第21話 人は見掛けによらない。
それから、俺は本仮屋と一緒に図書室へと向かう。二人とも無言で…。と言うか、さっき抱えてたファイルを「持とうか?」と言ったら、「だ、だ、大丈夫ですっ!すみませんっ!」と早口で拒否されてしまったあげく、謝罪までされてしまった為、ちょっと声かけづらくなっちゃったのが本当のところである。
そして、図書室につくと、今月の番人である1つ上の先輩がいた為、とりあえず会釈をする。すると先輩はチラリとこちらを見て、軽く会釈した。それから、裏にある書庫と言うか、やたらと本の積まれた教室に入り、そこにある机に、二人で向かい合って座る。
……が、やはりここでも、二人とも無言になる。それは何故かと言うと、俺もそうなのだが、本仮屋もどちらかと言うとあまり人と関わるような人種ではないからだ。だが、ここは会話をしなければ話は進まない。ここは最近コミュ力あげてきてる(?)俺がリードをすべきだろう。そしたらば、素敵…みたいになってグフフな転回とかになるかもしれないじゃないか。よし、見てろよ明日の俺、今バトンを繋ぐぜっ―――
「えっと…本仮屋…その、えっと…なんだ、今日の仕事ってなんなんだ?」
「あ、はい…今日のは来週の図書室管理についてなんですが、お昼休みと放課後、何曜日なら七五三田君は入れますか?」
あれ?おかしい。俺の方がしどろもどろになってる。誰?いまさっき、コミュ力あげてきてるとかほざいてたの誰?! 俺です…。
「あー、基本的にどこでもいいぞ、やることもないし…」
「そうなんですか?」
いや、そこは聞き返さないで、そうですかって納得してくれた方が、俺的には二度もぼっちを自覚せずにすむのでありがたかったのですが…。
「あぁ…なんもないな…」
そう言って俺は目線を斜め下に流す。すると、それを見た本仮屋はなにかを察したのか、「あ…」と呟いて
「すみません!すみません! あ、でも私も1人が多いですしっ!やることないですしっ!」
と、謎フォローを繰り出してくる。いや、気を使われると逆にしんどくなります…。なんて思っていると、俺のスマホが珍しく鳴る。
―――ブーッブーッ……
「あ、七五三田くん、出てくれていいですよ?」
「いや、話終わってからかけなおすからいいぞ」
「そうですか?」
暫くするとスマホは鳴りやんだ。と、次の瞬間
―――ブーッブーッ……
「………。」
「あの…出た方が…?」
「………すまん、ちょろっと出てくるわ」
「あ、大丈夫ですよ、ごゆっくりぃ~」
俺はスマホを取り出し確認する。すると、またもや知らない番号からの着信である。なんなの?最近多いんだけど……今回は本仮屋も待たせているし、いちいち調べたりしてる時間もったいないしな…俺はそう考え今回は素直に出てみる。
「……もしもし?」
〔あ、七五三田?〕
「……どちらさまですかね?」
〔は? 何アンタ喧嘩うってんの?つか、3コ以内ででろし 〕
「いや、なんだよ3コって、おまえの良心の残数かなんか?」
〔は? アンタやっぱ喧嘩売ってるでしょ?〕
「いや、売ってねぇよ…で、なんですかね仁井園さん」
もう声の冷たさでだいたいわかるようになったよ!ってか番号携帯だったんだけど、コイツ俺にスマホの番号知られたくないんじゃなかったのかよ……。
〔今美羽がアンタの為に、わざわざクッキー焼くって言ってるんだけど、アンタ苦手なモノとかアレルギーとかないかって〕
「え、マジで?わざわざクッキー焼いてくれんの?……え?釣り…?」
〔は?意味わかんないんだけど、で、あるの? ないの?〕
苦手なモノ…仁井園の目、はクッキーには入らないから大丈夫か…てか、基本的になんでも食えるしなぁ…? あえて言うなら、
「貝………かな?」
〔いや、普通貝は入らないでしょ、アンタあたしの話聞いてた?〕
うるせぇ聞いてたよ!だからとりあえず苦手なモノ言ってみたんだよ!でもまぁ、確かにクッキーに貝は入らないよな。
「……いや、まぁ他にはないかな」
〔わかった、じゃあ、あ、待って美羽が代わるって〕
仁井園がそう言うと、スマホからはガザガザとノイズが聞こえ、すぐに神城の声にかわる。
〔あ、もしもし? 七五三田?〕
「……確認しなくても、そんな一瞬で他の誰かに変わったりはしませんよ」
〔え、何言ってんの? 七五三田ってさ、クッキー好き?〕
「ああ、うん、普通に好き」
〔そっか、良かった! あ…っと、まだ委員会?〕
「え?まぁそうだけど…おまえは買い物かなんかか?」
〔そうだよ、真理子と二人で材料を物色中でありますよ!てか、じゃあ邪魔しちゃったね、ごめんね〕
