終章~抗う~
風もない必然的に小波もない喧騒を忘れたような静寂。
客観的に見るのなら、二対一の構図だろう。
しかし正解は四対一の構図であり、その事を知っていれば普通に誰が見なくても劣勢だと考える。
が数の問題ではないか。
が結果の見えてしまえる事ほどつまらないものはない。更に四のーこの場合は二人だがー両側に黒い靄と底無しの赤い炎が立ち上がり片方には翁。その反対側には多尾の獣。
飄々とした翁。
睨みつけ唸る獣。
場には全てが揃った。
あの裁判から幾日経ったかね。ひぃふぅみぃ。と思考する。
まるで目前の事から逃避しているかのようだが違うのだろう。
彼のものはあれから休みなく働き続けた。
もう限界は超えていて上限解放状態である。
上乗せで無償。
裁判が結審して、その後には迅速な処刑装置の設計開発建設始動。器の回収と処理に装置解体運搬破棄。
世界へと配信された処刑をもって今回の戦争は完全終結となっても地獄のような後処理の山脈が待っていた。と同時に掛かる全ての経費が上乗せされた。と知ったのは全てが滞りなく決済された後である。
だがまだまだ。
そう背負う賠償金は現在も増え続けている。
現実問題。莫大な借金が増えに増えて頭を抱えてしまう。
可笑しいよなぁ金が入るはずの仕事で増える処か逆に境界を超えて更に落ちたよ現在進行で。乾いた笑いしか出ないよ。
嘆くばかりである。
「さて、あの場での出来事を理解していながら俺が物思いに耽っている間に攻撃しようとするのは、よしとしてだ。何故にこの場での規則を早々に破るのかね。
確かに通知してたよな。読んでなかったらこの空間に入れないだろうし。なっ。」
空気を押し出すように掌を突き出す。
1つ一人は苦悶と共に叩きつけられるように宙で張り付けにされる。
苦しみがその表情に表れていた。
「落ち着こうか。先ずは。質問は1つからだ。誰の入れ知恵だ。」
口を開けど声は出ない。
「口止めか。まあそうだろうな。正体など簡単にさらけ出すことは愚かだよな。まあ期待はしてなかったよ。」
姿勢を変える。
「さて規則を確認だ。力と力の純粋な勝負。駆け引きなしの存在を賭けた決着を双方が望む。」
頭を縦に振る。
「よろしいっ。ならこれよりは存在と存在達による世界の、ええと命運、的な何かを始めようか。おと、突っ込みは無しの方向で。」
今度こそ、勝負の時。
お互いが全力を尽くし合う戦いの火蓋が切って落とされる。のか。
単純な力同士ならたった一人での光魔が劣勢。
一人に二柱の神。さらには連なる獣。
全てが常軌を逸している。
一人の小さな塵以下の存在が敵うことはない。
これを覆す存在など皆無。
誰もがそう思うかも知れないが。
彼のものを理解しているのなら。
その条理は覆される。
「質問を続けようか。それとも場所を変えて始めようか。さぁどちらを選んでも後悔の無いように。」
それは余裕か自棄か。判断が出来かねるが一人と二柱は困惑した。
「ふむ判断力に欠けるな。即断即決は大事だと思うぞ。」
可笑しな声を漏らしながら吹き飛んでいく。
「ん。咄嗟の防御には評価を与えよう。」
見えない壁に当りそのまま落ちていく。
「あ、範囲を指定してなかった。謝罪しないけど。」
波に呑まれたかと思っていたが。
海面の少し上で立っていた。
睨み付ける。
「さぁて。お前達の現在地は其所だ。故に答えは見えている。降参するなら手続き上は無かったことにできるが、どうする。」
刹那にて横を過ぎ去る力。
余波は肉体に深い傷を負わせた。
静かに負傷した箇所を触りながら堕ちていた部位を拾い躊躇いなく焼却した。
驚くは一人と二柱。
睨み唸る獣。
拾って繋げるという回復行為は体力を充分に消費する。それは誰もが考えること。だからこそわざと外して腕を切り飛ばしたのだ。
しかし。
そうしかし繋げる処か、保存すらせず目の前で焼却したのだ。自身の手で。
「何を、と思っているだろ。さあ何でだろうな。何となく無駄な消費をするより止血して無くした方が後々に楽だろうなと。なあこれを保存したとしてだ。お前達の考えで何処かの隙を突いて強奪。そんで交渉に持っていく。という手も考えられるよな。なら最初からその手札を潰した方が早いだろ。さて。どうするよ。この先を。」
荒げる声と同時に跳躍して躍りかかる。
だが簡単に往なして地面へと落とす。
「感情を爆発させて襲うというのは確かに方法として理にかなってはいるが思考の放棄というのは愚策だぞ。」
背後に続く殺意を込めた薙ぎ払いを簡単に避ける。
「一撃を囮として死角からの面攻撃か。まあ連携としては及第点。」
瞬時に背後へ回り同じ地点へと蹴り落とす。
「力の使い方が荒すぎる。俺より長い時間を費やしてこの程度とは、笑いすら失せる。」
当たった拍子に一人は腕を1つは目を負傷した。
「と、忘れてた。よ。」
「ぐぎゃがぅ。」
上空からの追撃を巻き込むように受け流しながら足を掴んで地面に放り投げた。
更に飛び退くと火柱が幾つも上がる。
