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sugar&salt  作者: 櫻井ミヲ
《   2章   》
6/30

◆ 20%の確立… ◆



「適当にやってて」




そう言うと准は何枚かの皿を片手に、キッチンへ向かう。

僕と洋子さんは、さっき買ってきた白い袋の中から『つまみ』をテーブルに並べて缶ビールを開ける。

プシュ…ッ

勢いのある泡が注ぎ口から溢れ出した。




「わあ~っ!」


「あ~っ!」



ほぼ同じに発せられた、その賑やかな女性陣の歓声を切っ掛けに、僕らの空気が変化した。

その雰囲気を背中に感じながら、准はお酒のアテになる、何かしらの食べ物を作り、それらを実に手早くスマートにテーブルへと運んだ。

シェフを仕事にしている准にとっては、朝飯前の事なのである。


キッチンでの仕事を一段落させ、准がテーブルへとついた。


彼女と洋子さんは、年に数回のペースで連絡を取り合っているらしく、その間の近況報告やら学生時代の懐かしい話題が飛び交った。


僕と准は、卒業後も頻繁に連絡を取り合っているからお互いの事は知り尽くしており、専ら聞き役と接待係となっていた。所狭しとホストの様に料理を運びビールを注ぎ、話を聞き、甲斐甲斐しく動き回った。



飲んで、話して…

作って、話して…

運んで、話して…


一時間、二時間…と時間が経つにつれてその関係性に狂いが生じてくる。


気が付くと目まぐるしく動いていたのは僕と彼女で、准と洋子さんはもっぱら席を暖める係りとなった。

洋子さんはトイレ以外に席をたつことが無くなり、訳も解らず涙ぐんだり、絡んだりする。

准に至っては、菜箸を握ったまま動こうとしない。


どうやら、この姉弟はアルコールに弱いらしい。

そのくせ、やたらとビールを空けるピッチが速いのである。



それでも、話は止まらない。

いつのまにか、テーブルにはビールの空き缶と誰が空けたのか、ワインの空瓶が5本綺麗に並べられていた。









キッチンの火の始末を確認しに行った彼女が、ビールと一緒に持ってきたミネラルウォーターのペットボトルを洋子さんの前に一本置いた。

『一息いれたら?』の合図だろう…

なにせ、彼女は洋子さんのキス攻撃をダイレクトに受けていたのだから…

洋子さんは、気に入った人には男女の区別なくキスを迫る癖がある。

准も僕も洋子さんとの『酒盛り』には、キスマークを覚悟しなければならない。



彼女は、何枚かの食べ終わった皿をキッチンへ運び終わると元いた席に腰を降ろした。


僕の右斜め前は彼女だった。

僕は彼女の左手の薬指に目を向けた。

そう…彼女が未婚であることを確かめたかったのである。


もちろん、既婚者が結婚指輪を必ずしている訳ではない。

しかし、女性の場合は80%の確率でそれは指にはめられているという。



グラスを持つ彼女の左手には光るものは見当たらない。


と言うことは…


でも、それはそれでオカシイ。

47歳で、こんな綺麗な人が独身とは考えずらい…

すると…

酔い潰れる寸前洋子さんが、ミネラルウォーターを飲み干し突然突拍子も無いことを話始める。




「ナオも、そろそろ第2の人生ってヤツを始めちゃったら~?」




洋子さんの一言で僕のその疑問は解ける。




「人生に第1も第2も無いのよっ。やりたいことが出来る今が一番幸せなんだから」





彼女はその他愛ない話を、笑みを絶やさず "ウンウン" と穏やかに受け入れ、相槌をうつ。



(第2の人生…って事は、今はフリーって事か…)



彼女のその言葉を聞いて、僕はなんだか嬉しくなってビールを空けるピッチがあがる。


イチミヤ ナオ

47才

バツイチ

現在、独身…



フリー?

不明である。


それでも、僕の気持ちは浮きだつ。

口元が弛んでいるのを、犇々と感じている。

男っていうのは、イヤ…

僕は何と単純な生き物なんだろう…

誰もいなければ大声で「ヤッター」と叫びガッツポーズ間違いないだろう。


僕の心の深い場所から幸せが涌き出ているのを犇々と感じている。

今までの自分からは想像もつかない感情である。

天にも昇る気持ちとは、こう言うことをいうのだろうか…


僕は、冷静にならなくとも誰もが考えるであろう目の前の壁に気付いてはいなかった。



『逢いたい』気持ちがそうさせたのか…


『近距離で交わる視線』がそうさせたのか…




恋には、楽しい恋と…

苦しい恋があるってことに

この時の僕は、気づく余裕がなかった。


それからの時間は何を話したのか、夢中で…

覚えていない。



とにかく、楽しくて…

そして何より…安心して…

暖色系のライトの光と、少しだけ回ったアルコールも手伝って僕は、これから始まるかも知れない幸福であろう日々を思い巡らしている。






(彼女の連絡先聞かなきゃ…)





………。






僕は睡魔に襲われた。





時計は3時をまわっていた。
















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