16-4
「どちら様ですか?」
「お会いできて光栄でもないとは。創造主。いや、創造主もどき」
「あんたが俺のことに詳しいことは良く分かった」
その男は俺の肩に両手を置き、まるで俺が逃げないように抑え込みながら、海の女神に目を向ける。
「海の神?」
「やあ、愛しの妻よ。何故こんなところに?」
「知っているのでしょう?」
「もちろん。ダメじゃないか。何故、こんなところにいるんだ? 外は危険だから天界にいないと」
「天界という名の牢獄でしょう?」
その男、海の神は海の女神に対してのみ妙に優しい表情だった。
言葉遣いが違う。
「とりあえず。創造主もどきよ。ついてきてくれないか?」
「それはいやかな」
「せっかく、君の妻たちに迷惑をかけないよう、この時間帯を選んだというのに」
「あれ、お前案外いいやつなのか?」
海の神。敵じゃないかもしれない。だったら着いていっても良いかもしれない。
というか、妻じゃない。まあ良いや。
「分かった。良いよ」
「ちょっと待って。そうちゃん。着いていくの?」
「大丈夫。多分」
海の女神は止めに入るが、俺は自分の考えに従うことにした。
海の女神は分かったと小さく呟く。
俺と海の神は三人を残し森の奥へと入っていく。月明りを頼りにゆっくりと俺は歩くが海の神は足元を見ずにしっかりとした足取りだった。
暗い所も見えているのか?
「さて。どうして俺が君に会いに来たか話そう」
「そうしてくれると嬉しい」
「俺は君から妻を取返しに来た」
その言葉にまあそうかと俺は思う。
そうでないとまず来ないはずだ。しかも嫌われているらしい俺のところにまで。
やっぱりふと考えてしまう。
この海の神がそこまで酷い奴に見えない。妻のためとはいえ、力と権力がある者ほど来ないはずだ。そのすべてを持ってして、海の神は自らやって来た。
妻のことを本当に愛してるはずだ。
それはさっきの会話からも見て取れる。
じゃあどうして。
海の神は妻を牢獄に閉じ込めたんだ?
「まず。さっきの質問から教えるべきだろうか」
「うん?」
質問?
そういえば、海の女神からどうして俺が死なないか聞いていた途中だった。
「君は今日までに92回ほど死んでいる」
海の神はそんなことを言った。
「うん?」
「92回死んだ君を創造主は後継者である君を蘇らせた」
「はい?」
「不思議には思わなかったか? どうして貰ったばかりの力が我が力のように欲しい時に扱えるのか」
確かに。
初めの頃は苦戦していたのに、それからというもの苦戦なく比較的簡単に覚えていった。
あれは神様の仕業じゃないのか。
「創造主は後継者である君に試練を与えた。それがこの死ねない事でもある。君は死ぬ度に時間を巻き戻され、再びその敵に挑ませる。死ねばまた蘇らせ、再び挑戦させる。このサイクルを何度も何度も繰り返し、やがてクリアするその時を待ってな」




