第38話 女子が裸の付き合いとかしているその裏で、男子は必死に戦っている。
【仁井園 真理子】
―――カポン…
「あ、sorry」
アタシの右に座り、身体を洗うニキが手を滑らせ桶を落としてししまう。だが、今はそれはどうでもいい。アタシはもう片方の隣を見る。そこには、頭を洗っている美羽がいるんだけど……
頭を洗う度に揺れているそれを、アタシはいろいろな感情を持って見ている。
「………」
「シャワー…シャワー…あれ? あ、あった」
シャワーを探す時も、美羽のそれは揺れている。アタシは、あまりに誘惑してくるそれを指でつついてみることにした。
「ていっ」
―――ぷにっ
「ひゃっ!」
美羽が少し驚いた声をあげ、こちらを見てほほを膨らませる。
「もうー、ビックリしたじゃん!」
「……美羽、アンタのそれ、デカいデカいとは思ってたけど、生で見ると、より迫力あるわね…」
「え? あー…でも、大きいと肩こるし、汗かくし、あんま良いことないんだよね…すごい見られるし…」
まぁ、持つモノは持つ者なりに苦労があるのかもしれない。そんな事を考えていると、後ろから胸を鷲掴みにされる。
「へぁっ?!」
アタシは咄嗟に変な声を出してしまう。アタシの胸を鷲掴みにしたニキは、「oh~ヤワラカイネー」といきなり片言で話してくる。今まで流暢だったくせに…!
「やめっ…! ちょっ…! ふふっくすぐったいからっ!」
「ハハハハ、オジサンワカイコダイスキー、シャチョサンシャチョサン」
「意味わかんないしっ!ちょっま! ははは」
すると身体を洗い終えた美羽がおもむろに立ち上がり、ニキの背後にまわると、ニキの胸を掴んだ
「えいっ!」
「わっ!?」
そんな感じでふざけていると、先生の友人であるリサさんがやってきた。扉を開き入ってきたリサさんに、3人で注目する。
「あら、貴女達も今なの?」
「……。」
「?」
アタシ達3人は息を飲む。美羽のもデカいけど、そこには更に上をいくモノが存在していた。
「……牛…?」
ニキがポロリとそうこぼすと、リサさんが
「なんですってチビロリっ!」と目付きが変わる。
「ひっ…!」
しかし、すぐに「あ…」と言って「ごめんなさいね」と謝ってきた。なんだったんだろうか…?
「ちょっと昔を思い出して、一瞬イラッとしちゃったわ…別に貴女達が悪い訳じゃないから…」
と言ってリサさんは頭をかかえ、やっちゃったと言わんばかりの様子だった。それから、「OK気を取り直しましょ」と言うと、さっさと洗体を済ませ、あたし達と一緒にお風呂へと浸かる。それから適当に雑談していると、リサさんがアタシと美羽に向かってこんなことを言い出した。
「で、どっちがあの七五三田って子を狙ってるのかしら?」
するとニキも食いついてくる。
「それ私も知りたーいっ♪」
アタシも美羽がどう思ってるのか知りたい。アタシはなんとなく美羽の方に視線を向ける。すると、あの時と変わらず困ったような愛想笑いで誤魔化そうとしている。
なのでアタシは
「アタシは狙ってるって言うか…気になってはいます」
と正直に答える。ここで嘘をつく必要もないし、隠すよりもオープンにした方が、この先やりやすいと思うからだ。そして何より、美羽に意思表示ができる。ただ、単純にこれを恋と呼ぶのかと言うと、疑問もなくはない。
ひょっとしたら、尊敬だとか、憧れだとか、そう言ったものに近いのかもしれない。しかし、気になっているのは事実だ。美羽が足踏みをしているのなら、アタシはアタシらしく、真っ直ぐに……そう思った時だった。美羽が口を開く。
「……わ、私は……"好き"です…」
彼女はとうとうその気持ちを口にした。今までは曖昧な解答ばかりだったが、今回はじめて「たぶん」も「わからないけど」も着けずに、美羽はそう言った。美羽の言葉を聞いた瞬間、アタシの心臓は強く握られたような感覚になる。
嗚呼、そうか、そうなのだ。アタシも七五三田が好きなのだ。きっと、美羽があの時声をかけなきゃ、会話すらしなかったかもしれない男子、いつもクラスの片隅でイヤホンして寝ているだけのつまらないヤツ。
アタシの彼への印象はそんなものだった。しかし、アタシが美羽をハブろうとした時は、声をあげ、アタシが彼氏役をしてほしいと言えばやって、元彼ともちゃんと対峙してくれた。アタシのバカな考えをバカだと言い、アタシが父親に叩かれそうな時だって体をはってかばってくれた。
関わりをもって、初めて知った…その人の性格、考え方。
アタシは、そんな彼を、自分が思っている以上に気に入っているらしい。
だから、美羽の言葉がこんなにも胸に刺さるのだ―――。
「え? じゃあ二人とも悠莉のこと好きって事?」
ニキが問い直す。アタシももう迷う必要はない、美羽もアタシも頷いた。
それを見たリサさんも
「わおっ、三角関係なの?」
と言って、少しニヤニヤとする。こういう話好きなんだろうか――?
