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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
12章 第3部【VS.】勇敢なる世界へ 焔帝ディナヴィア・ルノヴァ・ハルクレート
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487話 【自然女王VS.】神の傑作 資格なき女帝 ディナヴィア・ルノヴァ・ハルクレート

挿絵(By みてみん)

大自然の怒り

過去の鏡


信ずるは


やがて


1本の鍵となる

 まるでユエラの怒りを映すかのようなとてつもないマナの奔流だった。

 森がざわめき緑が歌う。地中奥深くからの小刻みな振動が徐々に大きくなって地平を揺らがす。

 なにか静かなモノが迫りつつある。それもとてつもない、予測不能なものだ。

 ディナヴィアは炭と灰の決闘場へ、ぐるりと長首うねらせる。


『見たところ年若きエルフらしいな。同種でさえ忌避する妾との実力差さえ測れぬほど未熟か。どうやら早々に生を終えたいらしい』


 それからゆるくゴツゴツとした図太い尾っぽで黒ずんだ大地を叩いた。

 ユエラはあまりに若すぎる。死を思わねば寿命のない世界では若年もいいところ。

 しかしディナヴィアは、自分を切れ長の目を尖らせて睨む彼女のことを知らない。ユエラもまたディナヴィアと同様にかけ合わせた能力を特異存在なのだと。


「Grrrrr……」


 大食らいな大顎が開かれた。喉奥を見ろと言わんばかりの大口。

 その奥のほうから白ではない烈火の炎が渦を巻く。轟々と燃え上がりながら1点へ収束していく。

 火球ファイアボール。それも魔法で生みだすのではない龍の炎を固めた巨大火球を用意している。


「……っ!」


 すかさずヘルメリルは視線を送った。

 するとテレーレも意を汲んだか「っ!」こくり、と頷く。

 顔色も悪く過労は明らか。だがそれでも手を掲げいつでも壁を作れる状態を即時整えた。


『命とは儚きものよな。妾が吹くだけでいとも容易くかき消えてしまうのだから』


 そしてディナヴィアの火球がユエラへ真っ直ぐに放たれた。

 周囲の景色すら歪ますほどの業火の弾。それも物理的に当たればひとたまりもないサイズである。

 むかいくる巨大火球を前に、ユエラは毅然として佇んだまま。瞬き一つせず、唱えた姿勢から微動だにしていない。

 テレーレは聖壁の魔法を唱えようとして中断する。


「《テル――……え?」


 壁を張る必要がなくなったというのが正しい。

 むかいくる巨大火球は狙った場所から大きく外れ、空の彼方へ吹き飛んでく。


『木々、というより自然自体を味方につけるか。存外エルフらしい魔法を使うものだ』


 そう言ってディナヴィアは微かに首を引いた。

 余熱を牙の隙間からもらしつつ、火球を弾き飛ばしたソレらと対峙する。


『妾はそれほど魔法の見識が深くはない。しかし自然魔法ネイチャーマジックとはことほか美しい能力であるぞ』


 土を破って青蔦がうねりうねり、うねった。

 その1本1本は龍の尾に匹敵するほど。柔軟かつみずみずしい。

 それがディナヴィアの巨大火球を弾いたのだ。


「お褒めに預かり光栄ね。でも私の魔法はここからがすごいわよ」


 外套をひらめかせたユエラは両手指の先に陣を張る。

 片手には彼女と密接な深い緑、もう片手には月よりもやや薄めな水の色。

 そしてそれらをぱんっ、という軽やかな手拍子のように合致させた。


「……精霊を御す。親和性を高めるのではなく私の元へ跪くように指揮する……」


 精霊へ念じる。すると地面が地中からひっくり返る。

 蔦たちの暴動。ユエラの呟きに命じられるよう一斉にディナヴィアへと襲いかかった。

 まるで自然の津波だ。対峙する面々の衝立となる位置から無限にも等しい生命があふれていく。


『これらは先の詠唱で生みだされたものか。地中奥深くでどれほどの生命が宿ったのかを試し見てやろう』


 ディナヴィアはおもむろに両手を下ろし手爪を地べたに突き立てた。

 覆いかぶさってくる緑の絨毯の影に潜み、呼吸を深く、胸の内側に白炎を貯蔵する。


『《猛火烈炎の吐息プロミネンスブレス》!!』


「GROOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 ディヴィアはそれらを一息に白炎で焼き尽くす。

