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天上の美と黒ののらねこ(仮)  作者: 春夏秋冬
2/4

2 ハント

「はっ、はっ、はっ、」


ハントは立ち止まると目尻に染みる汗をぬぐった。

先ほどから1時間ほど山を登り続けているが未だ目的地は姿を現さない。振り向けば幾重にも連なる尾根、遥か下に漸く街が見える。

肩にずっしりと重くのしかかる荷物を、いっそのこと放り出してしまいたくなる。幼い弟妹がくれた手作りのお守り以外、ハントが執着するものはない。

大陸中央、神の山の頂上付近にある神殿は、神に愛された子供達が危険に見舞われないようにと神殿の印のないものは徒歩以外で登れなくなっている。それはかつて子供達の力を狙った帝国が騎馬で乗り入れて神殿を荒らしたからだそうだ。


「神殿に、仕え、る、人用にも、なにか、くれれば、いいのに、」


切れた息を整え、山頂を睨めあげる。冷たい空気を纏う神の山はゴロゴロ転がる白い岩を支えて沈黙している。

その岩岩がふと歪んで、ハントは目に手を当てた。立ち止まったせいで汗が冷え、手の冷たさがより瞳の熱さを知らせてきた。

ハントの家族は10人家族だ。歳をとって痴呆にかかった祖母と、大工の父、病気の母、働きに出ている双子の兄姉とまだ幼い4人の弟妹。

兄姉の仕送りを足しても父が養っていくのは限界だった。とはいえ、大陸法で18歳以下は働くことが許されていない。まだ16歳のハントを遊ばせておくほど余裕がない父が決断したのは15歳以上から入れる神殿にハントをやることだった。

困窮した者たちの中には身一つで追い出される者も少なくないという。それを考えれば16まで育ててもらい、職の世話までしてくれた父は頑張ってくれたのだとはわかっている。

それでも、思ってしまう。高等学院に行きたかった、大好きな機械いじりを趣味以上に学びたかった、同期の友達と離れたくなかったと。


「やっぱ、1人は、嫌いだ」


詮無いことがどっしりと頭の中で居座って出て行ってくれない。

1人は寂しい、悲しい、心細い、辛い、苦しい、痛い。

弟妹たちの賑やかな笑い声も、父が釘を打つ規則的な音も、あれほど嫌だった祖母の与太話も今となっては恋しくて仕方がない。


「じゃあ、あたしの旅のお供にでもなってくれねえか」


ざくっ


「…え?」


不意に響いた足音と低い声音に、勢いよく振り返ったハントはその勢いのままに尻餅をついた。

遠心力にのった重すぎる荷物を支えるには、ハントの体は疲れすぎていたのだ。

見上げた空は嫌になる程晴れやかで、清々しい。

その青空を背負って立つのはそこらに転がっている巨岩の一つを鑿で叩いて打ち出したかのような強面の男だった。

背中に背負うのは大小様々な数十本の剣と頭陀袋。腰に差した太刀は武器に詳しくないハントにも大切に使い込まれているとわかる美しさをもっている。


「っひ、お、お金はありませんよ⁈僕の家は残った家族を養うので精いっぱいで財布だってもうすっからなんなんですから、あっ、食料なら少しありますけど、」


「あー、なんか追剝ぎと勘違いしてっか?ちょっと落ち着けや、嬢ちゃん。」


「えっ、いえ、あの僕は」


「あたしゃ、神殿に行く先生志願者だ。神殿を目指して歩ってたんだが滅法地図やら方位磁針やらに弱くってさ。やっぱ学のねえってのはこういう時困るんだよな、歩っても歩っても着きやしねえの。」


話しながら背負っていた頭陀袋を手近な岩に置き、剣のたてられた箱をゆっくりと地面に下ろす。佩いていた剣を腰から外して、漸く男はこちらを見た。


「落とさないでくれよ。あたしの相棒だかんな。」


柄のほうを向けて渡された剣に、ハントは呆然と手を伸ばし、とり落としかけて慌てた。

想像以上に重くずっしりとした剣を持ち上げていられずに抱きかかえるように体に沿わせる。


「これで、話できっか?あたしゃ傭兵の出でね。悪いけど完全に武装解除すんのは落ち着かなくてダメなんだ。だから今もまだ護身用の短剣は仕込まれてる。とりあえずあんたを害する気がないのは理解して欲しいんだが、あー、」