***
【七五三田 悠莉】
「はぁぁあああ~……」
ヤバい、おじさんみたいな声でた。風呂に浸かり溜め息をはくと、俺は軽く伸びをする。身体中に擦り傷があるため、少しばかりしみるのだが、これもまた、男の勲章ってヤツよ、フフ。
そんな事を考えていると、ギグスもやってきて湯に浸かる。足をちょん、とつけ、温度を見ると、何故か「oh」と、女みたいに言いながら湯に体を沈めていく。なに?実はオネェなの?
それから無駄にこちらに近寄ると
「悠莉」
「なんだ」
「俺、実はどっちもいけるんだ」
とか言い出す。
「……はい?」
え?何々何々? ちょっ、怖いんですけど、何がどっちもいけるなの?今しがたオネェみたいと思ったばかりだから、どうしてもそちらの方向に意識してしまうっ!
┌(┌^o^)┐ホモォ…
こんなん来そうじゃないですかっ!? なにこれこわっ!こええよ!
俺は無言でギグスから少しだけ距離をとる。するとギグスはつめてくる。
距離をとる。
つめてくる。
距離をとる。
つめてくる。
「ってこええよ! なんでつめてくんの?!」
「え? だって離れると会話しづらいだろ?」
「………え?」
「え?」
その後、ホモじゃないのか確認したら、ギグスはいつもみたいにHAHAHAと笑いながら、「どう見ても女好きだろっ、俺は」と笑っていたので安心した。いや、まぁ神城や仁井園の事思うも安心でもないんだけど…。ちなみに、どっちもいけると言うのは、朝食の事を考えていて、パンでもご飯でもいけると言うことだったらしい。主語っ!! って言うかあの状況でそんな話されても……と言ったところである。
まぁ、そんな一幕があったあと、何故だかわからないが、どちらが長く湯につかっていられるか、みたいな事となり、俺達は我慢大会を始めた。
まぁ事の成り行きは、男は忍耐が重要とかギグスが言い出して、我慢強いヤツはモテる→童貞と笑われなくなる。みたいな事言い出したもんだから、じゃあちょっとやってみようかな?とかなるじゃない?我慢とか俺的に専売特許みたいなとこあるし?いくら人に蔑まれても耐えてきたし?影でこそこそされても気にしないフリとか、女子にキモいとか言われても泣かなかったし?なんだったら影で「ジメジメジメタ」とか呼ばれてても知らないフリ貫いたからね?ってあれ?言ってて悲しくなってきたぞ?
まぁ、そんな私が負けるわけないのですよ、何故ならそう、全てを一人で耐えてきたと言う実績があるからである。対して敵は外国系リア充。仲良しこよしのアマちゃんではないか。自信に溢れ、人に恵まれ、お互いを認めあい、ぬくぬくと育ってきた奴等だ。
そう、言わばこれはリア充vs非リアの戦いなのだ。
俺が非リアぼっち代表、愛し愛され保険の実技? ちょっと俺ヤンチャだからアピール?多少の偏見と私的妬みも含まれてはいるが、ここは負けるわけにはいかない。こんな傷の舐めあいをしてきたようなヤツに、全国のぼっち達の為にも負けるわけにはいかたいのだっ……! 見てろよ皆、いざ―――――。




