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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
12章 第4部 Remake the world ~瞬くような世界で~
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498話 そして降臨のCallingは『Goolin?』

挿絵(By みてみん)

頼りない青年を押す

神弓の一矢


天使は

愛の失せた鱗の一族へ

呼びかける


新たな物語の

結末は?

「――わひゃうっ!?」


 エスナは高い悲鳴を上げて目を見開いた。

 伸びの姿勢のままで、ぴくんと腰を跳ねさせ全身を硬直させる。


「て、天龍!? と、とと、突然変な声をだしてどうしたんだい!?」


 唐突に固まってしまったエスナの横では、青年がそれ以上に驚いていた。

 放たれた矢は見事にエスナの脇の窪み部分を貫いた。ちょうど口をポッカリと開けてあくびをしているところを狙ったか、油断を射抜く完璧な一矢だった。


「ふっふっふ。これでもうエスナ様は虜同然ですのよ」


 残心をとったエルエルは、遮光メガネをすちゃりとかけ直す。

 エスナは未だ心が抜けたかのように動かず。青年も隣で慌てふためいている。

 当然、流血騒ぎというわけではない。刺さったはずの矢は命中と同時に光の粒となって消失した。

 ユエラは、小刻みに音のでない拍手をしながら小首をかしげる。


「どう見ても魔法の類だったけど、どういう効果なのかしら。魔法の矢マジックアローに似てたわね。でも攻撃魔法じゃないみたい」


 前髪端で結われた小さな三つ編みがゆらりと横に流れた。

 エルエルは鼻高々といった感じでしたり顔をキメる。


「あれは心を小さく揺さぶる矢ですのよ。今ごろ当たったエスナ様は魔法の効果で恋煩いにドキドキしちゃってるはずですのよ」


 ふぅん? 説明をされてもユエラはいまいち要領を得ていない様子。

 魔法を使えぬ明人はもちろんのこと。スードラでさえも首をかしげることしか出来ないでいる。


「矢に当たると恋煩い? スードラの知ってる魔法か?」


「んやぁ? 邪龍とかならそういうの得意だろうけど、僕はあんまり心理系の魔法得意じゃないんだよね」


「まあ見てればわかるんですのよ。ワタクシはそれほど大それたことをしたわけじゃないんですのよ」


 エルエルは弓を腕に通して肩に下げた。それから満足そうに頬を和らげ、祈り手を結ぶ。

 話を聞く限りでは魅了魔法の類だろうか。大陸的に禁じられている禁制魔法であれば、おそらく碌なものではない。

 明人は、腰の合成皮革製のポーチに触れ、聖櫃せいひつの感触を確かめた。


――プライバシーを無視するような魅了魔法だったら即効でマナレジスターしてやる。


 とはいえ、りあえずは様子見をするしかない。

 魔法の効果を知るためにも観察をつづけた。

 視線をあちら側へ戻すと、丁度エスナは戸惑いがちに動きだしている。ようやく我に返ったところ。


「んんん? なんか……ドキドキする……?」


 どこか夢見心地な潤んだ瞳で僅かに頬に紅が浮いている。

 エスナは薄い胸に手を当て、ぺたん座りのまま肩で呼吸をしていた。


「だ、大丈夫なのか? お、大きな虫にでも刺されたりしたんじゃないのか?」


「あ、うん……大丈夫。なんだけどさ……なんかなぁ?」


 心配する青年へ答える声にだって、まるで感情が乗っていない。

 意識をとり戻したエスナはずっとふにゃふにゃしたまま。頼りない青年のことをぼんやり眺めているだけ。


「それでおっぱい天使さんその弓ってどういう効果があるの? もったいぶらないでそろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」


 ガサガサ、と。ユエラは藪をかき分けてエルエルのほうをむく。

 よくよく見れば彼女の光沢ある竹色の髪に若葉がひっついている。エルフの迷彩は森に住まうだけあってかとても理に叶ってるといえた。

 そんな草葉まみれの混血少女へ、エルエルはにっこりとした微笑みを送る。


「この弓は心をほんのちょっと揺さぶるだけの代物ですのよ」


「さっきも言ってたけど……心揺さぶるっていうのが良くわからないのよね? 惚れ薬みたいに恋愛感情を刺激するようなものじゃないってこと?」


 ユエラがしかめ面をすると、エルエルは「ですのよ」コクリと頷く。


「平たく言うなら見慣れている相手や偏見をもった相手なんかにはじめましての気持ちで接することができるようになる魔法ですのよ。新鮮な気持ちを呼び起こすといったほうがわかりやすいですのよ?」


