第1話 気の強く見える女の子ほど、デレた時の破壊力はすさまじい。
―――この世界は、多数決で出来ている。
誰かの言ったこと、やったこと。それらを大多数が正しいと言えば、それは正解であり、『正義』となる。また、それとは逆に、大多数がそれらを間違いだと言えば、不正解であり、『悪』なのだ。この、身も蓋もないこれらが世の中の言う『常識』や『普通』を作り出し、世の中にルールやマナーと言うものを構築している。しかも、人気のある人物ほど『正義』になりやすいのだ。
そしてその世界を縮小し、分かりやすくしたモノが学校と言う檻である。この学校と言うものは厄介で、そこに生活の拠点を置く限り、どうしてもそこが自分のおける環境の全てに感じてしまうのだ。そして、そこにいる人間達は、周りとの関係性を最重要事項として捉える。そうするが故に関わりのある相手の発言や行動に気を取られ、勝手に憶測や被害妄想を膨らませ、凹んだり怒ったり悲しんだりして、関係を泥沼化させていく。それが小学校だと6年間、中学、高校だと3年間も続くのだ。
……地獄だとは思わないだろうか?ならば、初めから他人とは関わらず、ひっそりと過ごす方が利口だし、心穏やかに生活出来ると言うものである。
いや、本当。寂しいからとか、気づいたらクラスに馴染めなかったからとか、そんな理由でこんな事言ってるんじゃないし、全然辛くないし。
ぼっち最強だし。
*****
俺の通う学校は、男女共学の一般的私立校である。名前は私立時和学園高等学校、スポーツに力をいれている学校なのだが、俺はしていないし、個人的にどうでもいいので、その辺は省かせてもらいたい。にしても、この学校の名前に含まれる、時和とはなんの皮肉だろうか?俺が入学してから2ヶ月ほど過ぎたが、時が和んでいる所など見たことがない。むしろ、時に急かされ、ようやくできた人間関係にボロが出始めている奴等さえいる。そう考えると、1人と言うのは良い。何をしても周りにどうのこうの言われないし、好きな時に好きな事が出来る。何より気楽だ。
例えば、今現在隣の席近くに3人ほど女子が集まって談笑をしているのだが、コイツら、端から見れば、話に花を咲かせている仲良しグループに見える事だろう。しかし、実際はこの何気ない会話の中で、"自分がどう思われているか"や、"相手をどう評価するか"等の熾烈を極める"探り合い"が行われているのである。
1人ならばそんなのとは無縁だし、むしろ他人のその状況を楽しむ事さえできる。では、寝たフリをしながらちょっと観察をしてみよう。
「ねぇねぇ、このお店可愛くない?このカフェ行こうよー」
「えー、アンタ昨日も他のとこいったじゃん」
「マジ?結衣子どんだけカフェ好きなの?!ウケるんだけどっ」
3人の女子により、よくある談笑が繰り広げられる中、そこに1人の女子が戻ってくる。そう、隣の席の主 神城 美羽 である。彼女が、胸元まである明るい茶色の綺麗な髪を揺らしながら戻ってくると、悪い意味で周りの空気が急に変わる―――。
「何話してたの?」
神城がそう言うと、グループの内の2人は明らかに気を使い始めた。
「あ、美羽…え、えっと…今日カフェ…行こー…みたいな?」
めっちゃ目泳いでるんですけど、なんなの?君の眼球は金魚かなんかなの?
「あー…う、うん、そうそう…そんな感じぃ…?」
どんな感じだよ。てか、目くらい合わせてやれ、神城ちょっと困った感じで笑ってんだろうが。
「……」
あーもうほら、残りの1人に至っては無言で自分の髪先を摘まんでいじり始めちゃったよ、つーか、どんだけ興味ないんだよ。
さて、俺の見立てによると、この神城 美羽と言う女子は、最近周りとうまくやれていない。少し前まではまるでこのグループの中心にいたように見えたが、最近になって、トイレは1人で行くようになったし、正直神城がいない時の方が会話が盛り上がっているように思える。
「あたし戻るわ…」
と髪を弄っていた女子が冷めたように言って、自分の席に戻ると、それを見た二人の女子は少し戸惑いながら、神城に対して愛想笑いを浮かべ、それに続くようにして彼女の席を離れた。
(いや…と言うか…神城はその不穏な空気を感じて立ち尽くしちゃってるんですけど…)
俺がそんな事を考えていると、隣からため息が聞こえ、俺は引き続き、寝たフリをしながら彼女を覗く。すると、自分の席に座り、机に頬杖をついたまま前を向く神城は、とうとう見えない何かに相談を始めてしまった。
「ねぇ、どう思う…?」
きっと、日頃変化して行く環境のストレスから、他人には見えない友人でも作り上げたのだろう。マジか神城、神城すげぇな。
「ねぇ…聞いてる?」
神城はその見えない友人に小声で2回目の……
「ちょっとそこの寝たフリしてる童貞、聞いてるの?七五三田、七五三田 悠莉!」
どうやら、神城の作り出した見えない友人は寝たフリをしており、更には童貞らし……って、ん?七五三田…?
