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第25話 苦手な食べ物も、普段と違うシチュエーションとかで食えば、一周回って旨く感じる。

【七五三田 悠莉】




「ここで良いか?」


バイトの帰り、珍しく俺に声をかけてきた仁井園を家まで送る。


「うん、てか、結局送らせるような事になっちゃったね…ごめん」


「……え?」


いや、何今ごめんって言った?仁井園が?え?待って、仁井園マジか。マジか仁井園…。俺がそんなことを思って目を丸くしていると、


「いや、アンタ…『え?』ってなに?」


仁井園は目を細め、じゃっかん不快そうにそう言う。おいおい、左の眉がピクピクしてるんですけど…っ!


「いや、おまえも謝罪とかできるんだと思って…」


「はぁ?アンタってほんと、どこまでも失礼なヤツね、悪いと思ったら謝るくらいするし」


いや、だって貴女、神城と仲直りするのに結構な時間かかってたじゃないですか?人って成長するんだなぁ…と素直に感心してしまう。『悪いことをしたら"ごめんなさい"と言う。』極当たり前で、幼少期に教わる"常識"、しかし何故か、大人になるたびにそれをするのが難しくなっていくように、俺は感じる。


「いや、素直に感心したんだよ…」


「は?意味わかんない」


もしも―――


俺がまた"咲来(アイツ)"に会えたなら、その時は…ちゃんとあの時、「守れなくて、ごめんなさい」と言えるだろうか…?


「……そっすか」


「……? よくわかんないけど、アンタ…なんか悩んでるんなら、ちゃんと話た方がいいんじゃないの?」


「え?」


「ま、あたしは聞いてやらないけどねっ!」


そう言って仁井園はベッと舌を出して笑った。


「なにそれ可愛い」


やべ本音でた。そう思うと、仁井園は


「……ふぇ?」


と間のぬけた声を出してから、キョトンとし、すぐに


「は、はぁっ?! ちょっ、調子狂うような事言うなしっ!しかも真顔でっ!」


そう言って、俺を軽く小突いた。いてっ。てか、俺真顔だったの?てかなんでコイツ顔赤くしてんだよ…。


それから、少し雑談をしたあと、仁井園は自宅へと入っていく。それを見送りながら俺はさきほど仁井園に言われた事を思い、呟いた。


「……相談、なぁ…」


***


―――ガーガガガッ…! ガガガっ!


さて、本日二日目のバイトである。今日も俺は牡蠣を削る。おじさんは相変わらずいそいそとカゴを運んだり、電話したりしている。そう言えば、まだひとひらが来ていない。


電話を終えて、タバコに火をつけたおじさんに俺はたずねる。


「……そういや、今日ひとひ…木之葉さんって、来ないんですか?」


「ん?なんだ兄ちゃん、ひとひらに惚れたのか?」


おじさんはニヤニヤとしながら聞いてくる。いや、何言ってんのこの人。そんなわけないでしょ、いやまぁ凄い可愛いけどね、でも正直、俺は可愛すぎる子って苦手なんですよ…。ってこれ前にも言ったな。


「いや、そう言うわけじゃ…」


俺がそう言うと、おじさんは煙を吐き出して「はっはっは!」と笑う。そして、


「ひとひらは今潜ってんだよ」


と教えてくれた。と言うか、


「は?潜る?」


「おう、アイツのメインは海女(あま)だからな、今は潜って貝とったりしてんだよ」


「……へぇ」


そんな話をしていると、噂のひとひらがやって来た。


「お疲れ様でーすっ」


そのひとひらは、ガサガサとレジ袋をさげていて、それをおじさんに、差し出す。


「はいっ!てっちゃんさん、これ昼に焼いて悠莉にあげてっ」


「お?」とおじさんは言って、中身を確認し、


「おー、サザエか、わかったわかった」と言ってひとひらに親指をたてたあと、俺に向かって


「昼飯に出してやるなっ!」


と笑顔を見せた。そのひとひらとおじさんの優しさのなんとありがたいことか。でもね、俺貝苦手なんですよ…どうしよう。2人の笑顔を見たら、とても実は苦手だとは言い出しづらい…。何て言うの?貝ってなんか舌がしびれるんだよね…あとたまにジャリジャリするし…塩臭いって言うか…いや、まあここはこの気持ちをありがたくいただこう。