 そう言って肩にかけた弓を手にとって、ぐっ、と突きだした。

 しかしどうやらユエラは「つまりぃ……?」よくわからないらしい。腕組みしながら眉間にシワを寄せている。

 するとスードラが「なるほどねぇ」と、呟く。


「矢が当たった直後の一瞬だけ天龍の体温が低くなったんだ。今はちょっと高めだけど、どうやらその魔法で1度頭が冷えたっぽいかな」


 彼は遠間のエスナたちの方角をむいたまま瞼を閉ざす。どうやら白い額の中央にある青い宝玉に意識を集中しているらしい。

 スードラの額の石は熱を感知し他者の心や動揺を読むことが出来るもの。

 それを聞いて明人もなんとなくだが弓の効果を理解する。


「気分をリフレッシュさせる魔法か? あるいは心を澄み渡らせて新しい視点で潜在意識を改めさせる、とか?」


「あー、言い得て妙だね。あえて言い換えるなら内側の癒やし――凝り固まった心をヒーリングする矢って感じなのかも」


「つまり固定観念を和らげる魔法ってことね! 新しい観点で相手を見直すってすごい魔法じゃない!」


 スードラは指をパチンと小さく鳴らし、つづくようにしてユエラも彩色異なる目を輝かせた。

 3人寄れば文殊もんじゅの知恵とは言ったものだ。まるでパズルのピースが1つ1つ適した場所へと組み上がっていくかのよう。

 そんな種の異なる3者を、エルエルは子の成長を見守るように微笑みながら眺めている。


「ですのよですのよ! みなさま賢くて天使的に嬉しい限りなんですのよ!」


 そして魔法の弓を晴天を遮る森の葉目掛けて突きだした。


「これぞ神弓しんきゅうコーリングの効果ですのよ! 龍族に愛という春の嵐を呼ぶとっておきの神具ですのよー!」


 たっぷり中身の詰まった清楚なワンピースが仰々しく波打った。

 どうやらエルエルなりに色々と考えての行動だったらしい。それがわかって明人もようやく胸を撫で下ろすことができる。


「へちゃってても天使だな。また神より賜りし宝物アーティファクトみたいに危ない物を使ってくるかと思ってたけど、一安心だな」


 肩肘張ってた抜いて少々過敏になりすぎていたことを恥じた。

 大陸を駆けずり回って手にした平和を乱されてはたまらない。大陸の修理屋である彼だからこその懸念だった。


「ちなみに昨夜、ワタクシが夜なべして作ったんですのよ」


「自作かよ! 通りで弓にしては変な形してるわけだ!」


「兎にも角にもワタクシがお手伝い出来るのはここまでですのよ。これは手助けであってきっかけ作り。あとはあの奥手様の奮闘に期待しつつ見守るしかないんですのよ」


 エルエルの視線があちらへむくと、黙って全員が同じ方角を見つめた。

 こちらがよそ見している間に時間が進むのであれば、あちら側でも時間が進んでいる。


「……そういや、ありがとね? 他のみんなに色々聞いたよ?」


 そよぐ葉の音に混じって小さな感謝が一党の耳元をかすめた。

 エスナは伸ばしきっていた膝を曲げ、薄い胸布に深く抱えこむ。

 天真爛漫な彼女にしては、しおらしい態度である。膝の匂いを嗅ぎながら唇を巻いて湿らせ、両手の指を絡め、どこか物憂げな表情をしていた。


「…………」


 そんなエスナに、青年はしばし目を奪われている。

 鼈甲色の瞳と視線が交差し、電流を流されたように体を跳ねさせた。


「えっ――な、なにが? 俺、お礼を言われるようなことしたかな?」


「あの決闘のあと、土龍のところにわたしを運んでくれたのってキミだってね?」


「あ……っ! そ、そうだけど……」


 エスナの言うあの決闘とは、顔の火傷の原因となった死闘のことだろう。

