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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
12章 第最終部  あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレはッ!!
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631話 【イージス決死隊VS.】UN.Resident 未来へ捧ぐ決別の序曲 6

挿絵(By みてみん)

無名の頁


語られぬ伝説


1人が生きた


存在証明

「しまっ――」


 迫る死の気配に同じ匂いを感じた。

 焔龍が初めて敗北を喫したときに嗅いだものと同じ。敗色と忸怩じくじが混ざった苦くツンとくるような臭気だった。

 後悔を噛みしめる間さえもうすでにない。狭間に浮いた16の瞳から閃光が照射される。


――死!!?


 大陸を削りとったあの光だということは理解出来た。

 それがなぞるような軌道で攻撃を終えたばかりの龍族たちを捉えようとしていた。

 光に触れれば必ず死ぬ。龍の鱗だろうがなかろうが無意味であり万物を蒸発させる邪悪の光。

 16の瞳がそれぞれ閃光を集める。中央の核となる大玉から光刃が生まれていく。


「KOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」


 絶望を切り裂くが如く黒い影が龍たちのなかを横切った。

 7尾を蓄えた1匹の巨獣だった。地上からとてつもない脚力で高跳びしてきたのだ。

 黒毛の背には金鎧を帯びた綿毛の少女が。清らかなる佇まいで祈りを捧ぐ。


「仙子様は私に合わせてくだい! 根本のエネルギー源を絶ちます!」


 もういっぽうで大黒狐がくるりと身を翻す。

 すると和装の合わせからあふれる大毬を躍動させるようにして絶世の美女が現れる。


「チィ! 気張ってかねーとウチらの魔法でも抜かれっちまうっしょ! 4、いや5本くらい使わねぇとこりゃ無理よりの無理!」


 聖女テレーレと仙狐ナコのふたりが狭間と龍たち間に介入した。

 聖と冥、光と闇。司りし声を合わせて同時に叫ぶ。


「祖父よ其の御手より生を灯したまえ! 《テル・プロテクト》!」


「祖母よ其の御手より死を救済したもう! 《オル・プロテクト》!」


 重なる詠唱ハーモニー

 合わせて2枚。14色となる幾何学模様の大壁が発現する。

 明暗のステンドグラスに似た壁は、時空の狭間と世界を蓋するみたいに覆いかぶさった。

 テレーレとナコは放たれる怒涛の光を留める。


「ぐぬうううううううううううううう!!」


「いぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ!!」


 熱風に髪を乱しながら歯を食いしばった。

 ただひたすらにマナを酷使して熱線による放射を耐える。そうやって一瞬のようで一生のようだった時間が過ぎていく。

 と、張り巡らせた2枚壁から雷撃に似たビシィッというけたたましさ。そして亀裂を生じさせる。


「もう少しですううう!! あともう少しがんばってくださいいい!!」


「もう少しってどんくらいだしいい!? ぶっちゃけもうマジくっそ現界間近ってかマジかあああ!?」


「もう少しはもう少しなんですう!! そう思えば延々耐えられるんですううう!?」


「はああっ!? 祈り捧げすぎて頭んなかヴァルハラになってんでしょおお!?」


 聖と冥の2枚を重ねてもなお敵の攻撃は凄まじい。

 ふたりは顔中どころか全身を汗でずぶ濡れにしながら耐えつづけた。

 そしてようやくだ。16の瞳から放たれる熱線が弱まりを見せはじめる。

 ちょうど右から左へ大陸を分断するひと薙ぎぶんか。極太だった光の筋が糸のように細くなって、やがて消滅した。


「っ、無事か!?」


 ディナヴィアも身を龍から種の姿に変えて龍翼を打つ。

 テレーレとナコ。ぐったりとした体勢で落ちていくふたりを片腕づつで抱きとめた。


「へぇぁぁ……つかれまひたぁ」


「2発目とかぜっだぃ”無理ぃ”ぃ”↓ これダーリンに次頼まれたとしてもマジ無理のガチ無理ぃ”ぃ”↓↓」


 まるで高級布をボロ雑巾にしたような雑さだった。

