序章~其処までに至る回想~2
そうい、あそうだった。
捕まって吊るされていた所までだったかな。
さて、この吊るされていた状況だけなら容易に抜け出す事は出来たんだよね。でも、あの人達は入念に僕を削ぎ落とした。言葉通りに。
そう、僕の腕と足を切断して切り口を縫い合わせた。
達磨というやつらしい。
この状態から抜け出せたとしても逃げることは出来ない。
声を出そうとしても喉を潰されていて空気が漏れるだけだった。
目は潰されてなかった。
「ふふふふふふす。初めましてお目にかかる事は光栄なことなれば。」
誰かが喋りだした。誰だったかは思い出せない。
「君に対しての情報は知っている。去年の事も詳細にな。」
微笑んでいるその口許は、視界に入れるだけでも吐きそうになった。
頭振ってから天井を見ると穴が幾つも空いていて、其所から風が音を鳴らしていた。
「さて、ええ。交渉、でないと始めに言っておこうか。」
咳払い。
「此方の言うことを全て呑んでもらう。」
何故か焦点が合わなくなって意識が遠退いていく。
次に意識を戻した時に僕は、地面に立っていた。
それと僕を脅していたであろう人を含めて全員が、血の湖に横たわっていた。
それを理解するのにかなり時間を必要としたけどまた、何かがあって、この状況に成ったのだろうと。
それと、切断され骨や神経ごと潰され見えなくて、知らない所に棄てられた腕と足が元に戻っていた。
違和感は無かったけど、それでも焦燥感はあって、全身に重みを感じ、適当な場所に座って踞ると眠ってしまった。
どんなに寝ていたのか知らないけど、目を覚ますと僕は車両の席で眠っていた。
「あ、起きましたか。」
「おお。起きたか。なら問題はないな。」
「そうか。で、このまま港まで向かうか。」
「いえ、先に事の処理報告を挙げておかないとならないので、近くの支所に寄りましょう」
「そうですね」
僕は状況が掴めなくて聞いてみた。あの後どうなって、こうなったのかを。
僕があの時、気を失ってからどれだけの時間が経ったのかは分からないらしい。それでも監視映像やら記録やらを遡って僕を発見、その後目星を付けた場所を探して厳重に警戒しながら中を覗くと、血に横たわる人達が目に入り、その臭気と光景に何人もの人がその場で吐いたらしく、現場は軽く混乱したという。
それでも中に入って見渡すと、柱を背に踞っている僕を見つけて一安心。外傷も見当たらなくて、でも揺すっても頬を叩いても全然起きなかったというので一応その場で簡単な検査をしたものの異常は見つからなかった。それでとりあえず、担いで車の中へ運んでその後車両へ運びいれて、席に移してから目覚めるまで待っていたんだ。
そうして僕が日も大分高くなった頃に目覚めたんだって。
んで、点検が終わって出発した。
何事もなく出てくれるなら良かったと心底思う。
そう妨害があった。
発車して時間を置かずに銃撃と一緒に窓を蹴破り、天井に穴を空けて、僕達を脅してきた。正確には僕だけなんだけど。
「おうおうおう。俺たちの事を知っているか。いや知らないだろう。それはどうでもいいか。俺たちの要求は一つだ。この中にスワ・コウマは居るだろう。隠さず差し出せ。そうすればお前たちの命は考えてやらんでもない。」
「あの、答えて良いですか」
「おう。ガキ差しだす気になったかなら、さっさと」
「ああ。その僕がその人物なんですけどね。」
「は、そうかい。え」
「は、い」
「おいガキ、嘘をつくなよ。そんな」
だから端末を見せて身分を証明させた。で、狼狽えている間に全員で動けなくして。
「質問です。素直に答えてください。」
一人を除いて全員の目鼻口を塞いで、体も動けないようにした。
「素直に答えてくれましたら僕は皆さんに対して保証します。嘘偽りはありません。」
この言葉が効いたのか凄く素直に僕の質問や他の人達の質問にも全て答えてくれました。
真偽は別にして。
「そうですか。じゃあ、僕の最後の質問です。」
四人に目配せをしてから、
「では、僕の最後の質問は、この、中に提供者はいますか。」
端末画面を見せて示させる。
示したモノを再確認して本当かどうかを聞くと大きく頷く。
そう。と小さく呟いて適当な場所に座って項垂れる。
正直、こんな事がまだあるのか。と考えていた。
島内で僕に対しての如何なる理由があっても危害等を加えればどのような者でも。というのが今は周知されている。