 無謀にも彼女は挑んだ。種の平和と幸福を願って。大陸頂点に位置する炎と炎のかけ合わせ――焔龍ディナヴィア・ルノヴァ・ハルクレートへ、だ。

 彼女は種の姿の有用性をいち早く理解し、強固な鎧である鱗を脱ぎ捨て挑んだ。決死の覚悟で女帝へ立ちむかったのである。

 それでも結果は惨敗だった。もし天運が味方しなければ輪廻を惑っていたかもしれぬほど、苛烈な戦いだった。


「俺も必死だっただけだから! あの焔龍と決闘した後であんな状況だったし! 当然のことをしたまででお礼を言われるようなことじゃないよ!」


 唐突に礼を言われた青年はわたわたと両手を踊らせる。

 嬉しいけど照れるような恥ずかしいような、という感情が見てとれた。

 エスナは抱えた膝に顔を埋めたまま口角をふふ、と上げる。


「わたし重かったでしょ~? 種の姿のままわたしを抱えて汗だくになって走ったってみんなに聞いたよ~ぉ?」


 ほんの少しイタズラっぽい微笑みだった。

 すると静止した青年の顔に、ボッと火がつく。ピンと伸びた尾が岩のように硬直する。


「い、いやあれはその……っ! な、なんというか……や、役得だったというか……」


 刹那の間にエスナから目を反らした。

 どうやら彼は人の良さそうな見た目通りの性格のようで、嘘や隠し事が苦手らしい。

 なにせ焔龍の猛火烈炎プロミネンスブレスを受けたエスナは、全裸だったのだから。


「そっかそっかぁ。やっぱりキミも男の子だねぇ~」


「――うぐふっ!? ご……ごめんなさい……」


 そんなスケベな青年へ、蕩けるような微笑みがむけられた。

 にへっとしてふにゃふにゃだが、微かに潤んだ瞳である。

 エスナは熱っぽい視線で、顔を真っ赤にした彼の横顔を見つめつづけた。


「ほんでっ、裸を見られたのは別にいいんだけどさ。ここにわたしを呼びだしてなんの話をするつもりだったの」


「――ッッ!! そ、それは……っ、その……!」


 どうやら青年は本来の目的を思いだしたようだ。

 しかしまたはじめに逆戻り。喉を詰まらせたかの如く黙りこんでしまう。

 覗き見する一党も展開を追いながら揃って拳を握る。


「ここが天下分け目の天王山だな……! 大山崎町おおやまざきちょうは異世界にもあったんだ……!」


「熱くなってるとこ悪いんだけど、どこのこと言ってるのよ? アンタって意外と誰かの色恋沙汰とか好きよね」


「しーっ、ですのよ! クライマックス間近だからちゃんと目に焼きつけなきゃダメなんですのよ!」


「もし彼がフラレたら今夜慰めにいってあげようかな? 傷心中だと見境なくなるからオトしやすいしねぇ」


 1匹を除いて、みなが青年の背を押している。

 あとは敗北を考えず勇気を奮い立たせて思いの丈をぶつければ良いだけ。それが出来ねば報われる以前の問題である、恋路もなにもはじまらない。

 そしてついに青年は、意を決すようにズシリと両足を大地に叩きつける。


「もう……っ! 好きな子が危険な目に合う姿を後悔しながら眺めているだけなんてもう嫌なんだッ!」


 遮二無二に構わぬ漢のたたずまいだった。

 息を荒げ、頬は焦げそうに赤い。手は震えているし、膝だって臆病な彼を笑っている。

 だが、それでもむかうべき相手を双眸にしかと捉えていた。

 青年の気迫を前にしてエスナは僅かにたじろいでいる。


「おっ? おお、今日はずいぶんと張り切っちゃってるね? そんなおっきい声だしてどした……の?」


 緩やかに揺らいでいた鼈甲色の尾っぽがぴくん、と跳ねた。

 青年を見上げながら「……好きな子?」朧気な感じで繰り返す。