ガシガシと乱雑に髪をかく男が、困ったように眉根を下げた。男の金にも見える明るい茶色の瞳とこげ茶の髪に、ふと斜向かいの家で飼われていた大型犬を思い出す。

あの犬はがっしりとした軍用犬でありながら、子供達と遊んでくれる優しさをもっていて、初対面の幼子に泣かれるとしょんぼりと尻尾を丸めたものだった。

初対面の男は、あの犬によく似ていた。


「あの、大丈夫です、傭兵のおじさん。」


思わずそう言うと、ぽかんと目を見開いた男はくしゃりと破顔した。愛嬌のある笑くぼに最初の怖いという気持ちは落ち着いた。


「あたしは元傭兵のヤトヒョウ。剣の腕と酒の飲み比べは自信があるが、方向感覚やら小難しい話はさっぱりだ。そんで、出来たらお嬢ちゃんに神殿まで一緒に行ってほしくって声かけたのさ。もちろん、荷物持ちもするぜ?お嬢ちゃんにゃその荷物は大きすぎるだろうから」


雑で荒っぽい口調なのにどこか丁寧に聞こえるのは話す内容か、男…ヤトヒョウのこ気味いいテンポのおかげか。いや、仄かに感じる違和感のせいかもしれない。

傭兵というには、ヤトヒョウの身は綺麗だったし仕草は洗練されすぎているのだから。


「僕は、大工の息子のハントです。機械いじりと料理の腕前はそこそこ誇れますが、体力は残念なもので荷物を放り出していこうかと考えてました。それで、えー、と、僕男です。」


「あー、なんだ、その、悪ぃな。坊主。」


「構いません、勘違いされるのは今に始まった事ではないですから。僕のことはハントと呼んでください。同行の件、僕の方からもお願いします。体力もそうですが…その、1人が苦手でして。」


180はとうに越しているだろう長身のヤトヒョウは、一人称が"あたし"でも髪を高いところでお団子にした髪型でもその強面と相まって女性に間違われたことはまずないだろう。さらに強面は強面でも野性味あふれるそれは男前で恐ろしいだけではなくかっこいい。

羨みながら立とうとすれば、すぐに手を引いて立たせてくれた。ずっしりと重いヤトヒョウの相棒だけでなく、ハントの荷物も軽々と持ち去られてしまう。


「あたしのことはヤトヒョウって呼んでくれ。神殿までよろしくな、ハント!」


「はい、よろしくお願いします、ヤトヒョウさん。」


がっしりとしたヤトヒョウの手を握り、ハントは笑顔を浮かべてみせる。

剣だこのある手は固く、父の手に少し似ているような気がして不安に燻っていた胸がほんの少し軽くなった。


「ハントはさ、1人が苦手って言っただろ?あたしは傭兵やってたから真夜中の森を1人で偵察に出たり、墓場で寝たりもしたことがあって1人を苦にしたことなんてねえんだが、」


言葉を切ったヤトヒョウは鋭い目つきであたりに視線をやった。ハントは感じ取れないが、武術に心得のあるものならヤトヒョウが自身の周りに気を張り巡らせて何かあったらすぐ対処できるように構えていることがわかっただろう。

それを感じ取れないまでも笑顔をなくしたヤトヒョウがあまり神の山を快く思っていないのは伝わった。


「あーんまり、いい気持ちにはならねえんだよなあ。馬鹿と雲はなんとやらってえ言うらしいが、ここには馬鹿はいても雲ひとつねえ。そんで高いとこにいるってのにあたしの気持ちは欠片も楽しくないときた。まあ、蒼空は嫌いじゃねえけどよ。」


「馬鹿と煙はなんとやら、ですけど、そうですね。ここの蒼空はなんだか不安になります。風だっておかしいくらいに吹かないし、これは僕が神様に認められていないからなのかなとか、思ってみたりもしていて。」


