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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
終章
110/111

終章~日常に戻れた、のだろう…~

現在。

朝の。

早い。

時間。

起きている存在は夜行性か徹夜を常時とする人等々か。

うろ覚えで怪しい記憶を頼りにしながら書類作成に勤しむ。人が1つの部屋に数人缶詰め状態で居た。

全員の口数はなく、手元しか見ていない。

着信の音が一人の画面からひっきりなしに鳴り続けていた。

機械の様に届いた順から内容を読み上げていき幾つかの言葉を複写して別の画面へ転写していく。

そんな作業等も含めて本日で十連突入。

特別に調合して貰った眠気覚ましの飲み物を数えるのも億劫に成るほどに飲み飽きた。

もう、効き目が薄くなっている。

手元は変わらず書類作業を続け最後の手前で動けなくなった。

尚も鳴り続ける受信音。

一人が気づいて呼びながら肩を揺するが反応なく。

何処から出したのか。大きく重苦しい物体を構えて頭上から振り落とした。

体が小さく反応して軽く謝辞を言ってから作業を再開させた。

だが作業はここに来て止まってしまった。

またか。と誰もがため息をして物体を振り上げて停められた。

起きていて画面を見続けている。

何を。と聞くと。

最後の締めの言葉をどうするか。という事に悩んでいるらしく。

呆れと侮蔑の言葉を浴びせていた。

容赦はなかった。

と何かを思いつき作業を再開させて最後の確定で連日連夜の作業は。

続いていた。


深い不快不甲斐な息づかいをしながらまた忙殺されて負の感情が面白おかしく成長していた。

忙殺は続く。連日多忙な作業は、それでも効率させて時間を短縮していく。


そして最後の作業を終えて。

全員が解放された。

新学期当日である。

急いで数人は部屋を出ていき、残されたのは子供一人と残った大人達。

最高老齢である者が口を久方で開いた。

「くかかかっボウズ。本当に学生かよ。子供に与える量じゃあないわな。」

「同感ですね。元主である貴方に対しての無礼。些かなりとも抗議して宜しいか。」

手で停められた。

納得はしなかったが取り敢えず、引いた形である。

それでは、と切り出して、お疲れさまでした。と締めくくり大人達の表情が和らいで家主を残して出ていった。


僅かばかりの静寂。

また受信の音で画面を見ると添付に通話表示。

操作して繋げると向こうには眠気と怒りを混ぜた少女。

「おつかえさまれふ。」

『ええ。お疲れ。課題は全てかしら。』

自分の手元を確認して。

「ええ、はい。全部、おわりまひで。」

『そう、良かったわね。これで進級できるわね。」

「ふぁい、そうえふね。そえれも、りふ、じ、ん。」

『もう寝なさい。』

「ええ、うえっらいひょえぶ、れふよ。まだ、なんとけ」

『呂律と思考が狂ってるわ。』

「そうですは、ならねようはな。」

『そうしなさい。また学園で会いましょう。』

「ふぁい。」

振るえる手で通話を切って即落ちした。


少しして目を覚まし外へと出る。敷地の出入り口にかなり大きな建物が建造されていた。

伸びと深呼吸を同時にこなしながら名前を呼ぶ。

軽快で豪胆な返事に似つかわしくない大きな尾を振り回して飛び出したのは。

少し前から番犬ならぬ番孤の飼い物。

住人は意見が判れて未だに決着はつかないものの。飼い主である彼は間をとって。[イヅネ]と呼んでいた。

尾を全力で振りながら懐いているようで虎視眈々と寝首を掻こうとしている飼い物イヅネ。しかし標的たる彼は優しげに微笑んで顎を撫で頭から背全体そして複数の尾を丁寧に優しく慈しみながら撫で上げていく。

その所作にイヅネは殺意を霧散させ彼の手のひらの心地を堪能していく。

「管理人作業ガ終ワッタ。確認願イタイ。」

いつの間にかいた長身の男性が報告してきた。

軽く返事をして名残惜しむ事なく男性に着いていく。

イヅネは突然終わらされ不満を露にして男性に向かい吠えたが、男性は気にせず彼と裏庭の方へ消えていった。

不満を露にしていたが1つの欠伸をし全身を振るわせて寝床へと入っていった。


裏庭へ回ると、これは。と感嘆し。荒れていた裏庭が綺麗に清掃されていた。

指示通りの結果であるが、1つの疑問を投げた。

「もしかしなくても、連日通して作業してましたか。」

「ソウダガ不味カッタデアロウカ。」

感嘆は落胆へと変わる。

「休憩はしたんですよね。」

「スル必要性ヲ感ジナカッタノデシテイナイナ。」

「まったく。これだから。とは言いませんが、どの様な理由であれ、雇用している以上は必ず休息をしてください。必要性とかではありません。世間体というか、感情論になりますけど、夜通し休みなく働かせてそれを事情の知らない人等に見られたら何を言われるのか。その辺りを考えてください。ん。もしかして、それを織り込んでのことなら怒りますよ。」