それは去年、巻き込まれた気分の悪い行事含めて関係者は僕が面倒くさいからの一言で無しにしてもらった。
ようは恩赦だけど、これ以降は島内での面倒は無くなると思っていたのに。あの議会の後に周知徹底させる。とか言ってたのに結局させてないし。とか息を何回も吐いていた。
世界は甘くないのかな、そんなに。
うあああ。とか奇声を上げていたと思うけど、それでも僕の耳には拘束した人達の悲鳴が聞こえていた。
「煩いな。少し黙ってて下さいよ。」
「お、ああ。すまんなボウズ。こいつらの背後に居るのが本当にこの人物だけかを調べているんだ。我慢してくれ。」
静かに考える時間も与えられないのだろうか僕には。
ああ、そう言えばこの時は口を利ける人が何事かを言っていた気がするけれど、うーん。何だったかな。
まあ、その内思い出すかな。
で、それから聞けることを聞けて皆さん、特に元船長が引くほど満面の笑顔をしていたことに恐怖と吐き気を覚えた。
最後に残りの一人の口を塞いで、目を覆って車内の隅に固めて放置した。
その後、襲撃した人達は部隊に引き渡して埠頭へと向かったんだけど、また邪魔が入ったんだった。
その邪魔した人は僕を排除しようとしに来た訳ではなかった。何故なら、
「やっと見つけたぞスワ君。」
その人は今は知っている人だけどその時は初対面の人。
その人は後ろで束ねた髪を靡かせて僕の腕を掴むと何処かへと連れていこうとする。だからその理由を聞いてみた。
「何を言っている。今日が何の日か知らない訳ではないだろう。それともサボる気だったのかね。」
その言葉の意味を理解するのに軽く三分は要したと思う。
「それって今日の始業式の事ですか、でも僕は出られませんよ」
端末を操作して画面を見せ、依頼された内容を見てもらった。
後ろで機密漏洩ではとか聞こえたけど敢えて無視した。
「これは今週一杯とか記されているけど、別に今日じゃなくても」
「ふむ。確かにその内容は今日から7日迄の間に返答か何かをであって今日出ないといけないとは書かれていないですね」
内容を読んでみると確かにそんな事が書いてあった。
「これを読むに、返答を含めて一週間で、か。ならどうする」
目線を僕に合わせて、
「今から引き返しても良いが、戻ってもなあ。」
「それなら心配ありません。最短での手配は済ませていますから。」
そう言われて手を引かれながら向かわされたのは、埠頭へ続く道の途中にある廃墟だった。
「ここは。」
「心配しないで着いてきて」
不安が無い、と言ったら嘘だけど、僕はその人に着いていった。
廃墟の奥から更に外に続く扉を潜って壊れた機械の様な物の横を過ぎるとそれは見えてきた。
「つまり緊急事態で手を打っておいた。そう言うことですか」
「ええ。本来は廃棄されていた物を去年の事を踏まえて再利用することにしたんです。」
「去年の。とは」
「あれだろ、この島の利権絡みを発端とした襲撃事件。表では無かった事にされているがな」
「ああ。上が関係していたと噂の」
「ふきききひひっ。そんなもの関係なく。あれをこじつけの理由にして軍備強化を推進したいのがみて取れる」
「これはその一環だろうか」
「そんなのは良いですから。で、見るからに崩れそうなこの建物は何ですか。」
「直通連絡通路。と言った方が良いのかは分かりません。が、便宜上はそう呼称しています。」
「ほほう。こんな場所にあるたあな。」
「おや、知っておられま、し、はああぁ。あ、貴方様は」
「ああ。もう話が進まなくなるのでそれは辞めてください。」
僕がうんざりして話を断ち斬ると、続きを紡ごうとしていた口を閉じ、発散出来なくなった感情を何処に向ければよいのか分からず表情を曇らせる。
睨みを僕に向けると軽く気を落ち着かせるために息を吐いて、気を取り直す。
「さて、この見てくれは崩れそうですが、実際は簡単に崩れません。」
「ああ。偽装して見るからに危険な場所だと思わせるためですか」
眼鏡の奥の濁る瞳を細め崩れそうな建物を見る。
「詳細は省きますが、この場から学園へと向かってもらいます」
「異議無し」
「同じく」
「きひはは。無いねえぇ」
「ふん。俺も無いな」
「じゃあ皆さん総意ということで行きますか」
「少し待ってもらえますか。」
僕は建物の扉を開ける前にあることを聞くため、案内してもらった人に聞いた。