「ほっほう。これは壮観。見事に綺麗なものだよ。まあ離れて見る分にはだけども。」
火柱の中に人影。
「ほへぇ。属性か。この常態は眷属召喚的なものかね。」
火柱全てに何かの影が映っている。
その全てが異なる動きをして火柱は合わさる。
「おお。巨獣召喚ならぬ巨銃召喚か。」
まさに。火柱が消えた後に姿を見せたのは。
「巨人専用かよ。」
人が持つには無謀な大きさ。見た目だけの脅しでなく実際に重量がかなりある。
絶望するのかしないのか。
「ふうん。」
氷のように冷たい表情でなく只々、平坦な表情。
それはこの状況を理解して無力を噛み締めたのか。
これまでの態度に悔いたのか。
「なあ、それって誰が持って。引いて。撃つんだ。」
至極ご最もな質問をする。
「召喚出来たのは称賛すると思うよ。で許容以上のそれをどう扱うのかなと。素直な疑問。」
「持つ。だとはっ必要ない。」
その言葉の通りに銃の引き金が勝手に引かれ内包するであろう弾を放ってきた。
「これは、また。」
前に出る。
飛び退く選択もあるにはあるのだが敢えてこの選択をした。何故なら。
「んな、ぐけっ。」
進行方向の後ろから爆発と同時に爆風が背を押す。それにより通常の加速を超え空けていた間合いを一気に詰め、その顔面に一撃を入れた。
着地と同時に時間を瞬時に置いて起き上がろうとしていた獣を蹴り上げ目の高さまで宙に浮かすと全身に満遍なく攻撃を加えて最後の一撃で殴り飛ばした。
一息入れると背後で固まっていたものに回転と同時に足を蹴り砕いた。
喚くがその頭に加えた攻撃で黙った。
一時停止する。
一息吹き出し低飛空にて巨大銃の側面を殴打し更に流れを繋げて連打する。
ふらついて反対側を攻撃して立て直す。
そう倒れることを赦さず無言の無限攻撃を叩きつけていく。
時間にして短いが暫くして地面に立っているのは一人。
光魔。
肩で息をしながら汗を拭う。
「ふうぅ。こんなものかな。はあ。疲れ、ぶぇ。」
死角から脇腹を穿たれた。
衝撃で軽く浮いて倒れかけるもどうにか止まらせた。
触れると大穴で風通しは良くなった。
振り返らずとも理解した。
したからこそその場で崩れ座る。
一人一匹二柱。
周囲を見てみると倒したものが風により砂粒の様に崩れ去っていた。
足下に倒れていた巨大な銃も同様。
短い笑いが自分でしていた。
「いつ、から。」
「貴様の行動は隙間が存在している。僅かな時間だ。常人であるならその時間を有効に使えないだろう。だが我らは神である。その時間は短くとも有効に使う事ができよう。この様に。」
揺らめいて虚像が出来てくる。
「そう、か。それで、か。なら、面白かったかな。」
「面白いものか。虚しいよ。よもや、これ程に虚しい結果があるものか。何故に受け入れなんだ。我らなら苦痛なく貴様を。この様な。」
「はっっ、馬鹿を言うなよジジイぉ俺は世界のために献身など吐き気しかねぇよ。ぐ。」
「へぇ。そうでないと。我々も面白くないですね。」
「なあ、最後に答えてくれないか。君は、あの人と本当に関係ないのか。」
「ぐふっそのあの人が誰かは知らないから答えようもないよ。それにあったとして、貴方、に何の益が、あるの、かな。」
「ただお礼を述べたかった。それだけだ。」
「そうか。くだらない、な。それで、獣よ。お前は何を言いたい。振りをしなくても、喋れるだろうが。」
『ぐるらる。なんで、この、結果を受け入れた。』
「さあ、疲れたからだろうな。無駄に足掻くより単純に世界から別れたかったから。それだけの理由だよ。さて、ジジイ、俺に止めを指すのは、わ解ってるよな。なら此処を躊躇なく跳ねろ。戸惑いは、時間を壊す。」
頭を下げて肩の力を抜いた。
近づくは赤を象徴し纏うもの。
「では此にて終わりとする。」
その一振に迷いはなく。頭を焼き飛ばした。
誰も何も言わない。その場に絶命するは一人。頭を失い。そして燃えている。
一人は頭を振り。
一匹は小さく唸り。
二柱は其々何を思い浮かべているのだろうか。
此が神と呼ばれる者達の1つの結末。
一人の犠牲を生け贄として戦いは一区切りとなった。
燃え続けていた。
かれこれ数時間は。
異変に気づいたのは誰だったろうか。
しかしその異常性に気づいて行動に移したのが遅かった。
燃えていた身体は確かに存在している。
攻撃を受けたときも。
身体を貫いたときも感触はあった。
だからこそ可笑しい。
燃えていて。焼け爛れることもなく常態を維持しているのだ。
急いで二柱は手を打った。遅いと思いつつもだ。
更に燃え広がり。覆い尽くしてしまおうかという勢いが世界へと広がる。
その手前で空間ごと厳重な封印を施し事なきをえた。
安堵したいが若しものために複数の仕掛けを持って更なる施しを整え此にて世界の危機は人知れず回避された。
そうして二柱は契約者を伴い世界へと舞い戻っていった。
残されたその場には小さな山が築かれ四方を柱が。更に八方を社が。更に上掛けするように十六方には城が築かれていた。
何人も寄せ付けぬように。
そして数十年の時が流れ。