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12‐5 海の女神

 その女神は今の境遇に不満を抱いていた。

 元々人だったが神の妻に選ばれ。

 その身を海に捧げられ。

 そして気づいたら天界にいた。

 海の神の妻として、彼女は海の天界、そのはるか地下の牢屋にいる。


「ああ、暇だ」


 地上のことは忘れてしまった。

 地上の光景はもう何年も見ていない。

 窓の外から見えるのは、ぼんやりと照らされた深海の光景だけ。


「見える魚は気持ち悪い魚ばっかり。何か良い退屈を凌ぎはないかな」


 そう呟いても、誰も耳を傾けてはくれない。

 外の魚同様に気持ち悪い見た目の天使が小さく頷くだけである。彼女はいまだにその天使が言葉を話した姿を見ていない。ただじっと槍を持って彼女が牢屋から脱走しないかを見張り続けるだけである。

 それに不満そうに唇を尖らせながら、彼女はまた外を見る。


 それは唐突なことだった。

 幾何学模様の魔方陣。

 それと同時に巨大なスライムが海の何もない所に現れたからである。

 ゆっくりと体が引きちぎれ、深海の奥底へと落ちていくスライムの光景に彼女は初め理解が追い付かず、言葉が出なかった。

 指を窓の外に向け、必死に天使にアピールするも、天使は興味がないのか窓の外を見ようとはしない。


「窓の外!」


 やっとで出た言葉に天使が反応を見せる。

 牢屋の隣の窓から外を見る。

 ただその時にはスライムの姿はなかった。


「残念。面白い光景だったのに」


 彼女の言葉に、天使は嘘だと考える。

 そしてまた見張りの定位置に戻る。


 そんな中、彼女は一つのことを考えていた。

 何故スライムがこんなところに来たのだろうか?

 転移魔法?

 こんな場所に?


「…………脱走をしようとか考えもしなかったな」


 彼女はそう小さくつぶやいた。

 転移魔法。

 それを覚えてみようとふと考える。

 魔法は使えても、転移魔法を使ったことはない。ただ偶然にも、転移魔法の魔方陣を見ることができた。

 一瞬だったため曖昧ながら、魔方陣の模様を彼女は真似てみる。成功はしない。

 幸運にも時間はいくらでもある。

 そして魔方陣はある一定のルールの下描かれる。

 いつか正解にたどり着けるその時まで。

 彼女は永遠と試しすことを決めた。

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