その答えは予想通りだから、結局、どう転んでもそういう運命なのだろうか。
偽装の扉は簡単に開いた。
その向こう側は暗く先が見えない。
「先に謝っておきますね。」
全員の視線が一人に向かっていました。
「何分緊急時で電力供給が間に合いませんでした。ですので光源は常備されているこれを」
と渡されたのは細長く黒い懐中電灯。
全員で明かりを点すと結構明るい。
準備が整って、また、質問を一つして、学園への出口に案内された。
長い。終わりがないと考える程にその中は暗く先を照らしても闇に呑まれそうだった。
実質、僕は呑まれかけていたかも知れない。
どうにかこうにか、自我は保てていた。
「本当なら入り口に有った駆動車で向かうのですが」
電力が供給されていない今は使い物にならない。そういって歩いて暗闇を進んでいた。
手元のライトを縦横無尽に適当に当てると古びた扉や閉ざされて開けることは出来ないであろう扉が並んでいた。
それでずっと続いていた道が唐突に終わりを告げた。
告げたとは言えないかな。終わった。と言った方が正しいかも。
とまあ、そんなのは別にして、長い道が突然現れた壁に阻まれた。
見た感じ何もない壁だけで一人を除いて戸惑っていた。はずだと思う。
「では、これより外に出ますが何か質問は。なければ行きますね」
と、そう簡単にいかないだろうと思って幾つかの質問をしてみたら全てに答えてくれた。
「では、扉を開けます。準備は良いですね」
僕達は頷いて 息を飲んだ。
壁に手を当てると、光が集まって渦を巻いて合わさったような音の後に縦と横に一本ずつ筋が入ると軽い音と一緒に四方に開いていく。
開いた壁の後には扉が有った。
古く錆びて見えるけど本当は違くて、凄く厳重に鍵が掛けられているらしい。
案内人が手を触れると小さな振動と一緒に錆びたように見える扉が開いて、外の光が僕たちを照らす。
最終的な事を言うと、予想通りな展開が待っていた。
外の光に目をしかめ手で遮ると、何処からか声高らかな言葉が聞こえた。
この時、当たり前だけど本人は見えなかった。
『姿を見せないですまない。お前達の中でスワ・コウマは居るな。判っている隠すことは為にならぬぞ』
素直に僕達は外に出て並ぶと全身に赤い光線が充てられた。
『動けば殺す。』
言葉に重い雰囲気が醸し出されていた。
『確保』
僕達の周りに腕を突き出した人達が陰から現れてきた。
『この者らは特殊精鋭部隊の中で選りすぐりの者達だ。無駄な抵抗はしないことだ。』
全員。喋らず拘束された。
嘲る言葉を浴びながら護送車に乗せられて目隠しをされてから出発した。
停まって降ろされ連れていかれて椅子か何かに座らされてから目隠しを外されると壁一面に立つ兵士と僕達の前に不遜な態度で煙を燻らせている男。
後に判明したけど世界的に手配されている男だった。
「初めまして、この部隊を預かる者だ。」
「で、僕に何用ですか。」
「くく。そう急くな我等の要求は一つだ。」
「うん。つまりは、僕がタトウに行くな。と言いたいんですね。」
頷いたよ。わざとらしく。
「そうか。理解しているなら早い。では承諾するのだな。」
「そうだねえ。僕はどちらでも構わないと考えるけど。その他の方々が納得するのか。」
「我々には拒否権決定権はない。ボウズの意見に従うのみだ。」
このときの元船長の即答で決定したんだよな。
「くくく。聴いていた通りだな。あんたらには現在全ての権利がそこの人間に握られている。それは行動一つも自由に出来ないことを意味している。そうだな」
肯定の意味として見えるだろうから頷いておいた。
「く、くくくくはははは。それなら判るな動くなよ。」
壁に並んでいた人達が構えてから腕を僕達に向ける。殺意を込めて。
「考える時間は与えない。即答してもらおうか」
溜め息と一緒に即答しておいた。
「そうか。ならおい。」
僕達の其々の手と足片方ずつが撃ち抜かれ僕は一応悲鳴を挙げておいて他の人達は我慢したり苦悶の表情を見せつけるようにしてその場で全員倒れて意識を手放させた。
「ふふ。私を含めて全てを嵌めようとしても無駄と悟ったか。だが遅い、こいつらを依頼主の元に連れていく。容器に入れて運び出せ。」
力なく横たわる僕達を手荒に扱い用意していた容器とやらに詰め込むとそのまま編成して連れていった。
全員の顔はどうしてか安堵していた。
