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『※新イラスト有り』437話【VS.】永劫の籠に辿る蒼 龍族の巣 ドラゴンクレーター 中編

挿絵(By みてみん)

空に渦巻く龍の影


絡み合う運命に

翻弄された聖なる騎士


待ち受ける

邪の根源


(前編から区切りなし

「こ、これはなんというか……絶景ね。もちろん絶望的な景色っていう意味だけどさ……」


「ぁぅ……多すぎ。しかも待ち伏せされてる……」


 隔たりが失せた空を仰ぐ。するとフィナセスとムルルは口角をけいれんさせ笑えないという顔をする。

 天空を彷徨うのは鳥か虫か。そのどちらでもない。藍色の綿を優雅に蠢く者たちのすべてが龍なのだ。

 発見できたところでこちらは弱種。扱いに困っているのか大量の龍が円を描くように夕暮れを過ぎた空を飛び交っている。


「気をとられるな! あっちが手をこまねいてくれてる今のうちに駆け抜けるぞ!」


 うんざりと上を眺めていると、明人に鋭く注意されてしまう。


「ひぃぃん! わかってるわよもう!」


 フィナセスはやぶれかぶれな感じでぎゅうと手綱を握った。

 暮れゆく空を舞い泳ぐ天空の覇者たち。その下でなりかけた夜の冷気を切り裂くよう、紅と青の2色が矢の如く駆け抜ける。

 大陸最強種族の住まう龍の巣へ挑んだ愚か者がここにいた。通常の神経をしている種ならばこんな愚行を犯さない。

 普通に生きて暮らして往生する。平穏をとり戻した世界で退屈な幸福を享受することこそ神の願いというもの。

 しかしもう後には引けない。導火線に火が点をつけたのだから消すわけにはいかないのだ。

 無数の龍が集うと、さながらこの世の終わりみたいな景色。見ようによってはくたばり損ないたちが死肉へ変わる瞬間を今か今かと待ち構える鴉のようでもある。

 そんなひしめく絶望のなかでフィナセスは唐突にけたけと声を上げる。


「あはははっ! なんか私たちすっごいことしてるのかも!」


 手綱を振って馬にムチを入れ、頬を紅潮させながら嬉々として空に唄う。


「ねえ見てよ! こんな一介のエーテルがおとぎ話でよく聞く龍たちを巻き込んだとんでもない冒険をしちゃってる! こんなの信じられない!」


 弦楽器を弾き鳴らすようなキンキンとした声色が森のあった方角へと流されていく。

 揺れる振動で清らかな声と一緒に三つ編みがうねって踊る。根本の赤いリボンが蝶の羽のように羽ばたく。


「田舎からでて聖女様に仕えて! しかも世界まで救っちゃった! 平和になったと思ったら今度は龍族よ! なんかもう波乱万丈すぎて楽しくなってきちゃった!」


 明人はおそるおそる声のする斜め後方を振り返った。

 非現実的な光景に気でも触れたかと、とりあえずできることをする。


「後半の2つオレのせいだな! なんかもう本当にごめんなさいだ!」


「ううん、いいの! 私たぶん今が1番幸せ! ムルちゃんとガルちゃんと一緒に暮らせる今がすごく幸せ!」


 言いながら、フィナセスは首を横にゆるく振る。

 手綱は話さずぐしぐしと、笑い涙を拭う。


「ムルも! ムルも今が好き! 外にでておねえちゃんとお話できたのが嬉しかった!」


『ま、ワタシちャんさんが幸せならオレちャんはドッちデもいいゼ! あとほんの少しのエロガあれバ絶好調ッてやつダ!』


 すると後ろからも愛らしい高い声とセミの羽をこするような音が同時に聞こえてきた。

 濡れた銀の瞳を丸くしたフィナセスは、頭だけで振り返り、肩越しにそちらを見つめる。


「……ほんとだよ?」


 小ぶりな琥珀色の頭がきょとんと横に傾く。

 眉を困らせたムルルへ、フィナセスは母のような微笑みを贈って静かに前へむき直す。


「……うん、知ってる……知ってるよ、ムルちゃん」


 純白の鎧に包まれた背中が丸くなった。

 きっと彼女は幸せものだ。ここは聖騎士ということで同種からも迫害されてきた爪弾きものの辿り着いた安楽の場なのだから。

 絡み合う運命に惑わされながら耐え抜いた強き者。その結末は幸福でなくては恵まれない。


「……すんっ」


 フィナセスの高く白い鼻がひくりと動く。

