第9話 人は一緒でいたがる。
―――どうしたものか…。
前ではこの博物館の職員である斎藤さんが、我々が上手く勾玉を作れるようにと、一生懸命説明をしてくれている…してくれているのだが、全っ然、頭に入ってこない…っ!なにこれ、神城はうつむき、仁井園は何故か俺をガン見してきている……ッ! なんなの?コイツはなんでこんなに見てくるんですかね? 今まで見てた事に対する仕返しかなんか?いやでもそれは、先生が余計な事言うから…ってマジでなんなんだよ、謝るっ!謝るからとりあえずそんな見ないでください……人の視線は、正直悪口よりこたえます……っ!とか思っていると、仁井園が俺の顔に向けて手を伸ばした…!
(ヤバイっ狩られるッ!?)
「のわっ?!」
俺が本能でそう感じた瞬間、ふわりと俺の髪先を摘まむ。そしてすぐに手を下ろし、その指先に摘ままれた白い糸屑を眺めて、
「これ、ついてただけだから…つーか、何ビビってんの…?きもっ」
と言って、仁井園はその指先の糸屑を「――っふ!」と息をかけて飛ばした。
「び、ビビってねぇし…その、さ、サンキューな」
「は?なにそれ、どもりすぎ。マジキモい」
……くっ!こいつっ! 人がお礼言ってんのにっ…!俺は不愉快な気持ちでまた前に向き直り、そのあとなんとなく横目で神城をチラ見する。すると、神城はぷるぷると震えながら
「……っくっ……ふふっ…七五三田ビビりすぎでしょっ…『のわっ』て…ふふふっ」
と、声を殺しながら笑っている。なんなんだよコイツら。てかそんなにビビってましたかね?
***
斎藤さんが生徒の座る机に、これから勾玉になるであろう白く四角い石のようなものを置いていく。そして最後に俺達の席にそれを置くと、また前にもどって説明を再開した。
俺は、目の前に転がされた石を見てみる…。ごめん嘘、石かと思ったけどなんか見た目は切り餅みたいだ。白くて四角い…これチンしたら食えんじゃね?とか思っていると、仁井園が
「お餅も悪くない…か…」
とか訳のわからない事を呟いた。ってか餅が悪くないってなに?おまえ餅と喧嘩でもしてんの?あと初めて気があったね、俺も餅みたいだと思いましたよ。
「ねぇねぇ七五三田、これさ、お餅みたいじゃない?」
神城さん、貴女もですか。
「そうだな…チンしたら食えんじゃね?」
「え、本当に?」
「いや…んな訳ねぇだろ」
そんな話をしていたら斎藤さんの説明が終わり、クラスメイト達はやいのやいの言いながら勾玉作りを始めた。俺達もそれにならって製作を開始する…。
………。
しかし、なんだな…明らかにうちのグループだけ無言で作業が行われている。俺は手を止め、「ふぅ」と一息ついて、周りを見てみる。すると、勾玉を作りながらチラチラと此方の様子をうかがい、ひそひそと話をし、ニヤニヤしている女子グループがある。大方、孤立三人組とでも呼んで嘲笑でもしているのだろう。ん?孤立三人組って日本語的に矛盾してね……?などと考えていると、仁井園もその女子グループが気になっていたらしく、いきなりそいつ等に向かって
「マジ…うざいんだけど?」
と一言言った結果、そのグループはざわついて此方から目をそらした。いいぞ仁井園!もっとやれ!さっきは餅と喧嘩してる変な子とか思ってごめんねっ!っとまぁ、冗談はこれくらいにして…今の状況を考えると、やはり仁井園はぼっち側の人間になってきているように思える…一月前からは想像もできない状態だな…マジで。本来ならコイツは俺の隣ではなく、きっと…こっから見ると一番遠い席に座る、木村や原田とワイワイ言いながらこの作業をしていたのではないだろうか…?そんな事を考えていると、神城に
「七五三田、早く作らないと時間無くなっちゃうよ」
と言われ、俺はハッして作業に戻る。それから、コレでもかとやすりをかけ、歪な形の勾玉を作り上げた。俺がそれを目の前に持ってきて眺めていると、隣の仁井園から
「へたくそ」
