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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
12章 第3部【VS.】勇敢なる世界へ 焔帝ディナヴィア・ルノヴァ・ハルクレート
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457話 【操縦士VS.】制約決闘 焔帝ディナヴィア・ルノヴァ・ハルクレート 2

挿絵(By みてみん)

勝利条件は

ただ1つ


炎と炎

嘘と嘘


死闘の道理を

制定する

 明らかな力の差が生じるものに対して慈悲ある決断を懇願することも可能であっただろう。

 それでも頑なにも勝負から降りることを放棄する。

 背後ではドギナが「いやぁん!? 正気なのぉ!?」と、つづけてカラムも「なにをバカな!? 血迷ったか!?」彼の背に怒声を飛ばした。


「待って下さい」


 外套がひらめき、小さな三つ編みが揺れる。

 青葉の如き長髪をなびかせ、今にも飛びだしていきそうなふたりの前にでる。


「明人が無策でこんなことをできるとは思えません。だからもう少しだけ先を見てみませんか」


 ユエラは狼狽するどころか涼やかに制す側を選んだ。

 同様に。ゼト、ニーヤ、ヘルメリルも睨むような険しい視線だが、焔龍と対峙する彼の背を見つめたまま動こうとする様子はない。

 共に戦場をかけた仲間たちは指1本なりともださず、口すら挟まず。ただじっと見守っているだけ。


「うぅん……ユエラちゃんがそこまで言うなら致しかたないわぁん……」


「黙して語らず、か。良いだろう我もまた我が娘に勝ち越す男の背を信じるとしよう」


 これにはドギナとカラムの両王は躊躇いながらも口を閉ざし目を伏せるしかない。


「ありがとうございます」


 姿勢を正し、王たちへの礼も忘れない。

 ユエラは1礼をくれると、そちらに彩色異なる瞳をむけた。

 佇まいに不安がないといえば嘘になる。とくに理由もなくブーツを踏みながら歯がゆそうにから踏みを繰り返していた。

 いっぽう明人の耳にとってどよめき如きはすでに無音と化している。


――龍玉の行く末、大勢の見物客、そしてこの挑発。龍族の女帝としていったいどうでるのか。


 対峙する目標を真っ直ぐに捉えながら状況を探っていた。

 精神攻撃は基本だ。なぜならすでに決闘のゴングは鳴っているといっても過言ではない。

 しかし龍と人間が正面切ってバチバチに戦えば、まず勝ち目なんてない。誰の目から見ても明らか。

 だから明人はとあるタイミングで先手をとったし、次も逃さない。

 ツバと一緒に空気をゴクリと飲み込みながら仕掛ける。


「どうせ骨の1、2本折れば引き下がるとか考えていたんだよな。だったらこっちは背水の陣を敷かせてもらう。そんな半端な生ぬるい覚悟でアンタに挑んでるわけじゃないんでね」