 襲いくる暴風が彼女の目元からキラキラと美しい粒をさらい龍の地へ置いていってしまう。

 そんな嬉しさからくる感涙に咽ぶ姿を、明人だけ見ることができた。

 しかしそれもふた啜りぶんくらいの短い時間だけ。手甲の平で拭うと清廉たる聖騎士の表情へと戻っている。


「ダープリ! 私今最高に幸せよ! だからありがとう!」


「おう、こちらこそだよ相棒」


 隣り合い、伸ばした拳をぶつけ、目指す方角を見定める。

 森を抜けたところは、上りと下りを繰り返す平坦な丘の山々が連続してつづいているような地形だ。お陰で視界も広く、走る上で気を使う必要はない。

 そのまま速度をぐんぐん上げながら息せき切って走りつづける。足を止めたら死んでしまうかのようにどこまでもひた走る。


――このままスムーズにコトが進むなんてありえないだろうな。


 明人はすばやく森の位置と沈んだ夕日の残光を確かめて残りの距離を測った。

 地図に描かれていた限り、先ほど抜けでた森と目的地までの距離はそれほど広く開いていない。となればもう間もなく見えてきてもいい頃合い。


――やっぱり待ち伏せか。そうなると邪龍のやるオシオキに期待するっきゃないな。


 蒼に縁どられた黒瞳が行く手を阻む集団を捉えた。

 手早く、揺れる合成皮革製のポーチを開く。そしてあるものを外し、あるものをとりだす。

 作業を終えたそれとほぼ時を違えず、フィナセスもその存在たちに気づいた。


「いるわ! しかも4匹つ! たぶん私たちと馴染みのある3匹と邪龍さんよ!」


 言われるまでもない。操縦士の瞳はすでに4匹の存在を認知している。

 しかしそれ以上に喉を唸らせるだけの要因があった。

 明人は苦々しく眉の中央にシワを寄せてそれらを睨む。

 これ以上不純物は策に組み込みたくない。つまり面倒事はもうたくさんだということ。


「あれは……神殿? 龍族は文化を発展できないはずじゃ……」


「言われてみればたしかにそうね? それに普通、神殿ならルスラウス様を讃えるなにかしらの細工物が飾られているはずなのに?」


 目的地――のはず――に立てられていたのは建造物だった。

 それはまるで古くから存在する荘厳な神殿のよう。くるものを誘う道に土質石灰石の石柱が幾数本左右均等に並べられ、最奥には滑らかな白亜の建物が建っている。

 明らかに何者かの手によって建造されていることだけは間違いなかった。


「たぶん……龍玉を賜る前の遺産かな?」


 ムルルは自信なさげに眉をしなだれる。

 明人がフィナセスへ目で訴えるも、わからないとばかり。三つ編みを横に揺らすだけ。

 聖都に住まう聖騎士が存じていないのであれば人間が知るわけがない。だがやはりあまりにも不自然だった。


『呑気にお喋りしてる場合ジャねェんジャね? 流石のオレちャんデもオシャブリッて言わないくらいには空気読んジャうくらいデンジャーダゼ?』


 低く静音でも耳障りな声に、一党は緊張の糸をピンと張り詰める。

 そしてちょうどよい間合いまで近づいて足を止める。

 この場面でちょうどよい間合いとは、おおよその会話が可能なくらい離れているということ。

 さらには待ち受ける面々は想像に易い顔ぶれだ。海龍、地龍、岩龍、邪龍の4匹、残りが揃い踏み。

 しかもフィナセスの言葉通り、匹。種の姿ではなく龍の姿で出迎えてくれた。


『な……なあ兄弟こんな馬鹿げた茶番はもうオシマイにしてくれねぇか?』


 小さき者と覇者たちの対峙だ。

 聞き覚えのある声が湿った感じに脳へ直接思いを伝えてくる。


『余計なことは考えねぇでいいんだ。そうすりゃオレっちらは手をださねぇってさ、邪龍を説得して約束させてあんだよ』


 蹴爪を石畳に食い込ませ、おずおずと殺傷力の高そうな岩の腕が伸びてきた。

 しかしやはり対比で言えば触れられるだけで死に至る。タグマフも理解しているのだろう、その強靭な岩肌の腕をそれ以上伸ばしてくることはなかった。

 辛辣な場面で初めて見ることになったが、彼もまた他の龍に劣らない厳しい形をしていた。

 全身が鱗の代わりに岩で覆われている。そのせいかやはり表面はゴツゴツとして横幅が広く、全身に板金鎧フルプレートメイルを着込んでいるかのよう。さらに当たり前のように巨大だ。


