130話【語らずVS.】救済の導 清浄と探求の王ディクラ・E・ルセーユ・シェバーハ
共に龍と闘った英雄たち
後悔する者
果てる者
そして
志す者
※キャラ紹介にヘルメリル追加と簡易化(どこかの話の間に挟まってます
カカココ山ごとを都としたドワーフ国の元首都ソイールがあった。
風化しても技術大国らしい美しく整った町並みを匂わせる。しかし戦争による傷は深い。
移動爆弾モッフェカルティーヌによって踏み荒らされた跡は痛々しく、もはや過去の繁栄は微塵もない。
ドワーフたちも周囲の村々や比較的整備された山颪の街イェレスタムへと移り住んでしまっている。そのため復興は未だ遠い霧の向こう側だろう。
戦争が終結すればドワーフたちも少しづつ復興に励むはず。ドワーフとは、年がら年中髭面に嬉々とした顔でモノを作る。そういう種族である。
その上空。首都と山のふたつを背景に空中で、黒蝶と少年は再会する。
「ひっさしぶりだね。どうして大扉でこなかったんだい?」
「クククッ、縁の糸はとうに解けた。貴様とは金輪際、永久に、未来永劫、絶交だ」
「あららー、数百年ぶりの再会なのに寂しいこというなぁ」
そう言って、へらへらとおどけながら癒し手のディクラは首を横に振った。
法衣を纏った幼い体。くりくりのあどけない瞳は、ピクシー種の特徴。
子供ながらに悪知恵が働き天真爛漫な種族。逆にいえば、感情のセーブがきかず冷酷非情。まさに幼子とも言える。
くいっと。顎を上げてヘルメリルは、いつものように相手を見下す。
ボーダー状の横縞に白い細足を透かしたスカートの周囲では、黒い霧がもやのように渦巻く。
顎を上げるのも霧を纏うのも女王としての威光を放つためのものだった。しかし、もはや考えるよりも先に実行している。ただの癖。
しかし、ディクラへ向けているのは本気の侮蔑でしかない。胸中に怒涛の如く滾る怒りを真紅の瞳こめて見下げる。
「ワーウルフ領に攻め入った妖精族の兵は、魅了でもしたのか?」
「あはは。ドワーフの神より賜りし宝物を使って魅了してもよかったけど、違うよ?」
ふわふわと法衣の裾を波立たせてディクラは、雨のなかでくるりと回った。
そして、小僧らしからぬ妖しさで微笑む。
「ボクは王だよ? ふふっ、民は王のために動くものでしょ」
対象的な王の在り方だった。民につくすエルフの女王と民を物のように扱うピクシーの王。
愚王が、と。眉間のシワを深く刻んだヘルメリルは、魔法を使うときと同様に心のなかで呟いた。
「貴様……民に匣を使ったかッ」
苦々しげに唇を歪め、顎を引いて睨む。
「はははっ、せーかーいっ! さすがメリー博識だねぇ!」
語らずの怒りの形相を前にディクラは、雨に打たれて無邪気にはしゃいだ。
エルフの女王は、交友関係、縁を繋ぐことを好む。
その広く張り巡らせたバイパスの如き繋がりで様々な知識が副産物として得ることができた。
神より賜りし宝物の知識も書物や伝聞で大雑把には把握している。
ヒューム国の拡散する覇道の意思は、突発的にルスラウス大陸に産み落とされる差別的な概念。
ドワーフ国には、《咎追いの湯花》と呼ばれる杖が与えられた。周囲の環境マナを1点に集めて所持者へと力を恵与するというもの。まさに、ドワーフの作りだしたマナ機構そのものである。
エルフ国の《夢見る大樹》は、世界に環境マナを撒き散らす雲よりも巨大な大樹。
ワーウルフ国の《理想郷への神槍》は、天使との謁見を果たすために通る試練の門。
これらが天界より賜った宝物と冥府より湧き立つ愚の産物の真相だった。
効果は様々だが、どれも個が所有するには絶大な力を秘めている。世界の道理すら曲げかねない厄介物。
そしてピクシー領には、《絶望の匣》。閉じ込められた者の心を壊すものだとヘルメリルは、聞いている。
ただひとつだけ知りえないのは、情報すら厳重に管理されているエーテル国の神より賜りし宝物のみ。その名は、《翻る道理》。
「さすが神より賜りし宝物だよ。ふたりほど見せしめにしたらその他が真っ青になってワーウルフ領に攻め込んでいったもん。特攻ってやつかな?」
「グズがっ……! なんのためにそんなことをっ……!」
ピタリ。ヘルメリルの吐き捨てた言葉にディクラは突如動きを止めた。
