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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
12章 第最終部  あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレはッ!!
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630話 【イージス決死隊VS.】UN.Resident 未来へ捧ぐ決別の序曲 5

挿絵(By みてみん)

生涯を賭して勇猛な盾であれ

我らはイージス


祈りを捧ぐ

盾の乙女よ

 念話を通して戦端の幕開けとなる第1セクションの完了報告が届いた。

 作戦の進路はおおよそ順調。最小限の犠牲で敵の大群を1箇所に足止め、そうやってまとめ上げつつ殲滅を図るというもの。

 語らずによる多少のうち漏らしはあれど他愛なきことだ。なにより西側の兵たちは練度が東側コチラ以上に卓越している。過分な心配は無用。

 そしてこれから作戦の要となる第2セクションが開始されようとしている。


『清聴せよ! 全龍族へ告ぐ!』


 雄々しくも清らかな美声が天空へと尾を長く響き渡った。


『一族の結束を強め断固として現状の打破を試みるッ! もしもこの場で朽ちるならば誇りは一層天へ至りて煌々と輝くであろうッ!』


 上空を征く焔龍ディナヴィアは、勇壮なる咆哮を上げて同種族を率いる。

 最強の身はとうに臨戦態勢を整えられていた。白光する鱗をまといながら炎色の瞳を怜悧に細む。

 それに呼応して他の龍たちも厳戒態勢にて咆哮を返す。

 彼らの睨む先には空がある。醜く割れて酷く歪な世界の境界。闇へと浮かぶ紅の瞳。


『新しい朝で会おう……だってさ。ぷぷぷっ、無理してまでカッコいいこと言ってくれちゃってお腹がよじれちゃうとこだったよ』


 まるで大河のようにひょろ長い身体を伸ばして空を泳ぐ。

 青い鱗は他の龍よりも光沢があり濡れていないのに日の光で照っていた。

 鷹の脚に似た鋭い爪には、海龍スードラの得意とする海神の槍が握られている。


『うーっ! 確かに面白いし回りくどいけど、でもすごく彼らしい感じぃっ! だから私は結構好きな言い回しだよね!』


『僕だってなにも嫌いって言ってるわけじゃないさ。この戦いが終わってもまたみんなで会えたら良いと思ってるしね』


 黒龍セリナも共に大翼で滑空並走する。

 第1セクションは地と空の敵を掃除、殲滅すること。そして第2セクションは敵本丸への直接攻撃という取り決め。

 剣役を担うのは、もちろん大陸が誇る最強種族。龍族たちが亀裂目掛けて群れを作る。


『……ふう、よし。がんばるぞっ!』


 大気の乱れるなかに軽いため息漏れた。

 漏らしたのは天龍エスナ。鼈甲色の長尾をぶおんと振って覇気を高めた。

 甘い吐息混じりを聞きつけて横へ黄龍ムルガルが寄り添い声をかける。


『気張るな。引き際さえ見失わなければどうとでもなる』


『う、うん……でもちょっとね。1回前にしくじっちゃったからどうにもね』


 慰められた天龍はうつむきがちにきゅるる、と喉を寂しく震わせた。

 それを黄龍はチラリ横目で眺め、すぐさまそちらへ長首を伸ばす。


『おい黒龍ちょっとこい。相談事だ』


『なになに~?』


 呼ばれた黒龍が飼い犬のように尾を振りながら近寄ってきた。


『こういうときに重い話するのは止めてほしいよね。せっかく夫婦になったんだしいきなり未亡龍とかちょっと勘弁だよね』


 夫婦揃って仲睦まじやかな滑空だった。

 クレーターをでて未だ幾日と経っておらず。聖都にてつがいとなった世にも奇妙な黒と黄の龍たち。

 黄龍は、首を捻る黒龍へ面長の顔を静かに揺らした。


『そうではない天龍が前回のミスで落ち込んでいる。俺はどう声をかけてやるのが正解だ?』


『えぇ……ソレってかなり面倒くさい女って感じぃ。昨日の失敗を今日悩んでもとり返せないし反省したらそこで終わりでしょぉ?』


 真隣で急に始まる夫婦会議。聞かされるほうはたまらない。

 しかも話題が自分なのだ。これには天龍も慌てて間に割り込まざるを得ず。


『ちょちょっ、黄龍!? こっち普通にわたしいるしせめてもうちょっと離れたところでやってほしいかも!? それに心配してくれるのはすごく嬉しいけど、ってかなんで黒龍に聞くの!?』