ヤトヒョウが汗だくだったのにはそのせいだ。冷たい空気ではあるが、ほとんど無風の神の山は動いて熱くなった体に吹き付ける風がないために汗だくになってしまうのだ。


「ああ、それは神様のせいじゃねえぞ。まあ、全くないってわけじゃねえけど。もちろん、ハントのせいでもねえ。子供達のうちの1人のせいさな。このカラッと晴れた蒼空も、冷てぇ空気も、動かない風もぜぇんぶな。」


子供達。神の山で言われるそれは間違いなく神様に愛された子供達のことを指している。

だが、それはおかしい。


「神様に愛された子供達は、風の力はないですよね?与えられた色痕カラーは火と、水と、土。神の御座す天空の風、神の領域たる生命の創造、神の嘆きたる天空の雷、神の涙たる宝鉄は子供達では操れないはずでは?」


「あ?あー、3色ならそうだけどよ。今、神殿には白の子供がいるらしいんだ。天上の美と讃えられる美貌と、天上の力の風を纏う子供がな。」


「白の…」


神に愛された子供達なんてそうそう目にする機会なんてない。ハントのいた帝国でも、確か皇帝陛下と皇妃殿下が2人ずつ、あとは将軍閣下と宰相閣下が1人ずつお連れしていただけで、目にしたのだって国王陛下の生誕祭の時だけだ。しかも将軍閣下の子供達は1年前戦死してしまったらしいし。

そんな滅多に見れない神に愛された子供達の中でもほとんど伝説と化しているのが色痕カラーが白と黒だ。

神からの祝福とされる幸いを呼ぶ白の子供と、神からの受難とされる禍を呼ぶ黒の子供。


「存在、したんですか?」


「ああ、存在するらしい。俺の恩人が教えてくれたんだ。今の教会には白の子供がいる、ってね。」


荷を背負い直し、剣を佩いたヤトヒョウに促され、荷物なしという身軽さと傭兵の体力に任せ、ここまでの道のりの倍の速さで岩のゴロゴロと転がる道を歩き出す。


神の山の外輪山に囲まれた神殿は、未だにその姿を見せず、それはここから神殿まで最低でもあと1日以上かかることを示していた。麓で聞いた話によると、神殿が見えてから1日で着くらしいから。


「恩人、ですか。」


「そ、恩人。あたしが傭兵をやめた理由で、あたしがいまここにいる理由。ありふれた話さ、命の恩人への恩返し。そんで、ありふれてない話でもある。」


ヤトヒョウさんの目は垂れ目だ。なのに眼光が鋭く強面に感じるのは、その瞳の光の強さだろう。何か大きなものに立ち向かおうとしているような、強い強い意志の光。その光を薄れさせるのは、青い青い蒼空を見たときだけ。


まるで何かを祈るように、ヤトヒョウさんは優しい目で空を見上げる。埃と汚れにまみれているように見えても、なお失わない気高さの中に含まれるナニカは、ぞくりと総毛立つほどに美しかった。


ヤトヒョウさんの恩人。

伝説の存在として語り継がれる白の子供が存在しているという話。

歴戦の強者と思われる良く使い込まれた武器を多数持つ彼が、傭兵をやめて全く反対とも言える教会の先生という職に就こうとしている理由。

そこまで考えて、考えようとして、僕は思考を止めた。


「僕の家は大家族なんです。」


ぽつんと落とした言葉にヤトヒョウは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。

僕よりはるかに大柄で、強そうで、年上のヤトヒョウさんが、会ったばかりのヤトヒョウさんが、なぜか空に落ちていってしまいそうな心細い顔をしていたから、僕は堪らなくなってしまったのだ。


「商会に入った兄と、出版社を作った姉がいて、2人から自分のところに来てもいいって言われたんです。口減しのために、まだ成人前から働かせるなら、自分のところで手伝いをしながら勉強するといい、って」


優しくて賢い兄と、サバサバとしていて気さくな姉。

僕の大好きで大切で自慢の兄姉。

ヤトヒョウの思考を遮って唐突に始まった僕の自分語りに、彼は耳を澄ませて聞いてくれているようだった。その瞳には強い意志の光。


「僕は機械をいじるのが好きです。でも、それだけです。好きなだけで秀でているわけではありませんし、兄のように特別賢くもなければ姉のように人に好かれるような性格でもないし、話術もありません。僕が兄姉のところへ身を寄せれば4人の幼い弟妹達のご飯は少し少なくなるでしょう。だから、僕は神殿に来たのです。」