 マナを使い果たす寸前だったらしい。テレーレもナコも共通して顔面は蒼白。

 魂を吐きだすみたいな成りで、この世の終わり見ているような顔。しかもディナヴィアの腕へ全身の体重を預けている。

 ひとまずふたりの無事を確認し、ディナヴィアは愁眉しゅうびを開いて肩を静かに下ろした。


「九死に一生を得た。礼を言う」


「いえいえ……はひめからこうすることを頼まれてまひたんれぇ……大丈夫れすよぉ」


 口でそう言っているが、とても大丈夫ではなさそう。

 ナコのほうだって丸い腰から伸びる尾っぽを6本も萎びさせて満身創痍。

 ディナヴィアは、とりあえずふたりを別の龍に託し、邪悪な瞳のあった方角へ意識をむける。


「ッ、次から次へと厄介極まりない! 奇々怪々なことをしてくる相手だ!」


 闇に浮かぶ16の瞳が、泣いていた。

 否、泣いているように見えるというのが正しいのだ。

 16の瞳を浮かべた闇が地上へ向かってどろどろと滴っていく。滴った先では大地が粘液状の闇に飲み込まれ微かに蠢いている。

 まさに異様。空を割った闇が涙を流し大地を濡らしている。


「闇から適正な距離を測れ! 同じ攻撃を繰りだされる前にだ!」


 急ぎ、狼狽える同族に呼びかける。

 すると龍でさえ先ほどの攻撃から立て直せていない。

 龍の総括であるディナヴィアでさえ生きていたことに現実感が希薄だった。


『適正な距離ってどれくらいって感じ!? あんなに狙われたらどこにいたって1発だよね!?』


『そんならとっとと反撃にでるべきじゃねぇのか!? 指くわえて次がくるのを待つつもりかよ!?』


 龍は他種族ほど調律がとれる種族ではない。

 だから決闘という安易で明確な力という権力を行使していた。

 統制がとれない。指揮する内容に端を発する者たちがざわめきたつ。


『全員落ち着くのが先! 落ち着いたら状況の把握と損害の報告!』


 海龍のよく通る声が喧騒を黙らせた。

 地上からも品格のある声も響いてくる。


『我らを仕留めるつもりであればもう1度同じ手で決めてくるでしょう! にも関わらず打ってこないというのであれば乱射が不可能ということ! ならば我らはひとまず閑話休題とし呼吸を合わせるべきです!』


 土龍が尖った鼻先をこちらへむけていた。

 古参の叱咤によってようやく。龍族たちは穏やかさをとり戻すことが可能だった。


――くっ! こういうときにアレがいさえすれば!


 ディナヴィアは焦燥感にくすぐられながら、脳裏である顔を思い浮かべた。

 龍の歴史で1度だけ一族をまとめ上げた龍がいる。その龍は力ではなく知略を用いて一族を傘下に置いた類まれな存在だった。

 もし彼女がここにいたら一族を納得させつつ適切な指示を下せたのかもしれない。 


――居ぬ者に縋るとは弱者も弱者! まったく……頂点を転げ落ちた途端に情けない!


 猛省するのは今ではないとする。意識せず垂らた尾をひん曲げるよう頂点へ向けた。

 ひとまずは聖女と仙狐のおかげで耐えられた。

 しかしふたりの疲弊は明らかであり、次はない。

 それと見た限りで幸いしているのは怪我や重軽傷者がでていないということ。


――どうする……土龍の言葉を信じるべきか? 妾が退けと命じれば敗北を認めることになるが……


 ディナヴィアに押すか退くかの二者択一を迫られる。

 重くのしかかる選択だ。退けば実質敗北を認めたようなもの。最強種族が屈したとなれば戦況は劣悪を極めることと同義。つまりルスラウス大陸が闇の軍勢に負けを認めたということ。


――……頼まれた? 先ほど聖女はそう口にしていたな。


 ふとテレーレの言葉を思いだす。もう安全地帯に運ばれたであろう聖女たちの去っていった方角を眺め、唐突に気づく。

 この祭りをはじめたのは大陸種族ではない、アチラがわ。ならば託すべきは己ではなくアチラの 住 人 であるべき。

 ディナヴィアは、片耳の呪符へ語りかける。


「……あれはなんだ?」


 するとそれほど待たずして返答が返ってきた。


『作戦前に話しておいたアンレジデントのオリジナルシリーズです。上のほうにいるデカイヤツの名前は……まあ、シックスティーンアイズでいいんじゃないかな』


 その丁寧な返答を聞いて、全てが繋がる。

 人はこうなると知っていたのだ。とうに予測し尽くしていたのだ。だから絶好のタイミングで聖女と仙狐に龍を守らせた。

 と、なれば話は早い。彼の目指す理想の収束点へ付き添うだけ。

 