「いや、まぁ大丈夫だ」
特に話も始まってなかったしな…
〔それじゃ、ちょっと楽しみにしていたまえよ!〕
「ああ、わかった。楽しみにしとくわ」
〔うん、じゃあね〕
「おう、またな」
――――って、神城が電話代わった理由ってなんだよ、俺がクッキー好きかしか聞いてないじゃん。俺はスマホの通話をオフりながらそう思う。まぁしかし、クッキーくれると言うのなら、それはそれでいいじゃないか!ん?待てよ、材料費出した方がいいよな?さすがにタダってわけにはいかなかろう。などと考えながら振り返ると、
「この部屋"イージー"ですね、あ、たぶん下に"インジャ"してる敵いるんで、殺ってください…はい、いや、たぶん"クリア"…?あ、待って"赤点"見えました…!」
と、本仮屋がスマホを横にしてイヤホンをしながらそんな事を言っていた。って何言ってんのこの子?て言うか、めちゃめちゃ真剣な顔でスマホを見てるんですが、これ話しかけたら怒られるんじゃないか、くらい集中してんですけど……っ!…え?待つ?待つか…俺はこの本仮屋の喋っている言葉を知っている。
これはそう、俗に言うFPS用語だ。FPSとは、First Person shooterの略で、ファーストパーソン・シューティングゲームとも言う。広義では1人称視点のゲーム全般の事を指す。
そしてこのイージーだのインジャだのってのはその専門用語である。ひとつひとつ解説すると大変なので、そこは各々検索をかけていただきたい。
まぁ、要するにそう言うことなのだが、本仮屋がまさかのFPS。大人しそうな顔してよくやるぜ、とか思わなくもないが、今思えば、本仮屋は俺に少し似ている感じがするので、やっても不思議ではないのかもしれない。いや、でもおまえ…見た目どう見てもマルメガネに、黒髪のセミロングな文学少女なこの子が、まさか髪後ろで括ってまでFPSするとは思わないよね?あー、でもそれはあれか、俺の理想像を彼女に押し付けて見てるせいか…人は見掛けによらないと言うしな。
待つこと十数分、本仮屋は「ふぅー」と周りがキラキラと輝くくらい清々しい感じで息をはいた。そして、俺を見て、――ハッとし、すぐに
「すみません!すみません!」
と謝ってきた。
「いや、大丈夫だ、俺も電話してたし、それに一度チームに入ったら、抜けるのは難しいしな…」
俺がそう言うと、本仮屋は目を輝かせ、ぐぐっと前に体を出して俺に寄る。ってちかっ!ちけぇよ!やめろ、7秒間視線が合うと恋しちゃうだろうが。そんな俺の葛藤などつゆ知らず、本仮屋は前に出たまま
「七五三田くんも、FPS好きなんですかっ!?」
と、俺の知る本仮屋の今年一番の声のデカさでくいついてくる。
「……あ、あぁ…まぁ、ちょっとだけだけどな…」
「本当ですか!? 私も大好きでっ! あ、さっきはクランメンバーに呼ばれて、七五三田くん、電話もうちょっとかかるかな?と思ったので、すみません…」
いや、もうその食い付き見れば好きなのは充分分かりましたよ。ちなみに、クランメンバーってのは、MMOで言うとこのギルドみたいな、まぁ簡単に言えば、仲間みたいなもんである。って言うか本当に近いんですが…そう思い、俺は視線をそらす。すると、本仮屋はそれを見て自分が前に出てることに気づき、「あ…」と言って、椅子にこしかけた。
「……すみません…私…興奮しちゃって…」
「いや、大丈夫、おまえがFPSマジ愛してんのは伝わってきたから…ま、面白いしな…」
俺がそう言うと、本仮屋は「はい!」と言って、笑顔を見せた。好きなことを好きと言って、笑顔を見せれるのって素敵だなと思った。それから、本題である図書室管理の話をしてから、本仮屋に、「一度一緒にゲームしませんか?」と言われてスマホの番号を交換し、その日は解散となり下校した。って言うか、女子の番号初めて登録したな…ドキドキ…そういや、仁井園の番号…は、怖くて勝手に登録とかできねぇよな…と思った矢先、その本仮屋から電話がくる。
「……え?早くね?」
俺はそう思いながらもとりあえず電話に出る
「……もしもし?」
〔あ、もしもし?七五三田くんですか…?あの…急で申し訳ないんですが、相談がありまして…〕
と言い出した。なんだろう、最近いろんなヤツに相談されすぎじゃないの?ちょっと、なんなの?そういう気の流れかなんかなの?いや、マジで最近まで1人だったんですよ?神様聞いてる?
「……相談?どうした?」
〔あの…バイトしませんか?〕
え?なにこれ、本当に急なんだけど……。