激しく揺れる車内には納められた容器。それを監視する複数の兵士。
完全防御型車両に納められている僕達は何処かへと急いで運ばれていた。
その揺れが一層激しくなって随分経つと、車体を掠める音と踏み潰す音を最後に重厚な音の後に、やっと停まった。
僕達を納めた容器が大きな台車に固定されて運ばれていく。
ポケットから布にくるまれた物を一つ取り出して口に加えると、容器の側に張り付くように歩いていった。
エイルベートに容器を搬入してあの男も一緒に乗り上階へと上がる。
着いた階は、その区画が全て一つの部屋になっていた。
簡単な椅子に座る一人の存在を認識すると加えていた物を耳に挟んで敬礼をした。
「ご依頼の品を無力化、専用容器に入れ、此方まで運び込みました。確認を」
白い歯を見せつけるような笑みをすると、指で近くまで持ってくるよう無言で指示し、素直に従い近くまで運ぶ。
「では、此れで私の依頼は完遂と見なし、報酬は半分物理で後は情報としてお願いしたい。」
肯定する。
敬礼してから退室するため扉に向かうと。
「そう言えば」
この時始めて依頼主が声を出す。
「は、」
「君の名を聞いていなかったな。なんと言うのかな」
「答える義務は有りませんが。そうですなあ。今後も取引させてもらえるなら」
考えるように見せて
「良いだろう。君は中々の手際だ。今後も依頼するだろうから」
「そうですか。なら」
踵を返して敬礼をしながら、
「私はシヴェンチルス・ハニガフニア。元第2作戦部隊副隊長を勤めていました。」
「ほう、あの悲劇の生き残りか。」
「知っていましたか」
「当たり前だ」
「では、その後の部隊の顛末も」
「聞き及んでいる。といって私に何かを求められても困るがな」
「期待はしていませんよ。もう昔の事ですから。今さら過ぎたあれを掘り返す気はありません。ご心配なく」
「気にもしてない。あの事はもっと上の奴ら関係だからな。」
「それなら」
「そうだ後はこの事に関しての資料は全て破棄しておく。貴殿に何かあっても関知しないからそのつもりで」
「理解していますよ。」
「そうか。なら以上だ退室してくれてかまわないぞ」
「では、これで」
最後の敬礼をしてから部屋を出ていった。
肩に触れて終わらせるように合図すると、一人から溜め息がしていました。どうやらあの時の事が脳裏に浮かんだんだろうと思いながら視線をシヴェンチルスさんに向ける。
手を叩く音と同時にシヴェンチルスさんの視界が捻り曲がり弾けてその場に倒れた。
苦しそうな声を漏らしながら目を覚ましたシヴェンチルスさんは驚いていたなあ。自分以外が地面に倒れ、声一つ挙げていないんだから。
「えと、やあ、お目覚めまして。」
「ひひひは。緊張するのは可笑しいだろう。二つの言葉が合わさっているぞ」
恥ずかしかった。
「えと目を覚まして今の貴方の現状を理解してもらうために説明しますね。」
「んと、ですね。最初に言っておきますね。」
僕はシヴェンチルスさんの後ろにいた人を指し、そしてある道具を受け取った。
「これ何か知っていますよね。」
顔から血の気が失せていきました。
「その表情で理解したと判断させてもらいますね。」
次に僕の隣の人を指し示して、
「この人は知らないでしょうね多分。実はこの人の持っている物で反射を壊しました。殆ど力業ですけど。」
眼鏡の奥が鈍く光っていました。
「それと最後にこれ」
僕はポケットから小さな細長い物を見えるように出しました。
「えーと。なんて言いましたっけ。」
皆さんから溜め息が漏れてました。
「けけか。物覚えが悪いねぇ。」
「やれやれ。しょうがないですね」
「ボウズ、段取りが狂ったぞ。」
「元主よ。少しは思い出そうとする努力をしてください」
「う、そんな一気に言わなくても」
落ち着かせるために浅い呼吸を一回して、
「では改めて。これは簡単に言ってしまえば、能力増幅装置。ですかね。まあ、試作らしいので持ち時間は限られていますけど」
誰の提供なのかは言う必要がないと思ったので話さなかった。
「この3つの大元は別々なんですけどね。状況がそれを許したのかな。」
と考え深げに頷いて見せて、
「それでこれをこの人に飲ませて持たせて使わせました。その結果が今の状況です」
笑顔を張り付けてみた。
「もっと優しい顔はできねえのかい」
「今はこれが精一杯ですよ」
それで。て煩いなあ。