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第31話 彼等は各々が関係について悩み始める。

【七五三田 悠莉】


結局、仁井園はいくら話をしても家には帰りたくないと言って聞かず、とりあえず母親に連絡するように促し、俺は仁井園を泊めてくれるところをさがす。って言っても、頼れる人など、俺には微塵もいないので、仁井園に神城に聞いてみたらどうかと提案した。


それから、何故か俺が仁井園のスマホから電話をして、着替えとかがないとか言い出したので、買い物に付き合う。下着売り場に行かれた時は、ほんとどうしようかと思った。いや、ほんと予告なしにあー言うとこ行くのやめてね、目のやり場に困っちゃうからね。


まあ、そんなこんなで買い物を済ませ、神城の家に来たのだが、キッチンにいる二人の様子がおかしい。



「なぁ、おまえら何話してんだ?」


俺がキッチンに向かうと、神城が


「な、なんでもないよっ」


と言って、ガサガサと何かしらの作業をしている。……てか、今一瞬、ここだけ時が止まっていたような…? ま、なんでもいいか。


それから、神城がレモンを砂糖と蜂蜜に付けたシロップを炭酸水でわったジュースを提供してくれる。


「……つか、ジュースもうまいけど、このレモンもうまいな…レモンてこんな甘くなるものなのか…」


俺が驚いてそう呟くと、神城は


「えへへ、おいしいでしょ?」


「あぁ、慣れないことして疲れてるから、なおのこと糖分が旨く感じる」


「ははは、七五三田はおおげさだなぁ」


と笑った。ダイニングテーブルを3人で囲み、神城特製ドリンクを飲む。……まさか俺にこんな日がこようとは……。ふと、中学の頃を思い出す―――。


『はい、これ男子の分っ!』


『うおお! マジでおまえクッキーとかつくれんのなっ』


『へっへー、だから言ったでしょ!』


『うめぇ!』『うまいうまい』


『学校にお菓子とか先生にバレたらヤバくない?』


『だから今のうち食べようぜ!』


うん、そう。俺が見ていた光景である。もちろん、この時も寝たフリして遠目に見ていました。女子の手作りクッキー。和気藹々と過ごすクラスメイト…(俺を省く)、しかし、この時ですら俺は知っていた。この女子が手作りクッキーを持ってきたのは、皆に食べさせたいからではない。そこには女子人気No.1の一木(いちき)くん(サッカー部のエース)がいたからだ。


要するに、この女子は"皆"の中にいる特定の男子に女子力をアピる為にクッキーなんか焼いてきたのである。そして、大多数にそれを振る舞うことで、直接渡して"断られるかもしれない"と言うリスクを限りなく低くしたのだ。策士だ……。


