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第17話 おんぶを童貞に頼む時、女性の方は、自分が女性であると意識した対応をお願い致します。

「お、おいっ! ちょっ、な、泣くなよっ! 俺も言い過ぎたからっ!」


仁井園が泣き、俺があたふたしていると、ウォーキング中のマダム達にチラチラと見られ、ひそひそとやられる。仁井園は相変わらずで、とうとう両手で顔を覆ってしまった。


「……ふっ……ぐすっ…」


いや、本当これどうしたらいいんだよ…世の中のイケメン達はこれどうやって乗り切ってんの? クソッ!俺がイケメンだったら……って、イケメンならこんな失態おかさないんじゃ…?いや、知らんけども。などと考えていると、仁井園が


「……っふ…うっ…ぐすん…膝いたい…」


と言って、覆っていた手をどけ、膝をさする。辺りが暗くなってきているからか、俺からじゃうまく仁井園の膝を見ることができない。そして仁井園は、あろうことか童貞である俺に向かってこんな事を言い出した。


「……七五三田…ぐすっ…」


「な、なんでしょうか?」


「………おんぶ」


………は? おんぶ?おんぶってあの背中に乗っけるあの行為の事?いや、無理。なにこれドラマなの?いったい学校の陽キャのノリとか飲んだ大人の酔っぱらい同士とか以外でおんぶとか誰がやんの?見た事ねぇよ、それこそ仲睦まじいファミリーとかならあるかもだけどさ、俺達高校生だよ!?こいつマジで言ってんの?ガチおんぶなの?て言うか、普通に考えて


「……いや、歩けないなら折れてる可能性を考えて、下手に体動かさずに救急車の方がいいだろ…」


俺はそう言うとスマホを取り出す。すると仁井園が


「……おんぶっ!!」


と強めに言ってきた為、俺は条件反射で


「はいっ!」


と応えてしまった……。なんなんだよマジで…いや、だがここは、おいどんも男ですたい。一度決めたことは、やりきらんばいかんと思うとですよ。ってなんで急に九州男児っぽくなってんだよ。俺大丈夫か…?


まぁ、そんな事はさておき、俺は仁井園の前に背を向けて屈む。そして、少しの沈黙のあと、がさごそと仁井園の動く音が聞こえ、俺の視界に仁井園の腕入ってくる。そして、ゆっくりと背中に重みが加わって、それが臨界点に到達すると、ふわりと優しい匂いがした。って言うか、ヤバイ心臓鳴りすぎてヤバイ。


耳元で、仁井園の息づかいが聞こえる。今吸ってる…今はいてるってのが分かる。じんわりと背中が暖かくなり、自分と密着している事を意識させる……っ!


ちょっと童貞には刺激が強すぎますっ!いや本当。ダメだこれ…!マジで意識しちまう!マジでかこれ。漫画やドラマの主人公達は、平然とやってのけてたけど、アイツら本当に大丈夫だったの!? これ俺がおかしいの?


「………七五三田、動かないの…?」


いやもうその発言すらエロく感じちゃうんですけどっ、さっきマックで不純なヤツ等みたいに思ってごめんなさいっ!不純なのは私の方でした!


「いや……ちょっと待って体制立て直してるから…」


「……? わかった」


そして俺は深呼吸を二回し、少しなれたかな?と思うくらいで立ち上がった。


「……仁井園さん…案外重いんすね…」


「………次言ったら耳噛むから」


「ひっ…!?」


……思ったんだけど、仁井園に背後とられてるって、実はヤバイんじゃないの?こいつ急に刺したりしないよね??さっきの話がきっかけで俺殺されたりしないよね!?新聞飾らないよね?!


「……おまえ急に首閉めたり刺したりしないよな…?」


俺は歩きながら一応確認をする。


「……は? どういう意味?」


「いや、なんでもないっす…」


こうして、俺は仁井園を彼女の家近くまでおんぶで連れて帰る。

その道中、俺は気になった事を聞いてみる。


「…なぁ」


「……何」


「なんでおまえは俺なんかに神城の件話そうと思ったんだよ?」


俺がそう聞くと、仁井園は背中でもぞもぞと少し動いて


「わかんない…」と答えた。



「わかんないって…」


「わかんないもんは、わかんないでしょ……でも、よく考えたら、苦しかったのかも」


「どういう事だ?」


「……美羽の事をハブって、あの子が一人になってるのとか見て…なんか、罪悪感って言うか…あたしがしてる事はたぶん間違いで、でも自覚したくなくて…やってしまって後悔したから…あと、なんとなく七五三田なら、あたしの事、叱ってくれるんじゃないか…みたいな、うまく言えないけど…そんな感じなのかも」


「……なに?おまえドMなの?てか、なら初めからすんなよ」


俺がそう言うと、仁井園は俺の肩を軽く叩く。


「いてっ」


「だって…あたしには他にやり方がわからなかったし、焦ってたって言うか…」


「つーか、おまえ、この間神城と話た時、俺に言った事を本人に伝えたのか?」


「そんなわけないでしょ、適当な理由こじつけたっつーの、でもそれも、きっとうしろめたかったからなのかも…」


「……そうかよ。ま、その話聞いたら神城絶対凹むだろうしな、だって悪いことしてないし」


俺がそう言うと、何か考えているのか、仁井園は少しだけ沈黙して、


「……ねぇ、アンタ美羽の事好きなの?」


と聞いてきた。


「は?なんでだよ」


「いや、だってすごく美羽の事かまうじゃん。今も、あの子のために怒ってたんでしょ?」


言われて、俺は神城をどう思うか考える…。しかし、たぶん…そこに恋愛感情と言うものはないように思う。ただ、幸せにはなってほしいとは思うが……。


「……いや、別に怒ってはねぇし、まぁ仁井園さんクソだなぁ…とは思ったけどな」


「アンタ…ホントに良い性格してるわね…」


「お互い様だろ」


そんな話をしながら、彼女の指示通りに歩いていると、仁井園の家に到着する。ってか仁井園って普通に一軒家に住んでんのか…ってあの車良いヤツじゃね?え?コイツもしかしてお嬢様なの?そんな事を思いながら家の前に仁井園を降ろすと、まだ痛むのか、仁井園はひょこひょこと左足を庇うような歩き方をする。


「……おまえマジで大丈夫かよ?それ…」


「わかんないけど…痛いし…とりあえずあとで見てもらう」


(医者にって事かな?)


「ああ、絶対そうしたほうがいいよ」


それから、少しだけ静寂が訪れる。


………。


閑静な住宅街、気まずさと恥ずかしさと、そう言ったいろんな気持ちが交錯する中、先に口を開いたのは仁井園だった。


「……それじゃ、七五三田、今日はありがとう、なんか、微妙になっちゃったけど」


「ま、元々俺達は微妙だろ」


「……そっか、そうかもね」


「んじゃ、俺は帰るわ」


「うん」


そこに別れの挨拶はない。そうして、俺は踵を返しマイハウスへと向かおうとして歩き始めた。しかし、仁井園に今一度「七五三田!」と呼ばれて振り返る。




「言い忘れてたんだけど、あたし"良い子"も嫌いだけどっ、"勘の良いヤツ"はもっと嫌いっ……!」




そう言うと、仁井園は玄関をあけ、家へと入っていった。俺は「…そうかよ」と呟いて、何故か一瞬ニヤけた頬に違和感を感じながら、マイハウスへと引き返していくのだった。











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