第32話 夏休みと言う単語は、無駄にわくわくさせる魔法を持っている。
「―――えー、ですから、秩序を守り、規則正しく…我が校の生徒であると言う自覚をもって、夏休みを過ごしてください」
「以上、校長先生のお話でした――。」
季節は夏、蝉の声と揺れるアスファルト、無駄に高い入道雲と忘れちゃならない素晴らしき(笑)校長の話でその日を迎える。と言うか、我が校の生徒であると言う自覚をもってとか、もっともらしいことを言っているが、裏を返せば、『おまえら俺達の仕事増やすなよ』と、釘を指しにきているのである。つまるところ、学校側は面倒に巻き込まないでねと言いたいのだ。自己保身乙であります☆
まぁでも、俺も学校側ならそうするけどね…。
仁井園家族事件から数日、とうとう俺は夏休みを迎えた。
神城の話によれば、仁井園は父親とは未だ和解しておらず、避けまくっているらしい。なんと言うか、人間いろいろあるもんだなと思う。まぁ、でも蟠りと言うヤツは、時間をおけばおくほどめんどくさくなるものだ―――。
「―――まぁ、だから早いうちにお互いに妥協できるところで折り合いつけたほうがいいぞ」
「……七五三田うるさい」
学校の俺の席、何故かそこに座り、「あー…帰りたくない…」と突っ伏する仁井園に俺はそう伝える。てかマジで、なんでこいつ俺の席にいるんだよ、おかげで俺、無駄に立っちゃってるだろうが。返して!俺の席返してっ!
「……てか、そこ俺の席なんだけど」
「……七五三田うるさい」
……困ったもんだ。まぁ、授業も帰りのホームルームも終えたあとなので、別に急ぎはしないのだが、出来ることなれば、早く帰りたいじゃないですか?
「仁井園、荷物とれないんだけど」
この一言で、ようやく仁井園は「……はぁ」とため息をはいて体を起こし、少しだけ椅子を引いた。そして
「ん、取れば」
と言う。俺は言われるがまま椅子の背もたれに「あー…」とか言いながら項垂れる仁井園と机の間から荷物を取り出し始める。すると、隣の席でその光景を見た神城が、
「ねぇねぇ、今日さ、帰りに新しくできたクレープ屋さんよってかない?」
と言ってきた。
「……だってよ」
俺は荷物を取り出しながら仁井園にそう言う。すると、仁井園は
「だってよじゃない、アンタも来んの」
「……は?」
そんな話をしていると、担任の四月一日先生がやってきた。そして、
「お、ちょうど3人揃っているな…」
俺達は口々に「……なんすかね?」「どうしたの先生?」「なに?」と言うと、先生は何故か少しだけ笑う。何その素敵笑顔。
このイケメンスマイルで、これまでに何人の女性を虜にしてきたのだろうか?なんてことを考えていると、俺たちの方へやってきた先生が
「君達、夏休み期間のボランティア参加の書類、提出してなかっただろ?」
そう言えば…結構前に、なんかそんな話があったような気がする。うちの学校は、年2回のボランティアが必修だとかなんとか。年2回とかボーナスかよ。なぜ大人はお金をもらうのに、我々学生は労働を強いられるのか。ちょっと議論する余地がありますよこれは。そんな風に思っていると
「あのプリント、ボランティア何するか選べとか言われても、アタシあんまよく分かんなかったし」
と仁井園が溢すと、神城も
「あー、うん。そうなんだよね、これと言ってこれやりたい!、とかなくて、迷っちゃったと言うか…」
とそんな風に言う。だが、二人の言い分は分かる。あのプリントにはクリーン作戦だの、子供キャンプスタッフだのと書いていたが、なんかこう…正直それどころじゃないと言うか…でもまぁ、必須なのに提出していない俺達が悪いんだけども…ってか、仁井園はともかく、神城も提出してないのは意外だな…。
すると二人の話を聞いた先生が、「そうか」と一言おいて、話を始める。