と聞こえる。俺は横目で仁井園の勾玉を見る、するとまぁ器用に作業をされたようで、かなりそれらしい形をしている。ってか、最後にチラ見えしたドヤ顔が腹立つので、
「まぁまぁだな」
とボヤいてやる。
「なんとでも言えば、アンタより千倍ましだから」
そんな話をしていると神城が俺の方を見ていることに気づく。
「なんだよ」
「……へ? あ、いや、なんでしょう…?へへへ、でもあれですな、七五三田本当にこう言うの苦手なんだね、なんか妙に小さくない?その勾…玉…?」
なんで疑問系なんすかね?どう見ても勾玉だろうが、まごうことなき勾玉だろうがっ! ちょっとあれだ、削りすぎて"おたまじゃくし"みたいになっただけだから。
こんなやり取りをしたあとに、最後に色をつける行程を行い、勾玉造りは終わりとなる。色付けは、先程斎藤さんが説明をしていた所に行って、赤、青、緑、黄、黒、の五色の中から選ぶようにとの事なので、俺達もそこへ向かった。
「ねぇ、七五三田は何色にするの?」
と神城が聞いてくる。
「……そうだな、とりあえず黒…かな…?」
「え?! 暗っ?!そこは青とかじゃないの?」
「は?なんだそれ、俺は黒が好きだから、黒でいいんだよ」
俺がそう言うと、神城はふーんと言って、
「……じゃ、私も黒にしよっ♪」
と俺と同じ色を選ぶ。何この子俺の事好きなの?おいおいやめろよ、おまえこそそこは赤とか青とかじゃないの?なんで俺なんかと一緒にすんだよ、勘違いしちゃうだろうがっ!
「……いや、おまえは赤とかの方が似合うだろ…」
「え?ううん、私が七五三田と一緒がいいから、それでいいんだよ」
そう言って神城は黒い液体に純白の勾玉を浸した。ああっ…!俺の神城が真っ黒に汚れてしまった……っ!ってバカ!てかマジでどういうつもりだよ、くそっ!気にするな、絶対に深い意味はない!思わせ振りなだけだから……っ!コイツはそういうヤツだからっ!
よしっ、ならば…
「……俺やっぱ青にするわ」
「えぇっ!? ダメダメ! これは一緒なのっ!」
そう言うと、神城は俺から勾玉をとろうとする。俺はそれをひょいとかわして
「いや、なんでだよ」
と言うと、神城はいつもの膨れっ面をさらす。
「……はぁ」
俺はため息をついて、おたまじゃくしを黒に染め上げた。
***
帰りのバスの中、作った勾玉を首から下げたりしながら、クラスメイト達は「意外と楽しかったね」とか「みてみておそろいなんだー!」とか言って、きゃっきゃしている。きっとこいつらは今週末に双子ルックとかしてプリクラを撮りにいき、勾玉をかかげて『ずっ友♪』とかスタンプつけちゃうんだろうなとか思う。そしてそれをSNSにあげて共有し、『いいね』と言う自己満足アイテムを手に入れてはスマホを眺めてニヤニヤとするのだろう。現代人はこれを繋がりと呼び、絆と讃え、ステータスの一部としている。
さすが、人気者に正しい世界である。
ただ、別にそれが間違いだとは思わないし、どうでもいいけど、俺は真の意味で、他人と分かり合えるなどとは思わない。人間はいくら群れようとも個でしかないのである。それに、信頼している人間の言葉を鵜呑みにすればするほど、真実を知った時の衝撃とは大きなモノなのだ。
―――『うん、もう大丈夫だよ。ありがとう、悠莉』
俺は、バスの窓枠に肘をつき、手に顎をのせると溜め息をこぼした。
「はぁ…」
***
学校に到着し、教室でホームルームを終えると下校となる。俺は鞄に荷物を積め、そそくさと退散すべく席から立ち上がる。…と、
「……あの、帰りたいんですが…」
「そおぅだぁんが~っ、あります~っ!」
神城に鞄を捕まれ下校を阻止される。俺は一瞬宙を見てから一息つくと覚悟を決めて、神城に応える。
「……なんだよ、相談って」
「あのさ……今日ね、七五三田ん家行っていい…?」
「………は?」
次回『過去をひきずれる人間は勝ち組、スカートは見せなければ大勝利』
5月24日(木)更新予定です❗(。・ω・。)きゅぴーん✨