 これは先手に次ぐ2手目。

 初手は邪龍の追撃をやり過ごしたあの夜。天使を降臨させることで虚を突くことに成功した。

 その結果がこの種の織りなす円形闘技場。策が講じて女帝を引きずりだすことに成功している。

 そしてこの銀閃の切っ先に籠めた覚悟こそが心を揺さぶるための2撃目だった。


「オレはオレのもつすべてを全賭けオールベットして挑む。天使を使って環境を整えてでも、確実にアンタを女帝の座から引きずり下ろすためにだ」


 明人は、喉元へ狙いを定めるよう剣をもう1度突きつける。

 広大なフィールド。間合いは開いているため攻撃というよりただの宣言に近い。

 だがディナヴィアは眉ひとつも動かしはしない。さらに微塵も意に介した様子すらなかった。


「では汝は妾になにを求める? それほどの威勢を吐いたのだ、よもや攻守の競り合いもないお遊びとは言うまいな」


 瞳だけがじっとこちらを心の臓を射抜く感ばかりに見据えている。

 強者の余裕か。構えもしなければ鱗をまとう仕草すらない。

 龍玉の件もあって精神的に揺さぶられているだろうに、冷徹な仮面を被ったまま。


「決闘に絶対遵守のルールを制定したい」


「環境、そしてルール? つまり縛りを設けたいくさといったところか」


「そう。なにせなんでもありのデスマッチじゃ――きてくれたみんなにも申し訳ないじゃないか」


「……」


 明人もまた彼女と性質が異なっても、同様である。

 艶めかしい色気迸る唇に指添え黙るディナヴィアを前に、物怖じした様子は見せぬ。

 どれほど底冷えしていても、ポーカーフェイスは崩さない。

 とにかく気合と根性の精神論でもって睨み合えている。

 すると先に折れた――折れてくれたのはディナヴィアのほうだった。


「ならばその定めるルールとやらを聞かせてみよ。どれほど練りに練ったのか興味が湧いた」


 さあどうぞ? とばかりに手を開いて伸ばす。

 一挙手一投足に高圧的だが品のある所作と、芳しい色が匂い立つ。

 なにせ身に帯びるのは衣服というより布切れ。滑らかな肌を存分に晒し、おおらかに突出した箇所を最低限隠すのみ。

 一糸まとわぬ姿ならばまだ目を伏せることもできよう。

 しかし中途半端に見せぬため迷いが微睡む。老若男女種々雑多な視線は滲んでいたり食い入るようだったりと、様々。

 それでもディナヴィアは気にした風もなく尾を流す。


「汝の言う通りだ。未だ日も高いため余興くらい用意せねば種族の歓声に釣り合わん。それにこのような粗末極まりない場へ降臨した天使への土産もいる」


 筋の通った鼻をフンと鳴らし密かに目を細めた。

 その中間。双方ともに中立の位置でエルエルは、おろおろ。


「わ、ワタクシはいったいこれからどうすればいいんですのよよよ……」


 ブルーの瞳が両者を交互に泳ぎながら見るからに不安を滲ませている。

 ディナヴィアが引っ張りだされた被害者だとするなら、彼女はさらに巻き込まれただけ。


「神の使いとしてはどちらに加担することもできないんですのよ……。でもディナヴィア様が苦しんでおられることに天界は胸を痛めてますし、さらには龍族には自由であってほしいけど……。ううう、どうしたらいいんですのよ……」


