第2話 スーパーマーケットは、袋でも金をとる。
その日の放課後、クラスの奴等が「ばいばい」とか「また明日なー」とか別れの挨拶を交わし、また、ある意味成功者(笑)である男女共は手とか繋いじゃったりなんかしながら下校して行く中、俺は今、神城 美羽に下げた鞄をガッチリと両手で掴まれ、下校を阻止されていた。
「……あの、帰りたいんですが…」
「なんで?さっき相談にのってくれるって言ったじゃん!」
神城はそう言いながら、俺の鞄を引っ張る。痛い痛い、肩に食い込んでるからっ!…しかし、まぁ確かに言った。あの涙目にちょっときゅん♪とかして言った。――――
『ねぇ…どうしたら良いと思う?』
『…いや…そもそも、俺なんかに聞いてどうするんだ、分かるわけないだろ』
『確かに…』
(いや確かにって…納得しちゃったよ、そこはちょっとくらいプラスになるような事言ってくる所なんじゃないの?身も蓋もねぇなマジで。)
それから、神城は少し考える様子を見せ
『やっぱり、七五三田くらいしかいないよ…だって他の子とかに言ったら絶対真理子に話が通って、ややこしくなったりしちゃうかもでしょ?男子だって真理子とは仲良いの多いし…』
この子は、然り気無く俺は他人と関わりがないから、何話してもいけんじゃね?どうせぼっちなんだし。と、会話の節々に悪口的なそれを含んでいる自覚はあるのだろうか?って言うかいるし、学校で会話する相手、………先生…とか…?あと、俺は好きでぼっちやってんの。別に嫌われてるとかそんなんじゃないしっ!……そんなんじゃないしッ!
『……おまえ、然り気無く酷い事言ってる自覚ある?』
『へ?』
『いや、でもまぁ…相談くらいな…』
と、ここで昼休み終了のチャイムが鳴ってしまう。なので俺はさっさと神城に伝える。
『相談くらいならのってやらない事もないぞ』
『本当に?! 絶対だからっ!嘘じゃないよねっ!』
『ああ本当だ、つか、次移動だろっ』
俺にそう言われ、神城は黒板の横に貼られている時間割をその場で確認する。
『うわっ、マジじゃん!』
そして神城は慌ただしく移動の準備を行い、もう俺達しか残っていない教室から出ようとして、1度振り返り移動の準備をしている俺に言った。
『約束だらねっ!』―――
と、こんな具合に相談を受けるとは言った。それは認めよう。しかし、それは学校の休み時間とかに聞くと言う意味であり、下校後の俺のスーパープライベイトタイムを犠牲にしてまで話しを聞くとは言っていないじゃないか、要約すると、俺は早く帰って寝たい。ごめん嘘、ゲームの続きやりたい。PU○G(FPS)とかやりたい。
「あのな、神城…!俺は、」
と、俺が引かれた鞄に対抗しながら話をしようとしていると、神城が急に鞄から手を離した。無論、その反動で俺は転びそうになる。
「ぅわっ!?」
前にトン、トン、と跳ねる事でバランスを整え、体制を建て直す。そして、俺は振り返り神城に文句のひとつでも言ってやろうと思ったのだが、その時見た表情が、あまりにも寂しそうで思い止まる。そのまま神城の視線の先に目を向けると、そこには、木村 結衣子、原田 ともか、そして…仁井園 真理子の3人が楽しそうに談笑しながら下校する姿があった。
本当ならば、あそこには神城の姿もあったはずだ。3人ではなく、4人で帰っていたはずだ。……俺みたいなヤツに相談し、あんなに寂しそうな…切ない表情をする事は無かったはずなのだ。それに、あの表情を見れば、バカでもあの3人が神城にとって大切なモノなのだと言うのは分かる。
「神城」
俺に呼ばれ、神城はハッとする。
「……へ? な、なに?」
「話、とりあえず話をしてくれ」
「え?話?……あ、聞いて…くれるの?」
「ああ、本来ならば休み時間とかにだけ相談を聞くつもりで、下校時は速やかに帰宅したかったんだがな…まぁ、なんだ、気が変わった。とりあえず原因を知らない事には何も出来ないだろ、だから…話を聞いてやる」
「……七五三田ってちょっと偉そうな時あるよね」
「え、マジで?」
「うん…てか、自覚ないんだ…ううん、でもそれは別にいいや、ありがとう!」
そう言って神城はにこりと笑った。
***
「あ、ジャガイモ安い」
「…良かったな」
……で、何故か俺達はスーパーマーケットにきていた。てか、相談は?いつその話するんですかね?そんな風に思う俺の事などいざ知らず、神城は買い物かごに次々と食材を入れていっている。なんでも、帰ってからご飯を作らないといけないらしい、思いの外家庭的な一面もあるようだ。
で、俺はそんな神城の後をついてまわっているわけだが…
(そういや、スーパーって久しぶりに来たな…)
俺は、基本的にコンビニや近くのドラッグストアしか利用しない。周りを見渡すと、いろんなモノが新鮮に見える。
(うわっキャベツたかっ! 何?最近の野菜ってこんな高いの?これ一玉買うのに、ジュースとパン買えんじゃん)
「……だからね、お母さんにそう言って…」
(わざわざ草に金払うなら、俺なら絶対出来てるパン買うわ。飲み物まで買えて超お得じゃね?……って、あれ?神城がなんか言ってるな…)
「……ご飯はそんな感じなんだ、でも、まさか七五三田と一緒に買い物するとは思わなか……って、聞いてる?」
(やべぇ、全然聞いてなかった!)
