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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章 あの子の性別 この子のパンツ そしてオレは荒野に猛る
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41話 そのため、覗きに罪はない

 星の瞬きが希薄になる頃、エルフたちは指呼しこかんにある対岸を目指す。

 大陸中部から南東にかけてを流れる川の名はヤーク川。数百年にも渡って睨み合いのつづく小競り合いの最前線だった。

 向こう岸に見えるは地平の埋める壁のように鉄巨大(アイアンゴーレム)土巨大(マッドゴーレム)が設置されていた。ドワーフお得意の工作の賜物。対してこちら側には木巨人とエルフの戦士たち。


「今日もドワーフは現れない……か」


 ひとりの高貴な服飾を帯びた女性がどこか退屈そうに対岸を赤い瞳で見下す。

 露を孕んだしけた風がドレスの裾をなびかせた。網目状になったレースのスカート透かして病的なまでに純白の足が伸びている。


「奴ら、いつまでこんな睨み合いをつづけるつもりでしょうか?」


 髪を高く括った男のエルフが横に立って問いかけると彼女の長耳がヒクリと上下した。


「知らん……が、そろそろ歩を進めねばならんだろう」


 男の方を見ずに蝋燭のような細白い指を頬に添え、答えた。

 血と油と鉄と。戦場の臭いだ。

 船を出せば投石によって川底へ沈み、逆もまた然り。魔法と魔法のぶつかり合いとなればエルフに理があり終わりも見えるものだが。しかしどういったことか、ドワーフたちはいつからか姿を表さなくなった。


「ちッ……忌々しい土くれどもが」


 ルージュのひかれた唇に尖った歯を立てて女性は、無限に湧いてくる有象無象を憎々しく睨んだ。


「大陸上部の内乱が気がかりで?」


 男が半身を開くと腰に帯びた剣がカチャリと音を鳴らした。


「それもある。小耳に挟んだ話だとじきに収束にむかうとのことだ」


 終戦。

 こと、現在のルスラウス大陸に置いては死命を制した側による虐殺の意だった。

 四足、毛玉、鱗、それらを一括りとした反乱軍とワーウルフ軍の内乱。どちらが勝利しても結果は変わらない。まだ奴隷となれるだけましというもの。

 北側の元ヒューム領を越えて迫るワーウルフと、眼前に展開された西のドワーフがいる。もし大陸上部で雌雄が決すれば、それはエルフ種にとって2国を同時に相手にすることになるだろう。


「早期の決着が望まれますね」


「……フンッ」


 さもありなん。だが、気にくわない。

 女性は艷やかな黒い髪とドレスの裾をひるがえしてヒールの踵を鳴らした。

 ドワーフとの決着がついたところでエルフの出血は必至となろう。後に迫るワーウルフを相手に防衛するだけの余力が残っているわけもない。


 追う手を防げばからめ手が回る。もはや、すべては後手。

 辛酸をめるが如く女性は忌々しげに爪を噛む。

 そして、ふとここではじめて男の顔が視界に入った。なにやら見覚えのある顔の細かい傷。歴戦の証というやつ。


「貴様……救済の導を壊滅させた救出部隊に入っていたか?」


「ええ。というか……今気づいたんですか? 結構、僕らって付き合い長いんですけど」


「下々の顔なんぞ覚えていない」


 がっくりと。男は肩を落とした。

 そして、女性は宙に視線を巡らせ、機を見たと言わんばかりに口角を吊り上げた。足元を覆う闇の波動が踊り狂う。


「クククッ、例の鉄巨大を操るという白銀の舞踏(ソードダンサー)の腰巾着がいるらしいな。話を聞かせろ。今はライバル……いや、宿敵の手も借りたいのでな」



○○○○○



 誘いの森にミルク色の朝靄がもうもう立ち込める。

 ひんやりとした風に撫でられ囁く葉は青年のように青々としている。近頃は日の出も早まった。地球で例えるなら初夏といったところ。

 

「オレは、ひとつづつ確実に悩みを解消しようと決めたんですよ」


 舟生明人ふにゅう あきとはリリティアに買ってもらった衣服を身にまとい、自作の送風機を踏みながら語る。

 手には車輪に回したロープ、足元にはアコーディオンのような形をした木と皮でできたポンプが用意されていた。およそ鋳造ちゅうぞうで扱う火力を生み出すこの装置は朝風呂の沸かしに革命を起こした。

 ロープを引けばポンプが上がり、踏めばなかの空気が鉄パイプを通じて釜に送られる。これによって、石川五エ門が掲げた子供を投げ捨てるであろう熱量を生み出すことが容易に可能となった。


「まあ、いちおう聞いてあげるわ」


 ちくちくと。木の影で裁縫にはげむユエラ・アンダーウッド。

 自身の竹のように艷やかな髪を邪魔そうに払うと、不器用に手を震わせながらで布に針を通していく。想定しているふりふりの新婚若奥様風エプロンの完成は、まだ遠い。


「聞いてあげるのかなっ!」


 そして、明人の背にぴったりと引っ付いたシルル・アンダーウッドがよじよじと肩までよじ登った。

 ユエラの友人で、同い年のはずだが、彼女のほうが若干ほど器量が幼く体温は高い。

 リリティアの作る極上の料理に胃を掴まれたのか、近頃はユエラの帰宅に合わせてよく昼過ぎの朝食を食べにきていた。


 ワーカーによって無残にも切り開かれた森は、ワーカーによって整地された。今ではウッドアイランド村と自宅を繋ぐ魔草交易の通路として使われている。キングローパーの白濁した粘液によって白く染められた木々は白樺のように沈着して、二重の意味でシルクロードと呼ばれるようになった。


「うちの家主が果たして男なのか女なのか、今から確認しようと思うんです」


「傷つくから、ソレ本人の前では絶対にいわないでよ」


 ユエラの鋭い眼光が作戦開始の合図だった。



○○○○●

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