そんな日々を送ってきた俺が、前回の食事に、特製ドリンク…これはもう、あの時のリア充男子どもには勝ったな。うん、これは勝利でしょ。


なんて、考えていると、二人の引いたような視線に気付き


「え? なに?」


と聞いてみる。すると、仁井園が


「いや…アンタなにニヤニヤしてんの…? キモいんだけど…」


は?嘘でしょ…そんなニヤニヤしてた?すると、神城も


「……七五三田ってたまになんか考えてニヤニヤしてるよね…それ怖いから気を付けた方がいいよ?」


「え……マジ?」


「「うん」」


二人の返答がハモる。俺は思ってることが顔に出やすいのかもしれない…気を付けよう。


***


【神城 美羽】


ドリンクを飲み終えると、七五三田はそそくさと帰ろうとする。


「ごちそうさん…んじゃ、帰るわ」


ほんと、少しはお話しようとか思わないのかな? まぁでも男子だしこんなものなのかもしれない。支度を済ませた七五三田を玄関まで送る。


「その、マジでありがとな、ドリンク超うまかった」


「えへへ、お粗末様でした」


「あれが粗末なら、自販機はデカいゴミ箱になるな」


「え? どう言うこと?」


「いや、そんくらい旨かった、マジで」


「? そう? ありがとう」


「んじゃ、その……また…な」


七五三田が照れ臭そうにそう言う。そう言えば、彼がちゃんと「またな」なんて言ったのは初めてかもしれない。大概が「帰るわ」っていっていたような気がする。だから私は


「うん!また明日ねっ!」


とそう返した。


***


【七五三田 悠莉】


柄にもなく"別れの挨拶"なんかしてしまった…。俺は帰りながらそんな事を思う。関係性が近いなら当たり前のこと、自然に行うこと。でも、俺はそれを意図的に避けてきた。


何故なら、近しい関係になれば、真の意味で別れが来たとき…咲来の時のような気持ちになるかもしれないからだ。


今ある関係も、きっとすぐになくなってしまう。うまくいって高校生活の間だけ……それからはそれぞれの道を進むのだから、会うことはおろか、連絡すら取らなくなる可能性だってある。


とりわけ、俺みたいなつまらないヤツは、真っ先に切られてしまうだろう。神城も、仁井園も可愛いし、きっとほっといても周りに人間が集まるタイプの人種だろう。それに引き換え、俺はこんなものだ。


きっと、今がいろんな意味で特別なのだ。いや……特殊か…。


そう思わなければ、期待してしまうじゃないか。こんなにリアルが充実した日々が、当たり前だと思ってしまうじゃないか。


俺の日常は、隅っこで音楽を聞きながら寝たフリをして、ひっそりと過ごすものだ。今あるコレは、求めていいものじゃない。じゃなきゃ、かならず痛い目に会う。それは確かだ。


だから、これ以上を妄想したり、期待したりするのはもうやめろ…。ありがたいじゃないか、俺の人生にこんな一幕が描かれたのだから。


そう思うのに、戒めるのに、この今ある関係を維持したいと、無くしたくないと、どこかで思ってしまう。


人は独りなのは変わらないはずなのに―――。



***



【仁井園 真理子】


七五三田が帰ったあと、美羽と二人きりになる。


七五三田を見送った美羽が戻ってくる。アタシいじっていたスマホから美羽に視線をうつす。すると美羽が


「真理子、七五三田見送らなくてよかったの?」


と聞いてきた。


「うん、別に話すこともないし」


私がそう言うと、美羽は解せないとでも言いたげにこちらを見て、「そっか」と呟いた。そして、ダイニングテーブルに座ると、


「さっきの話だけど…」


と、美羽が話を切り出した。


「その、七五三田は私のモノってわけじゃないし、真理子が……真理子が好きなら、別に私に遠慮なんかしなくていいと思う…」


……この子は良い子だ。美羽の言っていることは正しい。アタシは遠慮などする必要はない…が、アタシがあんな発言をしたのは、彼女にハッキリとしてほしいからだ。美羽は間違いなく、七五三田に惹かれている。だが、それに気づかないフリをしていると言うか…何か邪魔しているように感じるのだ。


それに、アタシもまた…間違いなく 七五三田 悠莉 と言う人間に惹かれている。でも、まだ本気で好きと言うわけではない。たぶん、美羽の方が気持ちは全然上だと思う。だから…だからこそハッキリとしてほしい…もしも、このまま3人で一緒にいることが増えれば、アタシは間違いなく七五三田に惹かれていくと思う。あくまで憶測ではあるが…彼にはそんな魅力があるように感じ始めている…。


と言うことは…今あるものが、いつかは無くなると言うことだ。ずっと3人ではいられない。いつかは、二人と独り、もしくは独り独りとなる。


アタシは、七五三田にも惹かれているが、また、神城 美羽 と言う人間のことも、嫌いじゃないのだ。


だからこそ、アタシは…美羽にはもう、嘘をつきたくないし、ナアナアな関係ではありたくないと思う。ちゃんと向き合って、言いたいことも言い合えるような…そんな関係を、彼女に求めたいと思っている。


これはアタシのエゴだ。それでも…


「……美羽、アタシはもう、アンタに嘘をつきたくないから…アタシの事、全部話すね…」


言っていて、どの口が言うんだと、自分で思ってしまう。一度裏切った人に、嘘をつきたくないなんて…と、それでもアタシは欲しいのだ。


中学の時には手に出来なかった…お互いにちゃんと真実を言い合い、傷ついても、笑いあえるような…そんな蜃気楼のような不確かなのに、確かな関係が…。

















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