 しかし絶え間ない。枯れ朽ちた蔦の代わりが、新たな生命が、次々に芽吹いて押し寄せた。

 焼けども焼けども終わりがない。森羅万象そのものがディナヴィアという存在を否定にかかっている。

 まさに大自然の大津波だ。たったひとりの少女によって生みだされた大自然の暴動。

 壮絶なやりとりを前にしてヘルメリルは息をするのも忘れていた。


「デュアルソウル単体でこれほどの力を発現させたというのか……!」


 ゼトとニーヤも、あまりの凄まじさに己を忘れるよう呆気にとられている。


「こりゃあすげぇのう……! 森やら木々やらすべてが嬢ちゃんの使い魔ちゅうことか……!」


「も、森というより自然そのものを操ってる……! だとしたらこの自然の多い場所はユエにゃんにとって聖域なのかも……!」


 一同唖然だ。あれほど怒りに囚われていたということすら忘れている。

 いっぽうユエラは、英傑たちが浮足立つなかでも、ディナヴィアを真に捉えつづけていた。


『これは面白い逸材だ。その若さでよくぞここまで極められたものよ。エルフの少女よ名はなんという?』


「私はユエラよ、ユエラ・L・フィーリク・ドゥ・アンダーウッド。あとひとつ言わせてもらうけど、私はエルフとヒュームの混血だから」


 それを聞いたディナヴィアは一瞬だけ尾先をひく、と揺らがす。

 間もなくして『合点がいった』吐く白炎の勢いをもう1段回ほど強める。


『同じ神に選ばれし逸材とならば先に連ねた言に見合う働きを期待させてもらうとしよう! 若き青き未熟な少女よ!』


 吐息を履きつづけながらズシリ、ズシリと歩み寄ってくる龍の凄み。

 その強者の威圧を前にしても彩色異なる瞳に1点の曇りすらない。


「……ッ!!」


 しかし形勢は徐々に押されていく。

 吹き荒れる猛火。蔦の隙間から漏れでる風は灼熱を乗せて吹く。

 しかしユエラは1歩も引こうとはしない。


「私が馬鹿にされるのは別にいいってことにするわ!! でもアンタはさっき私の家族と友だち、大切なものの全部を馬鹿にした!! 命を賭けてとり戻した私たちの誇りすら踏みにじったのよ!!」


 飛び交う火の粉の風にスカートや髪をバタつかせながらその場で食いしばった。

 地中より流動する蔦の1本1本が彼女のマナそのもの。これだけいっぺんに事象を操っているのだ。凄まじい精神的負担が持続して蓄積していっているはず。


「許さない!! 私はアンタを絶対に許さないんだから!! なにも知らず、前に進むことすらやめて、臆病になって籠に閉じこもる!! そんなアンタを見てるとまるで昔の私を見てるみたいでイライラすんのよ!!」


