第15話 彼氏は彼女の事をまだ知らないし、俺は何故そうなったのかを知らない。
駅前のマックにつき、俺はスマホで時間を確認する。……14時40分 。
「あと20分くらいか…」
と呟いて、仁井園の連絡先を聞いておくべきだったと後悔するが、あいつは俺にスマホを知られたくないと言っていたので、素直に教えてもらえるかわからないな…と、すぐに思い直す。でもまぁ、駅前のマックの入り口付近に突っ立ってても、なんだコイツって話で、たまにチラチラと見られるのも落ち着かないな…なんて事を思いながら仁井園を待つ事数分。
思っていたよりも早く仁井園はやって来た。
「………七五三田?」
見ていた方とは逆から声をかけらる。俺が声の聞こえた方を向くと、そこには、白に薄い水色の花柄がちりばめられたワンピースに、デニムのジャケットを羽織った、黒髪の美しい女の子が立っていた……って、コイツ誰だよ。
「……どちらさまですか?」
「へ…?」
と、言ったあとに、その女の子はキョロキョロと周りの様子を伺い、俺にいっそう近寄ると笑顔で
「……七五三田、アンタ元カレの前であたしの学校での性格言ったら、家に火ぃ放つからな」
とそう言った。おぉ…こわっ、怖いよ、見た目と中身がミスマッチすぎるよ、やっぱり仁井園さんでしたか…つーか、いつもは制服着崩した姿しか見てないから、かなりドキドキするんですけど……ってか、正直タイプなんですけど…
俺はもう一度仁井園をまじまじと見る。すると、仁井園は俺の頭のてっぺんから足先まで見渡し、
「……へぇ、65点」
と、急に点数をつける。ってか何が65点なの?
「なにそれ、なんの点数なの?」
俺に聞かれた仁井園は、拳を顎に当てながら俺を見て小首を傾げる。そして、「七五三田じゃなければ75点だったなぁ…」とかなんか失礼なことを言って
「さ、入ろうか」
と俺の疑問をガン無視してマックに入っていく。いや、マジでなんの点数なんだよ、俺の中ではそれが気になって仕方ないんだけど…などと思いながらも、俺は仁井園について店内へとはいる。そして適当に注文を済ませ、窓際のテーブル席へ向かい、仁井園の前に座ろうとすると、仁井園が
「は?普通彼女の隣じゃない?」
とか言ってきたので、俺は「そうなの?」と言いながら隣へ移動する。ってか、二人しかいないのに、隣同士で座るのってなんか落ち着かないんだけど…
「なぁ、会話しづらくね…?」
「…いや、別に…だってもうすぐ"タカくん"来るし…」
「誰だよタカくん、おまえの元カレ?」
「そうだけど…ってか、マジで余計な事とか言わないでね」
相変わらず上から目線ですね…ってか、別れたんなら別にキャラ演じる必要なくね?さっき声かけてきた時とか声のキーあげてただろコイツ。て言うか、学校以外っていつもこんななのか?仁井園って…。
「いや、言わねぇけど…てかさ、おまえの元カレってどんなヤツなの?」
「……イケメン、だけど顔だけ。ほんと、自分大好きだし、人の話聞かないし、口悪いし、すぐ体触ろうとしてくるし…マジうざい。こっちの事も考えろっつの」
おいおいちょっとだけブーメラン気味になってますよ?そこそこ可愛いけど、人の話聞かないし、口悪いのあたりとかモロかぶりじゃないですかね…?ってか体触ろうとするとか…やっぱこの手の奴等はすぐそう言う不純な事やっちゃうんだなぁ……いや、別に羨ましくないし。俺はちゃんといろいろと考えてから挑もうと思ってるし。まぁでもなんだな、こう言うの何て言うんだっけ?ああ、そうか…
「類は友を呼ぶ…か…」
「は?なに?」
「いや別に…」
そんな話をしていると、「真理子」と仁井園が男の人に名前を呼ばれる。そして、その人は俺達のテーブルへとやってきて、対面するかたちで座った。
「……ごめん、待った?」
そう言う男の人は、イケメンである。金色の髪にパーマをあて、白のVネックシャツを着て、首からはシルバーのクロス系ネックレスを下げている。見たところ、大学生くらいだろうか?……つーか、俺モテますよ感すごいな……コイツ急に爆ぜたりしないかな?おっといけねぇ、ついつい本音がポロリしちゃった、てへぺろ。
「別に…?今来たとこだよ?」
そう言って仁井園は微笑む。……誰これ…?って仁井園なんだけど、なんだろ?鳥肌がたつんだけど。
「そっか…」
そのイケメンはその仁井園を疑う様子もなく受け入れてそう言うと、俺の方を見る。
「……真理子、コイツ? おまえの今カレ」
「そうだけど?」
仁井園がそう応えると、イケメンはふーん…と俺をジロジロと見る。そして、
「……俺の方がイケメンじゃん、なんでこんなのがいいの?」
とか言い出す。いや、本人いるんだけど、なんなの?本人前にしてこんなのってなんだよ。確かに世間一般的に見ても俺はこんなのかもしれないけどな、少なくとも初対面のおまえなんかにこんなの呼ばわりされる筋合いなんてないんだからなっ! さっき初対面なのに爆ぜろとか考えてた俺はそう思いますよ!なんて憤りを感じていると仁井園が
「こんなのとか言わないでよ、これでもタカくんより強いし、頭いいし、なにより優しくて私の事大好きだって言ってくれるんだからっ」
いやマジコイツ何いってんの?ちょっと仁井園さん?俺何時貴女を大好きになったんですかね?いや、うん、その正直今日の格好とかガーリーな感じとか確かに好きですけどね?