「とうとうエスナ様も彼の気持ちにお気づきになられたんですのよ!?」


 一世一代の大立ち回り。

 見学者のほうも釘づけとなって手に汗握る思いである。

 そしてあちら側から木霊する甲高い驚きの声。


「えーっ!? キミって好きな子とかいたんだあ!?」


 エスナの鈍感さは、天使のエルエルですら神弓を叩きつけるほど。


「お気づきになってなかったんですのよお!? この状況で自分を選択肢から外せるのはバカというよりむしろ才能ですのよお!?」


 ぶん投げられた弓は見事に地面へ突き立った。

 これでは告白のムードもへったくれもありはしない。そもそも部外者がこうして眺めてる時点で整ってはいないのだが。

 しかもスードラに至っては若干飽きはじめている。


「おいこら。人の尻を触るなっての」


 明人は臀部を撫で擦る手を強引に払い除けた。


「え? 僕まだ触ってないよ?」


 白々しいにもほどがある。またも藪越しに突きでている明人の尻が何者かに掴まれた。

 これにはさすがの明人も苛立ちを隠せず。スードラを睨みながら、それを思い切り弾く。


「まだって言いながら現在進行系だろ。次やったら投げっ放し式のパワーボム食らわせるからな」


「えぇ……今回は本当にまだ触ってないんだけどなぁ? でもちょっとパワーボムって名前に心がときめくから触っちゃおうかな?」


 スードラがなにやらぶつぶつ言っているが、それきりだった。

 尻の安全が確保された明人は、ようやく安心してあちら側の見物に戻る。


「天龍――いや、エスナ! 俺の話をよく聞いてほしいんだ!」


 彼とて生半可な心持ちでこの場を用意セッティングしたわけではないはずだ。

 今や龍族にとって恋路は早いもの勝ちと理解しているのだろう。以前のように乱れたままではいられない。

 そして青年はついに行動にでる。


「今はもう邪龍の敷いた道理はない! だからこれからは自分たちのために動いても良いはずなんだよ!」


 エスナの細い両肩へ、ガシッと勢い良く掴みかかった。

 龍の腕力だ。生半可な抵抗で解けるようなものではないはず。

 とても情熱的な攻めだった。これで届かぬのであれば脈はないと考えるべきだろう。


「なんか……友だちのことなのに見てるのが辛くなってきたんだけど……」


 あれだけキラキラと照り輝いていた彩色異なる瞳から色が失せていく。

 ユエラは前髪端の三つ編みごと頭を抱えてしまう。


「エスナちゃんには恋愛っていう概念が存在してないのかしら? だとしたらこれ……一生終わらないわよね?」


 これでは恋幕というより拷問だ。

 とはいえ焚きつけたのはこちらである。だからこそ余計にたちが悪い。

 すると青年を真っ直ぐ捉えていた飴細工色をした眼が、猫のように細まる。


「さっきからずっと遠回しだね? せっかくキチンとこうして話せてるんだし、ちゃんと言って欲しいよ?」


 エスナは肩の置かれた手をそっとどけて立ち上がる。

 小ぶりな尻を白いスカート越しに、ぽんぽん叩く。払われた布地が波打って優雅に揺らぐ。


「わたしもなんとなくだけど、そういうの気づくことがあったんだよね。結構近いところでさよならしなきゃいけなくなっちゃったから気づかされたというか……ね?」


 だから。そうつづけてエスナは踵を合わせた。

 背後では布地から伸びた尾っぽがゆらゆら揺れている。


「それをわたしに聴かせてくる子の幸せそうな顔を思いだすたびにすごく羨ましくってさ。だからキミがちゃんと言いたいことを言葉にしてくれないと、わたしはキミの気持ちに気づいてあげられないかも?」


