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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
8章 あの子の剣 この子の杖 そしてオレはクエストにゃ

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169話 おまけに無茶して叱られる

メイド女王を連れて

クエストをこなしてみれば


やっぱり怒られる


それでも得たものは

ひとつやふたつではない

 牡丹の花のようにすらりと床に白膝をついた自然魔法使い(ネイチャーマジシャン)は、寝かされた狐の帯を解いていく。

 白魚の如き手は、流れるような所作で血に濡れた和装の合わせを剥がす。


「すぅ……すぅ……」


 木床に敷かれた寝袋の上で剥かれていくニーヤは、すやすやと規則正しい寝息をたてている。

 みずみずしい肌に巻かれた包帯をユエラ・アンダーウッドは、手早くハサミで切りとって、さらに剥いていく。的確かつケガを労るような素早い手さばきはさすがと言えよう。

 すると、よく醸されたウィスキー色の瞳と若々しい活力あふれる緑の、彩色異なる瞳が細まった。

 険しい視線は、くびれ健康的な脇腹にぱっくりと開いた痛ましい傷を、睨む。

 血はすでに固まっているが包帯には、赤々とした出血の跡があった。


「痛かったわね……。もう大丈夫だから」


 その慈愛に満ちた声に、眠っているはずのニーヤのほどよく焦げた三角耳が、不意にはたと動く。

 ユエラは、くすりと笑って困り顔で小首を傾けた。

 竹色の前髪の端でちょこんとぶら下がった小さな三つ編みが音も立てずに揺れる。

 手にとったのは、エルフのために作り慣れているケガ治療の魔草。濃い色をした丸葉は、ユエラの髪と同じ深い緑色。それをそっと白いなめし革のように汚れのない腹の上に乗せる。

 決して小さくない2つの膨らみの下部で上下する腹は、白子のようにピチピチとしている。

 その表面に手を掲げてユエラは、唱えた。


「《ハイヒール》」


 歌うような音色に乗せて魔草が自然色を放つ。

 光はどんどん強くなり、しだいに浄化されるように粉となった。空を漂う粒は、傷にめがけて降り注いでいく。

 光が治まる頃には、傷跡すら残さないなめらかな肌に様変わりする。


「ふぅ、これでよしっと」


 ニーヤの治療を終えたユエラは、ほっと息をはいて傷のあった部分を優しく撫でた。

 そして、薄い桃色の下着を晒した少女の衣装の合わせを早々ともとに戻していく。


「…………」


 そんな治療風景を後ろに背負い明人は、死んだ魚のような目で木のイスに座る。

 横に座るのは、もちろん家主であるリリティアだった。


「むぅぅぅ……!」


「いつまでむくれてるんだよまったく……」


 ふやふやの頬は明人の腕にぎゅっと押しつけられている。

 そしてもう片側の頬は、ぷっくりと空気で膨らんでいた。

 眉に角度をつけた怒り顔のリリティアは、明人の腕を絡めとってしなだれかかっている。


「もうっ! キングローパーのときもそうですけど、明人さんが私なしで外にでるとろくなことがないですっ!」


「……まあ異論はないかな」


 ぷんすこ。それでも甘えることをやめようとはしない。

 こってりとしぼられた明人に抵抗の意識はないことをわかっているのだろう。

 近頃、発達が著しいに腕にすりすりと頬ずり。肌を見せない白い素朴ながらのドレスに包まれた体を、惜しみなく押しつけて骨と皮だけではなくなった腕に絡みつく。


「しかもニーヤが勝てない相手ですよ!? そんな楽しそうな場面で私がいないことが許せませんっ!」


 パイロットスーツを脱ぐことを強制された明人は、じっと耐える。

 作務衣の如き白い上着越しに当たる小さいながらも柔らかな感触にどぎまぎしながら。


「聞いてるんですかっ!? 答えないとちゅーしますよ!」


 横から迫りくるすぼまった唇を前にして危険を覚え、度重(たびかさ)なる幾度目かの謝罪の言葉を口にした。


「聞いています。この節は、弱小なる人間の分際で身に余る任務(クエスト)を引き受けてなお、女王様であらせられるテレーレ様を危険に巻き込んだことを心よりお詫び申し上げます」


