11話 どうせあの子は主役のように・・・
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なめらかな髪を身にまとうが如く、くるりくるりとリリティアが舞う。
その手に持たれた剣は閃光となって矢を弾き押し迫る死骸たちを刻んでいく。
「ふっ、はっ! 遅いです!」
鋭く放たれた剣が敵の頭部から股に掛けて両断し、ドサリドサリ。
崩れ落ちれば思い出したかのように血と臓物が大地を濡らす。
飛びかかってくる1体の首が胴と離れて頭が地面につくころには、別の1体が袈裟斬りにされている。
一振りが光の尾を残すことでかろうじて目で追えるほどの速度だった。
それでもなお彼女は返り血に塗れることがない。汚れなき純白の剣士は咲き誇る花のようにスカートをなびかせ舞い踊る。
「やはり腐肉ていどですね! いくら斬っても手応えすら感じませんよ!」
足を交差させて逆に回れば、刹那に遅れて光線が2体の首を別つ。
「すごい……!」
明人は舞台に目を奪わた。
主役は金色の髪の麗しくも勇猛なリリティア・L・ドゥ・ティールという美女。場面は絶体絶命の危機。襲いくるは不潔で不快な魔物。一輪の花が巨悪を打ち倒す物語。彼女の舞う姿は見惚れてしまうほど美しかった。
残りの3体がほぼどうじに崩れ落ちるころには熱は最高潮に達しており、明人は手を叩いて彼女の勝利を祝福する。
拍手が聞こえたのかリリティアは照れたよう頬を染め微笑んだ。鞘に剣をしまうと深々とスカートの裾を持ち上げてお辞儀をして、こちらにむかって小走りに駆け寄ってくる。
「すごいよ! 本当に綺麗で、すごくかっこよかった! 目が離せなかった!」
「あまり普段は剣を抜かないようにしているもので。ふふっ、それにしても褒められるとなんだか照れてしまいますっ」
心からの賞賛にリリティアはくすぐったそうに身をよじった。
まんざらでもないらしい。彼女の背後に点々と転がる死骸の、死骸。しかしやはり腐っても人にしか見えない死骸。
体から興奮の熱が引いていく。明人の胸のなかでもやもやとした疑問が渦巻いた。
――あのとき足元に刺さった矢は死骸の攻撃じゃなかったよな?
「さてッ! 街へむかいましょう! 夜までには家に帰らなければいけませんっ!」
そう言ってリリティアはやや強引に明人の手を握った。
そしてそそくさと歩き出す。火照って少し汗ばんだ手は戦闘によるものか照れか。
「……ごめん。今度はオレも戦うから」
「謝らないで下さい。貴方を守ると決めたのは私のほうなんですから」
ふと明人はリリティアの言葉を思い出して本の126ページを開く。
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心無人。
魔法によって気が違えた、またはなにかをきっかけに心を喪失したものたちの総称。
意図的に記憶を改変されたものも心無人と呼ばれることもあり、奴隷や実験の被検体などに使われることも少なくない。
なお、ルスラウスで被検体実験を行ったものは神への冒涜とみなされ重い処罰が与えられる。
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「心無人……ね」
なぜだか酷く心がざわついた。
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