「ではそのオリジナルシリーズとやらはいったいなにをしようとしている? そして貴様は我らに如何な行動を求める?」


『……説明出来るぶんは全部したはずです……つまり、第3セクションへ移行します……』


 女性を模した形態の内側で鼓動がとくん、と跳ねた。

 無意識に地上へ視線を巡らせる。戦場に立つ青年の姿を探してしまう。


『オリジナルが狭間から吹きでたってことは、オレの世界の技術はもうだし尽くしたってことです。だから次へ移行するための舞台を整えてください』


「それで良いのか? ここで1度退き、残る戦力を注げばもう数回は汝を生かすことなぞ容易だぞ?」


 多少の、否。多大な犠牲はでるが。と思ったが、しかし口にはしなかった。

 なにより彼がそれを嫌忌けんきしているから。彼自身がもっとも良くわかっているのだから。

 ディナヴィアは折り重なるような群衆のなかから彼の姿を見つける。

 なんと探すことに労を割かぬ友人なのだろう。どれほど小さな粒であれその1点を紅の瞳が見逃すことはない。


『これで2人が破壊できなかったぶんの始末は終えることが出来た。そしてもう――……やれることはそれだけしかないんですから』


 彼は、蛙目がいろめのようにはっきりとした眼差しで、遠く離れたこちらを見つめながら、そう言った。

 もう貴方たちにやれることはない。そう、確かに人ははっきりと口にしたのだ。


「そう、か……ふぅぅ……」


 ディナヴィアは、深い吐息を流麗な弧を描く肉の内側から絞りだす。

 蒼く灯る影が、天空を飛翔する彼女を、真っ直ぐ見つめている。


『地球技術を羽織ってないオリジナルシリーズはF.L.E.X.で倒せます。ここまできたら1発デカイのをくれてやれば残滓すら残さず滅殺できます。言ってみればこれは千載一遇の好機なんです』

 

「……あれほどの大言壮語を吐き連ねておきながら力及ばず……申し訳なく思う。ゆえに死力を尽くしてでも汝が美しく舞えるだけの舞台を整えてみせよう」


 最後にディナヴィアは、「……すまない」謝罪した。

 兵と戦場に汚れた大地で灯る蒼は、とても綺麗に思えた。

 純真で潔白。それなのに優美かつ勇敢。まるで世界の中心でさえそこにあるかのように彼は堂々と佇んでいる。

 だが舟生明人という人間種族は決して聡明ではない。他世界1の愚か者でしかない選択を己自ら下した。


「英雄よ答えてくれ、何故だ? 何故そうまでして薄汚れた思想で愚かな死へ走りつづける?」


 とくに意味はない戯れのような質疑だった。 

 ただ口がなんとなく発しただけに等しい。それでもずっと彼女にとって疑問だったことでもあった。

 舟生明人は、死にたがっている。

 死にながら世界を前へ押しだそうとしている。

 それは少なくとも生と命を尊ぶディナヴィアにとってとても美しくないもの。

 すると思考するであろう余地すらなく彼からの声が返ってくる。


『大切なモノのために世界を救ってなにが悪いんですか?』


「――ッッ!?」


 ディアヴィアは虚を突かれて息を詰まらせた。

 理解すると同時に怒涛の思いが込み上げて眉根をひくひく痙攣させた。

 呼吸を喉で刻みながら下唇を血が滲むほど噛み締めた。

 自己の意志なんて介在せず自然と涙がほろほろあふれてくる。


「ただひとつのおもいのみで、そこまで、やれるか? それだけのために汝は、妾へいどみに、かかったというのか?」


 彼の言うそれが真実だとするなら、とうにこの身は最強ではない。ただの女。

 世界はたった1つの思いのみによって庇護されていたということ。 

 たとえ弱者と罵られようともたった1つのために走りつづけた馬鹿がいた。崇高で愚直な思いが2つ世界へ介在している。

 ならば、救われた彼女が答えるべき答えに迷いはない。涙ももういらない。


「協力する! そして運命の望むままに行末を見届けさせよ! 必ずや与えられし使命を真っ当し汝の旅を見送ってくれる!」


『……ありがとうな。日輪の炎帝……ディナヴィアさん』


 この時をもって第2セクションは、最終作戦第3セクションへと移行する。

 第3セクションの内容は難解ではない。だが語るこそすら憚られるほどの劣悪。

 この世の憎悪全てを注ぎ込んだような愚策でしかない。

 

『総員決死の出撃を開始するぞッ!! 闇の袂を力にてこじ開け時を稼ぐッ!! 最上の舞台を用意し旅立ちを祝福するッ!!』


 焔龍へ身を変貌させた彼女の後に、龍たちもまた戸惑いながらつづいた。

 これから重機を決死投擲するための道を切り開きにかかる。



   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

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