 つらつらと告げられた謝罪に感情はない。

 それを聞かされたリリティアは、ここ一番の怒りを見せる。


「なんで答えちゃうんですかぁっ!?」


「理不尽!?」


 どれほど理不尽であろうとも明人は、暴走するリリティアをとめることはしない。

 その怒りは、もっともだった。だから、喪に服すように反省すると決めていた。

 テレーレを危険に晒した上に、1歩間違えればワーカーを失っていかもしれない。だからこその陳謝(ちんしゃ)だった。

 ただ嵐が過ぎることを反省しながら待つのみ。どれほどベタベタされようともリリティアが満足するまで心を無にする。

 波乱はあったが依頼は無事に完遂された。とうに日は暮れてとっぷりと夜もふける。

 木枠の窓の外では、オーバーワーカーが蒼をほとばしらせて夜闇を照らし、威風堂々とたたずんでいる。

 その隣には、明人の作った不格好な井戸と採掘したダモクレス鉱石が置かれている。運搬の手間は、すべて重機が担当してくれた。

 白く丸いワーカーと白い岩盤の如き巨岩が並ぶとまるで腹違いの兄弟のよう。隣の井戸もワーカーと同じ部品でできているため血は繋がってないが従兄弟くらいにはあたるだろう。


 ジャハルとカラムは、一刻も早くワーウルフ領に帰りたいと言ってパーティーは帰宅途中で解散した。良い息抜きになったと残した2匹の狼は、尾っぽを振って帰っていった。

 そして悠々と歩く重機の前に現れたのは、森を割くように駆けずり回るリリティアだった。

 息を切らして金色大きな三つ編みに葉をへばりつけて、純白の長尺のスカートを波立たせて。画面の向こうに映った夕焼けを浴びて青ざめるリリティアを見た明人は、後悔した。

 それは幼き日に親元から引き裂かれた明人にとってはじめての感覚。悲しいやら嬉しいやら申し訳ないやらがぐちゃぐちゃに混ざった煮凝りのような感情を覚える。


 そして妹と別れたはずなのにも関わらず、孤独ではないことを自覚する。


 そんな見方によってはラブラブな1人とひとり。

 対面に座したゼト・L・スミス・ロガーは、豪快に茶をすすった。生えそぼった白髪の髭が濡れてすぼまる。

 鉄球のような喉を鳴らして湯呑をからにするとテーブルの上にそっと置く。その一挙手一投足で鈍い銅色の義腕がきゅらきゅらと鉄のこすれる音を奏でた。


「そのへんにしておいてやれぃ。無謀な挑戦だっつっても男ってのは心躍るもんじゃ」


 ビリビリとした重低音を室内に響かせてどっかりと義腕を組む。

 こんもりした岩の如き胸のコブが脈打って肥大する。適当に頂点で束ねられただらしのない髪も相まってその姿は、無頼漢そのもの

 ゼトの諭しを聞いたリリティアは、ますます膨れてしまう。


「むーっ! ぜったいにゆるしませんー!」


 腕に絡む力もさらに増す。

 じっとりと汗ばんできたリリティアとの接地面。

 明人は、頭のなかで妹、愛する妹の美貌を思い浮かべて耐える。


――お兄ちゃんは元気でやってるぞ……夕。


 記憶とはかくも美しい。

 子犬のようについてきていた夕の姿は、いつまでも色褪せることはない。

 反抗期を迎えずにすくすく成長してくれた妹に兄は、感謝した。


「そう言ってやるな。ワシがやるべき仕事を肩代わりしとってくれたんじゃ。皆が無事ならそれでよかろうよ」


「甘やかしちゃダメなんです! これがうちの方針なんですぅ! これで2回目なんですからねっ!」


 ゼトが説得を試みるも、リリティアの甘えと怒りは治まるところを知らない。

 大きくしゃがれのため息をついたゼトは、やれやれと枯木の如く皮のあまった首を振る。


「はぁ……、しゃーないのぅ。お嬢もなんかいってやれぃ」


 その白い視線の先では、テレーレが満面の笑みを浮かべてちょこんとイスに座っていた。

