表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/81

第16話 真相とは、真実を相談すると書く。

―――『なんであたしが美羽をハブったか、知りたくないの?』


神城をハブった理由、か…ただ、神城自体はその事に納得はしてる様子ではあったが…でも、俺は詳しくは知らないんだよな…?と、その前に


「……やっぱおまえが主犯なのかよ」


「そうだけど? 悪い?」


と、開き直ったように仁井園は言った。いや、悪いだろ。それでアイツがどんだけ凹んでたと思ってんだよ、これはもうあれだな、話を聞くんじゃなくて、しっかりと話をする方がいいな……。


「そこの先にある公園でいいか…?」


「うん」


そんなこんなで、仁井園と近くの公園へと向かう。公園では、おばさんが散歩をしていたり、子供がベンチにかたまり、カードゲームかなんかをしている。俺達は、そんな人達を横目に、少し離れた屋根つきのベンチへと向かい腰かけた。


「……で、なんで神城の事ハブろうなんてしたんだよ」


「その前にさ、アンタ、美羽と付き合ってんの?」


またそれか。前にも聞かれたし、やっぱ噂になってんのか…


「いや、先にはっきり言っておくが、俺と神城はそんなんじゃない、つーかな、おまえがハブろうなんてしたせいで、アイツは今俺みたいなのと過ごす事になってんだよ、いらん噂聞くことがあったら否定しといてくれ、あと、神城はおまえが今学校で一人が多いのを心配してるぞ」


俺がそう言うと、仁井園は「……ふーん」と言ってから


「美羽ってさ、いい子だよね、可愛いし」


と話を始めた。


「……あたしってさ、いい子って嫌いなの。なんでも人の喜ぶようにとか、なんでも人の為とか、自己犠牲に酔って自分は皆の味方ですよーって、バカみたい。そんな事したってその善意を押し売りされた人は、自分の利益しか求めてないし、あーしてくれたから、こうしてあげよう。なんて考えは、そのうち重くなるだけ、七五三田ってさ、ワンフォアオール、オールフォアワンって言葉知ってる?」


「ああ、知ってる」


「あれってさ…」


仁井園が言うよりも、俺は先に応える。


「ああ、ひとりはみんなの為に、みんなはひとりの為にって言葉で着飾ってはいるが、要するに一人はみんなの為に我慢しろってあれだろ」


「わかってんじゃん。でもね、本当の意味って『1人はみんなの為に、みんなは1つの目的のために』って意味なんだって…それってさ」


「まんまだな、むしろ真の意味の方がぶっちゃけてるだろ、要するに集団行動を乱すな、おまえは目的のために、いちいち歯向かうなって事だろ?」


「そう、あたしさ、それをテレビかなんかで知ったんだけど、これって集団生活の心理だなって思ったわけ、だってそうでしょ?学校なんかの生活だと、どうしてもクラスと言う箱に集団で入れられて、生活させられ…ヒエラルキー…スクールカーストが生まれる。アイツは自分より下、アイツは自分より上、みんな無意識にそれを受け入れて、道徳なんて言う国の決めた綺麗な解釈に騙されて、それに従って行動をしてる。だけど、人間の本質はそれぞれで、それが個性って呼ばれて、その個性が好かれるヤツか、強いヤツが上にいくじゃん? そして、そのヒエラルキーの下にいる人間は、上にいる奴等に逆らえないの」


「……まぁ、なんとなく言いたい事は分かるが、それと神城をハブった件とどう関係があるんだよ」


「……美羽は、私より上に行こうとしたのよ」


そう言って、仁井園は目をそらすと、溜め息をついた。


「……ここまで言えばアンタならわかるんじゃない?」


……なるほど、要するに、神城は"良い子"だ。まさにみんなの為に動くタイプの人間である。ならば、そう言った人間はどうなるのか?


―――他人に気に入られるのだ。


そうすると、神城は自然と周りを味方にしていってしまう。そうなると、仁井園的には面白くない理由があったと言うことだ。しかし、それではあまりにも身勝手すぎるのではないだろうか?


「要するに、神城が人を引き付けるのが面白くなかったって事だろ? でも、それはあまりにも身勝手なんじゃないか?おまえもそれがわかっていたなら、皆に必要とされるように動くべきだ。そうすれば…」


「皆があたしを必要として、あたしは上に行ける? 七五三田、だからアンタはぼっちなんだよ」


なんだと、ぼっちは関係ないだろっ!


「他人はアンタが思ってるほど、情なんかもってないよ、いい? アイツらは人の善意なんて、なんとも思わない、あたしは知ってる、人の為に頑張ったっていい事なんかない、誰も最後は助けてはくれない。人間は、あくまでも1人だってわけ。だって…あの時、誰もあたしを助けてはくれなかった……っ!」


仁井園は過去に何かあったのか、そう言って何かに怒るような顔をした。


「……その、なんだ…おまえ過去になんかあったのか?」


「そうね、ぶっちゃけあたし、中学までは美羽みたいな子だったの」


「……え?嘘だろ……?」


「なにそれちょっと、失礼じゃない?」


いやいやいや、失礼もなにも、いや、悪いとは思うけどさ…なにその天変地異。いったいおまえに何があったら神城みたいなヤツがこんな風になるの?なんなの?魔法なの?だとしたら魔法失敗してんじゃねぇか!戻してっ!


