表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/81

第19話 青春の一頁とは、知らないところで刻まれているが、それに気づいた時、人は行動に出る。

「……七五三田…?」


神城が俺の名前を呼ぶ。あれ?なんだろ?めっちゃ怖いんだけど…彼女の背景に何故か、【ゴゴゴゴゴ…ッ!】みたいな擬音効果が描かれているような錯覚さえしてしまう。俺は一瞬、神城から目をそらし、仁井園を見ると、髪をいじって"私は無関係ですよ"みたいな態度をとっている。いや、て言うか、おまえがここにいるから、神城はこんな態度なんじゃないの?それともあれか?さっきの男子君の件でまだなんかあるのか…?とか思っていると、神城が


「……真理子、なんか七五三田に用事あるの?」


と仁井園に声をかけた。すると仁井園は、


「別に、美羽には関係なくない?」


と冷めた態度をとる。いや、なんでちょっと修羅場みたいになってんの?てか、おまえらそんな事意外に普通に話すことあるだろ…神城は、仁井園と話したいんじゃなかったの?あと仁井園は神城になんか言わないの?昨日ちょっと俺の言いたいこと理解したみたいな感じだしてたじゃん。とか思うが、人とは不器用なもので、お互い思うことがあるのか、二人揃って黙ってしまう。そして、仁井園が


「じゃあ、七五三田、放課後ね」


と言って、去ると、神城が


「七五三田、真理子と今日一緒に帰るの…?」


と言ってきた。


「……あぁ、まぁ、なんか話あるらしい」


と俺が応えると


「七五三田っていつの間にか、真理子とそんな話すようになってたんだね」


と、不機嫌そうにそう言った。


あー、放課後来なきゃ良いのに…。


***


その日の放課後、俺が帰り支度をしていると、予告通り、仁井園が俺の席へとやってくる。その後ろで神城は帰り支度をして、鞄を持つと、こちらを一切見ることなく、そそくさと教室から出ていってしまい、俺はそれを目でおう。……ってなんで俺はこんな事を気にしているんだ…?


「ねぇ、七五三田、早く準備してくれない?」


仁井園に急かされ、俺は支度を済ませると仁井園と教室を出た。それから、仁井園と二人で廊下を歩き、下駄箱へ向かっていると、なんとなく窓の向こうの中庭が目につく。そして、その中庭を見ていると、時計台の所に神城が立っているのが見えた。それに気づいたのと同時に、時計台の所一人佇む神城へと向かい、一人の男子がやって来る。


俺は何故かそれが気になり、窓の方へ近寄ってその様子を見守る。すると後ろの方から仁井園が


「ねぇ、あれって…」


「ああ、たぶんそう言う事だろ…」


仁井園も俺の隣へやってきて、その光景を見守る。たぶん、これはあれだ。告白とか言う青春の一頁ではないだろうか?…そうか、神城は可愛いからな、やっぱアイツモテるんだな…とか思うのと、何故か焦りと言うようなモノとが、俺の心の中で交わり、何とも言えない気持ちになる。そして、仁井園が


「……七五三田、アンタ良いの? 美羽とられちゃうかもよ?」


と俺に言ってくる。


神城がとられる?何言ってんだコイツ、とられるも何も、俺と神城はそう言った関係ではないし、アイツが誰とどうなろうと俺には関係ない。理屈ではわかっているはずなのに、何故か俺の心はざわつく。


「……いや、俺にどうしろってんだよ、それに、神城がどいつと付き合おうが、俺には関係ないしな…」


「へぇ…本当にいいんだ? 美羽があの人と付き合ったら、アンタもうあのベンチで一緒にご飯とか出来なくなるよ?」


「……おまえ知ってたのかよ…」


「いや、普通に知ってるでしょ…てか七五三田、アンタ本当にそれでいいの?」


何度言われても、答えは変わらない。俺には関係ない。関係ないんだよ…。それに、きっと俺なんかといるよりも、あの人といた方がアイツも寂しさを埋められる可能性が高いじゃないか。あと、人の恋路を邪魔するほど、俺も野暮ではない。そのはずなのに、


「仁井園、わりぃ、先行っててくれ…」


そう言うと、俺は無駄にダッシュで中庭へと向かう。理屈をほっぽりだし、感情に身を任せて、神城のもとへと走る…。


これはあれだろうか?俺は神城に恋をしているのだろうか?よく分からない…でも、たぶん、そんな素敵なものじゃない。だが、あの中庭での時間を失いたくないと思ってしまった。あの男と神城が、上手くいかないでほしいと願ってしまった。実に身勝手で自己中心的な行動。