 布に隠れぬむっちりとしたふとももの間に両手を挟んで機嫌よさげに左右に揺れる。

 メイド服のフリルとふわふわの髪も一緒になって踊った。


「とってもとっても! とーっても楽しかったですっ!」


「ほうか、それは良かったのう。感想なんぞ聞いとらんわい」


 そんな寸劇の如き光景を前にしてリリティアは、すんすんと小鼻を動かして匂いを嗅ぐ。


「すんすん、すんすん。嗅いだことのない匂いがします」


――犬かよ。ワードッグかよ。


 じっとりと睨まれた明人は、一応言い返してみる。


「それはテレーレに騙されて変な植物を叩いたときに――」


「それじゃないです。もっとこう……複雑な気分になるような懐かしいような変な匂いです」


 そう言ってリリティアは、くまなく明人の匂いを嗅ぎ回った。

 すると治療を終えて後処理をしていたユエラも会話の輪に加わる。

 外套をはためかせて隣のイスを引くと月のような尻をすとんと沈めた。


「浮気ね。きっとそれは他の女の匂いよ」


 ニヤニヤ。いやらしい笑みを浮かべて頬杖をつくと笹場の耳を上下に振る。


「おいこら。ややこしくするためにきただろ」


「さぁ、どうでしょうねー。一応私もほどほどにはアンタのことを心配したんだけど?」


「ぐぬっ……!」


 すでに明人は、精神的優位を得られる立場ではなかった。

 兎にも角にも許されるまでは、現状維持の1手のみ。

 門限に遅れた少年のようにうなだれて親の怒りが治まるまで正座するような。

 それが許されるための唯一残された手段だった。目の前に提示された欲に溺れて冒険にでかけたものの末路である。

 そんな明人を眺めてユエラは、豊満ではちきれそうなそれを押しだすように伸びをした。


「ま、そろそろ許してあげてもいいんじゃない? 目に見えて反省してるみたいだし」


 四方八方から匂いを堪能していたリリティアがピクリと動きを止める。

 口元で霊峰富士を象るようにむくれた。


「ユエラまでそんなことを言うんですか!? 私はすっごく心配したんですからね!」


「それは私もよ。でも、無事だったしいいじゃない。それに――」


 口角をもち上げてユエラは、嫣然と笑みを浮かべる。

 鋭い目立ちでちらり、彩色異なる瞳がよそを向く。

 その見つめた先には、疲れ顔のゼトと幸せそうに冒険談を披露するテレーレがいる。


「それで、びゃああって白いガーゴイルが襲ってきたんですよ! それでぎゅってされて、しかもぎゅぎゅーってしてもらったんですっ!」


「ふぅむ。歳のせいか理解が及ばんのぅ……。これはワシのせいか?」


「それでそれで! まだあるんですよ!」


「もうええ……。気のすむまで好きなだけ話せぃ……」


 それは、孫につき合わされるお爺さんのよう。

 上機嫌で話すテレーレに押され切ったゼトは、ぬるくなった茶をすすりながら相槌を打つ。

 するとリリティアがようやく明人からするりと体を離した。

 テレーレを見つめる表情は優しげで普段のリリティアのほがらかさが戻っている。


「そうですね……。きっとニーヤも、そういう目的があったのかもしれませんね」


 ほっこりとしてそれでもややうつむきがちに。

 開放された明人は、戸惑いつつもやはり不穏な影を見た。

 リリティアだけではなく、それはおよそ団らんの間全体を包んでいる。

 なぜ助けを求めないのか。この疑問は、テレーレだけに向けられたものではない。この部屋にいる全員に対しての疑問だった。

 根が断ち切れていない覇道の呪いは、また大陸を蝕むだろう。そしてその元凶となる神より賜りし宝物アーティファクトは、まず間違いなくエーテル領にある。でなくば、捜索すらせず戦後復興をしている説明がつかなかった。