そんなことを考えていると、おじさんがひとひらに


「ひとひら、そういやさっきそこのにーちゃん、えっと…七五三田くんがおまえ探してたぞ」


と言う。それを聞いたひとひらは「そうなの?」と言って俺の方を向き、近づいてきた。


「悠莉、私に用事ってなに?告白?」


いや、なんで出会って一日しかたってないおまえに告白なんてするんだよ、どこぞの田舎の嫁探し番組じゃないんだから…


「……いや、そうじゃな…」


俺が否定しようとすると、おじさんが


「なんかな、彼はひとひらに惚れたらしいぞ」


とか言って「がっはっはっは」といたずらに笑う。おいおいおいなにとんでもない事いってんだ、このおっさん。俺は慌てて否定する。


「いや、ひとひら、それは違うぞ、断じてそんなことはない、断じてな」


「えー、別に惚れてくれてもいいんだぞ☆ てか、二回も否定するなよー、つれないなぁ悠莉」


と言ってひとひらはケラケラと笑う。この子何いってんの?本当に好きになったらどう責任とってくれるんですかね?とか思っているとひとひらが


「ねね、悠莉、今日仕事終わったらさ、ちょっと時間くれない?」


と言ってくる。


「え? なに? なんかあんの?」


俺は無駄に警戒しながら若干引きぎみにそう返す。いやだって、普通に考えてこんな子が俺を誘うとか変じゃない?普通避けるじゃない?変なツボとか絵画とか売り付けられるんじゃないか?とか勘ぐっちゃうじゃない?え?そこまではない?ないですか…。しかしひとひらは、


「あはは、そんな警戒しなくても襲ったりしないよ、ちょっと見せたいものがあるだけ♪ほんじゃ、またあとでねっ」


そう言ってウインクをし、作業場から出ていった。つーか、今日はこっちじゃないんですね。


それから、俺は昨日と同じく作業をこなす。しかし、昨日ひとひらが言ったように、今日はやたらと牡蠣の数が多い…昨日の朝の3倍はしたかな?と言うくらいでようやくおじさんが


「飯にするかっ!」


と言ってご飯となる。と、おじさんはどっから取り出したのか、えらく(すす)くれて、上の空いた一斗缶(いっとかん)(油の入っていた大きめの四角い缶)を取り出すと、おもむろに炭をくみ出し、火をつけ、その上に少し錆びた金アミを乗せた。


「七五三田くん、さっきひとひらの取ってきたサザエ焼いてやるから待っとれよっ!」


と言うと、その金アミにサザエを並べていく。四つほどサザエが乗ると、次は先ほどまで俺が削っていた牡蠣適当につかみ、それもアミに乗せた。そして、少したつと、その貝達に醤油を垂らす。溢れた貝の汁と、醤油がこぼれて炭に落ち、ジュッと音を立てると、次の瞬間には醤油の焦げた香ばしい臭いと、貝の出汁の香りが鼻をくすぐった。いや、うん。匂いはいいよね、あとなに?ビジュアル的には旨そうなんだよ…。


そうこうしていると、焼き上がったのかおじさんが軍手でサザエをつかみ、器用に竹串で中身を取り出す。ってかその竹串どっから出したの?そして、


「ほら、食いごろだよ」


と言ってそのサザエを俺に差し出した。……ごくり。ここは踏ん張りどころである。俺は「あ、ありがとうございます」と言ってそれを受け取り、ふーふーしてから、一瞬躊躇して口にほおりこむ。


「――はぐっ」


―――――はふはふしながらそれを頬張る。てか、……あれ? 旨くね? なにこれ旨い。いや、なにこれほんと、超うまい。美少女が取ってきた補正抜きにしても超うまい。


「……うまっ」


俺がそう言うと、おじさんはどや顔で「だろ?」と言った。その時なんかキラキラしたモノがおじさんの周りの見えた気がする。それから牡蠣も頂いてみる。これも旨い。なにこれ、孤独なグルメなの?マジ旨い。俺がいそいそと食べていると、おじさんは俺を見てニコニコとしながらこう言ってきた。


「苦手なモノもうまいだろ?」


俺はおじさんの一言に、


「……え?」


と、素で驚く。あれ?いや、俺貝苦手だっておじさんに言ったっけ?そんな事を思っていると


「はっはっは! なんでわかったんだって顔だなっ!」


「……いや、はい…」


「はっはっは! 君が一口目を食べるとき、一瞬迷ったろ?その時顔に書いてたぞ、貝苦手ですってな」


マジで?感情や思考が顔に出る特殊能力が俺に?ってバカ、んなわけあるか。とりあえず俺は「ははは…」と、愛想笑いをする。するとおじさんは


「苦手なモノも、焼き方や味付け、調理の仕方でおいしさが変わる。実際、今旨かったろ?俺はな、人間も同じだと思ってんだ、接し方や見方を変えれば、関わり方や、考え方も変わってくる…」


おじさんは炭をいじりながらそんな話を始める。


「……えっと…」


俺が返答に困っていると、おじさんが


「はっはっは! 君にはまだ難しかったかっ!」


そう言ってがはは!と笑った。








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