16-5
はあ。
はあ。
分かるけども、何故そう面倒なことを。
「ううむ。とりあえず俺は負けないのだよな? よし。そんな俺からどうやって海の女神を取り返すつもりだ。あんたは」
「何だ。海の女神を取り返されたら困るのか?」
「いや別に」
「何も策がないわけじゃない」
海の神は教えてくれる。
「今の君なら俺なら殺すことができる。数十、いや数百は殺せるだろう。殺した時、一定の時間が巻き戻る。それは一日も戻らないが少しずつ戻る。だから」
海の神は続ける。
「君と妻が出会うその時まで君を殺し続ければ良い。そして出会いを邪魔すれば妻は戻ってくることになる」
「あれ、やっぱりお前悪い奴なのか?」
いや、そもそもの話。
「あんたの記憶も戻るのだろう? だったらこの策は無理じゃないか。あと、普通に取り返そうとは思わないのか? 俺を殺さないで」
「それは根本的な解決にはならないし、それに俺の記憶が戻らない」
「どうして?」
「神はこの力が及ばない所にいるからだ」
そういうことか。
神様は元々、神たちと戦わせるつもりだったのだ。どうして神様が何も教えてくれなかったのかは、神と戦う度に少しずつ学ばせるつもりだったからだ。
じゃあ、俺が暇になって天界を飛び降りるのから、フィナさんと出会ったこと。そのすべてが決まっていて。これらはこの戦いまでのささやかな準備期間で。
これが一番の試練か。
「きついなぁ」
「さあ、死ぬ準備は良いかい?」
海の神は一本の槍を取り出した。
海の神が唱えた魔法は瞬く間に俺の周りを取り囲み、それは黒いカーテンのように今いる場所を遮断する。
俺と海の神の二人が真っ暗な空間にいた。
「何これ?」
「転移の力が使えるのだろう? 逃げられたら面倒だからね」
海の神はそう言って、槍を俺に向けた。