 エスナは腰の後ろで手を組みながら少し背の高い青年を見上げる。

 踵を何度も地面から浮かせ沈め、まるで乙女心のように揺れた。

 もし青年がエスナくらい鈍感でなければ、彼女がなにを伝えて欲しいのかを気づけるはず。


「こ、これからは俺が天龍を護りたい!! だからツガイとなって俺の隣でずっと笑っていて欲しい!!」


 彼女もまた恋に焦がれる龍であったのだ、と。

 思いのすべてを伝えきった青年は、勢いよく一礼をし、手を差しだした。

 しかしその手がとられることはない。代わりに別のモノが送られる。


「んふふっ! じゃあまずはお友だちからだねっ!」


 青年の唇から唇を離したエスナは、喜びを尾と頬で表現する。

 微かに浮いた桃色と、空気を押して触れる尾っぽ。その2つが告白の答えだった。

 青年は目を丸く呆気にとられながら彼女と重なっていた己の唇に触れる。


「……と、もだち?」


「だってこれからがあるでしょ? ならお友だちも経験しておかないとさ――もったいないじゃんっ!」


 1つの愛を生贄に、龍族全体が愛を失ってしまっていた。

 しかし流れる水が堰き止められぬのと同様、生きとし生ける者はたちは愛を繋ぐ。今の龍たちの住む世界には、そんな当たり前が許されている。


「う、うわっ!? い、いい、いきなりそんな抱きつくなんて!?」


 飛びついてきたエスナの全体重を支えた青年の姿を見れば、それが安易な妄想ではないと理解できるだろう。

 龍たちが本当に求めた本来の繋がりが、ここを起点としてはじまろうとしている。

 青年と少女のはじまりを見届けた一党は、ほぼ同時に深く息を吐きだす。


「はぁぁ……上手くいって良かったぁ。あれでもしダメだったらしばらく引きずるところだったわよぉ……」


「いやー、ざんね……もといハッピーエンドだったね。まさかツガイとはなかなか素敵な告白だったよ」


 ユエラとスードラも見ていただけにも関わらず、すっかり疲労しているようだ。

 まるで1本の恋愛映画を見終わったかのような余韻である。手を繋ぎながら去っていく2匹の背をエンディングロール代わりに鑑賞会が終了した。

 きっとエンディングを迎えた物語は、これから野次馬のいないところで新しい物語を紡いでいくのだろう。

 微かに目を滲ませた明人は、地面に刺さった弓を回収する。


「でもミルマさんにこれを使うのはダメな。今回は微妙に両思いっぽかったからうまく言ったけど、普通に考えてミルマさんの精神状態じゃ危なすぎる」


「あぁぁん……ワタクシの弓返してですのよぉぉ……」


 危険と判断された神弓コーリングは、無事エルエルの手から没収されたのだった。


「それに他人の恋愛を遠間から操作しようなんて無粋の極みだ。それがたとえ天使の力だったとしても、オレが許さん」


「しょんなぁ……名案だと思ってがんばって作ったんですのよぉ……」


 結局のところエルエルのだしたミルマを救う案は、情状酌量の余地なく、没となった。

 つまり計画は、エスナと青年の祝福を祝いつつ、振りだしに戻ったのである。


「じゃあどうやって邪龍様をお助けするんですのよよよ……。ワタクシの用意した作戦はこれだけですのよぉ……」


――落ちこんでるみたいだし少しくらい協力してやるか。と、なれば他の暇そうな龍の手を借りるべきかもしれないな。


 うなだれるエルエルを脇に抱えた明人は、どっこらと茂みから脱出した。

 それと同時。彼の固い腹筋シックスパックの辺りになにやら黒く丸い物が「ぶべっ!?」突っ込んでくる。

 黒く丸いシルエットは、どうやら思い切り明人の腹に鼻をぶつけたらしい。その勢いでステンと豪快に尻餅をついてしまっている。


「天龍を追っかけてきたら道端に美味しそうなお尻が4つも生えてて楽しんでた感じなのにぃ! 突然ヒドイよねっ!」


 そんなあられもない彼女を見る明人の目は、虫けらを見るようなソレだ。


「……貴様だったのか? さっきオレの尻を丹念に撫でてた生粋の痴女野郎は?」


 下着よりも厚手の黒い三角がたわわな実りを包む。

 肌は褐色で健康的なれど、ところどころを水が滴っており婉容。下もセットで美脚のほぼすべてを晒す格好となっている。


「うーっ、急に振りむいちゃダメだよね、もうっ! あとここが膨らんでないから私は野郎じゃないよねっ!」


 そう言って彼女は大股開きの姿のまま、部位を指差し、男でないことを強調した。

 行動にデリカシーの欠片もありはしない。しかし彼女はそういう龍だと明人は認識している。

 しかもこれで最近はマシになってきたほうではあった。なにより今は――再会の朝と違って――こうしてキチンと服を着ている。


「だから痴女の部分も否定しろって――」


「ほらほら野郎じゃないよぉ? お胸も結構おっきいからよぉく見てよねぇ?」


「見せつけてないでとっとと足を閉じろォォ!!」


 明人が振りむくと、水着姿のセリナ・ウー・ハルクレートが涙目になっていた。



◎◎◎◎◎

挿絵(By みてみん)








挿絵(By みてみん)

「うーっ! 評価とかそのへんよろしくだよねっ!」

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