第13話 人は選択次第で生き方が大きく変わる。
結局、犯人は出てこず、それでも咲来は必死にいつも通りに笑っていた。ある日の下校中、裸足で歩く咲来を見つけ俺は駆け寄る。
『……咲来!』
声をかけながら肩をたたく。振り返った咲来を見た俺は息を飲んだ……。咲来が目を真っ赤にし、鼻を啜りながら、泣いて歩いていたからだ。そして、咲来はそのまま
『……悠莉、もう私に話しかけない方がいいよ、今度は悠莉がされちゃうよ…?』
とそう言った。咲来に聞いた初めての弱音だった。
そこに、俺の憧れた咲来はいなかった。でも、優しいのは変わらない。自分がこんな目に合っているのに、人の心配なんかをしている。だから俺は、あの日の決意を実行する覚悟をした。
『……咲来、俺がなんとかするよ』
具体的な案はない、小さな俺には、現実の理解が精一杯で…その打開策等、考えられはしなかった。それでも、咲来を救いたいと言う気持ちだけは、嘘ではなかった。それからは逆の立場となる、ことある事に俺は咲来の席に行き、話をして、帰りは一緒に帰った。周りは『ぼっち同士が付き合いだした』とか、面白がって冷やかしたり、たまに言葉の暴力も受けたが構わなかった。救いたかった。咲来は言ってくれた
『悠莉は私のヒーローだね』
どうしてもまた、あの明るく元気な女の子に会いたかった…!
会いたかったんだ……。
それでも、群れに個では敵わない、ある日俺は橘に呼び出され、今後も咲来に話をするのなら、おまえも同じ目に合わせると直接忠告された。
きっと、漫画やドラマならば、主人公は"そんな事"は気にせず、自分の知識や行動力でどうとでもして、ハッピーエンドに繋げるのだろう……。しかし、俺はそれにビビってしまった。その陰湿で陰険な行為の数々を知ってしまっていた。俺の決意は一瞬で揺らぎ、迷いが生まれ、自分と咲来を天秤にかけた。
そして……俺の"ことなかれ主義"と"八方美人"が生まれた。
俺は今までよりも、人に接する機会を減らした。理由は関わらなければ面倒な事にはならないからだ。しかし、咲来とも距離が出来た。たまに一緒に帰るくらいで、それも、俺が周りの様子を見て、クラスのヤツらに見られないようにと言う、あからさまに自己保身に走りながらも、決意を貫くための自己満足なそれだったが、咲来はそんな機会を喜んでくれていた。
小6になると、咲来は別人だった。入学の日、笑顔で歩いた校門を、表情なく抜けていく。帰る時は早足で、誰にも関わらないように、目が合わないように俯きながら…俺はたまに、そんな咲来を追いかけては話をして、"咲来の味方な俺"を演じていた。そして、そんなある休日、咲来は昔みたいな笑顔で家にやってきた。様子がおかしいが、何か良いことがあれば笑顔くらいでてくる。そう思った俺は、なんか良いことでもあったのかな?くらいにしか考えず、その日は、久しぶりによく笑う咲来と何かボードゲームをして過ごしたと思う。そして、その日の帰りに咲来は
『悠莉、もう大丈夫だから』
と言って、昔みたいに笑顔で手を降り帰っていった。俺は咲来の言った意味がよくわかっていなかったが、また笑顔の咲来に会えた事が嬉しくて、深くは考えなかった―――。
しかし翌日、それを思いしる事になる。朝、先生の口から
『白野さんが転校しました』
と聞いたからだ。結局、あの日が俺にとって、白野 咲来を見た最後の日となった。
咲来の"大丈夫"は、どう言った意味の大丈夫だったのだろうか?
なんにせよ、これでおしまい…学校は元通り…?
いや違う、咲来がいない…
あの、いつも元気で、俺に声をかけてくれた咲来がいない…
そう思った時に、俺は気づいたのだ。あの大丈夫は、もう諦めたから大丈夫と言うことだったのだと。ここに住む事を、学校に行く事を、友人と友人でいる事を、俺と幼馴染である事を、沢山の思い出も、これからのここでの未来も、全部…捨てていく為の、大丈夫だったのではないかと。
そう考えた時に、俺が咲来の様に、橘にちゃんといけないと言えていたら、俺は咲来の味方だとはっきりとした立場を貫いていたら、俺は、あの優しかった彼女をあんな表情にさせずに済んで、もっと違った未来があったのではないかと…そう思ったのだ。
それから俺はずっと後悔している。あの女の子に、あんな顔をさせ、何もしてやれなかった事を。
何も言えていなかった事を…。
だからこそ、未だ思っている。
白野 咲来を、救いたいと―――。
今度は、ちゃんと守りたいと―――。
***
「……ん…?」
俺は目を覚まし、ベッドから体をお越す、それからリビングへと向かう。てか、今日暑くない?なんかやたらと喉渇くんですけど…。そんな事を思いながら冷蔵庫を開けると、ひんやりとした空気が体にあたる。
「あー、ヤバい。これは良い」
なんて言っていると、冷蔵庫さんにピピー、ピー、ピー…と、はよ閉めろや!なんて怒られた様な気がした為、俺は中からお茶をだし、さっさと扉を閉める。
季節は初夏、俺は休日を謳歌すべく、昼前までマイルームで睡眠をとっていた。俺がお茶を飲んでいると、自分のスマホが鳴る。と言うか、アプリゲームの通知以外にメルマガくらいしか連絡こないのに、この鳴り方は電話である……。
俺は恐る恐るスマホ画面を確認する…すると、知らない番号がそこには表示されていた。まぁ、親と家、菜衣子のキッズケータイくらいしか登録ないから、大概は知らない番号なんだけども…。
俺はとりあえず、電話が鳴りやむのをまち、その電話番号を検索する。今の時代は便利である。俺が小学生の頃とかは知らない電話番号からかかってきたら、リダイヤルするくらいしか確認の方法がなかった。しかし、今はネット検索ひとつで、業者やセールスではないかの確認ができるからだ。
………。
「……のってねぇな…」
検索してみたが、その番号はなかった。あらかた間違い電話かなんかだろう。そう思い、部屋に引き返して昨晩のゲームの続きでもやろうかと思っていると、またスマホがなる。
「……ここははっきりと違いますよと言っておくか…何回もかかってくると面倒だし」
と言うことで電話に出ることにする。
「……もしもし…?」
〔……。〕
え?無言なんですけど、超怖いんですけど……切ろう…。俺がスマホを耳からはなし、切ろうとすると、何か言っているような声が聞こえたので、今一度耳にあてる。
〔……っして……だかっ……〕
「…? なんだ?」
〔ちょっ……しめ………える?〕
「……もしもーし…ん?」
しかし、何処かで聞いたような聞いてないような声である。俺は耳に意識を集中する。そして
〔ちょっ、七五三田、アンタなんかいいなさいよっ!〕
「………え…?これ、仁井園じゃね……?」
なんでコイツ俺の番号しってんだよ、あとなんでかけてきたの?こえぇよ。マジこえぇよ。