あって数分の人に話すことではない。話すつもりはなかったし、いまもなんで話しているのかはわからない。突然こんな話をされても困るだろうなとどこか冷静な自分がいて、それでいて何かをヤトヒョウさんに期待している自分もいる。


「ありふれている話です。口減しのために子を外に出す。ありふれてはいない話です。成人前の子供を1人で神殿に送り出す。」


神殿は確かに15歳以上なら受け入れる。しかし、神殿の審査を通らなければ容赦なく追い返されるし、仮に審査を通っても、下界に降りることは許されない。

神殿は、神に愛された子供達が住まう天空の箱庭。

一度その管理者になったが最後、友親類とは基本的に会うことはなく、例え下界に降りることがあっても自由な行動は許されない。


神殿の先生は、最も誉れ高い奴隷と揶揄されることすらある。


「ハントっていま何歳なんだ?成人してないってこちは…15か?」


「いえ、16です。そういうヤトヒョウさんは?30前半とかですか?」


予想を言った瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をしたヤトヒョウさんに軽く叩かれた。そして軽く1メートルくらい吹っ飛んだ。


「あ、悪りぃ。だがハントだってひどいぞ、あたしゃまだ24だ。ぴっちぴちの二十代前半、おわかり?」


「…サバ読んでます?」


憮然とした表情が、目の前でバーベキューの肉をちらつかされて芸をしたのにもらえなかった斜向かいの犬にとても良く似ていて、ハントは思わず吹き出した。

ついでに転びかけたところをヤトヒョウに襟首を掴まれることで回避する。


「いいかぁ、今回はあたしだったからいいものを、同じことを女にやったら引っ叩かれるぜ?」


「経験者は語る、ですか。ためになります。」


「そうそう、あの時は痛かったんだよなぁ、爪立てた挙句スナップ効かせてきやがって…ってちげえよ!」


見事なノリツッコミは、病気になる前の母に似ていて、転げないように支えてくれる手は父に似ていて、僕はなんだか泣きそうになった。

楽しい。

神殿で、神に愛された子供達に仕えて、静かで停滞した箱庭でゆっくりと死んでいくのだと思っていた。

静まり返った生き物のいない、物言わぬ岩だけが転がった山道で真綿に首を絞められるようなそんな閉塞感に襲われていたことが嘘のように。


楽しくて、それが悲しくて、笑えないのに泣けもしなくて。


諦めていた心に、ヤトヒョウさんの陽気さは痛かった。






「そんでよお、あいつが言うんだ。「お前に食われるよりか美猫さんに食らってもらった方が魚だった幸せでしょう」ってよ。あたしが三日三晩徹夜で馬で駆けて最初に言われた言葉がそれだぜ?思わずその場に崩れ落ちたら「邪魔です。どかないなら踏みますよ、主に急所を。全力で。」と来たもんだ。ひっでえやつだろ?」


