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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
3章 あの子の親友 この子の思い出 そしてオレはあっづぅぅぅ
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33話 ともあれ約束は約束である

○●○●○


 村長である親を呼びに行ったはずのシルルを待っていると、どうやら手が離せなかったとのことでとりあえず挨拶がてら全員でむかうことになった。


「深夜しか村に入ったことがないんだから村長の家なんてわかるわけないでしょ……」


「はーっ、これだからハーフはなのかな!」


 シルルは村の入口と比べやや閑散とした道でやれやれと言いたげに肩をすくめた。

 その横をユエラが長い足を繰りだしながら彼女と歩幅を合わせて歩く。

 女性同士の絶え間く交わされる会話を耳に、3歩後ろを歩く明人は赤い果実をむしゃりと齧った。

 木の突き抜けた奇妙なデザインの建物に、足踏みするたび綿雲のようにふかふかとする苔()した石の通り。景観に自然を残して融和を求めているような、そんな美しさがここにはあった。


 当然、村のありさまだけでなく前を行くふたりもなかなかに見栄えがいいというもの。

 短く小ぶりな新芽と長く大人びた青竹。纏った雰囲気も外見通り。鈴を転がしたような喜々として喚くシルルの言葉を受け、ユエラは頬を緩めて嬉しそうに微笑む。

 ふむん。なんて声を漏らしつつ明人はこのふたりがこの場所で笑っていられることに感謝した。


「なに悟ってるのか知らないけど、明人も会話に入りなさいよ」


「いや、3列は迷惑だから。オレは周りのことを考えられる人間だからね」


 よってきた渡し船を胸張って手で押し返す。

 すると、シルルの長耳がぴくりと跳ねて、立ち止まった。

 そして背を丸めておずおずと隣にやってくる。


「あっ、あの……その、なの……」


 耳先まで真っ赤に染めて、リリティアよりはだいぶあるだろう胸の前でしきりに指を動かすシルル。

 何事かと。明人は目でユエラに助け船を所望するも、彼女はどこか困ったように微笑んでため息をつくだけ。


「あっ……ああ……」


 淡い桃色の唇をふるふる震わせてこちらを見上げるエルフの少女。


「アッアーア?」


「ああ、ああ、あああっ」


「アーアアー! アーアアッ! アーッ!」


 リズムを刻むシルルに合わせて、明人は歌う。

 ふたりの耳をふさぎたくなるような音色ハーモニーは村へ響き渡り、散歩やデートを楽しんでたであろうエルフたちはしかめっ面で足早に離れていく。


「うるっさいっ! あと茶化さないッ! 《ローウォーター》!」


 シルルで遊んでいた明人は突如飛んできたバケツ1杯ほどの水を頭から被らされる。

 ユエラが嫌悪感を滲ませた顔で佇んでいた。

 およそ一ヶ月ぶりに彼女のつり上がった目を拝見して、明人は水を滴らせながらしたたかに反省した。


「だって、女の子に話しかけられて恥ずかしかったんだもん……」


「乙女か! ほら、シルルもがんばって!」


 そう言って、背を軽く押されたシルルはよろめきながらも明人の元へ近づいてくる。

 彼女の熱のこもった瞳はさながら告白のようで、明人も唾を飲んで覚悟を固めた。


「――助けてくれてありがとうなのかなっ!」


 目の端に涙を溜めた少女の口から飛び出したのはただのお礼だった。

 多少肩透かしではあるが、事件の内容を思い起こしてみれば当然か。誘拐暴行の末、どこぞの知らぬ男と子を宿すために数十年も監禁されるとなれば生き死にの問題ではない。救済の導はユエラ含む彼女たちの尊厳をも奪い去ろうとしていたのだから。

 明人は、もう一度救われた彼女たちがここで笑っていられることに感謝をして、ちょうど撫でやすい位置にある頭を手を添える。

 ユエラは、いい感じに育った胸を押し上げるように腕を組み、どこか誇らしげに鼻を鳴らす。おそらく友人である彼女に明人を会わせたいが故に二つ返事で今回のリリティアへのサプライズプレゼント作戦に乗ってくれたのだろう。


 しかし、作戦の立案者である明人の表情は戸惑っていた。

 地球の世界では触れたことのない足元がふわふわとするようなぬくもり。そして達成感。誰かを救えたという喜び。他人の幸せを思う気持ち。



《汝、生涯を賭して勇猛な盾であれ。我らはイージス。天上に至りて世に個の歴史を刻む者。汝と共にあらんことを》



「あぁ……そっかなるほど。オレは舟生明人っていうんだ。よろしく」


「私はシルルっ! シルル・アンダーウッドなのかな!」


「どっちなのかな!」


 ぱぁっと。シルルは花が開くよう無邪気に笑う。

 元気がよすぎて今にも飛び跳ねだしてしまいそうだ。


「ほらほら、村長のところにいくんでしょ? 買い物もあるしちゃっちゃといきましょ」


 そして、ふたりと1人は仕切り直すように肩で風を切って歩を進める。

 きっと村長の家までに髪は乾かないだろう。

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