黒い絨毯の詰まった空から降りしきる雨によってその短い髪は、ぺったりと肌に貼りついている。しどと濡れた体格のわりに大きめの法衣はよれよれになって裾から水滴を漏らす。
「ねえ……モッフェカルティーヌがどこに向かってたか知ってるよね?」
引き結ばれた唇が微かに動いてディクラは、虫の羽音のように弱々しく呟いた。
山岳級特攻要塞モッフェカルティーヌとは、魅了されたドワーフたちが100年の歳月をかけて作りだした巨大爆弾だった。
マナ機構とよばれる環境マナを吸収して原動力とする技術が使われており、今は機能を停止している。
そのためヘルメリルの城を間借りしているエリーゼ・コレット・ティールによって動かさねばならない。例え魅了されて記憶を失っていても力は衰えず。《レガシーマジック》のエリーゼをモッフェカルティーヌに憑依させれば僅かに動かすことができた。
「継ぎ接ぎには向かう先だけを教えていたんだけど……あそこで自害させればよかったとつくづく後悔しているよ」
「……どういうことだ?」
「まさか双腕と語らずだけじゃなくて、剣聖もあそこにいたなんてねぇ……」
ぞわりとヘルメリルは、底知れぬ恐怖を覚える。ひりつくようなおぞましさ。
「ま、まさかあれを作らせたのは貴様かッ!?」
「ま、にゃにゃにゃも魅了したし役目を終えたら殺すだけ。今頃は剣聖も魅了されてはずだね。L を全員を殺させたら剣聖も匣に入れて遊ぼうかな? いい声で泣きそうだね。楽しみだよ」
これをディクラの裏切りと考えるには、いささか浅はかであった。
魂を神へと返還する一種の宗教、救済の導。
魂を神へ帰結させようとするものは大陸を探せばいくらでもいる。しかし、救済の導はその考えに自身の欲望を他者を傷つける。
答えがわかるのと同時にヘルメリルは、ディクラがその目的にいきついた起因を探った。そして、それもすぐにわかった。
まるで抱擁を求めるように少年は体を開く。その瞳は虚ろげで力はなく、冷たい。
「ボクは、清浄と探求の王ディクラ・E・ルセーユ・シェバーハ。救済の導。種の根絶とLの殲滅を志すものさ」
放たれた事実と突きつけられる過去。
これは復讐なのだ、と。ヘルメリルは、すべてを理解する。
ますます雨あしは強まっていく。暴風に煽られた水滴の群れは、髪の染色剤が溶け落ちぬよう貼られた《ハイプロテクト》を針の如く叩いた。
美しく寛容で神に選ばれしエーテルの女性がこの世には、いた。
ふわりと癖のある髪を揺らして歩く姿は、たおやかで穏やかに咲く百合のよう。誰もが振り返るほどの美貌をもち、誰にでも好かれるもの柔らかな女王。エルフの女王が夢見た姿である。
「嗚呼……この身を焦がす愛がひとつひとつと消えていく……。この思いは時間とともに劣化の一途を辿るばかり……。ならこの思いが朽ちて消える前に彼女のために成すべきことを成す……それだけしか僕の心が癒えることはない……永遠に……」
ディクラは、何者よりもそんなテレジアを愛していた。
それは母へ向ける愛情のようなものであり、女へと向ける欲情がかなり強く混ざっている。
決して純愛なんで生易しいものではない。
「僕はテレジアの死んだ原因を研究所を建てて探ったよ。血を残そうと必死なヒューム共を使ってねぇ」
淡々と告げる声に抑揚はなく平坦。しかし、瞳は真っ直ぐ対峙する者を見据えている。
ヘルメリルも同様を気どられぬよう静かに耳を貸す。
「それで捕らえた連中を心無人へ変えたんだ。そしてその研究の末に、フフフッ……ようやくわかったんだよぉ」
「なにっ……? それは本当か?」
数百年追い求めた友の死の真相だった。
犠牲に胸を締めつけられながらも興味を保たぬはずもなく。笹葉のように長い耳をぴくりと逆立ててヘルメリルは、問う。
そして、ディクラは答える。
「ぐっぐぐ……!! グググゥッ!! ボクの、ボクの物になるはずだった女性はッ……テレジアは――ッ!!」
ぶつり。噛みちぎられた下唇からだらりと鮮血を垂れていく。
幼い顔を中央に寄せ凄まじい怒りの形相だった。
震える華奢な肩と振るわれたことのなさそうな染みひとつない拳が握りしめられる。
そして、乾いた雄叫びに似た叫びが木霊した。
「オマエとォ!!! 剣聖がァ!! 殺したんだよォッ!!!」




