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sugar&salt  作者: 櫻井ミヲ
《   2章   》
2/30

◆ 恋に落ちた瞬間 ◆




彼女は黒のスーツと高いヒールの靴を上品に着こなしていた。


デコルテには、黒い縁に型どられたゴールドのコインをモチーフにしたネックレスが揺れている。

少し変わったそのデザインに、視線を送らずにはいられなかった。

か細いネックレスの先についた、そのペンダントトップはまるでタトゥーのように胸元に刻まれている。


膝小僧を隠した膝丈のスカートが大人の女性を感じさせる。

8センチは有りそうなハイヒールは、脹ら脛をアップさせ華奢な踝を演出しているようだ。


スラリとしたフォルムと少し茶色い髪色。

ショートカットの髪型が、小さい顔をより引き立たせている。



年の頃なら37、8と言ったところだろうか…



それは、ドラマに出てくるヤリ手のキャリアウーマンのようでもあり、新作スーツを着こなすモデルのようでもあった。


美人…と言う言葉は、彼女の為にある…


なんて言葉が「似合う」



通りすぎる男たちは、横目で彼女を追う者や

振り返り確認する者が後を絶たない。

女性にしても、同様の仕草さえ見られる。



僕にしても、彼らのそれと同じである。



        


かれこれ30分…

彼女は駅前の噴水の前に立ちつくしている。



誰かと待ち合わせなのだろうか…?



(彼氏?)



いや、僕より少し年上に見える彼女は結婚していてもおかしくはない…



(それじゃあ、旦那さん?)



いや、仕事関係の人かもしれない…


一般的に考えれば3時をまわっている今時間、昼休みでもなければ帰宅時間でもないだろう。

まして、スーツを着用している事を考えれば今は仕事中である事は一目瞭然だ。

それなのに、彼氏とか旦那とか考えている自分が可笑しかった。



僕は彼女から目を離せないまま妄想が膨らむ。



どれくらいの時間、僕はそうしていたのか…

僕は、彼女を漏れなく僕の頭の中のどこかに残すかのように、僕の心の中のどこかに留めるかのように…

イワユル、『ガン見』をしていたに違いない。


僕の視線に「見られている」気配を感じたのだろう…

ふと、彼女と視線が交わる。

僕は驚いて視線を外す。

その視線は焦点が合わないまま、彼女のすぐ側の噴水に向けられた。


誰かが、僕らを観察していたとしたら

それは、まるでコントの様に見えたに違いない。


すると、僕の鼓動がいつもの二倍にも三倍にも早く震え出した。

その事実を隠すかのように、僕の手は無駄な動きを始めた。

髪をかきあげたり、着信の無いスマートフォンをいじってみたり…




「いったい僕は何をしているんだ…」




自分の素振りの幼さに思わず苦笑した僕の耳に彼女の携帯電話の着信音が響く。

バッグから携帯電話を取り出し電話に出た彼女は、二言三言言葉をかわし、小走りに駅に向かった。


思わずそれに続くように僕は駅前に駆け寄った。


僕の影が彼女の影と重なろうとした瞬間…

ふと足を止める。





「まるで、ストーカーじゃないか…」





僕は自分に言い聞かせるように呟き、彼女の後ろ姿を見送った。

女子高生のヒソヒソ声が、冷やかしの笑い声と一緒に聞こえる。端から見れば、『おかしなヤツ』

と見えていたに違いない。


でも、彼女を見た瞬間から周りの視線も、周りの音さえも、僕には見えていなかった。


今までだって彼女がいなかった訳じゃないし、好きになった人が、いなかった訳でもない。



なのに、なんだろう…

この心が浮遊する感じ…



それは、自分では説明のつかない妙な感情が、僕の胸の中に広がっていた。







そう…

僕は恋に落ちていた…










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