「……嘘…だろ…?」


「2回言うなし、本当だから。学校でも率先して他人の嫌がることをしたし、皆の為だと思っていろんな事をしてた。それが当たり前だと思っていたし、皆もあたしの為にいろいろしてくれてるんだって……でも、それは間違いだった。皆はあたしの位置付けをこうしたんだよね。"なんでもしてくれる子"って…ようするに言いなりになるヤツって事。そう言う子はどうなるかわかる?」


俺は無言で話の先を促す。


「……つまり、自分には逆らわない子って解釈されんの。そうなれば、あとは早いもので、あたしは皆になんでも押し付けられるようになった。プリント配りや掃除、鞄持ちまでね。そしてそれはエスカレートしていって、気づいた時にはあたしはいじられ役とパシりだった……。そしてパシりは逆らうと"いじめ"の対象になる。なぜか、単純に自分よりも劣っているヤツが歯向かうのが面白くないからだよ…」


仁井園はそう言って、両手をベンチにつき天井を見あげる。確かに、仁井園の言うように、人ってヤツは、無意識に言動や立ち振舞いで、自分の立ち位置を把握しようとする。そして会話の節々でより上へいくためにマウントをとろうとするのだ。そうやって人間関係ってのは出来ていく。と、俺は思っている。だが…


「それで、何が言いたいんだよ」


「……つまり、私は…自分の居場所を守るために美羽をハブいたの。だってそうでしょ?そうしなきゃ…居場所なんてつくれないじゃない。皆、そうやって自分の場所をつくってる、違う?」


話を聞いた俺は溜め息をはいた。


「はぁ…俺もそうだが、おまえもだいぶひねくれてんな…もっと別の方法とかあるだろ」


「……ない。私は知ってる。それに美羽なら私なんかよりうまくやれるでしょ?だから…」


「そうした方が正解だって?違うだろ。仁井園、おまえは今自分がどれだけ身勝手な事を言っているのか自覚すべきだ。要するに、自分の立ち位置を確立するために神城をハブいただけだろ。俺にはそう思えるぞ」


「……アンタって、ホントうるさい。私のことなんて知らないくせに…」


「うるさいほど言ってねぇだろ。逆に、おまえは神城を知ってんのかよ」


「……は? なに? 美羽は…」


「ハブいた私の事さえも気にかけてくれるいい子? 違うな、ただの寂しがりやだ。アイツは1人を嫌うんだよ、だからこそ俺なんかと昼飯を食べるし、おまえ達との関係を大切にしようとしていた。おまえは自分の過去を引き合いにアイツを孤立させた事を正当化しようとしているが、それはおまえのエゴだ。そんなのはただの傲慢なんだよ、もし、今の会話が真実だと言うのなら、おまえは今からでも神城に謝り仲直りをするべきなんだ、幼稚園児でも悪いことしたら言うぞ、ごめんなさいってな…!」


俺がそう言うと、少しの間沈黙が続く。


………。


人と言うのは、自分の経験や知識から自分の中の正解と言うヤツを持っている。その正解と言うのは、他人と共有できるものから、できないものまで様々で、そうあるが故に、自分の正解が他人にとっては間違いだったりするのだ。


だからこそ、自分の居場所を作るために動いた仁井園を俺は否定するし、否定された仁井園はうざそうにするのだ。しかし、別に、人道的な概念や道徳的思考なんてものがなければ、仁井園のやり方が間違っているわけではない。極論だが、自分の身を脅かす危険因子を排除するなんて、生物的には当たり前なのだ。


それでもなお、俺が仁井園を否定し、話の先を待つのは、理解してもらいたいと思うからなのかもしれない。人は、決して相容る事などできないと言うのは、分かっているのに……。


そして、仁井園は案の定、「話して損した」と言って立ち上がる。


「アンタは……少しあたしに似てると思ったのに…」


そう呟いて、去ろうとし、ベンチから歩きだした……。


―――瞬間!

ドサッ!と何かにつまづいて転んでしまった。って嘘でしょ?


派手に転がった仁井園は、「もう!なんなの!」と言って上半身をお越す。そして………


「………っふ……もぅ……本当ムカつくっ!」


と言って、砂をつかみ、投げた。


「……っふ、うっ…ぐすっ」


……つか、え?泣いてる…?


「いや、おまえ大丈夫かよっ」


俺は立ち上がり、仁井園に駆け寄る。


「また派手に転んだな、てか怪我は?してないの?」


俺がそう言うと、仁井園は


「……うっ……かってる……こと…っ!」


とこぼして、次に「わかってるってーのっ! そんな事っ!」と大きな声をだした。俺は驚いて黙っていると


「……っふ、ぐすっ…なにだまってんだよっ!…うっ…っふ…」


「いや……スミマセン……」


俺なんで謝ってんの?


「……アンタの言うとおりだよっ!…っふ…あたしは美羽を敵にすることで皆を味方にしたのっ! でも、……っふ、あたっ…しはっ! だっ…てっ!こわかっ…たし……っ!みんなっ! 美羽ばっ…かりっ!だからっ!……今、あたしも1人にっ……!うっ……あーもうやだぁ…っ!あああああああっ! うえぇぇん」


と本格的に泣き出してしまう。って嘘でしょ?(二回目)おまえマジかよ。あーどうするの?こんな時、どうしたらいいんだよ?知らねぇよこんな、女子泣かしたのとかはじめてだしっ!いや、これ転んだから泣いてんのか?とか言ってる場合じゃねぇっ!えっと、こう言う時は……ってダメだっ!ぜんっぜん出てこないっ!


誰か助けてくださいっ!








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