 まるで諦めて今を笑っているような、降参しているが如き姿勢。

 暖かに笑うリリティアへ明人は、声をかける。


「なあ、リリティア」


「はーい?」


 先ほどまで怒っていたとは思えないほど気さくな返事が返ってくる。

 それでも金色の瞳は、じっとテレーレを見つめたままだった。

 そして明人は友からの伝言を伝える。


「ムルガルっていう龍と会ったんだ」


 するとリリティアは、テレーレから視線を外してこちらを見た。

 しかも、目は丸く、固まったまま微動だにしない。

 深く底を見るような黒と目に染みるような鮮やかな金が見つめ合う。

 1秒、2秒、3秒。声を発すことはなく見つめ合う。

 そんな明人の肩にユエラがのっしりと顎を乗せて、顔を突きだす。


「龍がクレーターからでてくるなんて珍しいわね。私でもリリティア意外の龍族って見たことないわ」


 甘くもさっぱりとした柑橘系の匂いが香る。日の暮れとなると普段よりも濃い。

 背中に格別悩ましいモノを押しつけられた明人は、平静を装ってがんばった。恐らく無自覚でやっているだけにたちが悪い。


「ま、まあなんだ? 意外と話がわかるヤツだったし、危ないところを助けてもくれたよ」


「へぇ……。アンタが誰かをそんなに評価するなんてのも珍しいわね」


「オレだってたまにはそういうこともある」


「……自分で認めてる辺りは、評価するわ」


 明人とユエラがいつものように語らいでいてもリリティアは、ピクリとも動かない。

 まるでそこだけ凍ってしまっているかのように。

 だから明人は、止まってしまったリリティアの時間を動かすことにする。


「この世界はとても美しかった、ってさ。そうリリティアに伝えてくれって頼まれた」


 それは友だちになりたての龍から頼まれた言葉だった。

 野に下った2匹の龍は、出会わない。それでも橋を渡して意思を共有させることはできる。

 呆けたままのリリティアは、その表情のままで微かに下を向いた。


「……そう……ですか……」


 消えてしまいそうなほどに声は、小さく震えている。

 濡れた瞳は地球で見た満月のよう。太陽という光があってはじめて輝く。

 ユエラを肩に乗せた明人は、リリティアの頭に手を伸ばして撫でた。

 抵抗がないなめらかな髪は絹の如き手触り。ひとすきするたび指の隙間をはらはらと流れる。

 前髪に隠れた目は、陰って見えず。それでも下唇を噛んでいることだけはわかった。

 そしてリリティアは、顔を上げて前を向く。


「そんなのあたりまえじゃないですかっ!」

 

 明人の予想とは違った華々しい笑顔でもって、薄い胸を張って笑う。

 だから明人とユエラも一度向き合ってから強がって見せるリリティアを見て、堪えきれずに愉快な声を漏らした。



○○○○○

語られないよだから語るんだよのSSコーナー

……………


「で、ムルガルって誰です?」


「あれ!? まさかの知り合いじゃない!?」


「私、龍族のなかでも悪い意味で有名なんで……」ズゥゥン


「あー、なるほどねぇ……」


「友だちとかもいなかったですし……」スゥゥゥン


「ちょっと!? それ以上は知りたくないわよ!?」


「でも昔はいたんですよ。昔は……」


「もういいもういい。自分で心の傷を切開しなくていいから」


「あ、でもですね! 今が一番多いです!」パァァ


「あー、ちょっと待って! 涙でそう! 頼むから幸せになってくれ!」


「ぐすっ……! わた、わたしはぁ、ずっとりりてぃあといっしょだからぁ!」


「ユエラが泣くなよぉ!? ぐっ――! あー、おれもだめだぁ……!」


挿絵(By みてみん)

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