15‐3
旅に行くことをフィナさんとレナちゃんに5割がた嘘を交えて伝えた。
真実を伝えたのは海の女神に誘われたこと。そしてその海の女神と出会った場所は月の神の神殿だということ。
嘘を伝えたのは無の神の存在だ。
無の神が入ると少しだけ面倒になる、と俺は直感的に感じ取った。無の神はおそらく人々に広く知れ渡っていない。
無の神と出会い、世界を滅ぼすと教えられた俺は少なからず無の神について調べたが、無の神について書かれた本はどこにもなかった。リリエルも詳しく知らないらしい。
ただ何時の時代も彼女はこの世界に居続けているらしい。
一言で言うと良く分からん。
まあ、だから伝えない。俺が分からないことを相手に伝えることなど不可能だ。
「それでどこに旅に行くのですか?」
「さあ。海の女神の気分次第」
「何故、その海の女神様の言うことを聞くのですか?」
「さあ。頼まれたから」
「でしたら!」
フィナさんの表情が明るくなったと思ったら、俺の手が取られた。
「私の頼み事も聞いてくれますよね?」
「ごめん。それはできないかな」
「そんなぁ」
「私は?」
「レナちゃんも出来ないかな。ごめんな。レナちゃんには大きな恩があるのに」
「ううん」
レナちゃんが小さく首を横に振る。
どうして俺が海の女神のお願いを聞くことにしたかの理由は無の神について触れないと出来ないため、さすがに今この場ですることはできない。
ううむ。
うっかり口が滑りそうで怖い。
「じゃあ、挨拶も終わったしそろそろ帰るかな」
「もうですか? 一泊していかれませんか?」
「流石に怒られるからね」
「誰にですか?」
「海の女神に」
「ねぇ、まだ?」
俺がそう呟いた時に、まるでタイミングを見計らったかのように海の女神がどこからともなく表れた。傍には無の神がいる。
あれ、一生懸命隠してきたのに。
「あなた様が海の女神様、ですか? シンシア、すぐにおもてなしを」
「大丈夫。大丈夫。私は元人間だから、適当にお相手してくれたら良いよ。それよりもそうちゃん」
「はい」
「…………そうちゃん?」
隣でフィナさんが眉を顰める。
「遅い」
「さいですか」
「何その反応。せっかく私が旅に連れて行くと言ったのに」
「いや、あんたがお願いしてきたんだろ。勝手に記憶をねつ造するな」
「記憶読み野郎にはこれがお似合いよ」
「ああん?」
「やるかぁ?」
「二人とも、何喧嘩しているのですか?」
「大丈夫。大丈夫。軽いスキンシップだから」
「そうそう。別に怒っているわけじゃないから」
「あなたたちのそういうところ好きで…………もないわね」
無の神がそう小さく呟いた。




