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3話 ともかくあの子のはパステルグリーン

○○○○○




『しゃあ! イージス隊の晴れ舞台だ! オメェら覚悟はいいな!?』


『……そのイージス隊ってなんだよ?』


『俺らのチームの名前だってさ。あらゆる邪悪を払う盾って意味らしいよ』


『チームねぇ……』


『いちいち細けえこと気にすんな! さあこれがオレら初任務だってんだからもっと気合入れろ!』


『最後の任務でもあるけどねー』




○○○○○




「――(そら)ッ! (あさひ)ッ!」


「きゃっ!?」


 ベッドから飛び跳ねるようにして目を覚ます。

 夢の内容はほとんど覚えていないが最悪の寝起きだった。

 舟生明人ふにゅうあきとは、薄ら眼で寝癖のついた頭をボリボリと掻く。


――……どこだ、ここ?


 体に巻かれた包帯を見て異変を察知し剛直した。

 ただならぬ雰囲気を察しつつ瞳だけで周囲を見回す。


 怪我を負った記憶がなく、不慮の事故で救護室に運ばれたのかとも考えたがどうやらそうではないらしい。

 周囲を囲うのはコンクリートやら打ちっぱなしではない。丸木を重ねて作られた茶の壁だ。それと染みひとつない真っ白な布団に檜のような香りが漂っている。


――ダメだなにも思いだせないぞ……。


 見覚えのない部屋だということだけがわかった。

 さらには尻を中心に鈍い痛みを感じて体を見れば丁寧に治療された跡がある。

 陽の光を透過して淡く輝くレースのカーテンのむこうには絵に描いたように美しい森林が広がっている。ここはいつも寝泊まりしている重機格納庫でも生存者キャンプでも空港拠点ですらない。


「ここは?」


 油で黒く汚れた手で頬の寝汗を拭い、首を捻る。大切なことを忘れている気がしてならない。

 過去の記憶があることから考えるに一時的な記憶喪失だろう。痛む体にムチを打つように身をよじってベッドから足を下ろす。


「つぅぅ……いたたぁ……。なんでこんなんばっかりなのよぉ……」


 ふと、視線を下げると足を開いて地べたに座る少女が1人ほど。

 開け広げられたスカートからは生々しいほどに白い足がにょっきり生えている。さらには肉感的な太ももが奥のほうまで顕になってしまっていた。


――こんな子キャンプにいたっけか?


 明人は、目尻に涙を滲ませ自身の臀部を擦っている少女の観察をしてみた。

 竹のように艶やかな髪、現実味のない衣服、整った顔立ち。その鋭い目つきからは大人びたというよりもどこか若干スれているような。

 これほどの美人が同じ施設に存在していれば噂になっていてもなんら不思議ではない。

 不衛生なキャンプで吹き出物ひとつない白い肌は非常に珍しい。その上、短いスカートから伸びた異性に挑戦的な足なんぞを見せていてはいつ暴漢に襲われるかわかったものではないのだ。

 それでもこの過酷な環境でこれほどの美貌を保っていられるということは、キャンプに駐留して(ぜい)の限りを尽くしている将校の愛人くらいしかいない。

 避難民が苦しむなか、空港で悪逆非道を繰り返している人間がこれほどの美少女を手駒にしているのだと思うと、肩がずっしりと重くなり怒りを通り越した明人の口からため息が漏れた。

 視線がある一点に浴びせられていることに気がついたのか、少女はあわただしく立ち上がるとその丈の短いスカートを押さえた。


「……見た?」


 低い声色に切れ長の目がギラリと光る。

 色合いの違う一切の淀みがない2色の瞳がこちらをまっすぐ貫いていることに気づき、思わず視線を逸らす。


「いえ、なにも?」


 こんな質問をされて「はい見ていました」とバカ正直に答える人はいないだろう。

 明人は、薄緑色の生地をあらためて脳内で思い描き記憶する。


「ふんっ! まあ、いいわ。目が覚めたのなら早くでてって」


 少女は、ツンッと顔を背けて唇を尖らせた。

 それと同時に膝辺りまで伸びたとても長い髪がさらりと波を打つ。

 無論、明人とてここに長居するつもりはない。

 しかしパンツ一枚で外にでていけるほど人を捨てていないのも事実。

 あたりを見渡してみれば着慣れた服がキレイに畳まれて小さな木机の上に置かれていた。

 立ち上がって手にとって見ればほのかに甘く香り、油や泥汚れが綺麗に消えている。どうやらどこぞの親切な誰かが洗濯してくれたようだ。

 明人は、腕を組みかかとをこれ見よがしに鳴らしている少女に視線をむける。ここまで不機嫌を主張できる人間も珍しい。


「なによ? さっさとでていって」


「ごめん。あと、ありがとう」


 年の近い少女にむかって当然の礼を尽くす。


「傷の治療は本当にありがたいよ。なんでオレがここにいるのか理由はわからないけど、迷惑をかけてしまったようだね」


 ならば礼を言うのは至極当然の行いというものだ。

 余裕のないこのご時世で数少ない人の親切に触れられた。ならば礼のひとつなぞ安いもの。


「えっ……あ! わっ、わわ、私じゃないわよっ! 私がやったんじゃないわ!」


 少女は意表を突かれたかのようにたじろいだ。

 長い耳のようなものをピコピコと激しく上下に動かした。

 ともかく明人は、なにやら必死になって否定してくる少女を無視して履き慣れたジーンズに足を通す。


「聞きなさいってば! あんたを治療したのも拾ってきたのも私じゃなくて……」


「こらこらですよー。そんな大きな声をだしてはあの子が…………起きちゃってますね?」


 タートルネックのインナーから顔をだしてみれば、扉から覗くもう1つの人影。

 むこうもこちらに気づいたようで、ぱぁっと花咲くが如く表情に喜色を浮かべて手を叩く。


「もうひとり分の朝食を用意しなくてはいけなさそうですっ!」


 明人は羽織ったジャケットのジッパーを中途半端に上げた。

 ともかくここが医務室でないことを確信する。

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