「この声……まふーかな? すごいかっこいいね?」


 フィナセスの背後からひょっこり顔をだす。

 かぶり直した帽子の星を垂らし、ムルルはつば越しに岩龍を無垢な瞳で仰ぎ見る。


『お、おう、ちゃんムルじゃねぇか。へへっ、サンキューな。それと、ちゃんムルも説得に協力してくんねーか?』


 褒められたタグマフはくすぐったそうに長首をうねらす。

 むけられる羨望に似た眼差しに照れるよう岩の爪でガリガリと鼻の上を掻いた。

 そして念を押すように1歩こちらに踏みだし、横から伸びてきた歪な手に遮られる。


『やめておきなされ』


 体は変われど涼やかでどこか格式の高い声が横入りしてきた。

 説得に躍起になるタグマフを、グルコが静かに諭す。掘ることに特化したかのようなより巨大な手で邪魔をする。


『邪魔すんじゃねえ。今オレっちは兄弟と話をしてんだよ』


『拙僧とて実になる話し合いを望んでおったが……どうやらそうならないらしい』


『ハァ? なにをワケのわからねぇことを言ってやがるんだよ……?』


 タグマフに低く凄まれるも、彼は平静だった。年長者特有の貫禄すら感じさせる。

 さらにグルコはくるくると喉を鳴らしながら小さき者へ頭を下げる。

 モグラのように先端の鋭利な鼻先を明人へと近づけ、臭気を集めるようしゅうしゅう鳴らす。


『これは内に決意を硬めたモノノフの香ですな。主殿の身体から聞こえてこられまする。地の響きすら届かぬ岩よりも堅牢な勇ましき香とは……難儀なことですな』


 ふしゅう、と。生暖かいため息が一党の全身を撫でた。

 今なお雲をかき混ぜるようにし、すり鉢状になって泳ぐ1匹1匹のすべてが龍である。そして地上に立つ4匹の龍もまた同様の種族。


「…………」


 だがこの冒険者風の青年は身じろぎひとつもしない。

 どころか身体を覆う蒼を鎮めて傷錆だらけのプレートを誇らしげに押しだすように佇んでいる。

 そして口は真一文字に結び、クリアな瞳ははじめからタグマフを視界に入れていない。

 ただ熱意ある視線は聡明な海色の青にのみむけられている。


『かなりやってくれたよね。はじめからぼくを利用するつもりで提案を受けたっていうんだからさ。正直してやられたって感じだね』


 いつもの誰かを小馬鹿にするような軽い口調ではない。若干の濁りを含んでいた。

 青い鱗に覆われた長尺の細身――同種のなかではだ――を華麗にうねらす。


『でもぼくは、きみと、きみたちに対してかなり特別な感情を抱いているのも事実だ。だからきみにはこれからやるべき選択肢が2つ用意されている』


 スードラの透けるような青い瞳が細くなる。

 それだけで底から次第に凍りつくような狂気が生まれた。

※後編へ



前回のイラストとさらに今回も新規のイラストを紹介するコーナー

(だいぶん私事がありますのでご注意を

※目隠し用裏でメチャクチャがんばってる巨乳両性女より審判のですのよ天使

挿絵(By みてみん)










ということでこちらもまたまた敬愛する『仲田静』様より描いていただきました

いつもいつも本当にとってもお世話になっております



臭い物好きな臭フェチさん

母性もあふるる巨大龍


ネラグァ・マキス・ハルクレートです


挿絵(By みてみん)

プロフィールは作成中です

とりあえず身長が2mを超えているのは確実です

頼んだらなんでもしてくれるセリナちゃんがいますけど、この子もたいがいです

というか白いのを除いた龍族はだいたいがたいがいです







そしてこちらもいつも可愛いデフォルメをありがとうございます!

『はなもり』様より描いていただきました


スードラのちっちゃい板

スーミニくんです


挿絵(By みてみん)


た い が い で す よ ね ?





それではっ!

挿絵(By みてみん)

そのうち坂場研究員の日誌をまとめるかもです

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