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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私は籠の中の鳥

作者: 歩歩

供養です。

もうちょっと書きたいことあったんだろうけど昔のことすぎて忘れましたね。

毎週末、二日間の休日。

私は佳乃子の家に行く。




佳乃子は地味な女の子だ。

教室の窓際族。学校の日陰者。決して佳乃子にスポットライトが当たることは無い。

注目されることは皆無に等しい。

居ても居なくても注目されない。いじめの標的にもならない。

影が薄いと言ってしまえばそれだけで。

佳乃子に興味を示すものはおらず、また佳乃子が興味を示すこともなかった。

見た目だけなら整っているようにさえ見えるのに。いつだってこれといった表情を浮かべないせいで暗い印象ばかり受ける。


逆に私は、ちやほやされる存在だ。

かといって決して、好かれているわけではない。

寧ろ嫌われ者。それでも人は私の前に勝手にかしずき、そして勝手に逆恨みするのだ。

毎日手入れを怠ったことなどない、艶があり枝毛など一本もない少しくらい栗色の髪。

また、同じように手入れを念入りにほどこす白い肌はみずみずしく。

フランス人の祖母の血を感じる日本人離れした顔。長くすらりとした手足に、女らしい丸みを帯びた体躯。佳乃子に言わせれば、艶やかな見た目だそうだ。

男は私の笑顔の前に赤面し。女は私に嫉妬する。

馬鹿みたいね。




土曜日の朝、佳乃子の家へ行けば佳乃子は妖しくて暗い美しさを見せる微笑みを浮かべて、広い玄関に入った私を抱きしめる。

その時から、一歩でも佳乃子の家に入ってしまえば、私は佳乃子の人形だ。




昔から、正確には保育園の頃から。

佳乃子は人形遊びの好きな子だった。

デフォルメされた人形ではなく、人間に似た虹彩を持つどことなく不気味なフランス人形があの子の友達で。家からそれを持ち出して来ては同じ保育園の子供たちを泣かせた。

保育士に叱られても懲りることなく。むしろ彼女が人形を持ってくる回数は増えて行った。

人形を着替えさせ、その陶器の肌を撫でまわし、うっとりとその人間じみた瞳に見入っているその様は、何処をとっても不気味だ。

その頃から、あの子はとっても異常な子だった。




佳乃子の部屋もまた同じように異常だ。

飾られる十体を優に超すフランス人形と、人形たちにあうように改造された部屋。

天蓋のついたベッドは白いレースに四方を囲まれ、飾りに黒や紫が目立つ。

飾りの色は佳乃子の気分で変わり、時には水色やピンクの可愛らしい部屋だったり、パステルカラーの目立つにぎやかな部屋だったりもした。

今はどうやらゴッシクロリータがモチーフらしい。フランス人形たちの服もまた、黒や紫、赤と白が目立つゴスロリドレスでまとめられている。


名前を呼ばれて、腕を引かれて。

形ばかりの荷物をとられ、ベッドに座らされる。

しばらく佳乃子は思わず引き付けられるような妙な魅力を漂わせる微笑と共に、私の頬を撫でて瞳をのぞき込む。

それに飽きれば、私の服を脱がせ始める。

最初の頃は恥ずかしくて抵抗を見せた着せ替えの作業ももう慣れた。だって結局私は佳乃子の人形だ。

上の服を脱がし、ブラジャーさえもはぎとられ、空気にさらされる私の乳房を撫でまわす。佳乃子の冷たい手の感触を無意識に追いながら、声を漏らさないように努める。少しでも声をあげたりすれば、佳乃子の機嫌を損ねてしまい、その視線に明らかな怒気を感じるのは目に見えている。