 ひしっとしがみつくよう天秤を双子の山に埋めておろおろ。眉尻までしょげてへの字を描いている。

 そしてそんな彼女こそが決闘を決闘たらしめるための鍵なのだ。


「エルエルはお互いの同意をとって公正かつ公平な審判をしてくれればそれでいいよ」


 元凶あきとが、ふふ、と微笑みかけても、エルエルの上がった肩は下がらない。


「ですからぁ……。ワーウルフたちのときにもおっしゃりましたけど、ワタクシの審判はそっちの意味の審判じゃないんですのよぉ……。これで2回目ですのよぉ……」


 ぶちぶち、と。文句をいいつつ浮かびながら竿に干されたようだらりと上半身を曲げる。

 突きだされた丸い尻が頂点をむく。白いワンピースが太ももをするする昇って子供っぽい色合いの薄布が見え隠れする。

 するとぷるりと豊かな臀部のむけられた観客席のほうで「……ぉぉぉ」低い音で若干ほど賑う。。

 その浮かれ気味な隙を縫うよう、明人は自然な所作で四方へと目を逃がす。


――ここまでオレが好き放題やってもでてこない。なら、やっぱり天使がいる手前直接はしかけてこれない感じか。


 視力の良いクリアな視界をざっと見渡す限り、目的の影はない。

 ディナヴィアを透かした後ろ側の席には龍族たちがぎっしりと詰まって群れている。

 鱗たちは最強種族だというのに身じろぎひとつもしやしない。

 ただ黙々と決闘場を高い位置から首を長くして見下ろしていた。


「とっとと条件とやらをさっさと聞かせてみろ。汝が命すら賭すと言うのであれば、妾も誠意をもって対応してやらぬこともない」


 対してディナヴィアは決闘に前むきともとれる。

 それも暇つぶしとして尋ねているようにもとれなくはない。

 聞くだけならタダというやつ。そんな感じで余裕の佇まいだ。

 据え膳なのだから明人も乗じるの1択。

 あとそろそろ腕が疲れたので伸ばしていたナマクラを下ろす。


「じゃあまずはお互い武器の使用を許可することにしよう」


 パチン。指を擦り鳴らし、とびきりのウィンクとともに提案した。


「……き、にしろ」


「あれ? まさか武器の使用はダメだったりするのかい?」


 明人が前のめりにもう1度尋ねると、ディナヴィアは本当に僅かにだが眉をしかめる。

 さも下らぬとばかり。見事な赤色に包まれた尾っぽをぶぉんと振ってみせた。


「……好きにしろと言っているのだ。その程度の縛りなんぞをもうけるまでもない。龍に挑むというのに丸腰であることのほうが舐め腐っている」


 朗報だ。偉大な龍は相手に武器を使わせてくれるらしい。

 これには明人も「そっかぁよかったぁ……」一安心といったところ。

 パイロットスーツと胸甲の2重に守られた胸を大袈裟に撫で下ろす。


「んじゃあ。そっちは最強種族の龍なんだし魔法の使用も禁止してくれ」


 まるで流れるかの如き切り替えの速さ。

 ケロッとしたまま強引に次の提案を押しつけた。

 しかもそれだけでは終わらない。


「あとお互いに種族としてあるがままの姿で決闘しよう。せっかく異種同士の闘いなんだしポテンシャルを尊重し合おうじゃないか」


 相手の反応すら見る間もなく、さらにこちら側の要望を伝える。

 野次もガヤも入る余地は与えない。

 畳み掛ける。怒涛の岩雪崩の如く押し切っていく。


「それと時間制限のようなものはなしでいこう決着がつくまでのサドンデス勝負だ。あと水分補給なんかも大切だから決闘の間に3度だけ休憩を申告性にしてもうける、いついかなる場面でも申告が間に合えばいったん試合を中断するんだ。あと空の覇者とか呼ばれるほど空が得意なようだし翼の使用は禁止しよう、あでも、その代わりまどろっこしいから別の箇所は全て使用可能としておこうか。翼で叩いて攻撃っていうのは当然種族としての特性だからそこに文句は言わない。それに武器が使用可能っていうことは広大なフィールドにあるものであればなにを使っても良い、そういうことにすればより盛り上がると思うんだよね。ああ、でもその代わり観客たちに被害が及ぶのだけは避けて――」


