕でいるだろうが、それに俺は、おまえと違って、この状況を変える方法を知っている―――。


―――『……"さくらさん"が、調子にのるから悪いんだよ』


(…どっちが調子にのってたんだかな……って、なに余計な事思いだしてんだよ。……この状況の変え方、それは、仁井園達と神城、共通の敵を作る事である。しかし、共通の敵を作るといっても、簡単ではない。まず仁井園にとって、神城よりも嫌いな人間を作り上げなければならない。それも、仁井園達では手に負えないほどのヤツだ。なぜなら、今現在神城が『こいつむかつく』と言ったところで、仁井園にとっては、とるに足らない相手になってしまうからである(嫌いなヤツが、あいつ嫌いとか言っても、で?としかならない)。しかし、先に仁井園に嫌悪感をもたせる人物をつくりあげ、そこに共感者として、神城が現れたとする。はじめはうまくいかないだろう…だが、仁井園はその嫌いな相手に手を焼いている。そこを共感者から、協力者となった神城が仁井園達を助ける、そうすればどうだろうか? 普通の人間なら、多少は意気投合するのではないだろうか?ヤバい俺天才かもしれない。褒めていいよ?しかし、共通の敵作戦は現実的に考えるとやはり、難しいだろう……ってかたぶん無理。)


俺は思ったより沈黙していたらしく、神城に


「……あの、何か言ってほしいんですけど……」


と言われてハッとする。


「え…?あ、あぁ、すまんすまん、あまりに重い話だったんで、意識が沈澱してたわ」


「ひどっ?!」


「まぁ、そうだな…状況を聞いてから打開策を考えたかったが、当のおまえがそれじゃ、話にならないしな」


「ムカつくけど本当の事だからなにも言えないっ…!」


「ああ、それはお互い様だから」


「え?」


「え?……まぁ、その、なんだ…まずは、自分の思っている事を素直に伝えてみたらどうだ?」


俺がそう言うと神城は頭に「?」を浮かべる。……いろいろと大丈夫だろうか?まぁいい。


「えっと…だからな、神城は今、なんで仁井園達に嫌われ始めてるのかわからないわけだよな?」


「…うん」


「ならそれを本人に聞いてみたらどうだ?」


「え…どうやって?」


「簡単だろ、今おまえは周りの態度に疑問を感じている、ならその疑問に対する答えを本人達に聞けばいい。例えばそうだな…『最近、みんな冷たく感じるんだけど…私何かしたかな?』みたいに聞いてみるんだ、まぁでも、たぶん誤魔化してくるけどな、『そんな事ないよー』とか『気のせいだよ』とかな、その時は1度、引き下がって様子を見ろ、おそらく…少しの間、今よりも酷くなると言うのは避けられるはずだ」


「え?なんで?」


神城は不思議そうに聞きかえす。理由は単純だ、『そんな事ないよ』『気のせいだよ』と、そいつらが口にしてしまったからである。つまり、その言葉を口にした以上、そいつらは不本意にしろ、そう装って神城との関係を継続しなければならないのだ。じゃなければ嘘をついたことになり、グループ外にそれを言われるといろいろと面倒な事になるだろう。結果、現状維持となる。今の流れだとだいたいはこんな感じになるだろう。しかし、危惧しなければならない事もある。それは残りの可能性、既に神城が完全に嫌われてしまっている場合だ。アイツらは今日、神城をハブいて下校している…しかも、帰りにはカフェに行くとかそんな話をしていた。ならば、そのカフェとやらでこの話が悪化していることも考えられる、例えば、『明日から完全にシカトしよう』などと言う会話が行われていた場合、そんな状況で話しかけても神城は文字通りシカトされて終わりである。そこに戻るのは難しいだろう。


そうなったなら、他のグループに…と言うのもありではあるが、一番厄介なのは、仁井園 真理子の、このクラスに対する影響力である。彼女は俺の所属するクラス女子の中でも、かなり発言力が高い。となると、他のグループの所にいったところで、そのグループが目をつけられる可能性が出てくる、わざわざ面倒そうな事に手をかす物好きなんて、そうそういない。ましてや、今はやっと人間関係が出来てきた時期だ。そうなると…共通の敵作戦なんてものはもっての他だしな…。と、ここまで考えて、俺は気づく。


「神城…」


「え?なに?」


……そもそも、いくら理屈だててみても、自分がそうだと思っても…関係を変えると言うのは、簡単ではない。うまくいく保証もないし、原田や木村が思ったように発言をしてくれるともかぎらない。……俺は…人に頼られて調子にのっていただけなんだろう…こんなのは、ただの理論武装にすぎない。それに、そんな無責任な希望を彼女に持たせてもいいものだろうか…?


「その、なんだ……なんでかって言うのは、うまく言えない…うまく言えないっていうか、保証がないんだ、だからその…」


俺がしどろもどろになっていると、神城は俺の言葉を遮るようにして言う。


「七五三田、君は何か勘違いをしてるよ」


「……どういう意味だ?」


「私は、昔の経験から、私が頑張らなきゃならない事を知ってる、だから保証とか、そんなのはいらないんだよ、それに、そんなに眉間にシワを寄せて一生懸命考えてくれてるだもん、それだけで七五三田の気持ちは充分伝わってるよ…ありがとう」


俺は目を丸くして神城を見る。すると、神城は吹き出すようにけたけたと笑いだした。


「ちょっ、なにその顔っ!ふふ、あはははは」


「いや……なんか、ちょっと恥ずかしくなった、俺は思い上がってたんだなって、あと心の中でバカにしてごめん」


「心の中でバカにしてたの?!酷いっ!」


「あ、いや…ホントすまん」


「ふふふ、もういいよ、七五三田ってさ、結構優しいよね……」


神城はそう言って、優しい笑顔をする。やめてっ!本当に好きになっちゃうっ!俺は騙されないからな…!くそっ、可愛い!そう思って俺は神城から目をそらす。


「ねぇねぇ七五三田」


「な、なんですかね…?」


「照れてるでしょ? 顔赤いよ?」


「う、うるせぇ!てててててて、照れてねぇしっ!」


「ふふふ、きもーい!」


―――神城 美羽と言う女の子は知っている。


人に頼るだけでは、何も変えられないと言う事を。自分が立ち向かわなければ、何も成せないと言う事を。


ならば、俺はいつも通り、寝たフリでもしながらそれを見守ろうと思う。そして、どんな結果であろうと…彼女の味方でいよう。


そう思った。


































次回『正義と言うものは、わりと自己満足で完結する。』



5月18日(金) 21時に更新となります❗(。・ω・。)きゅぴーん✨

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