白い素肌の感触を楽しんで、惜しむように私の肩に唇を落とし、フフッと楽しそうに笑って、佳乃子はわたしの髪にまた口づけを落とす。

下にはいていたスカートのうちに手が入ってきて、太ももを撫でられる。肌の弾力を楽しむように、強弱をつけて撫でる佳乃子の手にばれぬように息を止めた。

甘くねだるような、粘着質な声で名前を呼ばれて。可愛いと口づけを落とされて。ショーツだけの姿に剥かれる。佳乃子は暗い笑みを浮かべたまま、私の足もとに座り込んで内股や膝、指先にキスを落とす。

そうやって毎度毎度一時間弱。私の体の感触を思う存分楽しんで、佳乃子は大きな畳二畳分あるクローゼットの中へと消えていく。

そこでやっと、ゆっくりと息をはいた。




佳乃子が私に求めるのは人形であること。私はその求めに応じるのみ。

だって、同じ女の佳乃子に恋をしてしまった時点で、少しでもそばにいられるならと、一筋の糸に縋ってしまうのは仕方ないじゃないか。

佳乃子は私に、ドレスを何枚も何枚も納得がいくまで着替えさせる。

私が自分で着替えることは許されず、佳乃子の手にひかれるままに身を任せて、戯れに素肌に触れてくる手の感触をこらえながら、ああでもないこうでもないと一人でぶつぶつ呟く佳乃子を見ながら。

三白眼のこげ茶色の瞳に、縫いとめられて。


佳乃子の納得がいく服を着せられて、そして私はまたベッドに座らされる。

そして佳乃子は昼食を作りに部屋を出る。




保育園、小学校、中学校。

ずっとずっと同じ場所で過ごし、奇跡的に今現在までクラスが違った事が無い。

それでも、保育園の頃私は佳乃子に気味の悪さを感じていたのは確かだったし、関わりたくないとも思っていた。

それが変わったのは、自分が人の目を引きやすいのだと自覚したころだ。

小学校に上がり、ませてきた男どもはこぞって私に告白したし、気を引こうと日本人離れした私の顔をからかってもみた。女どもは男の目をこぞって持って行く私に嫉妬し、また私の周りに集まった。

なのに一人だけ、佳乃子だけ、一切私に興味を示さない。

佳乃子は一人、ぼぉっと窓の外を見ていて、何事もそつなくこなし、事を荒げることなく、人に興味を示さず。最初の頃は、佳乃子の存在に不気味さを感じ、からかいや嘲りをぶつけていたクラスメートたちは、どんどん彼女に興味を失っていったようだった。

ポツンといつも一人。彼女の周りには誰も居なくて。

人に囲まれる私とは正反対の佳乃子に。私だけ、私だけが目を離せなかった。




今日佳乃子が作ったのはジャガイモや玉ねぎがぐずぐずになるまで煮込まれたコンソメスープだった。元々用意はしてあったのだろう。

数個のロールパンと共にスープをもって、佳乃子はすぐに部屋に戻ってきた。

おままごとの食器のよう。

ドールハウスについているような、どこかごてごてとした装飾のついたお皿。

私にはこれが似合うと、銀の匙でスープをすくう。

零さないようにうまく、私の口の中へスープを滑り込ませるように流す。

私はただ、運ばれる食事を咀嚼して飲み込む。

さしてお腹が減っていなくても、好みの味付けじゃなくとも。これはおままごとだ。佳乃子の一人遊びだ。私は佳乃子の玩具としてそれにこたえるだけでいい。


「おいしい?」


うっとりとした笑顔を浮かべて、私の頬を撫ぜながら問う佳乃子に、ただ与えられたスープとパンを飲み込んでいく。

下手に頷けば機嫌を損ねる。ただ、ただ、人形に徹するしかない。


こんな異常な佳乃子との関係に違和感を抱いたことは無い。当初、羞恥心や戸惑いは確かにあったが、今ではそれすら薄れてしまっている。

きっと私は正常な判断なんてできていないんだろう。


私は、籠の中の鳥なのだ。

籠に収まることを望んで、自分から入った愚かな鳥。


「かわいい。かわいい、私だけの」


囁いた佳乃子に、そっと口元だけのほほえみを返す。


「愛してるよ。私だけの人形(ドール)


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