『黒龍と貴様は友だ。ならば愁い事は友の采配に任せるべきだろう』


 黄龍は、横入りした彼女をさも当然とばかりに丸い眼で見つめ返す。


『いやいやいや友だちだけどわたしと黒龍はどっちかといえばライバル的な!? とにかくそういうんじゃないんだよぉ!?』


『……そう、だったのか?』


 そうなの! 天龍は鼻息荒くますます意固地になってしまう。

 物静かな黄龍なりの思いやりは届かず。緊張する彼女を案じて気を使っているのだ。

 しかしその実、唐変木。女どころか相手の心を読めるほど感情が深く備わっていない証拠でもある。


『――ひゃあ!?』


 と、そこへひな鳥の鳴くような短い悲鳴が天龍の心から発された。

 見れば彼女の横へ移動した黒龍が野太い尾っぽを天龍の尾に重ね、絡めている。


『でも私のほうは天龍のことを心の底から愛してるよねっ!』


 唐突なカミングアウト。同性である黒龍から天龍への熱い伝言メッセージ

 天龍は飛び退き距離を開ける。絡んだ尾を引き離す。


『と、唐突になにいってんのよ!? だ、だだ、旦那の前で告白とか頭オカシイよね!?』


 黄龍が『そういうのも、あるのか』問うと、『ないわよう!?』裏返った声で否定されてしまう。

 ただ黒龍の言葉に嘘はないはず。天龍は知らないが、黒龍は彼女の母らしいのだから。

 そうなると愛しているというのはなにも変な――意味を含んだ――話ではなくなる。母から子への伝言とするならこれ以上のカタチはないのだ。

 だからか慌てる我が子を見つめる黒龍の眼差しは母のソレと良く似ていた。


『うー? そういえばぁ……あの時期頻繁に寝藁を一緒にしてたのってぇ……』


 じぃ、と。見つめられた黄龍が『なんだ?』抑揚なく黒龍へ尋ねる。

 も、黒龍はすぐさま両翼を大きく羽ばたかせて飛翔速度を上げてしまう。


『うーうん、なんでもないよね! 鱗の色が似てるからってそんなうまい話あるわけないって感じぃ!』


 気のせい気のせい。繰り返し唱えながらそそくさと離れていく。

 黄龍と天龍は、遠のく黒い鱗に覆われた尻を呆然と見送る。


『とにかく貴様の緊張は解けた。やはり黒龍に頼って正解だったようだ』


『はぁぁ……緊張はなくなったかわりにどっと疲れたんだけど……』


 どうやら黄龍の努力が実を結ぶことはなかったらしい。

 天龍は深い安堵のため息を「Guuu……」肉声で吐いただけ。

 鼈甲色――やや黒みを帯びた黄色をした黄褐色――の長首をたらりと垂れるだけだった。


 そうしている間にも、時空の狭間へと至ろうとしている。


 こうして数匹が気を抜いているようでも、着々と周囲では魔法の詠唱による光が生まれていく。

 全身全霊をもって相手すべき敵であると龍族ですらすでに理解している。それも種族単位で。

 鱗に覆われた身が迸り、頑強なる肉体の内側に秘められた心が震える。

 守るべきはなにものでもなく、種族たち。しかもそのなかには8種族目の恩人と呼ぶに相応しい者まで混ざっている。

 なればこそ龍の熱き誇りは不動となる。その身にかけてでも今作戦を成功させねば最強とは呼べぬ。

 