 明人は膨大な情報を矢継ぎ早に提示する。

 とにかく早口に舌を回す。相手に思考する暇すら与えてはやらぬ。詐欺師の手口。

 そのあまりの速さにもっとも慌てているのは言うまでもない。


 「えと、えとえとえととぉ!? し、深刻なおみじゅが空を飛べなくて文句がないんですのよ!?」


 指折り数えることを放棄したエルエルは髪を乱してパニックに陥っていた。

 逆に、彼という人物にゆかりのある者たちは焦りも身じろぎもしていない。

 ほぼ全員が重ったるそうに頭を抱えている。


「NPCなのだから恥と外聞くらい容易に捨て去るか……。とはいえ察しているこちらもこちらではあるのだがな……」


「ふにゃーが正々堂々なわけにゃいんだにゃあ……。もうちょっとしたらディにゃんも後悔しはじめるにゃ……」


「男は背中で語れぃ……。アレ……ワシの弟子なんじゃよ……」


 語らず、にゃにゃにゃ、双腕。

 三者三様にだが基本的には呆れていた。

 つらつらと語られる細かな提案。なかには雑談のような軽口なんてものも混ぜられていたりと無駄も多い。

 だがそれでも長身で逞しい背を見つめて逸らさぬ者たちもいる。


「たぶんですけど、明人さんはずっとこのときのために練習を重ねていたんでしょうね……」


「たぶんじゃなくて絶対にそうよ。クレーターから帰ってきてからも眠れてなかったみたいだもの」


 ユエラとテレーレは隣り合う。

 視線を彼から外そうともしない。

 ただ真剣な眼差しで臆病な背中を甲斐甲斐しく見守っている。


「――っていう感じのルールはどうかな? 必要ならもう1回はじめから何度でも繰り返し言えるけど」


 言い終えた明人はさもありなんとばかりに「悪くない条件だろう?」腰に手を当て、悪びれもしない。

 だいいち龍としがない人間が決闘なんて成り立つはずがない。龍とともに暮らしている者だからこそ誰よりも熟知していた。

 しかも相手は大陸最強の頂点。まともに闘争試合やりあうなんて人が宇宙に挑むようなものだ。

 そしてここにいるのは嘘つき。さらに自他ともに認める卑怯者である。


「いい勝負をしたいならこれくらいの条件を整えないと――この場に集まってくれた観客たちが楽しめないんじゃないかな」


 いつものようにふてぶてしくは笑わない。まだ、笑えない。

 これは要望なのだ。受けるかどうかは相手の機嫌しだい。

 いっぽうでディナヴィアは連なる要望を子守唄代わりにうたた寝をするよう目を閉じ、時折小さく頷いていた。


「……汝はそちら側か……」


 説明の途中からずっと閉ざしていた瞼がゆっくりと開かれる。

 燃え滾るような紅の瞳。それでいて虚ろげ。

 感情のない瞳。目に目を奪われそうなほど美麗な燃える瞳は日の下であっても曇ることはない。


「それが汝を無謀たらしめた秘策ということか。よくまあそれほど舌も頭も回るものだな」


 ため息交じりに細工物のように白く細い指をくるくる回す。


「龍みたいに首が伸びないぶん、いい感じで回るようになってるんだよ。世の中っていうのは上手く出来てる証拠だね」


 小粋な冗句を交えながら明人には、こう見えている。


――綺麗なのに……涙を擦りすぎて涙腺が閉じたようなツラだな……。


 頂点に立つというのはどういう気分なのかなんて。矮小な人間にわかるはずがない。

 それでも彼女が己の立つ位置よりも酷い境遇にいることだけは確かだろう。

 でなくば、そんな吹きすさぶ雨風のなかで震えるような表情が出来ようものか。


「…………」


「…………」


 1人と1匹は風すら塗りつぶす静寂のなかで見つめ合う。

 会場も緊迫感を悟ってか汗の滴る音が聴こえそうなほどに静まり返る。

 同じ世界に住む種族たちに彼女はいったいどんな感じで映るのだろう。

 少なくともなにも知らぬ人間にわかるのは1つだけ。


――風当たりの悪い井戸のなかのほうがまだ居心地良さそうだ。


 すると陶器を撫でるように澄み渡る音色が鼓膜を浅く揺らがした。


「受け入れよう」


 抑揚もなく、熱もなく、短く、たったのひとこと。

 ディナヴィアは頷きもせずに肯定した。

 これには明人も心のなかでグッ、と。ガッツポーズをとる。

 しかしその勝ち誇った心地は「だが……」のふたこと目によって砕かれた。


「身に宿る魂は1つ。3つに分けるような冒涜は見過ごせぬ」


 明人の心臓がドグンッ、と高鳴った。


「3度の申告にて決闘を中断するということだけは容認できない。たとえ汝が命を賭けたとはいえどもな。いくら用意した策とて終焉を引き伸ばしては盛り上がるどころか冷めかねん」


