第33話 環境が変化すると、心情も変化し、やがてそれは形容できない気持ちを生む。
怒られているにも関わらず、にこにことしている先生を見て、大丈夫か?と思っていると、なにやらこの人が先生の知り合いらしく、すぐに機嫌を直し、先生とハグをしていた。羨ましい。
そしてブロンドの外国人女性は俺達の方を見て、
「へぇ、この子達が貴方の生徒なの?」
と先生に言うと、先生は「ああ、そうだ」と答えた。そしてそのまま、外国人女性は俺を見て、
「ふふ、この子の目ちょっと"ショーマ"に似てるわね」
とか言うとウインクをしてきた。誰それ。その後、彼女は俺達に軽く自己紹介をし、よろしくと言うと、先生と話を始めた。その様子を見ていると、神城が話しかけてくる。
「……七五三田、あの人見すぎじゃない?」
「え?」
いや、別にそんな見てないし、ただなに?ちょっと美人だなとか思ってただけだし?つーか、なんで少しムッとしてんだよ。
「あの人、おっぱい大きいもんね」
神城はそんな風に続ける。
「……は? いや、全く意識してないんだけど」
嘘です。めっちゃでっかいとか思ってました。でもあれですよ神城さん、貴女も負けず劣らず良いもの持ってると思いますよ?
「ほんとかなぁ…?」
「……とりあえず、さっさと移動しようぜ」
そう言って俺は約3日分の荷物を持ち直すと、仁井園が小声で
「七五三田、アンタ嘘つくとき、右上見る癖あるから気を付けな」
といきなり助言してくる。嘘、マジで?てか仁井園こわっ!俺のこと観察しすぎだろ。なに?なんかのターゲットにでも選ばれてんのか俺は。
そんなことを思いながら、とりあえずキャンプ地へと向かった。到着すると、そこにはすでに外国人の方々が到着しており、テントをはったり、談笑したりして過ごしている。俺達も、バスのなかで着いてからの説明は受けていた為、おのおの作業を行う。
「……まずはテントか…」
俺は呟いて、作業を開始する。テントは一人用テントが配られ、皆それぞれ、それを組むのだが……少し離れた所で腕組みをし、何か考えている様子を見せる人物が目につく。俺はそいつを観察していると、鞄からスマホを取り出しポチポチといじり始めた。そして、
――――ブーッブーッ…と、俺のスマホがなる。うん、そうです仁井園さんです。ってか……
「そこなんだから、普通に少し大きな声出せばわかるだろっ!」
俺がそう言うと、仁井園はこちらをチラリと見て、スマホスマホ、と言いたげに自分のスマホを指差す。
「…はぁ」
俺はため息をはいて、電話に出ると、仁井園は
〔やり方わかんないんだけど〕
とか言い出す。
「いや、説明書あるだろ…」
〔は?それ見てもわかんないんだけど〕
こいつ、分かんないくせにめっちゃ上からだな…
「……んじゃ、行くから待ってろ」
〔わかった〕
俺はスマホを切り、とりあえず自分のテントを途中で仁井園のもとへと向かう。
到着すると、仁井園に道具の場所を聞く。
「…道具は?」
「そこ」
仁井園が指差したところから骨組みを取り出し、組んでいく。すると仁井園が
「アンタこう言うことスマートにできるんだね」
「…まぁな」
「まぁなて…ねぇ、七五三田」
「なんですかね……?」
「週末さ……」
「……?」
と、ここで神城が「おわった?」とか言いながらやってくる。
「俺のはまだだ、仁井園のはもうちょい」
そう返して、俺はもくもくと作業を続ける。てか、仁井園って手先器用じゃなかったか?勾玉作りのときなんかめっちゃうまかっただろこいつ。テントは別なのだろうか?とか考えてやっていると、作業を終える。
「ん、できたぞ」
俺がそう言うと、仁井園は
「ありがと」
と言う。
「そう言えば、さっき何か言いかけなかったか?」
仁井園に俺がそう聞くと、「別に、今じゃなくていい」と言って、テントで荷物整理を始めた。
「んじゃ、俺も自分の仕上げてくるから」
そう言って俺は自分のテントの場所へと戻ろうとすると、神城が、「あ、私も手伝うよ!」と言ってくれ、ついてくる。
そして、テントの場所に戻り、作業を再開すると、神城が
「……真理子の手伝ってたんだね」
「ああ、なんかうまくいかなかったみたいだからな…そういや、おまえはうまくやれたのか?」
「あ、うん。四月一日先生がちょうどきて、少し手伝ってもらったけど」
「……そうか」
俺は作業しながら、そう返す。
「神城、悪いけど、ちょっとそっちのロープとってくれ」
「あ、うん」
こうして、マイプレイスが完成した。うむ。我ながら良い出来である。まぁ、ただのテントなんだけどね。
それから、キャンプ場の中央に集まり、今後の説明を受ける。とりあえずこの後はレクリエーションを行い、異国の方々と交流をはかるらしい、その後はご飯を作り、夜は小さなキャンプファイヤーをしてこの日は終了となるようだ。
***
さぁ、異国の方々と楽しい楽しいレクリエーションである。もちろん、俺は自分から声をかけたりはしない。とりあえず、四人組の班を作れ!と言うレクリエーション担当のおじさんの指示を聞いたが、安定のぼっち力で、立ち尽くしています。神城や仁井園は、なんか近くの外国人ギャルに手をひかれ、行ってしまった。頑張ってください。
周りはどんどんと群れを形成していく。やはり、コミュ力とは万国共通らしい。そして、とうとう俺は余りそうになり、いつも通り、『先生、あまりました』と言おうと、手をあげようとした瞬間、
――――パシッ
と、その手を捕まれる。そして、その捕まれた腕の方をゆっくりと向くと、神城が笑顔で
「えへへ、捕まえたっ!」
と言った―――。
正直、なんか、初めての気持ちになりました。なんかこう、グッとくると言うか、形容できるほどの語彙力がなくてごめんね。
しかし、改めてみてみると、神城の周りには、神城以外にイケメン外国人と、さっき二人をさらった美人なギャル外国人がいる、つまり、既に四人なのだ。
「……いや、ダメだろ。おまえらもう四人じゃん」
俺がそう言うと、仁井園が
「この会場にはアタシ達を含む45人の学生がいるのよ、つまり、班を四人でつくると一人どうしてもあまるわけ、だからあのおじさんに話して、アンタ迎えに来たのよ、なんか文句ある?」
いや、ないですけど…。なんと言うか、むず痒く感じる。この気持ちはなんだろうか? まるで、ほっとするような…あたたかな感覚。俺はこれを知らない……。そんなことを考えていると、神城が俺の手を引く。
「ほら、座ろっ! グループできたからっ!」
そう言えば、そんな事おじさんがいってたっけ?『グループ出来たら座れよー』って、こうして俺は、この手の行事で、生まれて初めて他人より先に腰を下ろした。