「……へぇ、俺より強い、ねぇ…?」
イケメンは、またジロジロと俺を見る。そして
「ねぇ、おまえなんか格闘技やってんの…? つか、陰キャの癖に、真理子と付き合うとか何様? 俺、今日おまえから真理子奪うために来てっから」
奪うもなにも、俺のモノじゃないし。って言うか、本当の姿も知らないのに奪うとか奪わないとか、好きとか嫌いとか…コイツらは何を話てんの?もう全部お互いを知り尽くした気にでもなってんの?どうせあれだろ。はじめのウチは1ヶ月記念♪とかやってプリクラとったり、絶対結婚する!とか浅はかな事言い合ったりして、来世でもウチら一緒だもんね?とか言いながら甘い夜を過ごそうとしたりとかして、それを楽しんでただけだろ?でなければおかしいじゃないか、本性を隠そうとする仁井園も、本性に気づきもしないイケメンも、偽った自分を好かれて何になると言うのか、そんなのはただの瞞着だ、ぺてんだ。人に偽った自分を愛して欲しいは傲慢だ。ただの寂しさの押し付けにすぎないだろ。ならば二人にとっても、真に理解しあえる人と巡り会うべきだ。まぁ、人なんて一生理解し合えないけどね。だが、世間ではその関係性を彼氏と彼女と呼ぶ。それに、仁井園もこのイケメンがしつこいから困ってると言う話だし…。
「……あの、1ついいですか?」
「あ?なんだよ」
「にぃ……真理子の何処が好きなんですか?」
「は?そんなもん全部に決まってんだろ」
「はぁ…全部ですか……なら、彼女の好きな所を言ってください」
「……は?だから、全部だってんだろ!」
「いや、そうではなくて、仕草や性格の話です」
俺がそう言うと、イケメンは言葉につまる。そして、
「……か、顔…とか?」
いや、仕草や性格つってんだろうが。コイツ日本語通じねぇのかよ。
「顔ですか…」
「そうだよ! つーか、おまえは人に聞くって事はちゃんと言えるんだよな?」
正直言えない時点で、おまえにとって仁井園はその程度なんだよ。なんか腹立ってきたな。
「……そうですね、まず、手先が器用ですよね。以前学校で勾玉作りをした事があったんですが、その時誰よりも綺麗な勾玉を作ってました。それに、言いたい事も言えます(おまえんち燃やすぞとかね…)。貴方の前では知りませんが、自分の思った事をはっきりと相手に伝えられる子です。あとは、そうですね。行動力もありますよね(自分の利益の為に人のスマホ番号調べたりとかな…)、他にも……」
俺は話ながらイケメンを見ると、明らかにイラついた顔をしている。とばっちりも面倒だし、この辺で一度くぎるか…。
「まぁ、俺はそんな真理子にひかれました。だから俺は真理子が大好きだし、1つも内面の良いところを言えない貴方には負ける気がしませんね。貴方がもし彼女の好きな所を10あげるのなら、俺は100言えますよ(いろいろとひねくってだろうけどね☆)」
どやぁ…!と、俺は仁井園に視線を向ける。……って、え?なんでそんな驚いてんの?目がまんまるですよ?そんな事を思っていると、イケメンが
「……は?マジ意味わかんねぇ。喋り方とかキモいし、つーか真理子も趣味わるっ! こんなのと付き合うとか、おまえも"落ちたな"…!」
と言って、急に立ち上がると「おまえら本当キモい」と捨て台詞をはきながら、ダン!とキーホルダーを机に叩きつけるように置き、去っていった。てか、そういやキーホルダーがどうのとか仁井園言ってたっけ?まぁなんにせよ…
「……俺らも帰るか」
俺は立ち上がり、トレイのゴミを捨てに行こうとすると、仁井園に袖を引かれる。
「……え?なに?」
「……七五三田、ありがとう」
え?なになに?怖いんだけど…っ!なんで急に女子になるんだよ、おまえはいつもみたいに、般若的なそれでいろよっ!とか思っていると、仁井園は立ち上がりキーホルダーを取ると、
「早く行って、あたしでられないじゃん」
といつも通りになっていた。……今の一瞬のヤツなんだったんすかね?それから店を出て、俺は帰ろうとすると、仁井園に呼び止められる。
「七五三田、ちょっと待って」
「……なんだよ?まだなんかあんの…?」
俺があからさまにめんどくさそうにすると、仁井園は
「アンタ、なんであたしが、美羽の事ハブったかしりたくないの?」
と言ってきた。