「んぁ?ああ、そうな、ご飯な、ラーメンとか好きだな」
「いや絶対アンタ話聞いてないじゃん!もう!」
そう言いながら、神城は頬を膨らませ、俺を軽くこづく。なにコイツ、こんな顔もすんの?実は可愛いんじゃないの?
「ああ、すまんすまん、ちょっとキャベツの値段に度肝をぬかれていたんだ…」
「なんでキャベツ?」
「いや、気にしないでくれ…ってか、買い物はもういいのか?」
「あ、うん」
神城はそう言うと、レジへ向かい会計を済ませた。それから袋に買った物をつめていく。……その買い物袋を見て思ったのだが、そういやスーパーって袋でも金取るようになったんだな…どうでもいいんだけど…ってマジでどうでもいいじゃねぇか。俺がそんな本当にどうでもいい事を考えている間に、神城は荷物を入れ終え、俺に言う。
「じゃ、行こっか」
「……は?どこに?」
スーパーを出て、二人で歩く。……この光景って端から見たら付き合ってるように見えたりするんですかね?グヘヘ…とか浅はかな妄想に浸っていると、神城の両手に下げられた買い物袋が目につく。俺は、隣にならび、「ん」といって手を差し出した。それを見た神城の頭には一瞬「?」が浮かんだように見えるが、すぐにその手の意味を理解したのか、持っていた袋を差し出す。
「…こう言う気づかいは出来るんだね」
神城はそう言いながら、ちょっとにやにやとする。
「は?どういう意味だよ」
「別に、ありがとう」
「おう」
そんな感じで俺は袋を一つ預かり、歩きだそうとすると神城に袖を捕まれる。なんだろうかと俺が振り替えると、神城は笑顔でもう一つの袋を差し出した。
「はい!」
「あ…はい」
***
結局、神城の住んでいると思われるマンションまでついてきてしまった。俺は立ち止まり、マンションを見上げる。パッと見、だいたい15階建てで、外観は町を歩いていると、よく見かけるような形をしている。……つか、よく見る形ってどんなだよ……っ! 俺がそんな一人のりツッコミをしていると、神城に声をかけられ、言われるがままについていく、エレベーターへと乗り込んで、それから、神城は8階のボタンを押した。神城の家は、どうやら8階にあるようだ。つーか、何も言われないからついてきちゃったけど、良かったのだろうか?いやでもほら、本題が進んでないし…
「神城…あの、なんだ、俺はついてきて良かったのか…?」
「え?だってまだ話できてないじゃん…あ、なんか用事とかあった?」
「え?いやないけど…」
「本当?なら家は大丈夫だよ、どうせお母さん遅いし、それに、これは前払いみたいなもんだから」
「は?前払い?なにが?」
「ただ聞いてもらうだけって申し訳ないじゃない?だから、手料理でもふるってあげようと思って♪」
そう言って神城はニコッと笑う。あざとい。でも俺は騙されない、これは俺への好意とかそんなものではなく、神城の仕様なのだと言うのを理解しておきたいところだ。何故ならコイツは、何を隠そう、クラスの男子による学校内女子格付けランキングでベスト5内に入る女子だからだ。なんで知ってんのかって?それは、田中君達(接点はない)が話してるのを聞いたからである。以上の情報からして、俺以外の男子にもこんな感じなのではないか?と予防線を引いておかないと、うっかり好きになってしまう可能性が出てくるだろうが! マジで、童貞だったら絶対ハートもっていかれてた。あぶねぇあぶねぇ………あ、そう言えば俺童貞だったわ。あと、期待させた以上、料理やっぱ嘘でしたとか無しだからね、そんなの俺泣いちゃうからね!
「…ま、まぁ…なんだ、そう言えば腹も減ったしな」
「そこは素直にありがとうでいいんじゃないの?あと、なんでそんな目、泳いでるの…?なんか、金魚みたい」
それ、貴女が気まずい思いしてる時に他の人物に対して俺も思いました。
次回『第3話 理論武装は、しすぎると照れる。』
5月17日(木) 17時更新となります❗(。・ω・。)きゅぴーん✨