第10話 過去を引きずれる人間は勝ち組。スカートは見せなければ大勝利。
―――『あのさ……今日ね、七五三田ん家行っていい…?』
と、言うことでやって参りましたマイハウス…。いやね、相談にものらないといけないし、なんか話を聞くと、「家に帰ると独りだから寂しいんだよね…」とか言われたら断りづらいじゃないですか?そんでまぁ、来たはいいんだけど、女の子つれてくんのなんて何年ぶりだろうか…?確か、小学生の時に、"さくら"をつれてきて以来だな…つーか、なんで俺は自分家入るのに躊躇ってんだよ、余裕余裕、こんなの。たまたま女子がついてきただけだから…。などと考えていると、そんな事はいざ知らず、マイペースな神城さんは
「七五三田、入らないの?」
とか言いやがる。いやおまえ、いきなり非モテな俺が美少女つれてきたら、うちの家族になにか悪いことしたんじゃないかとか言われちゃうだろうが!…とは言うものの、入らないわけにもいかないしな…。て事で、何時も通りに俺は玄関を開け、「ただいま」と言う。すると、玄関の開いた音を聴いた妹が駆け足でやってくる。
「悠莉くん、おかえりっ! あのね、今日も学校で…」
駆け足で意気揚々とやってきたマイシスターは、玄関前で神城に気付きフリーズする。そして、
「おかあさああああんッ!! 悠莉くんがめっちゃ可愛い幽霊に憑かれて帰ってきたッ!!」
「いや…菜衣子さん…これは幽霊ではなくてですね…」
俺の説明に聞く耳を持たず、妹は自分の胸元まである二つ結びの髪を握りしめ、神城をガン見している。そんな妹を見て、神城が
「えっと…妹さん? こんにちは」
と笑顔で挨拶をする。すると妹は、徐々に目を見開いていき、
「ああああああっ?! しゃべったああああああああああああああああああっ!」
と言って、いや、叫んで…どたばたとリビングへ消えていく。神城を見ると、困ったような感じで苦笑していた。騒がしくてごめんね。
「すまんな…」
「…へ?あ、いやいや、全然全然!」
神城は両手をふって大丈夫だよと言ってくれた。そのあと、とりあえず玄関に立たせっぱなしと言うのもあれなので、部屋に連れていく。階段を上がるとき、リビングのドアの隙間から妹の菜衣子が覗いていたが、気にしないことにする。
部屋に入り、神城にクッションを渡してそこに座るように指示すると、神城はキョロキョロと俺の部屋を見渡す。
「……なんか、期待してたのと違う…」
「いや、知らんがな…」
「何て言うか、もっとこう…フィギュアとかあるもんだと思ってたのに…」
いや、本当何期待してんだよ。それはそう言うのが好きな人が飾るのであって、俺は別にそこには興味がないだけだから…とか思っていると、神城はおもむろに体を倒し、ベッドのしたを確認する。
「悪いが、期待してるモノはねぇぞ……」
「えーーー…」
いや、何残念がってんだよ…おまえ今平成何年だと思ってんだ。たしかに、昔は女の子を部屋に招くときは、エロ本なんかの隠す場所を意識して変えたりしたと聞くが、現代人はそんな事はしない、何故なら、エロはもっぱらオンラインだからである。だから女の子は、男子の部屋にあるPCの履歴や彼氏のスマホのブクマをあさるのはやめてあげてね、8割方貴女の思っている以上の性癖をもっているはずだからね。優しく受け止めてあげてねっ!
それから、とりあえず神城はクッションに、俺はベッドに腰掛け、話を始める。
「七五三って妹いたんだね! しかも可愛くない?」
「あぁ、まぁそうだな。年も6つ離れてるんだよ」
「そうなんだ」
「ああ、あと俺に似なくて容姿がいいのも両親を褒めなきゃいけないところだろうな」
俺がそう言うと、神城はおもむろに俺に近づき、俺の前髪を手で上げる。
「なっ、なんだよ! やめろっ!」
俺は恥ずかしくなり、バッと顔をそむける。すると神城は
「……七五三田って言うほど、容姿は悪くないと思うよ?普段からあんまり喋らないし、ふいんき? 雰囲気? がそう見せてるかもだけど、髪型変えればそれなりにカッコよくなるんじゃないの?」
「……いや、なんねぇだろ…」
神城のカッコいいと言う一言から、また昔の事を思い出す。
―――『悠莉は私のヒーローだねっ!』
(ほんと、最近よく思い出すな…。今さら考えたところで、過去に何て戻れやしないってのに、人間は前に進むしかない。どれだけ呪おうと、抗おうと、日はのぼり、明日や未来ってヤツが追いかけてくる。停滞は許されない。引き返すなんて事は不可能だ。わかりきっている、これが現実で当たり前だ。だから世の中の人間は『過去をひきずる』なんて言葉を作ったんだ。だが、もしも過去をひきずることすら出来ずに、その物事が重たすぎて前に進めない人間は、なんと言えばいいのだろうか?どうすれば救われるのだろうか…?過去をひきずれる人間は、前に進めるが、引きずれない人間は、そこで膝を抱えることしかできないじゃないか……。)
「……そうかな? そんな事ないと思うけどなぁ」
「そうなんだよ、あと、俺の事はいいよ……で、相談ってなんだよ」
俺は半ば無理やり話を変える。
「………?うん、なんとなく気づいてると思うけど…」
「仁井園か……?」
「……うん」
ちょっと、冷たい感じになってしまっただろうか?こう言うとき、人との距離感がよくわからなくなる。てか、コイツお人好しかよ。だいたいなんで俺みたいなヤツと一緒にいる事になったのかわかってねぇのか?