 こういうとき吐息が冷たく感じるのはなぜだろうか。

 肺で温められるはずの酸素が、肺を冷やし、指先足先まで冷たくなってくる。

 腹の底の辺りがぷるぷると震えてしかたがない。


「汝の底が見えた。そのように策を巡らせる同種もいた。その結果がどうなったかわかるか?」


 ここで初めてディナヴィアは微笑んだ。

 これでもかと口角を引き上げ、目尻にシワを寄せ、炎色の瞳と牙を剥く。


「井の中の蛙よ。汝も大海を知らずに這いだすがゆえに同種たちのように空の覇者の胃の腑へおさまるか」


 引き攣り、たじろぎ、呼吸すら止める。

 観客たちはゾロゾロと彼女の狂気的笑みに悲鳴を押さえていた。

 周囲を圧迫するほど、おぞましい笑み。

 というより、心の平静すらとれていないのだろう。

 手合いを凌駕し脅すような。鬼気迫るが如き黒い感情を剥きだしている。


「くっ……どうしてもか?」


「2度は言わぬ。それでも引き下がるというのであれば――それまでとしよう」


 炎の蛇が蛙と称した人間を睨む。

 そしてそれは間違いなく蛇ではなく、正真正銘の龍なのだ。

 髪が揺れ広がり、ともに広がった熱が肌の表面をまとって背景を陽炎のように揺らがす。

 女帝というにふさわしい目の覚めるような存在感を放っている。


「見え透いている。世辞にも賢いとは言い難い。汝の背中はもはや透けはじめている」


 明人はたまらず凶悪な笑みから目を反らす。

 そのままくるり、と。 翻 す 。


「わかった非礼を詫びさせて欲しい。だから……少しだけ待ってもらえないかな」


「殊勝なことだ。妾とて弱者を嬲るのは趣味ではない。輪廻へ旅立つ前に支度くらいさせる時間はくれてやる」


 寛大な女帝の許しを得て、明人はすごすごと仲間たちの元へ戻っていく。

 簡素なショルダーアーマーをつけた肩はがっくりと落ち、偉大なものと謁見するみたいに頭は垂れ下がっている。


「明人! ねえ、大丈夫なの!?」


 そこへすかさずといった速さでユエラが駆け寄ってきた。


「…………」


 しかし明人は反応すらして見せない。

 ずりずり、ずりずり、ずりずり。手には数打ちの安物を。

 引きずられた切っ先が地面へ1本の線を描く。


「ちょ、ちょっと!? 明人ったら返事くらいしてよ!?」


 ユエラは黒い前髪のむこう側を覗き込んで目をぱちくりと瞬かせた。

 そしてなすがまま。彼が外套のポケットに手を突っ込んでも目を丸しながら見上げている。


「いやあ、コンティニュー回数が減っちゃったよ」


 四角いものをとりだした明人は、ようやく笑えていた。

 ディナヴィアのような醜悪な笑みではなく、頬をほころばす。

 そんなまるで今日ここにいないふわふわな頬をマネるかのように、微笑んでいる。

 想像とは違ったのか。ユエラは鯉のように口をぱくぱくとさせる。


「こ、こんてて……ふにゅう?」


「オレじゃなくて、コンティニュー。まあ、あれは露骨な目逸らし的なやつだよ。要するに木は森に隠せってことだ」


 明人がざっと解説するも、前髪横の小さな三つ編みがぷらりと揺れるだけ。

 相手が理解できないからといって説明をつづけるとは限らない。


「とりあえずはオレの1勝。小さな小さな勝ち星ってことだよ」


 さらに彼は引きずっていた剣をもちあげる。

 それは今日のために用意した数打ちの鉄塊。珍しく腰に帯びてみたもののだ。


「どうにもこうにも重くてしかたがなかったんだよね」


 そしておもむろに投げ捨てる。

 やはり捨てられた剣は高く、それでいて悲しい音を奏でて決闘場に転がった。

 ようやく笑えたのだ。堪えて堪えて腹が震えるほどに我慢していた。

 それから振り返って語りかける。


「ディナヴィアさん。もしオレの背中が透けてるって言うなら、きっとよく見えるだろうね」


「なんだ……その余裕の表情は? 死の淵に立って気でも狂っ……――ッ!?」


 そしてとりだした四角い物でカチリ、と。

 すでに呼んでいる。


「オレの相棒を紹介するよ。武器の使用は許可してもらったことだしね」


 たったの親指1本だけ。それだけで白けた炎色の美貌に影が群がる。


鉄のアイアン――巨人ゴーレム、だと!?」


 今度はディナヴィアが余裕を乱される番だった。

 そしてその予想は大外れもいいところ。


「違うよ。ただの超過技術オーバーテクノロジー、ただの重機だ」


 操縦士パイロットが雑な紹介をくれるなか。

 入口で待機させられていた重機は、威風堂々としたもの。

