第30話 そして、彼と彼女と彼女の関係が始まる。
【神城 美羽】
七五三田から電話があったのは、一人で晩御飯を食べようとしていた時だった。ダイニングテーブルに1人分の食事をならべ、席につく。昔は、家族3人でよく小さなテーブルを囲んで食べていたのになぁ…。
広い部屋、私の「いただきます」が弾けて消える。
箸を持ち上げようとした瞬間、スマホが鳴った。私は手を止めて「はいはい」と独り言をこぼしながら画面を確認する。相手は真理子だ。
「……もしもし?」
〔あ、神城か…?〕
………へ? 真理子のスマホから七五三田の声がする。私は一度耳からスマホをはなし、画面を確認する。やはり、どう見ても真理子と書かれている。
「……え? なんで七五三田?」
〔ああ、それはあれだ、おまえの番号しらなかったからな…〕
真理子のは知ってるんだ…? 言いかけて飲み込む。私は最近、彼に惹かれている。これはきっと、単純な恋心なんかではない。もっと自己中心的な、私の…私が嫌いな部分…。そんな事を考えていると、電話から
〔……あれ? もしもし?〕
と聞こえてきた。
「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
〔考え事? ……大丈夫か?〕
「あ、うん。 大丈夫ぜよ」
〔いやなんでいきなり 坂本 龍馬 みたいなってんだよ〕
彼はたまにおもしろい。だから、私は彼と話をしていると、たまに悪のりしてしまう。
「そんなことないぜよ?」
〔おまえ"ぜよ"つければなんでもそれっぽくなるとか思うなよ?〕
「ふふふ、七五三田の下校途中にあるファミレスは?」
〔……サイゼよ〕
「あははは」
〔いやなに言わせんだよ、てか、本題入っていいか?〕
そうだった。七五三田と話すの楽しいから、ついついノリすぎてしまう。
「あ、ごめんごめん、いいよ」
***
――ピンポーン
インターホンが鳴る。私はパタパタとかけていき、ドアを開いた。
「いらっしゃい」
「…美羽、ごめんね無理いって…」
「いいよいいよ! 1人で寂しかったし! それにほら、さっきも電話でいったけど、家の親、来週まで帰ってこないから」
そんな話をしながら、私は真理子を家へととおす。真理子は「おじゃましま~す…」と言いながら、何故かおそるおそる玄関をあがった。そして、
「ほら、アンタも早く来なよ」
と、もう1人の来訪者に言う。
「……いや、なんで俺まであがるんだよ、俺はおまえ送るのと荷物持ちだけだって言っただろうが」
……そう言う七五三田の肩には大きめの鞄が下げられ、手にはコンビニの袋が下げられている。……て言うか、二人で買い物してきたんだ…いいなぁ…。そんな事を思いながら彼を見ると、
「神城、その…急に悪かったな…」
と、七五三田が謝る。
「なんで七五三田が謝るの?」
「いや、提案したの俺だしな…」
「ふ~ん……なんか、七五三田、真理子の彼氏みたいだねっ」
少しの嫉妬から、ちょっとだけ冷たくなってしまう…。これも私の嫌いな部分…。別に七五三田が悪い訳じゃない。そんなのは分かっているのに…。
「いや、仁井園の彼氏は…かなり骨が折れるだろ…それに、俺なんかとじゃ釣り合わないだろうが」
あーもうっ! 七五三田のバカっ! 彼はすぐに"自分なんか"と言う。だが、私は彼に助けられたし、真理子から聞いた話でも、七五三田の貢献は大きい。だが、彼はそれを無自覚に行っている。きっと、彼は"ただ話を聞いた"くらいにしか思っていないのだろう。それが、どれだけ私を救ってくれたか…。
学校での人間関係と言うのは、正直私の中では最優先事項で、とりわけ女子でグループに所属できないと言うのは、死活問題である。
あの時、七五三田がいなかったら……私は、既に学校にはいかなくなっていたかもしれない。それに、ひょっとしたら、周りから何か言われていたかも知れない…。でも、そんな事にならなかったのは、七五三田が、いつ話しかけても、変わらずに接してくれたから…いつも、中庭でお昼を一緒に食べてくれているから…
私の中で、彼は…そこにいるだけで"あたたかな"存在となっているのだ。
だからこそ…彼に惹かれていると言う自覚はある……だが、この気持ちは、ひょっとしたら…寂しさをうめたいだけの、私のワガママなのではないか? とも思うのだ―――。
「んじゃ、俺は帰るわ」
荷物を玄関におろした七五三田が踵を返す。私は咄嗟に彼の袖を掴み、それを阻止した。
「……なに? 俺もう疲れたから帰りたいんだけど…」
「えっと……」
なんとなく、帰したくなくてつかんでしまったので、良いわけが思い付かない…!
「あ…」
「あ?」
「つ、疲れてるんなら、ドリンクつくってあげるから、とりあえずあがんなよっ!」
「……は? ドリンク? マジ? いいの?」
っよし! 釣れたっ! って…なんか私必死すぎる気がする…。
「んじゃ、おじゃましまーす」
七五三田は、揚々と玄関をあがり、荷物を再び持つとリビングへと向かった。その姿が少しだけ可愛く感じる。
すると、先にリビングへいっていた真理子の声が聞こえてくる。
「なんでアンタまだいんの?」
「神城が俺をいたわってくれるらしいからな、せっかくだから頂いて帰ろうと思ってな」
「……ふ~ん」
さて、みんなに飲み物でもだそう。
***
私がキッチンで作業を行っていると、真理子がやってくる。
「手伝おっか?」
「あ、うん…それじゃあね…冷蔵庫からレモンとりだしてもらってもいいかな?」
「おっけー」
二人で作業をしていると、真理子が七五三田に聞こえないくらいの声で、話しかけてくる。
「ねぇ、美羽ってさ、七五三田のことどう思ってんの?」
またその話か…
「前にも言ったけど、よくわからないんだよ…へへへ…」
私は苦笑しながらそう言う。すると、真理子は
「……ふーん、そっか」
と言って、私の肩をトントン、と指で叩く。私が振り替えると…真剣な顔の真理子が
「わかんないんだったら、アタシ、七五三田もらっていい?」
心臓が、ギュッとなった。
仁井園 真理子による先制パンチ❗




