第14話 男は、女の言葉に振り回されやすい。
「……あの、仁井園……?」
〔そうだけど?ってか、普通に一回目で出てよ、七五三田の癖に〕
いや、前も北川くんに言われて思ったけど、七五三田の癖にの癖ってなんなんだよ。つーか用事あんのおまえだろうが、なんなんだマジで。
「…いや、て言うかかけてきたのおまえだろ。つーかなんで俺の番号しってんの…?」
〔え?あー、アンタ同中に平山っているっしょ?アイツ、あたしの事好きだから、わりと忠実に何でも言うこと聞いてくれんの。そいつに連絡網から探してもらった〕
えー……個人情報保護法っていったい…。つーか平山くんマジかよ、趣味悪すぎるよ、あと、簡単に元クラスメイト売ってんじゃねぇよ、あんまり話もしたことないけどさ、ビックリするだろうが。
「んで、仁井園がなんで俺にかけてきたの……?」
〔……は?用事あるからでしょ、普通わかるくない?〕
いや、だからその用事は何かと聞いているんですがね…なんなの?1~10説明しないと分からない感じなの?えっと…
「いや、その用事を聞いてるんだけど…ってか、それ家電?」
〔は?……そうだけど。だってアンタにスマホ知られるのは嫌じゃん〕
「……知らねぇよ。で、用事はなんなんだよ…?」
お?と言うか俺、電話だとキョドらずに普通に話せるな…これは発見である。
〔……その、何て言うか…相談…? 〕
「…相談?」
〔まぁその、何? 今あたし、元カレに会おうって言われてんだけど、ちょっとアイツオラついてて、若干あたしチキッてんのね?まぁ、午後からバイトだし、今はフロリダ中だからまだ時間あるんだけど、たぶん会ったらやばたにえんな感じだし、きっとリアルガチでメンブレすると思うんだわ〕
おぅけぃ、落ち着こう。コイツ何いってんの?マジなの?宇宙人と会話してんのかと思っちゃったよ。
「……悪いんだけど、日本語で頼みたい」
〔は?余裕で日本語っしょ。何?バカにしてんの?〕
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
まず、フロリダってなんだよ。君の元カレはアメリカにでもいってんの?午後から仕事なのに?あと"やばたにえん"ってなに?某お茶漬けとかの会社になんか言われそうなんですけど、それこそ"やばたにえん"なんじゃないの?ってなるほど、こんな感じで使うわけか。JKすげぇな。いや、まぁ俺も高校生なんだけどね。
(オラついてるやチキるは分からんでもないな…)
「あのさ、フロリダとメンブレってなに?」
〔は?"風呂に入るから離脱する"と"メンタルブレイク"、まぁ精神的に落ちたりするの略だけど?そんなんもしらないの?本当に七五三田って、ぼっちなんだね〕
いや、おまえの元カレは何から離脱したんだよ。あとぼっちは別にいいだろ。って言うか、なんで痴話喧嘩の相談をされなきゃならないんですかね?知らねぇよ、勝手にやればいいじゃん。
「……で、その元カレとおまえの問題になんで俺が関わんなきゃなんないの?」
〔え?だってあたし、アイツとより戻したくないもん〕
「じゃあ、会わなきゃいいんじゃないんですかね」
〔それはダメなんだよ……〕
「は?なんでだよ」
〔……アイツ、あたしの大事なキーホルダー持ってんの…だから、ちゃんと会って、取り返さないと…!〕
大事なキーホルダー?思い入れかなんかあるって事か?
「…なるほど、まぁ会う理由はわかったけど、なんで俺に電話までして、そんな話したの?」
〔……あたし、あんまりアイツがしつこいから、『アンタなんか最初からタイプじゃなかった、あたし、実は陰キャの方がタイプだから、それに、もう彼氏いるし』って言っちゃったんだよね…〕
陰キャは分かる。俺みたいなヤツ。
「てか、なんでそんなすぐわかるような嘘ついたんだよ」
〔それな! あたしも今めっちゃ後悔してるから…〕
「……で、まさかとは思うが…」
〔そう、元カレが証拠見せろって言うから、今日つれていく話になって、誰がいいか考えたときに、ピッタリなのいるなと思ったってわけ。あたしスゴくない?だから今日だけ彼女してあげてもいいけど?〕
なんで上からなんだよ…てか仁井園、おまえスゲェよ。何がすごいって、それがまかり通ると思ってることだよ…俺が断ったら全部終わりじゃねぇか。だけど、まぁ…神城の依頼(?)もあるしな…仁井園を知るにはいい機会か…。
「……で、何処にいけばいいの?」
〔……マジ? やってくれんの……?〕
「は?おまえが頼んだんだろうが」
〔……いや、…そ、そうだよね……いや…普通に断られると思ってたから…ありがと…〕
え?やめて急に汐らしくなるの。なんかドキッとしちゃうから。
「……で、何処にいきゃいいの?」
〔駅前のマック、元カレのバイト先の近くだから…そこにってなってる〕
「何時?」
〔……15時だけど……本当にいいの…?〕
「は?やるって言っただろ、15時な、わかった」
俺はそう言って電話を切ろうとすると、仁井園が〔あ〕と言った為、思い止まる。そして黙っていると仁井園が
〔……七五三田〕
「なんだよ」
〔今日1日彼女してあげるけど、エッチは無しだから〕
「………は?」
なにコイツ?マジ調子のってんな、イチミリも期待してねぇよ。ちょっと清楚で雰囲気可愛いからってマジ調子のんなよ?おまえの本性しってんだからな、クソが。ちょっと想像しちまっただろうがっ!うん、悪くないですね。むしろ黙っていればそれなりに可愛いから妄想は捗りますって、バカ!
「き、ききき、期待とかしてねぇよ!」
俺はそう言って電話を切った。そして、やはりドキッとすると電話でもキョドるらしい。おそらく、アイツは切れた電話の向こうで「キモッ」とでも呟いていることだろう。
(にしても、15時か…あと一時間くらいしかねぇな…)
俺は時間を確認したあと、すぐに支度をして駅前のマックへと向かった。