 ズズズン、ズズズン。世界を削って大地を震撼させる。

 ズズズン、ズズズン。膨れた機体は重く、振動と大きさだけならば龍にも負けず。

 歩み寄る4脚が龍の巣を穿つ。

 鋼鉄を唸らず。雄叫びをあげつつ入場してくる。

 吸入し爆発するエンジンの鼓動恩は龍の咆哮とどちらが上か。

 少なくともこの重機の大きさは彼女の真の姿に及んでいる。


「それが汝の切り札ということか……! 面白い……! 面白いぞ……!」


 沸き立つ観客の歓声に混じってくるディナヴィアの高ぶりを耳に、明人は剣を手放したはずの手に背負った銃器をもつ。

 今、彼は散弾銃――RDIストライカー12を片手に、笑えている。

 厚いクマを深めて目を細め、あの夕日に飛び去っていた影へと微笑むみたいに笑えている。

 そして1つの愛を籠める。丸い弾倉へと黒き鱗をまといし龍の残した思いを籠めた。


「あの時にアンタは確かに見せてくれた。恐怖と歯噛みするほどの怒りと悔しさを。黒龍セリナ・ウー・ハルクレートが残したたったひとつのほころびをだ」


 女帝は、龍玉の行方を暴いても反応すら見せなかった。

 まるで怒りかたすら忘れてしまったかのよう。檻から逃げだした2匹の龍もきっとそんな顔をしていたはずだ。

 そしてそれが勝利へと繋がる栄光への道となる。


「焔龍ディナヴィア。オレはこの決闘でアンタの感情を暗い穴の底へと引きずり込んでとり戻してやる」


 宙間移民船造船用4脚型双腕重機ワーカーの麓に、イージス決死隊の操縦士が立つ。


「頂きにいたって寒いし高いし窮屈だっただろう? でも下りられなくて震えてるなら――オレが無理やり引きずり下ろして穴の底に引っ張り込んでやるさ」


 明人の課した決闘の勝利条件はたった1つ。

 それは女帝焔龍の感情を引き戻すこと。

 邪龍ミルマによって閉ざされた心を、揺り籠と言わずもっと揺らして噴出させる。


「意外と落ちるとこまで落ちてみると悪くないものだよ。楽じゃないけど住心地の良い新世界が見えてくるくらいにはね」


 強き存在者ゆえに固く結んで解けなくなってしまった感情の蓋をこじ開ける

 だから明人はもうちょっとだけひた走ることにする。


「その蛙、アンタと違って、笑えているよ」


 そんななか心にぽっかりと空いた穴。

 風通しが良すぎて僅かに心地悪く、寂しい。

 そんな気がした。



♪♪♪♪♪

※非常にくだらないので空気感?を大切にしたいであろうかたは逃走推奨

 目隠し用成長要素があるのに成長しきってるロリっ子たちの群れ(ひとりを除く

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)






ソレトジカンセイゲンノ……


「じ、時間制限はなしで……ウドン、ですのよ?」アセアセ


スイブンホキュー……


「それとお水……3度だけのおみじゅ……おみじゅ……」セカセカ


イツイカナル……チューダンスルンダー……


「いつイカが襲ってきてもチュ~する? 意味わかんないんですのよよよ……」ワタワタ


バサノシヨーハキンシ……


「サバは謹慎ですのよ!? サバ様がいったいなにをしたっていうんですのよ!? 言われもない罪は審判の天使として許すまじですのよぉう……」スョボーン

シオハコサジイッパイハン……


「えっと塩は小さじ1杯半……? 1杯半というのは1杯の半分か、1杯と半分かで意見が割れるところですのよ」セェボーン?


アトハヨクネカセテカラ……


「ふんふんふん。こねた生地を寝かせる……というのはお布団に入れればいいってことですのよ? お布団をとられるとワタクシの寝るところがなくなってしまうので一緒に入っちゃってもいいんですのよ?」キョトーン


カリットオーブンデヤイテカンセイ!!


「やったー! これでついにふわふわのパンが完成ですのよー……ぉ? にゅん?」



フヨフヨフヨ……(理解が及ぶまで閑話休題



「観客たちの歓声かんせいに混ざって聞こえてきてた美味しいパンの焼きかたを――まさに完成かんせいさせてしまったんですのよ!?」ギョッ!?




※ちゃんとごめんなさいをして教えてもらったし、とくに怒られもしなかった




「うぇぇん……回りくどかっただけで3つくらいしか重要じゃなかったんですのよぉん……」フーヨ、フヨ、フヨ









『 新  ・  パ  ン  の  天  使 』

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