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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
序章~戦地にて回想。後に夢での回想~
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序章~其処までに至る回想~1

西暦2565年3月31日。

翌日に新学期を迎える慌ただしい生徒達。その表情は嬉しかったり、憂鬱だったり。その他にも多種多様な顔をして準備を進めている。

それでも一人ではなく、談笑しながら仲間同士で集い、必要な事を相談しながら進めていることでそれ程の苦にはなっていなかった。

生徒専用であれば寮長の目が光っているがこの日ばかりはそれは緩く慌ただしさが恒例になっていた。

それでもそれを楽しみにしている生徒もいる。

周囲からは変人と言われているが。

そうやってその日は慌ただしく過ぎていく。

それは全生徒が過ごす当たり前な一日の風景。


そう本当ならこれが全生徒の日常の筈なのに、筈、なのに。


所を移すと重い空気を背負いながら荷造りをする生徒が一人。

その表情は暗く何処までも暗く。晴れることはなく、その生徒の周囲だけ雷雨が吹き荒れていた。

ため息と共に手を動かし、ため息と共に荷造りを進める。

見ているだけで気が滅入ってしまう。

生徒は思う。断った方が良かった。と。

で、断っても最後には受けるしかないだろうとも考える。

ため息を吐き、荷造りのいくつ目かを終える。


実はこの生徒、退学になってこのような事をしているわけではない。

一年の大半を最悪な事に巻き込まれ、それのお陰で勉強が遅れに遅れ、課題を山のように出され、全てを片して進級出来ると思っていた矢先にある面倒事の処理を押し付けられてしまったのだ。

断る事もできたのに結局は引き受け、こうやって荷造りに勤しんでいる次第である。



時間を掛けて全てを終わらせると翌日の出立の時間のことを考えてその日は早い時間に就寝した。

ご飯の用意は欠かさずに。


横になって数秒、確信する。

寝付けない。と。

これは興奮から寝付けないのではなく、不安すぎて眠れない。

そういう事でしょうか。

それでも無理矢理に夢の中に堕ちましたけど。


で、翌4月1日の日も上らない暗い時間に僕は起きた。

当然、誰も起きていない。その静かな寮で僕は着替え、荷物を部屋から出して玄関に置いておく。一時的に。

その後は食堂に行って、朝食を作り、支度を整えてから寮を出た。新しく門に設置した簡単な扉を押し開いてさて、ゲートをと思っていたら高速で灯りも点けずに向かってくる一台の車。