「ム。ソレハ失念シテイタ。ソウカ、見エテイナイ死角デアルカラ没頭シテイタ。」

「はっ、没頭ときましたか。貴方には最も縁遠い言葉ですね。ですが、余り無理はしないで下さい。」

「了解シタ以後気ヲ付ケヨウ。」

「そうしてください。では僕ははな「シカシ。だ。管理人ハ連日連夜共二寝ズノ何カヲシテイタノダロウ。ソレハ良イノダロウカ。」「時と場合によりますよ。」

「フム。即答カ。検討シヨウ。デ、話ハ戻スガ。不手際は無カッタカ。」

「そうですね。指示した通りにゴミと再利用可能なものそしてどちらにも付かない物との選別とできてますし。はい。宜しいでしょう。まだ幾つかの課題はありますが、今回はお疲れさまでした。合格です。貴方を正式に登録してこの教寮での住み込みでの仕事をこれからもお願いします。細かな事は後で話し合いましょう。それでは、僕は、準備が、ある、ので。これで、失礼、しま、す。」

「寝テイナイノデアロウ。自室ニテ眠ッテイレバ良カロウト思考スルガ。」

「はっ。嫌、先程まで寝ていたし、時間も時間なのでこのまま行きますよ。では正式採用初日ですが、これまでより一層の研鑽をお願いしますね。」

「了解シタ。」

彼は男性と別れ自分の部屋へと戻っていった。

残された男性は腕を組み、暫し思考して宛がわれた部屋へと入っていった。


その日。騒動が起きていた。その中心に居たのは。彼女。平華桃華(ひらはなももか)だった。

彼女は新入生にして問題を抱える生徒。

暴走衝動という一種の精神発露型であり、ある生徒の監視下に居たのだが。彼女の特殊性により監視下から逃れて現在は衝動のままに暴れ尽くして休憩している。

その状態で彼は出会ってしまい。自身の何かを呪いながら彼女へと対処していった。

「聞いては居ましたけど。今年の一年は面白そうな人材が居ますね。その辺りはどう考えるのかな。」

「ははは。拘束ご苦労。良くやってくれた。誉めてやろう。ではその娘を渡してもらおうか此方の権限管理下にあるのでね。」

「断ってもいいですが。うん。断ります。全くもって制御できてないでしょう。この状況がそれを語ってますよ。仕方ない。預かりにします。手続きは先ほど完了しました。反論は公の場で。ではこれにて。失礼。とはいかないよな。」

「当たり前だっ。この戯けが。勝手な事はするなとあれ程言っていたのに。どうして越えて簡単に首を突っ込んでくる。」

「お、到着が遅かったな。問題を取り逃がして僕に対処させたのは君の差し金かな。」

「否定はしないが、簡単に対処しすぎだ。君もまた、監視下にあるのだから行動は律してほしいな。」

「そう言うなら僕に打つけないでもらいたい。疲労困憊不眠不休試行錯誤でついさっき終わらせたんだよね。仕事を増やさないでほしいな。」

「知らないな。しかし、手続きは完了しているのか。ならもうその娘は僕の権限の外か。はあ、父様に怒られるのか。」

「ああ、その辺りは心配無用。手続きと平行して訴状しておいたから。怒りは多分、先生達に向かうだろうね。最後は僕でしょうけど。」

「ふふ。感、謝。した方がいいのか。」

「いらんいらん。気持ち悪い。ほらさっさと行ってくれ。この生徒を送ってから顔を出すよ。とその前に、下への管理は徹底してくれ。知らないで済まされない場合もあるからな。特にずっ睨んでいるその新人。一年ではないな。二年生か。」

「そうだ、去年の途中で採用した子だ。あまりからかうような目をしないであげてくれ。」

「そうかい。ではんん。名も知らない下級生。時と場合と状況を判断して向かってこようとしたのは評価できるが、相手を知らないというのは誉められたものじゃないな。入って日が経つだろう。重要人くらいは把握するべきだったな。」