 ユエラはツバを飛ばすようにしながら叫んだ。

 しかしディナヴィアは覚悟と怒りと才だけで押し切れる相手ではない。

 いくら威勢がよくても次第に蔦の生みだされる両が目減りしていった。


「――くぅッ!?」


 そしてやがて押し止められていた白炎が蔦の雪崩をも飲み込み、吹き荒れた。


「《聖壁テルプロテクト》! ユエラ下がって!」


 すかさずテレーレが前に躍りでて守護する。


「でも――でもっ!? アイツはリリティアと明人がやったことを否定したのよ!?」


 それでもユエラは立ち向かっていこうとした。

 竹色の髪を振り乱した奥では2色の瞳が怒りに濡れている。

 あの一瞬の攻防で相当疲労したのだろう。しなやかな足が上手く地面を踏めていない。


「怒りを飲みこめと言ってるのではありませんこれは適材適所なんです! 思うところはみな同じなのですから!」


 怒りに我を忘れたユエラをテレーレは叱りつけた。

 ヘルメリルも震える細い肩に手を添え、優しく諭す。


「やせ我慢はほどほどにしておけ。そのように消耗させては長くもたんのが常だ」


 そしてユエラの腕を引き、横たわる青年を強引に視界へおさめさせた。

 するとようやく状況を理解したのか。ユエラは「ご、ごめんなさい」吊り上がった目尻を下げる。


「貴様にとって家族とは恩ある者たち。血の繋がりとはまた別の堅い絆のようなもので繋がっているのもわかる。しかしだからこそ恩に背くようなマネは慎め」


 この混血の少女にとって生が始まったのはリリティアという女性がいたから。生まれた意味を知ったのは明人という青年が世界に降り立ってから。

 1から見てきた者だからこそ、ユエラの怒りを理解している。少なくともそのつもり。

 そんなヘルメリルは長耳を下にむける世にも珍しい竹色の髪を優しく撫でてやる。


「治療は済んだのだのならどれほどであの寝坊助は目を覚ます? まずは落ち着いて薬師としての見解とやらを聞かせてみろ」


 すると猫のように丸くなった背が徐々に伸び、前をむく。

 しかしユエラの表情が晴れることはない。


「それが……普通なら目を覚ますはずなのにどんなに呼びかけても全然目を覚ましてくれないんです。呼吸も脈拍も安定しているのに……」


 どうやら怒りのあとは後悔よりも心配が勝ったようだ。

 ヘルメリルは――戦いの様子も気にしつつ――唇に指を立てて思案する。


「なるほどな。生命力であるところの蒼力を失いすぎて昏倒しているわけか」


 ユエラはキョトン顔で「そう、りょく?」と小首をかしげた。


「あの蒼い力は生命力そのものよ、あるいは体力とでも言うべきか。とかくもうしばし耐える必要がありそうだ」


 そう言ってをヘルメリルはスカートを翻す。

 まだ聞きたいことがありそうなユエラだったが、研究結果を説明している暇はない。

 多少の休憩が出来たこともあってかゼトとニーヤはすでに対応にかかっていた。

 白炎が止まったことで一息ついたテレーレは、ユエラの隣へとと、と駆け寄る。


「無理はしないこと、それと協力してこの場を繋ぎましょう。そうすればきっとリリーと明人さんがなんとかしてくれるはずです」


 包み込む母のような笑顔がぱあ、と輝いた。

 ユエラは一瞬呆気にとられるも、「う、うん!」拳を硬く握りしめる。

 とにかくこの戦いの切り札は耐え抜いた先にあるのだ。孤立して戦われたらあっという間に瓦解しかねない。

 なにせ相手はあの大陸最強だ。今なお数多の被弾を受けながら手傷を負った素振りすら見せてはくれない。

 それでもゼトとニーヤは攻撃の手を止めることはない。


「あれだけ言われたんじゃせめてもう1枚は鱗を剥いでやらぁにゃ気がすまんわい!! チェエエエエス!!」


「怒ってるのはユエにゃんだけじゃないさ!! これ以上一族の代表として誇りを穢すようなマネは許さないんだから!!」


 たとえ無駄だとわかっていてもだ。西では伝説なんぞとおだてられているが、このざま。

 自慢できるとするならば技が挫かれても心がくじけていないことくらい。

 だが、今はそれで良いのだ。それこそがもっともたる武器である。


「……」


 ヘルメリルは語らず。

 ユエラとテレーレもまたコクリと静かに首を縦に揺らした。

 そしてほぼ同時に地を駆け、空を舞い、戦線に加わる。

 青蔦がうねり、隕鉄が降り注ぎ、7色が味方の危機を救う。

 あとどれほど命のやりとりを繰り返せば終わりを迎えるか。そんなことすら考える間もなく爪と炎が襲いかかった。

 英傑たちは気づいている。この時を機に世界の行く末が2分化されることに。


 光ある未来か、絶望の終焉か。


「つっ――ああっ!?」


 高速で撹乱していたニーヤが爪によって腹部を刻まれる。

 衣服は裂け、一緒に裂けた肉の隙間からおびただしい血液があふれでた。


「《ハイヒール》!」


 そこへすかさず魔草を指に挟んだユエラが飛びこんで緊急治療を施す。

 ニーヤの傷は光になぞられた刹那の間に艶めかしい白肌へ戻っている。


「ありがとっ! いやぁ、輪廻の川が見えかけたよ!」


「物騒なこと言わないの! それにこれが適材適所ってやつなんでしょ!」


 さすがの大陸随一の上級治癒魔法といったところ。

 瞬間治癒されたニーヤは半死半生だったのにも関わらず、再びディナヴィアへと立ち向かっていった。


『遠方からの魔法役、そして治療役の追加か。ならば手始めに汝等から始末するとしよう』


 まず回復と遠距離を潰すのは戦略上の肝である。

 ギロリ、と。ディナヴィアは、ヘルメリルとユエラへ狙いを定め、火炎を見舞う。

 しかも壁役であるテレーレへ土を掘り起こしての妨害も同時にこなす。


「かわせるか!?」


 ヘルメリルが咄嗟に叫ぶ。

 するとユエラは即座に応答する。


「任せて下さい!」


 そしてふたりはほぼ同時に炎に呑まれかけた。

 ヘルメリルは既のところで大扉へ逃げ込む。

 そしてユエラの体は炎に焼かれたが、虚像。100の葉となり、燃やされた葉だけが燃え尽きた。

 難を逃れたふたりは即座に合流して体制を整える。


「私、誘いの森なんて物騒な場所に住んでるから隠れるの得意なんです!」


「ククッ、心配なんぞ杞憂にすぎぬか。なかなか戦いが様になっているではないか」


「――はいっ!」


 自国の女王に褒められたユエラは照れつつ微かにはにかんだ。

 そしてまた最強存在へと立ち向かっていく。


 空には2色の月が東と西に位置づいて大陸を照らす。

 いずれ来たるべき聖戦ラグナロク。2色の月が重なる時、神と神の戦いがはじまる。

 しかし神の子供たちは、遠い未来を案じるよりも、死ぬ覚悟で今を生きようとしていた。

 それこそが間違いつづけた世界でようやく探し当てた光なのだ、と。



 そう、信じて。




   ♪

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)













挿絵(By みてみん)

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