「まぁ、決まってないならちょうど良かった、君達、夏を満喫したくはないか?」
「……は?」「どういうことですか?」「……。」
***
帰り道、3人で並んで、神城が行きたいと言っていてクレープ屋へと向かう。その途中、仁井園が
「ねぇ、アンタ達はどうするわけ?」
と聞いてくる。彼女が言っているのは、先ほど教室で先生の持ちかけてきた件の事である。先生の話はこうだ。必修のボランティアに含まれる活動の中で、自分の友人が、此方にイベントをしに来るため、その手伝いをしてほしいとのことだった。しかも、2泊3日の泊まりがけである。イベントの内容は、国際交流で、なんか、留学生とキャンプして花とか植えるらしい。……うん、超めんどくさいよね。貴重な夏休みを3日も削るとか、正気だとは思えない。夏休みは部屋でゲーム。これにかぎるじゃないか!このために俺は、RPGを1つ購入している。やり込み要素もかなりあるモノだ。フヒヒ…この夏は、これで満喫するぜっ!とか思っていると、神城が
「……私参加しようかな…」
と、つぶやいた。ご苦労様です。すると仁井園も
「アタシも家にいづらいし、やってみようかな」
と続く。おうそうかそうか、頑張れ頑張れ!とか思っていると、二人が俺を見る。
「……なに?」
「七五三田、アンタは……?」
「七五三田もやろうよ、3人でお泊まりだよ? ちょっと楽しそうじゃない?」
いや、別に楽しそうじゃない。何言ってんの?俺ゲームするんだけど…いやほんと何言ってんの?
「このイベントってキャンプもあるから力仕事も多いし、七五三田、こういう時動ける男子ってモテるよ」
おいおい仁井園、俺は騙されないぞ。
「……つーか、俺に力仕事はどう考えてもむいてないだろ…」
「……確かに」
いや、なんで神城が納得してんだよ。そんなことを思っていると、クレープ屋さんに到着し、話はうやむやなままになってしまう。
(ボランティアなぁ……)
***
「―――で、結局来てるし」
隣に立つ仁井園にそんなことを言われる。
「……別に良いだろ、気が変わったんだよ」
夏休み3日目、相変わらず騒がしい蝉の声とさんさんと降り注ぐ日の光に目を細め、俺は太陽をにらむ。まぁ、どうするか考えてみたのだが、結局参加することにした。理由は単純で、クレープ屋さんの帰りに、神城に声をかけられ、神城とスマホの番号を交換したのだが、その際神城が「やっぱり、ボランティア…七五三田が来てくれると助かると思う」とか、意味わかんない意味深な発言をしていたからである。いや、別に期待されてるからとか、女子にちょっと頼られてるから嬉しくてってわけじゃないんだからねっ!……まぁ、なんにせよ、必修だからなにかしらには参加しなければならないのならば…と言う結論になったのが正直なところだ。
こんな感じで、単純な理由なのだが…
「にしても暑くない?アタシ焼けるの超嫌なんだけど…」
仁井園がそう言うと、先生が
「あはは、仁井園さんは色が白いからな」
と笑った。学校の駐車場、バスが一台あり、そこに他の生徒も何人か乗っていく。そして、ようやく俺達の番が来て乗り込む。ちなみに席は、神城と仁井園が一緒に座り、俺が動線を挟んで隣に座ったかたちである。それから、バスに揺られること二時間ほどで、キャンプ場へと到着した。
そしてバスの扉が開き、降りていくと、先生に迎い、髪はブロンドでスーツ姿の外国人らしき女性が一人ずんずんと歩いてくる。そして
「孝輔おそいっ! アタシがどんだけ待ったと思っているの?! 予定より12分もおくれているわっ!」
と、先生に言った。つかこわっ! あと胸デカい。すると先生は
「はっはっは、相変わらず元気そうだね、リサ」
と軽く扱う。いや、先方怒ってんですけど…。そんな扱いで大丈夫なんですかね?