『ん、そういや巨龍はどうしたよ? あのバカデケェのがいねぇとかさすがに気づかねぇわけねぇわ』


 岩龍がふとした様子で異常に気づく。

 そういえば巨龍の姿が群れのなかに混ざっていない。

 あの山と同じほどにまで巨大な躯が姿かたちすら見当たらないとなれば、それはもう異常。


『あれには別個の担当を振り分けてあるゆえ、今回ばかりは参加せずだ』


 焔龍が小さく巨大な疑問にあっけらかんと涼しい音色で応じた。


『えーずるいんだー。僕もそっちの特別な任務がよかったなー』


『一族総出だって聞いてたから張り切ってんのにこれじゃ肩透かしだぜ。どうせあの巨龍のことだから寝坊でもしたんだろ』


 海龍と岩龍はどうやら気に入らないらしい。

 これから行われる作戦は死を伴うであろうもの。龍族でさえ怖じけるほどの大役を仰せつかったのだ。だからこそ巨龍の特別対応が鼻につく。

 すると喧しい難癖のなかにぽつりと心の声が滴る。


『……果たしてそう言い切れるだろうか……』


『焔龍? どうしたのさ?』


 焔龍は案じてくる海龍からふい、と顔を反らした。

 すべてを知っている彼女だからこそ伝えられぬことは多い。

 しかもそれが失敗を臭わすものならばとくに今語ることではない。


 この作戦が第3セクションまで用意されていることを知るのは、龍族でさえ2匹のみ。

 焔龍、そして巨龍の2匹のみが第3の内容を聞かされているということ。

 だからこそ第2セクションで闇の討伐を完遂させねばならぬ。

 焔龍は鱗に覆われた長首を大きく振って迷いを振り払う。


――我らは獰猛なる龍ぞ。1片たりとも負けることを憂慮するのならば知性を捨て本能で闘争するのみだ。


 余分を忘れ、気を張り直す。

 感情を怒りで塗りつぶして空に開いた境へ「Graaaa!!」獰猛なる威嚇を飛ばした。


『神ですらも驚嘆させてみせよッ! 真実の力とさえ称される我ら一族の全身全霊をくれてやれッ!』


 そして赤々した瞳との距離が詰まり切って、最強たちは空を揺らすほど吠えた。

 飛行型の駆除が済んだ。だから龍たちの進攻を妨げるモノは当然ない。

 最強種族とは自由の象徴だ。誰のものでもない平等なる空は彼ら龍族の庭である。

 だから好き勝手に支配する連中の無作法さは逆鱗に触れるほどの不祥。不躾。

 なればどのようにするのか。そんなものとう決まりきっていた。


『この世から退散するか消し飛ぶかの余地さえ与えん!! これにて終幕よ!! 《消滅ノヴァ》!!』


 今回は船のときと異なり邪魔はない。

 確実に届きうる位置から焔龍は日輪と思しき白炎を見舞う。

 と、彼女の視界に僅かな異形の変化があった。




「―――――――――――――――――――――――――――――」




 本当に一瞬だけ。

 気のせいかもしれないと錯覚するくらいの刹那の間だけ起こった現象。

 攻撃が届く寸前で禍々しい瞳がぎょろりと龍族たちを捉えた――ように見えた。

 そして焔龍の白光を皮切りに龍族による処刑が執り行われる。


「WVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


「WYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」


 ただ凄まじい。圧巻を裏返してまさに壮観とさえ言えた。

 地上からも飛べぬ龍たちが、隙間なく闇へ猛り立つ。


「GOOOORORORORORORORORORORORORORRRRRRRRRRR!!!」


「PYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAA!!」


 包囲した龍族たちが砲より過酷な牙の境から闇へ、 最 高 を浴びせつづける。

 夕焼けの空が焼かれていく。世界そのものを日中の昼より煌々とした橙へと変貌さていく。

 大地をとろかし万物を否定する火炎の渦は、闇の存在を許しはしなかった。種を襲う部外の介入を守護者たちは、許さなかった。

 厳かなる光景はどれほどの間つづいただろう。


 残党駆除を終えた地上の種族たちが武器を掲げてその光景を固唾を呑んで見守る。

 そしてようやく大陸最高峰の攻撃が徐々に途切れていく。

 後に残されたのはミルク色の蒸気のみ。もうもうと濃い、濃霧に等しい水の壁。


『はっ、はっ、はぁ……っ、おっしゃザマアねぇぜ! 見たかよこれがオレっちらの世界の実力ってやつよ!』


 岩龍はいかつい岩の肩で呼吸しながらグッと拳を掲げた。

 時期尚早な歓喜ではある。が、焔龍とて手応えはあった。

 やりきったという達成感さえある。それはきっとどの龍ももちうる最高の感情だったはず。

 その証拠に闇のなかに浮いていた狭間の瞳が、なくなっている。

 ただどす黒いだけの黒がポッカリと大空で口を開けるのみ。

 龍族たちは咆哮と心で歓声と歓喜に咽ぶ。地上の種族たちも結果の余韻を見上げながら喝采を送っていた。


「……hgrrr」


『やったやったぁ! 焔龍もこういうときくらい喜びなよ! これでようやく平和な世界が――』


 海龍がしなやかな身体をうねらせながらやってくる。

 周囲の龍たちも巨躯で抱き合い尾を絡めながら成功を歌う。


『平和になったらなにしようかなぁ! そうだ! また一緒にふにゅうくんたちも連れて聖都で遊ぼうよ!』


「……grrrrr」


 だが、焔龍だけは他の龍たちと感動を分かち合えずにいる。

 以前の彼女ならばこうはならなかったはず。なにせこれは人という弱種から教わった学び。

 1度の敗北を経て訝しがるという生存本能が、彼女に警笛を呼びかけてきてならないのだ。


――なにか、なにかが……腑に落ちん。


 睨みつける先に瞳は、存在しない。

 黒より黒い闇が蠢くだけ。日光すら通さないほどの漆黒。


――真に終わったのか? 世界を1つ滅ぼした敵がこのていど、で……ッッッ!!


 オワラナイ。そう、聞いたわけではない。

 オワラナイ。そう、言っているわけではない。

 しかし焔龍は目の前の光景に戦慄した。

 指示を飛ばすことさえ恐怖で忘れるほどの圧倒的な恐れに身を竦まされてしまう。


『に、げ――』


 遅い。16の瞳が開く。

 闇の奥でこちらを見ている。

 虚ろな闇に浮かぶ。正体は16個、16の大きな瞳。

 同時にその横並びになった16の瞳から光が暴れた。


「GEEEEEEEEOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!?」


 咆哮は虚しく響き渡った。

 焔龍は、龍族たちは、暴力的なまでの光によって包まれる。








(区切りなし)

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