僕の前で停まりドアが開いて同時に背後で腕を捕まれ、中へと強引に引き込まれた。

慌ただしく塞がれた口をモガモガと動かしていると素直に離してくれて、同時に車内の電気が点けられた。

それは見知った顔ばかり。違う。知らない顔が一人だけいた。

整えた髪をクシャクシャにして気を発散させ状況を飲み込む。

説明を聞くと道中を共に行動することを言われたらしい。

言われただけなら断って下さい。と内心思ったけど無理だろうなと諦め、僕に拒否する権限は無いので仕方なしに同意した。


先が思いやられると。正直に思った。


「で、どうして貴殿方が今回の事に関わっているんですか」

走る車内で当たり前な質問をする。

「いや、なに簡単なことだぞボウズ。なあ」

他の人達が同意する。違うか。一人を除いて。

「その簡単な事とかはあれですか」

「お、察しが良いな。相変わらず。」

そう、僕は分かっていた。正確には分かってしまった。

「貴方達は、減刑を条件に呑んだんですね。この仕事を。そうでなければ、元船長がこの場に居るはずがありませんから」

「くく。そういう事だ。まあ、それでもあの姉ちゃんは参加しなかったけどな」

元船長。幻術使い。元重要危険人物の人。それと知らない人。

それとあの姉ちゃん。つまりは二木さんの事だろう。

「それにしても、この方はお初なのですが」

そう言われて全員の視線が一人に集まる。

そのお初の人は掛けている眼鏡を軽く上げ会釈すると、僕に向かって濁った瞳を合わせて話しかける。

「やあ、数日ぶりだね元主よ。」

その言葉に今度は僕に視線が集まる。

「ごめんなさい。僕と会ったことが」

顎に手を当て、考えてから、気にするな。と答えた。

三人が怪しむけどその人は懐からカードを一枚出して、僕に読み込むように促した。

端末を荷物から出して読み込み、表示された内容に驚いて再確認して本物だと証明してもらい。

嘆息した。

厄介な荷物を背負わされたかもと。

後になってこの人は頼りになる人だと認識を改めたけど。その話は少し先でにしようか。


さて長くもなくそれでも決して短くもない車の移動は終る。

五人の前にはゲートが填められた壁が立ちはだかる。

そんな事は無いけどね実際。

渡された通行券を持ってゲートに向かうと顔見知りがいたので軽い挨拶をする。

その後でゲートを通ろうとすると呼び止められ、

「まさか、港まで通るつもりかい。」

と聞かれ全員で頷くと、

「なら彼方の方が速いよ」

と、指されたのは僕が請け負って、事故の後は凍結されていた移動車。通称、電動連結車両1号機完成試作型。

完成してるのに試作とかに言っても負けな気がするので敢えて無視して、

「完成してたんですか」

と、聞くと、

「いや、完成と一応は名乗っているけど、まだまだ改良の余地はあるからな。だからまだ試作がついているのさ」

納得していると四人が感心していた。

「この計画は無期限凍結と聴いていたが。」

「恐らくは、」

「ええ。無理矢理にでも再開させたのでしょう。でなければ」

「こんなに早くは、ですか。本当に関心しないですね」

聞いて驚いた。この計画の存在を知っていたことに。

でも納得した。だって、こういう事案とかに詳しい人達だから。

「では、納得した所で乗りますか」

「そうだな。時間も限られてるし」

そんな事を言って僕達五人は車両に乗り込むと直後に動き出した。


暗い空が太陽の光に照らされて青に変わっていく。

車窓から眺めて少しの休息時間を無駄にしないために荷物に入れていた物を点検している。

他の人達は適当に陣取り眠っていた。

揺れる車内で寝息と荷物から出して側に置く音に車両の音が静かな時間の中で目的地へと僕達を運んでいった。


まあ誰でも分かるけど、何事もなく目的地に、着くわけが無かった。

何とか荷物の点検を終えて一息つこうとしたら急ブレーキをかけられ、眠っていた四人は床にぶつかる直前に受け身をして姿勢を整えると聞いてくる。本当に眠っていたのかと疑いたくなる。


それは調べてみないと。と、伝えると、二人が残り三人が車外へと調べにいくという提案を呑み、ここで誰と誰が残って後の三人が調べにいくのかを決めることになった。

結果、どうしてか僕だけを調べに向かわせて後の四人が残る事になった。

反論はしなかった。する間もなく。といった方が正確かも。

何せ僕を名指しで呼び出したのだから。

内容は、

『いるのは調べがついている。きけえ。我らは解放団である。我らの敵であるスワ・コウマを出せ。渋ればここら一帯を焼け野原にする。これは脅しではない。それと本人の姿は知っている偽物と判断した時点で同じように』