(……あれ?俺今ダメだな…意味わかんないけどイライラしてる…?)
と、俺は飲み物がない事に気づき、それを体よく逃げ場所として使う。
「……てか、飲み物ないな、ちと持ってくるわ」
「え?いや、おかまいなく! ほんと、気にしなくていいよ?」
「いや、俺喉かわいたし、やっぱ持ってくるわ。お茶でいい?」
「あ、うん、ありがとう」
――頭を冷やそう。このままでは八つ当りしかねない。たぶん、神城も俺がちょっと変だと思ってるだろうし…とりあえずあとで謝ろう。美味しいお茶でもいれて、ニコニコして戻ろう。そうしよう。
それから俺はリビングへと向かう。ガチャっとドアを開いて中に入る、が、先程までいた菜衣子の姿も母親の姿も何故かない。
(ま、まさか…神隠し…ッ?! なんて、んな事あるかよ…どうせ買い物かなんかだろ…)
そんな事を思いながら冷蔵庫へ、とりあえずお茶を取り出す。ちなみに、うちのお茶はパックで作っておくタイプではなく、ペットボトルを箱で買い、保存しているタイプである。あ、でも麦茶は作るな…。それから、適当にグラスを二つとりだし、それにお茶をそそぐ。それをお盆にのせると俺はそそくさと部屋に引き返した。
部屋の前につくと、神城しかいないはずの部屋から話し声が聞こえてきた。……マジか、神城…寂しさのあまり、とうとう見えない何かと会話を…なんと言うことだ、嘆かわしい…って前にも似たような事思ったな…俺は自室のドアを開く。すると眼前に飛び込んできたのは、我が妹に押し倒されている神城の姿だった…ってなんでこんな事になってんだ?……ん?ちょっと待て、俺は視線を押し倒されている神城のスカートに向ける。
(おいおい、その角度は見え……ッ! くっそ、ギリギリ見えねぇぇええッ!!)
すみません、取り乱しました。
神城はうちの妹にドアのそばで押し倒されている、その際二人できゃっきゃ♪言いながらじゃれてあっており、スカートからチラチラと太ももが見えかくれしているのだが、俺の立ち居ち的にギリギリ見えない。いや、少し後退して屈めば…むー…とか思っていると、騒いでた声がやんでいる事に気づく、次の瞬間、神城がスカートを手で押さえた。やべ…、俺はゆっくりと神城の顔の方に視線を戻す…と、すごいジト目の神城さんと目が合う。
「………七五三田、見た?」
「残念ながら…見えませんでした…」
嘘はついておりません、ですが無念です。ちょっとくらい美味しい思いとかしたいなとか思います。私も男子故…っ!
「ほんとにぃ?」
神城はまだジト目で疑ってきている。神城さん、まじで見えてなかったからね?いやいや、本当だから、これあれだからね?触ってないのに痴漢って言われてるようなものだからね?つーか世の中はどんだけ男の子に冷たいんだよ、いや、女の子にも冷たいんだけど…とりわけ俺みたいなのには風当たり強いし、スレ違い様に知らないヤツに「ばーか」って言われたことあります?俺はあります。あれなんなんだよ、その場のノリで人を傷つけてんじゃねぇよマジで。おまえなんか公園のトイレに入ったらもう出そうでヤバイのになかなか鍵しまんなくてテンパる呪いにかかると良いさ…っ!…話が脱線しすぎた。
「いや、本当に見えてねぇよ…」
俺がそう言うと神城は、ニヤニヤと笑いながらふーん…と言って、スカートを少しだけあげ、
「見たい…?」
と、悪ふざけをして来た。―――ごくり。
「……いいの?」
「悠莉くんっ!!」
そうだった、何故かマイルームに妹いたんだった…てか、マジでコイツなんで俺の部屋にいるんだよ。




