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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章 あの子の性別 この子のパンツ そしてオレは荒野に猛る
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54話 そのため、彼らは街を目指す

「フム……まさか覇道の呪いに抜け道があるとは思いもよらなんだな」


「そうなんです! 明人さんが見つけたんですよ! 私の明人さんが!」


 ゆらゆらり。ストラップつきのサンダル、皮のブーツ、黒の光沢がぬらりと光るヒール。

 操縦席に垂れ下がるは6本の足。そのうちの1本が明人の頭を踏んづけた。


「リリティア踏んでるから。あとオレはリリティアのものじゃないから」


「でも、ヒモみたいなものでしょ」


 皮のブーツが肩に乗っかってくる。

 明人は非常に操縦がしずらくなった。あと、耳が痛い。

 双腕重機を囲うように先遣隊がイェレスタムの街を目指す。

 休息という判断がよかったのだろう。歩幅は初日と変わらず、エルフたちはみんな意気揚々と不毛な荒野を闊歩する。

 日はすでに昇りきっており、晴天に恵まれ開かれた円のハッチから降り注ぐ陽光は肌をじりじりと焼く。

 およそ戦争中とは思えない心持ち。それもそのはず、戦争はエルフ女王ヘルメリルの意向によってドワーフの救出へとシフトしたのだ。


「クククッ、なかなか愉快に踊るじゃないか! 重きを律する者よ!」


 お褒めの言葉を発する黒ヒールの踵が、明人の肩を蹴った。


「いってぇ! ……あれ? この間オレのこと名前で呼んでくれたよね?」


「フッ――知らんなッ!」


 ヘルメリルの《レガシーマジック》である転移扉は、ゆかりのある土地や深いえにしを転移先に設定できるらしい。便利ではあるが万能ではないと嘆いていた。

 つまり剣聖と語らずの呪術師は、明人と知り合うずっと以前から交友関係があるということだろう。


「ふにゅ~よ! これはなんじゃ! これを押すとどうなるのじゃあああ!」


「あー……それは指紋認証だからオレ以外だれも許可できないんだよ」


 膝の上に座ったラキラキは、興奮気味にワーカーのコンソールを叩く。

 技術屋であるドワーフの血が騒ぐのだろう。さきほどからずっと重機の構造についての質問が止まらない。室内には、洗いたての服が干されていてからはふんわりと暖かい日光の香りがする。


「じゃあ押すのじゃ!」


 ちんまいピンク色の爪が赤いビニールテープによって囲われたある突起を指差す。

 重機であるが故に大雑把な制御盤だがなかには危険なものもある。明人にとっては二重の意味であまり触れてほしいものではない。


「ダーメ。ソレ超危ないから」


「むぅ……ケチなのじゃぁ」


 叱られた子供のようにラキラキは頬を膨らませた。

 双槌のゼトがラキラキに託した1本の希望。魔躱しの白槌がある。

 またの名を《マジックスタンパー》。魔法弾きの魔槌。

 そして、それこそが世界最強の魔法使いを防衛に回らせた最大の要因なのだというのだから驚きだった。

 リリティア曰く、双縋のゼトという懸念事項がなければ、最強の魔法使いヘルメリルはいつでもドワーフ領に攻め滅すことができていたらしい。

 すなわち、ラキラキの祖父こそドワーフの英雄といえよう。でなければ今頃ドワーフ種全体が覇道に蝕まれたエルフによって滅ぼされていたのだから。


「しかし、環境マナを際限なく収集するマナ機構か。……ドワーフよ厄介な物を作ってくれたな」


 大気を揺らすが如く低い声色。切れ長の目。血の如く赤いヘルメリルの瞳がギラリと光った。

 ドワーフ種の最高傑作、マナ機構。それは環境マナを1箇所にまとめ上げ使用者に膨大なマナをもたらすという代物らしい。

 そして、マナ機構完成の報を受けた瞬間にラキラキの正常な記憶は闇に沈んだともいう。

 マナ機構によって生み出された土巨大は国境を越えてなお、そぞろになって足を引っ張るようだ。忙しかろうに、女王が直々に先遣隊へのメッセンジャー役とならざるをえなかった理由でもある。


「ヒぇッ……こ、こわいのじゃ~……」


 びくり。ラキラキは短く叫んで震えながらこちらにしがみついてきた。

 頭に足。両肩に足。膝に幼女。この女性どもにとって、もはや明人は男うんぬんではなく霊長類にすら見えていないのかもしれない。


「おいこら。幼女をイジメるんじゃないよ」


 勧善懲悪。幼子をイジメる大人こそ心に余裕のない証だ。

 相手が女王であれ例外はない。明人は操縦桿を握る両の腕の間で震える幼女の庇護に回る。


「見た目にだまされおって。そヤツ貴様の10倍は生きているぞ」


 舌打ちが操縦室に木霊した。

 無論、発信源は自身の眼下。


「……え?」


「このまま手駒にしてやろうと思ったのじゃがな」


 驚くほどに淡々とした口調だった。

 まさかの猫かぶり。リリティアと違って女優気質なのか、より悪意が感じられる。もうなにも信じられない。


「しかし、白銀の舞踊ソードダンサーと双腕を出会わせずにすみそうだな」


「あらぁ? メリーったらそんなに私が心配だったんです?」


 白生地の裾からチラリ。健康的な足膝と黒いレースを透かした細白い足膝が肩の上で会話する。

 いい加減踏まれている明人の堪忍袋の緒がブチブチと音をたてるというもの。


「フンッ……貴様、双腕に特別な思い入れがあると言っていたからな」


 ぴたり。明人の体が凍りつく。

 理由はわからないがとても不愉快なのは扱いの酷さからくるものだろうか。


「双腕のゼト……? ――あっ! それって例の初恋の相手の名前じゃないの!?」


「ふふっ、どうでしょう?」


「いまさらなにを隠す必要がある」


 女みっつ。姦しい。

 耳から入ってくる情報がやけに騒がしくて。不意に脇腹を突かれたかのような不快感を覚えて。思わず操縦桿を握る明人の手に力が篭もる。


「ふ、ふにゅ~、どうしたのじゃ?」


 膝の上にもうひとつ。

 ぷるぷると。小動物の如く震えるラキラキを無視して、明人はアクセルを踏み込んだ。


「そ、その……目が据わって――ぴやっ!?」


「は? なに? オレが怒ってるように見えるの? どうして? 言ってごらん? たぶん怒らないから」


「こ、こわいのじゃぁぁ……!」


 明人の中で嫉妬というパズルのピースが徐々に埋まっていくような気がした。

 しかしまだ完成にはまだ程遠い。この戦争の行く末はいったい未だ読めず。

 

「リリティア。明人が幼女いぢめてるわよ?」


「んー……あの子の乗ってる場所、まだ私もまともに乗ったことないんですよねぇ……」


 先遣隊は不安と希望と、なんだかよくわからないよどみを胸にドワーフの街を目指す。


「……その謎ジェラシー、私にもむけてたりする?」


「ええ、少しは」



4章 あの子の性別 この子のパンツ そしてオレは荒野に猛る END

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