13‐2 海の女神2
「できない」
気づけば三日経っていた。
魔法は得意な方だったが、魔法学が詰まった本なく、一度しか見たことがない魔法を覚えるのは難しく。
彼女は悪戦苦闘に悩まされていた。
そんな彼女の牢屋の中にその神は現れた。
「海の女神。一体何をしているのですか?」
「やあ。久しぶり。どこかの神様」
「どこかの神様じゃありません。私には立派な」
「はいはい。それは良いから」
「もう」
その神は小さく不満を漏らす。
姿形は彼女と瓜二つである。いや、姿を偽っているともいえる。その姿は本来の姿ではなく知人の前には知人の姿で現れるのがその神の生き方である。
彼女と旧知の仲であるその神は彼女が床に書き記す魔方陣に目を落とす。
「転移魔法?」
「良く分かったね」
「何故、今になってその魔法を?」
「脱走してみようと思って」
「ああ、なるほど」
そう言いながら、外の天使に目を向ける。
「こんな堂々と?」
「何も言ってこないということは、しても良いのでしょ。多分」
「まあ、どこに逃げたとしても海の神はあなたを連れ戻すことができますからね」
「そしたら、また逃げれば良いのよ」
「あなたのそういう生き方が羨ましいわ」
「私もあなたのその自由気ままな生き方が羨ましい。そう言えば、どうやってこの牢屋に入ってきたの? 転移魔法じゃないでしょ?」
その質問に神が小さく頷く。
「ええ。神の力です。神の力ならば、魔力使わずこんなこともできるのですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「聞いておきながら興味なさそうに」
「興味ないからね」
「まあ、酷い」
神が頬を膨らませる。
「私の顔でそんなことしないでよ。見てて恥ずかしいじゃない」
「あなたにも羞恥の心があったことに驚きですね」
「何それ、酷い」
「ふふふ」
そう言って、神が笑う。
ふと名案が思い付いたと言わんばかりに手を叩き、彼女は神に対して言った。
「そうだ。転移魔法教えてよ。あなたなら知ってるでしょ?」
「ええ。もちろんですよ。ですが、教えて良いものか。あとで海の神に怒られるのはいやですから」
「大丈夫。大丈夫」
「まあ、大丈夫ですかね」
神はどこからともなく羽ペンを取り出す。
そして床に小さく魔方陣を描き始めた。




