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sugar&salt  作者: 櫻井ミヲ
《   6章   》
23/30

◆ ナオさんがいない明日 ◆

「それだけ、一宮さんは君を大切に想ってるって事です。君が彼女を幸せにしてください」



「進藤さんは、やっぱり彼女が好きなんですね」



彼の言葉の端々に彼女への想いが犇々と伝わる。



「ハハハ…片想いでね。彼女には幸せになって欲しいからね」



「はい…」



「でも、僕じゃダメなんだ…」



進藤の言葉に、自分の非力さに気付かされた様な気がした。

僕はいったい彼女の何を見てきたんだろう…

いったい何をしていたんだろう…


僕は君に、逢いたくて…逢いたくて…

君は僕に、逢えなくて…逢えなくて…


僕は、自分の気持ちを彼女に伝える事に一生懸命で…

彼女の気持ちを理解している気分になっていただけかもしれない。

行き場のない想いを、二人がそれぞれ抱えていて…

昨日より今日、今日より明日が辛くなるなら、その想いは二人で分けあって行きたい。

昨日より今日、今日より明日が幸せなら、それは七色に輝く二人の未来になる。


僕は、いつだってナオさんの事を一番に考えているよ…

それでも、やっぱり理解しようとしているよ…


ねぇ…ナオさん

ナオさんは、明日から僕が居ないなんて考えらる?

僕にはナオさんが居ない明日なんて考えられないよ。







彼女が会社に一ヶ月の休暇を出していたと知ったのは、あの新藤という人と会ってから10日後の事だった。

彼女からの連絡が途絶えてから一月が経ってしまった。

僕は…と言えば空気の抜けた風船のような心持ちで毎日を過ごしている。


僕はプライドを捨てて准に電話をかけた。



「ナオさんと連絡がとれないんだ…姉ちゃんから何か聞いてない?」



「…やっぱりナオさん、カケルには何も言ってないんだ」



「やっぱり…?」



涼子に酷い言葉を浴びせられた事や…

僕との将来の事で悩んでいたことを准の言葉で初めて知った。

僕は繋がったままのスマートフォンを片手に准のマンションに走り出していた。


来客用の駐車場に無造作に車を止め、エレベーターのボタンを何度も押す。

カチカチという音がエレベーターホールに響いた。

そんなことをしたって、エレベーターは早く来ない事は解っているのに…

先急ぐ僕の苛立ちはMAXに達しようとしていた。

エレベーターから見える、外界の景色も今の僕にはムテキだ。

僕の苛立ちが、高所恐怖症なんて言葉を忘れさせている…


開いた扉を抉じ開けるようにして、僕は525号室のドアを目掛けて走り出す

勢い余って開いたドアのバンッという音が早いか…僕は叫んでいた。



「なんで、涼子との事教えてくれなかったんだよ!」



僕の咎めるような口調に驚いた様子もない…

そう、まるで僕が来ることを解っているかのように落ち着き払った准がスマホを片手に振り向いた。



「仕方ないじゃないか!ナオさんとの約束なんだよ」



「いくら約束でも、そんな大事なこと!破っていい約束だってあるだろ!」



准の胸ぐらを乱暴に鷲掴みにした僕は、激しく准にくってかかった。僕からの視線を外すように准は顔をそらす。そして僕の手を払い除けるようにして、言った。



「オレには破っていい約束なんてないよ。オレのモラルに反する」



「モラル…って、准…おまえ…」



「ねぇ…カケルはナオさんの何を見てきたの?」








怒りに震える、僕の目を見据えて言い放たれた准の言葉に僕は愕然とした。

何を見てきた…?

僕は彼女の全てを見てきた…


本当に…?



「カケルは付き合う事でナオさんが辛い思いする可能性があること考えなかった?

年の差って大きい壁があるんだよ。

カケルは何とも思わなくても、周りはそうじゃい。

やっぱり年の差って大きいんだって…

カケルの事を考えたらどうするのが一番良いかナオさんなら考えるだろ?

そんなこと、なんで気づかないんだよ!」



「僕は、自分なりに…!」



「自分なりに…何?」



自分なりに…

僕には返す言葉が見つからない…

ショックだった。


「俺なら好きな女を泣かせたりしない。なんで、気づかないんだよ!そんな事、払拭するぐらい守って守って守りぬかなきゃならないんじゃないのか?

強がっていてもナオさんはひとりの女なんだよ…」



准のナオさんへの気持ちが『僕の気のせい』なんかじゃないことを初めて知った。

准の肩が震えている。本当なら、僕を一、二発殴っても飽きたらないだろうに…



「しっかりしてくれよ!!カケル…」



膝を落とし、崩れるように小さくなった。

いつも、自信に溢れ冷静沈着な准。

こんな、准を見るのは初めてであった。僕は呆然と…その場に立ち尽くしていた。

僕は、何人の人を傷つけたのだろう…

僕の想いは、そんなにも許されないものなのか…



それでも…



それでも…好きだよ…

一緒にいたいよ…

想いは変えられない…

僕はグッと唇を噛み締め、心の中の『矛盾』と向き合うしか、成す術べが無かった。



僕は31才になっていた。



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