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第四章 その5 F65

読んでくださっている方々に楽しんでいただけるよう、毎日更新を心がけていますが、今回は時間が足りずに短くなってしまいました。申し訳ございません。

 九時を過ぎても児童公園から見えるカナの部屋は真っ暗なままだった。

 学校にも行かず、どこに行っているのだろうか。たまたま近所への外出にぶつかっただけで、多少待っていればそのうち帰ってくる、と軽く考えていたキイチはじりじりとし始めた。

 公園を出てアパートのベランダ側に回り込む。

 ベランダから見ても部屋に明かりは点いていない。カーテンがはためいているから遮光カーテンで明かりが漏れていない、というわけでもなさそうだ。

 ん? カーテンがはためいてる?

 キイチはじっと目を凝らした。

 見間違いではない。たしかに窓が開きっぱなしになっている。

(不用心だな……)

 キイチは違和感を感じながらアパートの階段を上った。ハッカーなんて人種は他人の情報がいかに簡単にアクセスできるか、一見安全だと思われている仕組みがどれほど無知に支えられているのかを知っている。罠でもない限り、窓を開けっぱなしにして外出することはあり得ない。罠でないのなら、外出していないか、あるいは自分以外の誰かが開けたかのどちらかだ。

 カナの部屋のスマートメータを確認する。電力消費量の上昇度合いは先ほどとあまり変わっていない。

 ドアのノブをひねると簡単に回った。

 鍵がかかっていない。

 先ほどはどうだっただろうか。柚木はノブを回したか――いや、回していない。ノックをして声をかけただけだ。

 キイチはゆっくりとドアを開ける。もし、誰かが中にいたとして、それがカナ本人であれば別に構わない。むしろウェルカムだ。碇シンジだって天霧綾斗だって黒鉄一輝だって、それがどういう結果を生むかは数多の先人によって明らかだ。

 問題は、その可能性がとても低そうなところだ。

 だが、幸か不幸か、室内に人の気配はなかった。キイチは手を差し入れ、電灯を点ける。スマートフォンをスコープ代わりにして部屋の様子をうかがう。

 部屋はひどい有様だった。

 タンスの引き出しはすべて開けられ、下着や本が散乱している。テーブルにはモニタが二台置かれていたが、一台は倒れたままになっていて、さらに床にもう一台落ちていた。だが、PCは一台もなかった。モニタケーブルやネットワークケーブルだけが残っているところを見ると持ち去られたようだ。

 無人であることを確認してから部屋に入る。

 床には種類の異なる靴跡がいくつも残っていた。

 モニタが残っているということは金目当てではない。単なる空き巣ならかさばるPCなんか盗み出さないし、盗品をさばくつもりならPCとモニタ、セットの方が売り払いやすい。デスクトップPC本体よりコンパクトなモニタを置いていく意味はない。

 だとしたら、PCそのものに用がある、ということだ。

 もっとも、それはあくまでも状況から推測される予想にすぎない。正確に「この部屋からなにがなくなったのか」を知ることは不可能だ。

 だから、何者かが奪ったものの中にカナがいないとは言えない。

 単なる物取りではない以上、犯人は無作為にここに押し入ったのではない。犯人グループはカナのことを知っているはずだ。そして、そのやり口はずいぶんと手荒い。証拠を残すことに頓着しないのは犯人が特定されてもいいと思っているか、犯罪自体が発覚しないと思っているかのどちらかだろう。

 その犯人がカナが捜査しているターゲット――セブンアイズ・タワー倒壊テロ計画に関係しているテロリストである可能性は高そうだった。もし、カナが連れ去られたのであれば生命の危機に直結する。

 荒事は専門ではないが、見捨てるのは夢見が悪い。面識がないだけに今イチ感情移入しきれないが、自分と同年代のいたいけな――司法取引している時点でそれも疑問符がついてしまうが――少女が危険に晒されているのであれば救わなければならない。それは理屈ではなく、キイチの本能のようなものだった。

 キイチはふと、落ちている下着に気がついた。拾い上げるとそれはピンクとブラウンの派手なブラジャーで、背中のホックにはF65のタグがついていた。

 それを見た瞬間、キイチは確信した。

 ――カナは無事だ。

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