序章~息つく間がないけど~
あれ、騙されてくれなかったか。
と小声で呟く視線の先には無惨に粉砕された武器の残骸が破壊された岩の欠片に混ざって散乱していた。
思っていたより早すぎて、ずっと上で笑う嫌な声が戦場に響く。
幾つかの線光が地上から昇り、当たっても気にすることなく、周囲へ力を示すように奮う。
抉られる地上の全ては赤に染められていく。
更に笑う存在に目をくれず、今の場所からどうやって移動しようかと考える。
思考していると背後からあの声が聞こえてきた。
小声で少しは、と呟くと右肩に風が掠め。ああ。こう成るのですか。と心で呟く。
右肩は抉られ筋肉や骨が剥き出しの状態で視界に入る。
仕様がない。
心の何かの扉を開けて感情を溢れ出させる。
目尻に涙を溜め、頭を小さく、そして次第に大きく左右に震わせて、徐々に全身を震えさす。
喚いて泣いて、足の力を脱いて地べたに尻を着かせた後で更に大きな声で泣き叫ぶ。それは腹の底から有らん限りの声で絞り出すように。
そして、だめ押しでズボンを濡らす。
鼻に付くが仕方ないこと。
笑っていた相手はそれまでの表情から一変して、機械のように平坦な顔になり、光魔の胸に渾身の一蹴りを見舞い吹き飛ばす。
内蔵潰れ骨砕かれる音が全身に響いたがその表情は穏やかなものだった。
何せその口端は吊り上がっていたのだから。
記憶が途切れると懐かしい感覚が意識を支配する。
何時かに見た光景だった。
僕の知らないその光景は誰の視線からだろう、それでも気分は落ち着いている。
視線は真っ直ぐ前を見ている。
僕の意識は有ってもそこに僕の力は介在しない。介入もできない。
全身に強烈な痛みを覚悟していたのだが思いの外、柔らかい何かに包まれるように優しく到着した。
そう、目的の第三防衛線に。
視線をさ迷わせ、把握すると医療班が慣れた手つきで傷を処置していく。
肩の傷が見る見る内に治っていった。
処置が終ると後方へと運ばれテントで内部の手術を再開させ、時間を経てずに終了した。
その後、安静にさせられた。
そして、続きを思い出す。至る道を。