「この黙っていれば。」

「止さないか。」

「しかし。」

「良いから控えなさい。」

「あ、姉さん。」

「後で教えてあげるから。そこの屑についてたっぷりとね。」

「ひっ、ひひいいぃ。」

「お、向かわせないのかな。僕としては歓迎するけど。」

「良く言う。では僕達は引かせてもらうが遅れるなよ。」

「はいはい。判ってますよ。では、後で、会える、かな。」

一睨みしてから去っていった。

「ぷふう。どうにかして引いてくれて良かった。じゃあ連絡しますか。あ、どうもおはようございます。早速ですけど急患を引き取ってください。謝礼は会傘下の方へ。ええ。では後で。」

気絶させた桃華を背負い目的地へ向かった。


目を覚ますと知らない天井と拘束されていた事には驚かなかったが。

「おや、目覚めましたか。もう昼ですよ。お嬢さん。気分はどうですか。少しでも違和感あるなら言ってください。処置しますから。それと失礼ながら強固な拘束を施させて戴きました。何分、精神から至る万能強化なのもで在り来たりな道具では簡単に壊されてしまいますから。さて幾つかの質問をします。答えられる範囲で結構ですので気楽に、とは程遠いですが答えてください。では。」


短い時間で質問が終わり、拘束も解かれて今は精密検査をしている。

『さて、先程の薬の効果は出てる筈ですが、どうですか。』

首を横に振る。

『そうですか。では少し強めで検査します。』

強い光と機械に繋がれた手足に軽い痛みが走る。

苦悶するが直ぐに収まり最後の検査は終わった。

『お疲れ様でした。彼方の部屋で着替えて反対側から出ていって下さい。』

素直に従い着替えて出ると誰も居ない待合室。窓1つないので外の様子が判らなかったが、不思議と不安はない。

待っていると呼び出され案内通りに1つの部屋に入った。

検査をしていた人物が椅子に座り軽やかな笑顔を向けて挨拶してきた。

返答して椅子に座るよう促され従った。

「では今回の検査で判明した事を教えます。貴女、埋め込まれてますね。微細にして不可視の現物を。」

疑問符の言葉を口にして傾げて疑いの目を向ける。

「これは先程の画像です。これは普通の透過写真なのですが、ここに全透過装置を組み入れると。」

先程にはなかった何かが自分の脊髄を覆う形で表れた。

短い悲鳴を上げても良かったのだろうが、努めて冷静に且つ再びの疑問を投げた。

のだが説明が下手なのか理解できなかった。

「端的に言うとですね。貴女の体に後天的に精神を阻害する装置が組み込まれた。と言うことです。摘出は通常不可能。」

取り乱した。

「聞いてますか。通常です。貴女を救う方法は在りますよ。少しの後遺症もなく、さらには日帰りが可能です。あ、治療費は取りませんよ貴女からは。で、どうしますか。このまま放置。も1つの選択ですが、今すぐに摘出すれば世界が変わるでしょう。あ、無理強いはしません。意志を尊重しますよ。」

悩む時間もなく答えた。

深々と頭を下げて

「お断りします。」

「判りました。直ぐに摘出しましょう。」

「な、どう、して。」

「ふふ、舐めないでもらいたい。今の言葉は寄生装置が貴女を介して言わせたのでしょう。下らない真似を。そうですね。ならば。寄生装置。仮呼称ヒズミミに提案ですが、素直に従うなら新たな器を用意できますよ。ほらこれが器の一覧表です。好きなものを選んでください。」

「え、な、なん。」

桃華の意識を無視して腕が勝手に動いて1つを指した。

口角を上げて頷いて手続きをして部屋の奥へと案内した。


短時間で桃華は出ていき、その手には荷物を1つ持っていた。


翌日。通常運営である学園には彼の姿は何処にもなく。

彼は現在、軟禁状態で監視されていた。


朝起きると人の気配があり、飛び起きと同時に何かを被せられて担がれて何処かへと運ばれてこの部屋か何かに軟禁されとある作業をしていた。

曰く。『面白いものが手に入りそうなので、これに記載されている者を寸分たがわず製作してもらいたい。報酬は弾みますよ。』

と答えを待たずに出ていき、内容を読み込んで製作に取りかかった。

幸いに材料とこういった手合は何度か中で作っていたので簡単に作成できた。


はて、中とはなんだろうか。


呼び鈴を鳴らすと直ぐに入ってきて、品定めをしてから数ヵ所の修正をもって納品した。

報酬は。

期待していなかったが、歪にして見たくはない何かだった。


凝り固まった筋肉を解すと良い音が全身から鳴って伸ばしていた手を下ろして部屋を後にした。


暫く出口へ向かっていると端末が震え受信を訴えた。

操作すると其処には。

短く言葉を紡いで出口へ。

外の空気を吸い込んで。絶望の底へと引きずり込まれる気分の下に校舎へと入っていった。



授業が。

今年も。

受けられない。

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