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第26話 意図せず人の秘密を知った時、我々はリアクションの正解がわからず、とりあえず謝る。

それから、昼飯を食べ終えた俺は、午後の作業もがんばるのだった―――。


***


―――さて、作業を終わり、俺が帰り支度をしていると後ろの方からタッタッタッタ…と何かが駆けてくる音がする。俺は、手を止め振り返ろうと思った次の瞬間―――


「どおーんっ♪!」


と、声が聞こえ背中に柔らかな衝撃を受ける! 俺は何事かと一瞬困惑するが、それがふざけて飛び付いてきたひとひらだと分かると、


「いや、マジでビックリしたんだけど…」


と、冷静に呟いた。すると俺の背中にしがみつくひとひらは、「悠莉おつかれー」とか言いながら、あろうことか人の首の臭いを「すんすん」と嗅いできた。


「…悠莉汗くさーい…」


おいおいおい、この子何やってんの?スキンシップマスターかよ、てか


「おまっ、やめろ! 汗かいてんだから臭いのなんて当たり前だろっ」


俺は体を揺すりひとひらをはなそうとするが、ひとひらは「にしし」といたずらに笑い、しがみついたまま離れやしない。しかも「んふふ♪……私汗の臭い嫌いじゃないんだよねーあ、少し柔軟剤の匂いする」とか言いながら、また嗅いでくる。


「おい、マジでやめろ!なんかちょっと恥ずかしいだろうがっ」


俺がここまで言うと


「あっはっは! 悠莉、人間なんだから臭いのなんて当たり前だよー、でもね、これは頑張った人の匂いだと私は考えているのだよ」


とかなんか適当なこと言いながら、ひとひらは俺から離れた。


「何それ、突っ立ってても汗はかくだろ」


俺は乱れた服の背中の部分を整えながら言う。


「違うよ悠莉、突っ立ってる人も何か目的の途中じゃん、だから頑張ってるんだよ」


ひとひらの謎理論に、何故か一瞬、言われてみれば確かにそうか…と、納得させられる。いやでも…


「……わかんねぇわ」


「ははは、それじゃあさ、嗅いでばっかりもアレだから……悠莉」


「なんだよ」


「私のも嗅いでみる?」


そう言ってひとひらは何故か自分の胸元の服をつかむとひっぱりながら「嗅いでみ?」と迫ってくる。おおっ、さ、鎖骨が…てかソレ以上近づくと見え……と思った辺りでひとひらは、「悠莉ノリわるーい」とか口を尖らせながら言って離れた。俺が少し引きぎみでリアクションをとったからかもしれない。てかノリ悪いじゃねぇよ。こちとら万年ボッチだぞ、そんないきなり匂い嗅いでみ?とかわかりましたってなるかよ!


そんな事を考えていると、ひとひらは作業台の近くにあるカゴを裏返してそこに腰かける。そして、


「ま、いいや! 悠莉、帰り支度を終わったら教えて」


と言ってスマホをいじりだした。俺もとりあえず言われるがままに帰り支度を済ませる。


「……おわったぞ」


俺がそう言うと、ひとひらは、


「ん、(けー)るべ」


と言って立ち上がり、見ていたスマホを来ているパーカーのポケットになおした。


***


「なぁ、見せたいものってなんなんだ?」


作業場を出て、俺はひとひらの後について海岸沿いの道を歩く。


「まぁまぁ、楽しみにしといてよ♪」


言われるがままについていくと、ひとひらは途中、松林の方へガサガサと入っていく。


「マジか…ここいくのかよ…」


俺の呟きなどつゆ知らず、ひとひらはどんどんと進んでいく。てかこいつすげぇな…普通の女子なら虫は出ないか?とか、服は汚れないか?とか、そんな事を考えて進むの遅くなりそうだが、ひとひらは、ずんずんと前に進む。その姿からは逞しささえ感じてしまうほどだ。


そして、そんなひとひらについて歩くこと数分、松林を抜けると、広い砂浜に出た。目の前には海と夕陽以外なにもなく、狭い空間からぬけたからか、その落陽に、「おぉ…」と関心の声がこぼれた。


「すごいでしょ?」


夕陽に照らされながらニッと笑顔をみせ、ひとひらはそんな風に聞いてくる。


「…あぁ…柄にもなくちょっと感動とかしそうなくらいには、立派なサンセットだな…」


俺がそう言うと、ひとひらは「でしょ?」と自慢げに言った。それから


「ここさー、私も嫌なこととかあったらよく来るんだよね…漁してる時に、先輩に教えてもらったんだけど、始めてみたとき感動したからさ、それを新入りの君にもお裾分けしてあげようと思ってね♪」


「……そいつはどうも、でもま、確かにそうそう見られるような光景じゃないな…良いもの見せてもらったわ」


俺は今一度夕陽に目を向け、そうひとひらに言う。するとひとひらは


「うし、じゃ、見せたかったものを見に行こうか!」


と言って浜を歩き始めた。って見せたかったものこれじゃねぇのかよ!


「おまえ、見せたかったものってこのサンセットじゃないの?」


「へ? あー、これもそうだけど、本当はこっち!」


ひとひらについて歩いていくと、浜から磯へと足場が徐々に変わっていく。そして、何やら音……?歌……?のようなモノが聞こえてきた。するとひとひら急に身を屈めて、ちょいちょいと手招きをしてきた。俺もひとひらに習い、身を屈めてひとひらのそばまで行く。すると今度は、人差し指を口にあて、シーっと言うジェスチャーの後に、磯の自分が背にしている岩場の後ろを指差した。


「…?」


俺はソッと覗いてみると――――



「―――♪」



そこには、サンセットに照らされながら、歌を歌う女の子がたっていた。


俺は一度引き返し、ひとひらに尋ねる。


「……なぁ、あれ誰?」


「え? わかんないの?」


「は…?」


俺はもう一回岩影から顔を出して覗いた。と、気持ち良さそうに歌っているその女の子がコチラを向き、バチンと視線が合う。途端、その海に流れていた歌声が止まった。……やらかしたでござる。


俺は小声で


「あの、ひとひらさん? 今歌声がとまったのわかりますよね?バッチリ視線があっちゃったんですけど…これ、どうしたら…?」


俺は振り返ると、ひとひらはそこから忽然と姿を消していた。


(アイツ、逃げやがった…っ!)


俺がそんな風に思ってから女の子の方を見る。と、女の子は顔を覆ってしゃがみこんでいた。で、ですよねー……海で熱唱してるとこ見られたら恥ずかしすぎるもんね…いや、でもほら、君のは上手かったし、恥ずべき事ではないと思うんだよね、うん。いや、ほんと……なんかごめんね……。






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