漸く神殿が見えてきた頃、正確には外輪山の尾根に出れた頃には僕はすっかりヤトヒョウさんの傭兵団での暮らしや友人関係について詳しくなっていた。

日が落ちた山は更に寒く、野営の準備と簡単な夕飯を終えた僕たちは神殿を臨む大岩の上で並んで座っていた。

外輪山から見える神殿は、白磁の宮殿というのが相応しい壮麗なもので、やわらかく纏う霧と月光がこの世とは思えない神秘的な風合いを醸し出す。


「これが、神殿の守護ですか。綺麗ですね。」


神殿が常に纏い、その全貌を覆い隠す霧は神が子供達を守るために生み出した守護の霧なのだという。

矢や大砲、さらには落つる星までをも飲み込み神殿に傷一つ付けることを許さない最強の盾。


「…」


「ヤトヒョウさん?」


月光に照らされ、冷めざめと黄金色に輝く瞳と、暗闇に紛れる焦げ茶の髪。

鋭い瞳は神殿を睨み据え、無意識だろうが力の入った口元と剣に添えられた手は、ヤトヒョウが神殿を快く思っていない…それどころか敵意を持っているようにしか見えない。

その姿は、まるで獲物を捉えた餓狼。


「…ハント。あたしは神殿が嫌いだ。先生も、神に愛された子供達も嫌いだ。」


静かな声。昼の陽気さが掻き消えたどころか苛立ちやら殺意やらを煮詰めて煮詰めて煮詰めて煮詰めて濃縮した様な濃く重いものを孕んだ低音。


「神殿に入る前に聞きたい。別にあたしの望んでいる答えを考える必要はない。ここまでくればさすがのあたしも迷わないし、荷物だけ持ってあたしは先に行くからハントは後からゆっくりくればいい。荷物はちゃんと神殿の先生に渡しておく。」


「…それは、ヤトヒョウさんの望んだ答えじゃなかった場合、別行動になるということですか」


本当に狼を前にしたかの様な緊張を持ってヤトヒョウさんに向き直る。逃げ出せば喉元を食い破られそうな殺気に呼吸が早まる。


「神に愛された子供達は、"色痕カラー"と呼ばれる紋様と力をセットで持って生まれ、生まれてすぐに能力の発動を不可にする"制御環ロック"を嵌められる。これはたいてい輪の形をした装身具で、発動の可否は自身てま考えた"鍵言葉キーワード"によって操作できる。ここまでは知ってるな。」


「はい。」


「では、神に愛された子供達の平均寿命を知っているか」


ふと、脳裏をよぎるのは去年戦死した将軍閣下の配下の子供達の噂。


「二桁に達せれば長く生きた方だと、聞いたことがあります。神からの寵愛が深すぎて、この世に長くとどまることを許されないと。」


「神が子供達に"色痕カラー"を与えるのと同時に"制御環ロック"と"鍵言葉キーワード"を与えたのは何故だと思う。」


「人を不用意に傷つけな…」


いや、違う。

そんな当たり前の常識とも言えることが答えならヤトヒョウさんはわざわざこのタイミングで聞いてきたりはしない。


「…人に、傷つけられないため、ですか?制御できない力で暴れる化け物とならない様に。」


銃を最初に見たときにはその美しさに感動した。

あんなにも小さいのに瞬間的にものすごい力を叩き出し、生き物の命を容易く刈りとる美しい機械。

何よりも美しいと思ったのはただ引き金を引くだけでは弾が出ないという点。一度セーフティを外さなければ殺傷力は発揮されない、制御された暴力というその点が幼いハントの心を鷲掴みにしたのだ。あの震えるほどの感動を忘れたことはない。


「そうだ。そして、自分を壊さないためらしい。神の力人に余りある恩恵を与えると同時に、人の身にはきつい代償を求める。だからこそ、神は子供達に"制御環ロック"と"鍵言葉キーワード"を与え給うた。」


それで、何が言いたいのか。

続くと思った言葉はそこまでで途切れ、ヤトヒョウさんは狼を思わせる黄金の瞳で僕を見据えた。


「考えろ。耳を塞ぎ、己を信じず、己の内の言葉だけを信じろ。あたしの言った言葉が理解できたら声かけな。その時はさらに詳しく教えてやっから。」


小難しい話はできないとか言ってたくせに十分難しい話してるじゃないですか、とか己を信じずに己の内の言葉だけを信じるって物理的に無理でしょとか、言える雰囲気ではなかった。

矛盾の様に思えるそれが、矛盾ではなくなる様なことがこの先、神秘的な神殿で、神に愛された子供達と子供達に仕える先生たちだけの箱庭で起こるのかと思うと、僕の心は恐ろしいほどの静寂に満ちた。


恐怖か、期待か、そんな名のつくものではないふわふわとした不安定な感情を持て余して、僕はヤトヒョウさんを見上げた。

昼に会って、まだ半日も経っていないというのに自分でも驚くほどこの乱暴な様でいて優しく賢い元傭兵に心を許しているのがわかった。


ヤトヒョウさんの黄金の瞳に映った僕は、捨てられる子犬のような途方にくれた顔をしていたのだから。

短いです、すみません

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