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第一章 その1 警察庁魔法対策班

(2017/11/04)口調や表現の一部を修正しました。ストーリーへの影響はありません。

    第一章 


「はぁはぁ、くそっ」

 路地裏のポリバケツを蹴飛ばし、もつれた足で転びそうになりながら走る野球帽の男。くたびれた濃紺のジャンパーは、一目で分かる大量生産の安物だ。無精ひげには白いものも混じり、だらしなく出た腹は長年の怠惰な生活を物語っている。

 その直後。

 サングラスをかけた黒いスーツの男たちが数名駆けつけてきた。細身であるものの、皆、百八十センチを超える長身だ。息を乱すこともなく、判を押したように無表情なまま、きょろきょろと辺りを見回している。

『アルファ、ブラボー、チャーリーは左の路地へ。フォックストロットはそのまま待機、デルタ、エコーは派手に音を立てて前進。ゴルフはアルファとの合流を急いで』

 ヘッドセットからの指示にスーツの男たちが反応する。

『アルファ、速すぎ。マル対は運動不足のおっさんだよ? ゴルフと合流する前に接触しちゃやばいって』

「……すまん」

 スーツの男が初めて口を開いた瞬間。

 轟音とともに、一瞬にして路地裏から焔柱が立ち上った。高さ二十メートルはあろうかという炎の道がまっすぐに走る。

「はぁはぁ、舐めんなよ」

 行き止まりのブロック塀に背を預け、野球帽の男が荒い息でつぶやく。突き出した右手からは黒い煙がかすかに登り、その先にはスーツの男を巻き込んで焼け焦げた道が延びている。

 スーツの男が倒れたまま動かないのを見て、野球帽の男はへへ、と笑みを浮かべる。

『アルファ、ブラボー、チャーリー、起きていいよ』

 ヘッドセットからの声を聞いてスーツの男たちがむくりと立ち上がる。

「な、なんだてめぇら……魔法耐性がある……のか?」

 野球帽の男は驚愕に目を見開き、再び右手を突き出した。

焰弾フアイア・ボールッ……えっ?」

 一瞬立ち上った焔が、まるで粉々に割れるように霧散する。

 視界が晴れると、そこには新手のスーツの男が右手を突き出して半身で立っていた。

「水魔法……耐焔壁ファイアウォール? そうか。てめえらも転生者か」

 野球帽の男はずるずると腰を落とした。

「こう見えても俺ぁ勇者とパーティを組んだこともあるんだ。俺たちの力は世界を救うためにあるはずじゃなかったのかよ。それがこんな魔王もいねえ、ドラゴンもいねえワケのわかんねぇ世界に転生させられて、使える魔法も焔弾フアイア・ボールだけになっちまった。てめえらだって転生者ならわかるだろ! もううんざりなんだよ!」

「この世界のことわりを崩す魔法の使用は認められない」

 カツカツと靴の音を響かせて、もう一人、男が近づいてきた。背格好は他の男たちに似ているが、ピンストライプのスーツに丸眼鏡という出で立ちだ。

「てめえらだって魔法で見てたんだろうがよ。俺の行く先行く先、先回りしやがって」

『ま、広い意味じゃ間違ってないけどね』

 ヘッドセットからの声は当然、野球帽の男には聞こえない。

「黙れ犬。余計な口を開くな」

 丸眼鏡の男がヘッドセットに向かって言ったのか、それとも野球帽の男に言ったのかはっきりとしない。両方だったのかもしれない。

 だが、野球帽の男は自分への侮蔑だととらえた。

「へっ、だったら止めて見せろよ。魔法はこの世界の科学じゃ防げねえ。さっきの水魔法の男をずっと俺に張り付けておくか?」

「だから危険思想の転生者にとれる方法は限られてくる」

 丸眼鏡の男はすっと、野球帽の男に手をかざした。

「な、なにをする? お前、まさか。や、やめてくれ」

輪廻瓦解ドロツプ・リング

「!」

 男の手がぽうっと青く灯り、それが消えるとともに野球帽の男は意識を失った。

「目が覚めればもうこいつは転生者じゃない。あとは捜査一課の仕事だ」

「なんつか、何度見てもやりきれないっすね。死刑執行を見てるような気分すよ」

 水魔法の男――コードネーム「ゴルフ」で呼ばれた男がげっそりした顔で目をそらす。

「さしずめ、俺は死刑執行人てことか」

「いや、その……すんません、剣崎さん。魔対は剣崎さんのその能力で成り立ってるってことは理解してるつもりっす」

 剣崎と呼ばれた丸眼鏡の男は、軽く息を吐いて諭すように言う。

「魔対――警察庁魔法対策班は現世の転生者を救うための部隊だ。前世との縁を切ることで現世の魂が救われるのならそれも辞さない、それだけのことだ」

『転生者の前で平然と前世殺しされちゃあ、いつ自分の番になるのか生きた心地がしないって言ってんだよ』

「い、いやそういうわけじゃないっすよ。キイチくんも変な冗談やめろって」

 ゴルフは慌てて両手を振りながらヘッドセットに話しかけた。

「ラミア、その野良犬の匂いがつかないうちに引き上げろよ」

『はいはーい』

 ヘッドセットの声が女の声に代わり、それが合図のようにスーツの男たちは立ち去った。

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