と拡声器か何かでそんな事を(のたま)った。

正直、嫌だった。

四人が僕を見る。

頭を掻いて、泣きたい気持ちを抑えて天井を仰ぎ見て、

「メンドクサ。」

とか言ったかもしれないし言ってないかもしれないし。

どうでもいいか。結局は外に一人で出たんだけどその時の四人の表情に対しては怒りしか無かった。


まあ。結論からいうと、潰して壊して捕縛して、上に連絡して運行を再開したんだけどね。


で、其処までの経緯は。

外に出ると男が一人。それより小さい者が二人。脇を固め嫌らしく笑いながら僕に近づくと持っていた鎖とロープを体に巻き付けていく。

その後に僕を好きなように殴る蹴る。

このときの僕の体に無事な部分は有ったのだろうか。

当然のように意識が失せた。

潰れた片目の痛みに失せた意識を戻して、片目の視界で見ると大勢の人達がいた。

何かで何処かで見たような気がしたけど。

吐いた。胃の内容物じゃなく、息を。

そして、

「あの、その、聞いて、良いですか。どうせ死ぬんですから」

笑いがどっと沸き起こる。

「良いぜクソガキ。どうせ殺すしな。好きに聞けよ」

良かった馬鹿で単調で。

「そ、それなら」

僕は質問した。

一つ。貴方達を雇った人は誰ですか。

一つ。成功報酬はいくらですか。

一つ。情報源は誰ですか。

一つ。僕の事に関しての情報を知っていますか。

一つ。この場に居るのは全員ですか。あ、表に居るなら、止めとこ。無駄だし。と言ったらお腹に数発。頭に一撃。

再び意識を、飛ばし掛けた。

響く頭で以上の内容を聞いてみた。

本当に単調な人達で助かった。


笑って僕を的にして遊んでいる。

始めた時はわざと遠くに外し徐々に近づけていく。

恐怖心を煽ってひきつった表情を楽しむのだろう事は考えなくても分かっていた。

表情を造って貼り付けて感情も少し動かして涙や鼻水を流す。

さすがに下から出すことはしなかったけど。

楽しんでくれたから良かった。

ん。何で僕は楽しませていたんだったかな。

そうだ。時間を稼げとか言われてたんで無駄に、下手に抵抗をせずにそれでも道化を演じていたんだっけ。

んで、この辺で少し意識が飛んだ。


次に意識を戻したとき、あれだけ楽しんでいた人達がこの世の物とも思えない異常な存在を目にしたような表情をしていた。

騒々しかったのに今は全員が恐怖に(おのの)いていた。

傾げた首とその現状を合わせて正解を出そうとしたら、大きな合図の音が鳴り響いた。

僕は拘束していた枷を引き剥がし、次いでに足のほうも捻り切ってその辺に棄てた。

「さて、皆さんには猶予をあげます。それは後悔の時間じゃありません。

「いまなら逃げても追いかけません。僕に何かをしても別に咎める事もないです。安心してください。あと、そうですね皆さんが見たことを全て心の深いところに永遠に閉まってくださるなら今後一切僕から直接関わらないと誓いましょう。信用出来ないなら契約書書いても良いですよ。」

その淡々とした言動に皆さんが気を取られていると、全方位から重武装した集団が壁と天井を破壊しながら突入して、息つく隙もなく全員を捕まえた。


そんな簡単に捕まえられる人達であったなら、そもそもこんな重武装で突入する必要は無かった。

答えは単純。

この場に居る大多数が有力者か獣人なのだから。

その結果、重武装集団は健闘したけれど捕縛や拘束したのは力を持たない人達。一般的には有力者や獣人と対義の意味を持って無力者と呼ばれる人。

この世界での下位に分類される存在。

全ての権利はあってもそれは保証されているだけで、上の存在に楯突いただけで剥奪、憂さ晴らしの玩具にされて命を散らしてしまう。そんな人達。

僕は思った。

この世界を覆そうと頑張ったんだな。と。

それを瞬時に頭から棄て、力や怒声や乾いた音や地を蹴る音。ついでに命乞いをする声もあった。

そんなものを見てから現在位置から動いた。

目標は全て。

感情を表に出さず、静かに歩いて目についた武器に成りそうな物を拾って近くにいた人の頭を殴って気絶させ、それを合図にしたかのようにその場の皆が僕に何かを敵味方関係なく向けて襲ってきた。


時間にして三十分だったかな。知らないけど。

建物から出ながらある人に連絡をして適当に歩いていた。

理由は簡単だった。現在地を知るために移動していた。

で、端末に連絡があって、聴くと僕を探していたらしく。

でも、適当に歩いていたので現在地を把握できていなくて、だから深みに嵌まって、最後は薄暗い建物の陰に狭い空を仰ぎ見ながら休憩していた。


ボーッと眺めていたら地面が揺れていることに気づいて胸がざわつく。

疲れはないけれど、何時までもこんな所にいて、何かが変わる事もなく。勢いを着けて立ち上がった。その反動で体勢を崩してしまい前のめりに倒れてしまった。

で、背後で乾いた音と金属音が同時に鳴り響いた。

ああ。またこのパターンか。そう思考して建物の陰に身を潜めた。

そんな事をして時間を稼いだとこでどうにか成るわけもなく、その辺に転がっていた石を何個か掴んで、全部表に投げ出した。

反応無かったけど。

で、結局諦めて降参の姿勢を見せるため地面に俯せになり、意思を示した。

動かないでいると両手足に小さな痛みを感じて、首筋にも同じような痛みが時間差で感じると僕は意識を失った。

正確には失うまでに時間の誤差があって、何人かの話し声が聞こえていた。

どのみち体は動かせなかったけど。


何れだけ気絶していたのか分からないけど僕は、天井に吊るされていた。

当然の判断かな。

僕の事を知らされていたのなら。

それから、とぐお。

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