「え…俺?」
俺は完全に瞼を開いて、体起こす。すると神城は目だけこちらに向け、
「うわっ…マジで盗み聞きしてたんだ…きも…」
(えぇ…酷くないですかね? てか話しかけたのそっちじゃん、なんなの?俺が童貞だから?だからそんな冷たいの?)
「で…何? 俺昼飯のあとで眠いんだけど…つーか、なんで俺なんかに声かけたの?」
「…別に、七五三田っていつもそこで寝たフリしながら私達の会話盗み聞きしてるでしょ?」
「………いや…き、聞いてないし…っ」
「え、何それキモ、なんでキョドってんの?」
神城はそう言いながら、訝しげな顔をする。てか人の事そんなキモいキモい言うなよ、俺も同じ人間なんだぞ、傷つくだろうが……俺はそう思いながら黙って神城を見る。ってか、よく見るとコイツ可愛いな…そんな事を思っていると、神城は
「いや、見すぎだから…てかバレバレなんだよね、案外そう言うのって、気づく人は気づくものなんだよ?…でさ、どうかな?やっぱ真理子達って私の事言ってるの?」
真理子とは、髪を弄っていたあの女子の事である。見た目はキリッとした黒髪ストレートの似合う女の子なのだが、いかんせん見た目とのギャップがすごい。見た目は清楚そうなくせに、中身はごりごりのギャルっぽい感じなのだ。
つーか、まじまじと見すぎだったうえに、寝たフリはバレバレだったらしい…超恥ずかしいんですけど…調子にのって、観察してみよう。とか、ほざいちゃってたんですけど…!だが、ふむ。そうだな…どうしたものか。確かに俺は神城がどう思われているかを知っている。結論から言うと、髪を弄っていた女子、仁井園 真理子には避けられているし、残りの二人も、先ほどの対応をみるとまだ嫌いはしていないだろうが、よく仁井園を含めた3人で、神城に対しての愚痴を言っている所を俺は何度も目撃している。言うなれば…
―――嫌われ始めている。
これが正解な言い方かもしれない。正直時間の問題だ。その内このグループから神城は弾き出される事だろう。
「……聞いてどうするんだ?」
「別に…七五三田には関係ないでしょ」
「……あっそ、なら言わねぇよ」
俺がそう言うと、
「……ぐっ…お、教えて…」
と、神城はとても不本意そうにそう言った。
では、何故彼女がキモいと豪語するほどの俺にまでわざわざ声をかけ、自分の事を知りたいのかと言うと、これは俺の勝手な想像だが、単純に不安なのだと思う。
仲の良い友人達が自分から離れていきそうだ。それを彼女自身、身をもって感じているのだろう。そして、彼女らに自分がどう言われているのか、どう思われているのかを、盗み聞きしているであろう俺から聞く事で、"思ったよりは言われていない"だとか"ここからならまだ巻き返せるかもしれない"とか、そんな風に思うことで『安心』を得たいのである。
ならば、俺のやれる事と言うのは、ありのままの真実を伝えてやる事だろう。
「…神城、まぁ、ぶっちゃけおまえは、あの仲良し組に嫌われ始めている。理由は分からないが、このままではおまえはきっと孤立する。正直時間の問題だ、特に仁井園は、おまえをあからさまに避けているしな……この辺は自覚があるんじゃないか?」
「……まぁ、うん…」
神城は表情を変えることなく、頬杖をついたままそう呟いた。しかし、心の中は動揺しているはずだ、いくら強がろうが、ある程度の予想をしていようが、やはり現実として叩きつけられるのとは訳が違う。
「はぁ~…」
そして、案の定神城は、大きな溜め息を吐き、そのまま机に突っ伏する。
「もぅやだぁ…」
神城は小声で嘆くように呟き、何故か顔をこちらに向ける。そして涙目で言うのだ、
「ねぇ…どうしたら良いと思う?」
正直知った事ではないと思わなくもないが、いつも俺に対して強気な女の子が、少しだけ弱っているのを見るとなんかグッとこなくもないので、話くらいは聞いてやろうかな…?とか思っちゃう。うん、断じて女子に頼られて嬉しいとか思ってない。ちょっと必要にされて満更でもないとか思ってないんだからねっ!
現在ストック25話!
一月は連投できるよっ!
1日~3日内で投稿予定です。初めのうちは1日おきで投稿しますので、よろしくお願いいたします❗(。・ω・。)きゅぴーん✨
次回『第2話 スーパーは袋でも金をとる。』