序章 異世界
(2017/09/19)口調を一部修正しました
夜の帳が下りた魔山は禍々しいほどの闇に包まれていた。
切り立った崖には幾人ものローブを着た狂信者たちが松明を掲げている。
「大魔法使いアランも所詮は人の子か」
ローブを着た男の声に民衆が嘲笑する。
「貴様ら……」
首枷を付けられ、拘束されたままじっと前を見据える男。痩せこけた頬、土気色をした肌、落ちくぼんだ眼窩の中にあってなお、ぎらぎらとした瞳だけが激しい炎を宿している。
視線の先には後ろ手に手枷を付けられ、無様に転がされた少女。
苦悶の表情を浮かべながらも、艶やかな銀髪に彩られた美しい顔が狂信者たちの嗜虐性を刺激する。
「貴様らの標的は俺だろう! ケイを放せ!」
「ふん、いいだろう」
ローブの男が少女の傍らに立ち、呪文を詠唱する。それを聞いた首枷の男は大きく目を見開いた。
「な、なにを……や、やめろ! やめてくれぇっ!」
「兄さん……ごめんなさい。あたしのせいで」
「ケイ!」
「あたし、待ってるから。どこに行っても兄さんのこと、待ってるから」
そう言い残した少女の姿はかき消すように消えた。
「ははっ、ご希望どおり、この世界から解放してやったぞ」
「貴様ら……」
「心配しなくてもお前もすぐに送ってやる。運がよければ妹と同じ時間、同じ世界に飛ばされるだろうよ。なあに、不死のお前ならいくらでも時間があるさ」
「貴様ら……貴様ら絶対に許さぬぞ。この世界ごと葬ってくれるぞ」
「そりゃあ楽しみだ」
そしてローブの男は再び詠唱をはじめ、首枷の男は――。
この世界に転生してハッカーになった。