俺は息をきらし、中庭へと辿り着く。両手を膝につき、肩で呼吸をする…。


「か…」


俺が彼女の名前を呼ぼうとした瞬間、俺の知らない男子は、神城に胸のうちをぶちまける。


「神城さん、ずっと前から好きでした、付き合ってくださいッ!」


俺は一度その名前を飲み込み、神城の顔を見る。すると、神城は今までに見たことないくらいまじめな顔で、その男子の感情を受け止め、頭を下げる。そして―――



「ごめんなさい」



と、一言だけこぼした。訪れる沈黙、その間に、神城はチラリとこちらを見た。だが、すぐに男子へと向き直ると


「気持ちは嬉しいけど、私は君をよく知らないし、たぶん、君も私の事よく知らないよね…? 私のどこを好きになったの? 顔? 胸?」


神城の台詞に、男子は言葉につまり、何も出てこない。しかし、神城は話を続ける。


「……すぐに答えられないってことは、まぁそんな感じってことだよね…? あのね、君が私をどんな人として妄想して好きにはなったかはわからないけど、君の理想を私に重ねないで。私はたぶん、君が思ってるような人じゃないし、願われてもたぶん、その理想にはなれないよ、だから、ごめんなさい」


と言って、また頭を下げた。つか、わりとバッサリと断るんだな…。そういやもともと神城って強気に見えてたっけ? そう考えると、最近の神城嘘みたいに優しくなったよな…つか、俺がこんな事言われたら泣いちゃう。こわっ…女子マジこえぇ…。そんな事を思っていると、男子は神城に


「……わかった、ごめん、ありがとう」


と言って、その場を去っていく。その時初めて俺に気づいたのか、俺を見て舌打ちをした。


いや、なんかごめんね…。そんな風に彼に対して頭の中で謝っていると、神城は緊張がとけたように、「はぁー」と息をついて、俺の方へとやってくる。


「見た?」


「いや、うん……人がコクってんの初めて見た」


「違うよ、七五三田、私モテるんだよ」


それ自分で言うんすか…。


「あ、ああ、まぁうん。らしいな」


おいおい、俺何冷静装ってんの?この結果にほっとした癖に、今神城に声かけられて安心してるくせに…!だが、そんな心の内は知られたくないのが男の子と言うものである。


「それに変に期待持たせても悪いし…てか、七五三田はなんでここに来たの? 真理子は…?」


神城にふいに聞かれて一瞬テンパる。


「えぁ? …あ、いや、その、なんだ…ろ、廊下歩いてたら、おまえが見えたからな、何してんだろうと思って……とか、なんか、そんな感じだよ」


と言いながら、何故か俺は神城から目をそらす。


「本当かなぁ…?」


と神城は俺をニヤニヤとして見ている。やめなさい、見るんじゃありません。こんな私を見ないでくださいっ!


「ねぇ、ところで七五三田、真理子は?」


神城に言われて俺はそうだったと思い出す。


「あ……わりぃ、神城、俺仁井園待たせてたんだ、行くわっ! またな!」


と俺は神城に別れを告げ、踵を返そうとすると、神城が「あ…」と言って、俺の後ろの方に視線を向ける。俺もつられてそちらを向くと、仁井園がこちらへと向かって歩いてきた。そして、


「……終わった?」


と聞いてきたので、俺はとりあえず頷く。それから一度神城を見ると、黙って仁井園を見ていた。仁井園もそれに気づいたのか、


「……美羽…」


と名前を呟く。


「うん…」


「アンタ、またコクられてたの?」


「……うん」


「……いったい何度目よ…」


「7……8……? 回目くらいかな」


え?そうなの?多っ! マジかよ、コイツすげぇな。年間何回コクられてんの?ちょっと総計気になってきたわ。なんて思っていると、仁井園が


「美羽は相変わらずモテるんだねぇ」


とこぼした。それ聞いた神城は悪びれる様子もなく


「どうせ顔とかおっぱいしか見られてないけどね」


と返した。すると仁井園は「ふふっ」と笑って


「……美羽、七五三田なんでここに来たと思う?」


とか言い出す。おやおや?雲行きが怪しくなって参りました。っておいやめろよ、恥ずかしいだろうが。俺がそう思っていると、神城は


「うん、今ちょっと聞いたよ、中庭が見えたら、私がいたからって…」


神城がそう応えると、仁井園は「ふーん」と言って、俺を見る。いや、嘘は言ってないし、本当の事だし?ただちょっと心的な部分をふせただけで?てかもういいでしょ、帰ろ帰ろ、


「……仁井園、おまえ俺になんか話あるんだろ、帰るぞ」


俺がそう言うと、仁井園は無言で俺を見る。


「なんだよ…?」


「はぁー…別に…」


と、何故か仁井園に呆れたように言われて、俺は歩き始めた。しかし、数歩歩いたところで、仁井園がついてきてないのに気づく。振り返ると、神城が1人時計台のとこに立っていて…俺はそれを見て、


「……神城!」


と声をかける。神城は呼ばれて俺の方を見てから、次の言葉を待っている。なので、俺はこう言葉を投げた。


「一緒に帰ろう!」


神城はその台詞を聞いて、すぐに目で仁井園にいいの?と確認する。仁井園はまるでやれやれと言うようなジェスチャーをしたあとに、


「ほら、美羽、行くよ」


と言って、歩き出した。神城は、嬉しそうな顔をして、軽く駆け足でこちらへやって来ると、俺の背中を軽く叩いて、


「ほら、七五三田、帰ろっ!」


と言って、笑顔を見せるのだった。
























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